見出し画像

抹茶碗ランチ

 お茶碗をきっかけにおしゃべりをするという、きっと変だけどきっと面白いだろうコンテンツを趣味としてはじめました。
「あなたのお茶碗みせてください」2度目の番外編は、おみゆさん編 から繋がったランチ会のレポートです

お茶碗をはじめることになった経緯はこちらから⇨ニトリのお茶碗が割れた

 「ありとあらゆるものを抹茶碗に入れて出してるんですよ、たとえばランチの煮魚とか」
おみゆさんとのおしゃべりの中でどうにも驚いてしまって「へぇ…!?」としか言えなかった抹茶碗の使い方。
噂の抹茶碗ランチにやっぱり対面したい!と彼女に伝えると、是非にと素敵な招待をしてくれた。
 春になったらピクニックをしよう、なんてことを思った束の間のあたたかい日の話。
星が丘テラスのいちばん奥、風のあたるエスカレーターを上がった先にある「トド アリトル ナレッジ ストア」で、店長さんと副店長さん、そして私。はじめましてのお茶碗ランチ会がはじまった。

【番外編2】 抹茶碗とラテボウル


 ガラスの扉をそっと開ける。高い天井とコンクリートの質感が奥まで抜ける広い店内は、ランチを楽しむ人たちで賑わっているのに穏やかで、土手を散歩している途中につくしが生えているのを見つけた時みたいな、どこかほっとする空気があった。

「はじめまして」
名刺を介して挨拶を交わすことがわたしの人生に久しぶりだ。
店長の木村さんと副店長の竹内さん、おふたりは私にとってはじめて‘お茶碗を通して出会った人’になる。

木村「自分の趣味嗜好だと思うんですよね。僕の場合はカップやグラスをコレクションしてるんですけど、それを使う度に気分があがるんですよ。日常の中のほんの些細なことなんですけど、それを使う瞬間に、なんか“ぽんっ”、ほんとに“ぽん”って音が鳴るくらい、気分がちょっと良くなるのが、僕は好きで」
胸の前に出した手をぱっと広げてその音を表現する木村さんはとてもわくわくした表情をしていた。
「幾つもある中から今これ!って選ぶんですね」
木村「そうそう、お酒の種類によってまた違うグラスを持ってきたり、お茶を飲む時とか、自分の中で変えてたりするんです。」

何をどうやって使うかを考えて選ぶという楽しみは、気がついていないものも含めて日常にきっとたくさんある。
噂のランチが登場するまでの間、おふたりにもmy茶碗について聞いてみた。

木村「めちゃくちゃ普通のやつで、何年も前から…どこで買ってきたかもほんとに記憶にないくらい。カップやグラスあとお料理をのせる器も自分の好きな作家さんのものを購入したりがあるんですけど、茶碗、茶碗は僕まだ買えてない…ですね」

お茶碗はだいたいみんなひとつ、気づいたときには手元にある。
今日はいいお肉を買ってきたからいつもと違うお気に入りのお皿に盛ってみるとか、季節のものを楽しむために取り出す特別な小鉢とか。そういう器を意識することはあるけれど
シチュエーションによって使い分けることがない‘お茶碗’という存在は、それに気がつく瞬間がほとんどない。

竹内「今のお茶碗はなんなら新調していて。パートナーと一緒に暮らすタイミングで茶碗がなくて、私も器は好きなんですけど、家でお米をほとんど食べないというのもあって茶碗にはこだわりがなく。パートナーが欲しい茶碗があると選んで買ってきた、彼のこだわりです。」

