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Ver.2

◎11月
久しぶりの実家。まったく身体の制御が効かなくなった2か月を乗り切ったわたしは、またすぐにでも新生活ができるつもりでいた。しかし、身体が受けているダメージは今までに感じている以上に大きいものだった。
退院前に主治医からは、「今後、右側頭葉の浮腫がある分野の機能不全、もしくはてんかん発作が出てくる可能性が非常に高い。」とお話をいただいていたが、そのてんかん発作のようなものが顔を出し始めたのはこの頃。
頭が左上の方向に引っ張られたあと、両腕が頭を追いかけるように引っ張られる。意識を失うことはないが不定期に突然起きるため油断ならない。
新しく出てきた左耳の聴覚過敏。複数の声が重なって耳に入ると逃げ出したくなるほどとても不快で、家族との食事中やほんの少し出かける際には、必ず耳栓をしていないと正気を保てない。 
週に2日は首と背中が長時間つってしまうため、起き上がる気力すら起きないまま、激しい倦怠感と食欲不振に襲われて布団の中で1日を終える。この日だけは1日1食、母の作ってくれる夕食を1時間かけて食べる。やっとの思いで歯磨きと排泄に1回だけ、ほんのわずかな距離だが家の中を移動する。再び寝床につく頃にはヘトヘトに疲弊してしまい、気付けば翌日の朝。
ここまで堕落した生活になるとは。改善しよう・脱却しなくてはと頭では考えていても、身体がついてこなかった。
そんな中、大学病院からフォローという形で紹介をいただいて、月に1度通院することになった地元の総合病院。神経内科で退院後の病状について、担当してくださる主治医に話をすると、反射の有無・力や感覚の左右差の軽い検査を受け、これから1~2年の経過観察となることを告げられた。
自分の身体は自分がいちばん理解しているつもりでいたが、自分の身体を制御するためにはまだ時間がいることを痛感した。すぐに始めようと思っていた新生活を心の隅に押し込み、自分自身の身体に今後どんな症状が起きるのか身をもって理解しよう、新生活を始めるまでにこの身体で自分ができることをやろう、そう決意した。


◎12月
起き上がる気力のない日が週に1日あるかないかまで落ち着き、堕落な生活によって、首や背中がつる時間が長引いてしまうことにも、いつの間にか感覚の左右差を感じないことにも気付く。少しずつ病状が快方に向かっているのだと思うと、心に抱いていた自分の身体に対してのモヤモヤも晴れたような気がした。それにつれてだんだんと新生活に向けての気持ちも大きくなり、早ければ新年を迎えたらすぐにでも復帰できるようにしたいと思った。
事態が変化したのはその矢先のこと。「サイレントクリスマス」を促すワイドショーを見ていると、左側だけ顎下リンパ節が腫れ上がっていることに気付く。そういえば唾を飲み込むときは少し喉が痛いような気もするようなしないような、最近寝ているとき息苦しいような…。症状をインターネットで検索し、スマホとにらめっこしながら通院日まで様子を見ることにした。
2度目の通院日。主治医にリンパ節の話をすると、緊急で超音波検査を受けるよう指示を受けた。感じるのは頸動脈のあたりに当てられる検査ゼリーの独特な感触と検査技師の方のモニターを見つめる真剣なまなざし。何かが分かる訳ではないが、モニターを覗き込むとあっさりと検査終了。診察室に戻り、検査で見つかったものについて説明を受けると、わたしの顎下のリンパ節は一般的な成人の2-3倍の大きさがあるとのことだったが、特に緊急性があるものではないとのことだった。まだ大きな病気ではないと分かり少し心が軽くなった。

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