〇△◇パズルでSTから教わったこと
僕がまだ専門学校生だった頃の話。
そこは、2カ所目の実習先だった。田舎ではあったが、地域の基幹病院。様々な症例が入院している実習先病院だった。
僕なりにがんばっているつもりだったが、スーパーバイザーの先生の許可を得ずに患者様と会話したり、患者様に触れたりしたことが問題となり、そこでは、「扱いにくい実習生」として、浮いた存在だった。
今も、割と独りよがりな傾向があることは認めるが、実習生時代の僕は、今よりももっとひどかったと思う。よくB判定で実習をクリアできたものだと、振り返って、思う。
OTの先生方や、PTの先生方は、きっと、「なんだコイツ?」と思っていたことだろう。
そんなリハビリテーション課の中には、少し異色の存在の、STの先生がいた。ズケズケ物を言うし、OTやPTの先生方からは、なんというか、少し恐れられている感じだった。
僕も、「ちょっと怖いな」とは思っていたが、なんとなく自分と似た所があるような気がして、親近感も感じる存在だった。
ある日、そんなSTの先生のリハビリ場面を見学させていただく機会を得たのだが、あろうことか、僕は、自分の実習に夢中になるあまり、約束の時間を大幅にオーバーしてしまっていることに気付かずにいた。
時計を見て、約束の時間を過ぎていることに気付いたのは、すでに30分以上経過した後。OTのスーパーバイザーの先生も、失念してしまっていたらしく、「…とりあえずST室に行って。」と指示してきた。
STの先生は、リハビリテーション課の中でも、僕にとっても、怖い先生。
僕は冷や汗をかきながら、ST室に走り、ドアをノックした。防音仕様の重いドアが開く。その先には、表情を硬くしたSTの先生がいた。
「すみません、大変遅くなりました。」僕は頭を深々と下げた。
「もう時間過ぎた。残念。」と短く言って、STの先生はドアを閉めた。
僕はしばらくドアの前を動けずにいたが、リハビリ実施中のスーパーバイザーのいるプラットホームへ戻り、うなだれながら「時間を過ぎていたので、ST見学はできませんでした。」と言った。スーパーバイザーは「…そう。」とだけ言った。
その日の実習が終った、夕方のこと。
僕は、遅刻して、見る事ができなかったST場面をどうしても見たくて、また恐る恐るST室を尋ねた。
防音仕様のドアを叩くと、STの先生が出て来た、不思議そうな顔をして。
僕はSTの先生をまっすぐ見ながら言った。
「先ほどはすみませんでした。ですが、勝手ながら、どうしてもST場面が見たいので、もう一度チャンスを頂けないでしょうか?」
STの先生はしばらく黙って僕を見ていた。
「…後日、調整したら、Oさん(僕のスーパーバイザー)を通じて連絡するから、待ってて。」
STの先生は、穏やかな表情でそう言った。
そこからまた2~3日してから、スーパーバイザーのO先生が、
「STの先生が明後日おいで、って言ってるよ。」と伝えてきた。
言われたように、2日後にST室の防音仕様のドアをノックした。
これで3度目だ。
怖いSTの先生は、にこやかに「どうぞ。」と言ってくれた。
室内の椅子に僕を座らせ、向かい側に座ったSTの先生は、静かに語り出した。
「こっちからST見学をしに来てくれ、と頼んだ訳じゃないよな?そちらからST見学をさせてほしい、と頼んできたんだよね?だから、時間になって、僕の方から『ST見学の時間だよ。』って言いに行くの、おかしくない?だから、時間になっても声かけなかったんだよ、こっちからは。」
「でね、俺のこと、怖かったと思うんだ。OT・PTも先生らも、ビビってるしね。そういう目でしか見れねえんだ、あいつら(笑)。」
(続く)
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