引っ越すタイミング、住むことをリセットするタイミングは、きっとお茶碗に気がつく瞬間だ。

たとえばはじめての一人暮らしのとき、炊飯器は買ったのに茶碗がない!となった経験はないだろうか。
竹内「実家で使っていたなんでもないやつをわざわざ持ってくのもなぁみたいな」
実家で使っていたお茶碗を記憶の中から探してみる。
竹内「覚えてないです…自分のお茶碗として使っていたけど、別にそれがすごく気に入ってた訳ではなく、でもなんかこれ私のだって。適当に買って家族で色分けしている歯ブラシみたいに。別にこれじゃなくてもいいけど、でも今使っている自分のもの。」
歯ブラシと並ぶほど「自分のもの」という意識があるのに、こだわりがないという不思議。
木村「そういうのをひろっていったら、こだわるアイテムがでてきて面白いですよね」
人によってこだわる意識が向く場所は違う。
「こだわり」と「無意識」がどこにあるか、そしてその人やそのシチュエーションにとってお茶碗がどちらに分類されるのかを明らかにしていくのはきっと面白いよね。


そんな話をしているとランチの定食が運ばれてきた。
抹茶碗が使われていると噂に聞いた「トドの魚定食」と初対面だ。

「抹茶碗がランチのプレートの上にいる!」

ほんとうだった。ほんとうに、抹茶碗が食卓の中に現れた。
左にごはん、右にお味噌汁。そして真ん中に敷かれた平皿の右上で、抹茶碗が魚の煮付けをそっと受けとめていた。

ランチの器になった抹茶碗は、するりとした佇まいの中にちょっとした違和感と優しい彩りを与えてくれているように思った。

運ばれてきた3つの魚定食には、形や色、そして大きさも、3つそれぞれに違う抹茶碗がそれぞれに馴染んでいた。
木村「もっとごつごつしたものもありますよ」
竹内「この3つはだいぶシンプルなのが選ばれているかも」
トドには20〜30もの抹茶碗が控えているらしい。

竹内「メゾネットで古物を扱う中で抹茶碗に出会って、コレクションをはじめて。
こんなにかわいくていろいろあって素敵なのに、日常で触れる機会が先ずないじゃないですか、抹茶碗だと。」
抹茶碗は抹茶を点てるという機会にしか出会うことがない。お抹茶をいただく瞬間がない限りは触れることなく過ぎ去っていく。
竹内「日常で出会えるきっかけになればということで食器として取り入れはじめたらしいです。」
MAISONETTE(メゾネット)の運営するカフェは2011年にオープンしたre:Liから始まっていて、そのお店で既に抹茶碗がコレクションされていたという。


目の前の抹茶碗と向き合う。煮付けにそっと箸を入れた。
「すごい、ほんとうにお魚が入っている」

木村「そうなんですよ、抹茶碗にはどちらかというと汁物を入れることが多くて。このままいけるじゃないですか。」
木村さんが抹茶碗を手に置いて啜る仕草をする。
木村「洋食器のスープではマナーとしてそのまま啜ることはできないですよね。抹茶碗に入れることによってそのまま。女性の方も気兼ねなくこういうふうに」

たしかに、抹茶碗は‘手に持って啜る’という仕草がデフォルトだ。
器によってうまれる仕草から盛り付けるものを考えるという視点が、お抹茶を点てるという用途以外の場所で抹茶碗と出会うきっかけをつくっていた。

木村「ルールとか世の中の常識とかに捉われずに、どういう風に面白く見せたり伝えられるかっていう。」

トドというお店の名前のうしろには「アリトル ナレッジ ストア」という文字が並んでいる。

木村「リトルナレッジって‘小さな学び’っていう意味があって。お客さんと僕たちが面白く共有できたらいいよねというのがひとつ、コンセプトの中にあるんです。」

暮らしの中で出会う学びがあるお店
また行きたくなるひっかかりのようなものがこのお店のあちこちに散りばめられている。

木村「『なにを着るかではなくどう着るか』っていうことがポイントになっているかなって。」
メゾネットのスタイリングチームが掲げたそのキーワードがお店のコンセプトになっているのだと教えてくれた。

この日はじめましてをした抹茶碗ランチには、おいしいという味覚的な満足感だけでなく、視覚や触覚、感覚を澄ますとみえてくるわくわくが添えられていて
それを受け取るわたしは、“ぽん”って音が鳴るくらいの小さなときめきと出会ったのだと思った。


 左手に馴染むご飯茶碗に目を向ける。赤色の茶碗に赤色の雑穀ご飯が盛られていてあたたかい。
高台がなく、ボウルのような形状のそのご飯茶碗はするするともさらさらとも少し違う優しい心地がして、なんというか、そっと触れていたいと思った。
木村「ご飯茶碗には普段、憲児陶苑さんの常滑焼のお茶碗を使ってるんですよ。ほんとうに綺麗な、まるみというか、手で持ったときの手馴染みがすごくよくて」

メゾネットのスタイリングで扱う古物のなかに‘手捻り’と呼ばれる手法でつくられたものがあったことがきっかけに、常滑で手捻りを扱う2件しかないうちの1件、憲児陶苑さんに訪ねて行ったそう。
お願いして専用に作ってもらったというその器は、常滑焼らしい赤と白のマーブルが特徴的なデザインだ。

木村「土そのものの色でいて木目っぽい感じ。釉薬は使っていないので、ほんとに土の触感です」
海が近い常滑の土の赤色は鉄分によるもの。
木村「手馴染みがよくなるのと、飲み物を飲む時もすごく滑らかになるんですって。これはご飯茶碗でもあるんですけど、じつは以前カフェラテボウルとしても使っていて」

カフェラテボウルとしても使う…!?またひとつわたしに衝撃がはしる。
【番外編1 】お茶碗ラテ でまさかお茶碗にラテを入れる日が来るとは!と、話したばかりだったけれど、カフェラテボウルとお茶碗が両立する世界がこんなに近くにあったなんて。

お米が盛られているそのお茶碗を頭の中でいちど空にして、カフェラテが入る想像をしてみる。
手捻りでつくられた独特の手触りから、カフェラテの泡をするすると啜ることができそうかも?と頭にハテナマークを浮かべながら視点を動かしてみた。
木村「他にも、デザートとかも盛り付けていて、なんでも。」
竹内「いまたまたまトドだとお茶碗として使っているけど、なんでも。」

お茶碗として作っているというよりは“お茶碗としても使えるサイズ感で作っている”ということのようだった。

木村さんと竹内さん、それぞれの左手に収まるお茶碗としてのそれを眺めていると
「カフェラテボウルというのが聞こえてきたのでちょっとやってみました」とカフェラテボウルに変身したそれが運ばれてきた。

「「「すごい!素晴らしい」」」

それは頭の中で想像していたよりずっと魅力的だった。
竹内「フィットしてる!めちゃくちゃかわいい」
現在はお茶碗として使っているそれを実際にカフェラテボウルとして見るのはおふたりもはじめてだったそうで、まさかのときめきの登場に3人とも前のめりになる。

木村「ソーサーまで、じつはあるんですよ」
竹内「ソーサーは取り皿にもできるんですよね」
まんなかに丸い窪みがないそのソーサーはお皿という用途としても活躍するだろうと想像できた。
カップとソーサーという概念でも、お茶碗と取り皿という概念でも、それぞれ華やかなテーブルをつくりだしてくれる器。
ひとくちカフェラテを啜ると、するすると柔らかい口当たりがした。無機質な空間なのになぜか落ち着くトドの店内みたいな、不思議な優しさの器だと思った。


「他のものをもっと知りたくなりました。わたしは、この茶碗が茶碗としてではない使われ方という視点からリトルナレッジストアというところに行き着いたけど、そうじゃないべつものもきっとたくさんある…」
木村さんがお盆の上、手前に置かれていた石を手に取ってにこりと笑う。「これもそうですよね、石が箸置きっていうのも。そういうの多いかもしれないです。」

マイルールのような、この場所で選ばれた使い方がきっと、だんだんと‘らしさ’をつくっていくのだろう。

木村「それが、自然な感じがいいかなと思って。僕たちも奇をてらうつもりでやってはいなくて、なににしよう、これ使えるじゃんという思考の流れというか。」
竹内「これ、見慣れちゃったから茶碗だと思ってるけど、ぜんぜんそんなこともないですよね。ラテで使うようになっていけばそれで見慣れて浸透して、逆にご飯茶碗としてが違和感になる」
木村「先入観という話じゃないけど、あたまのなかの錯覚というか。ちょっと感覚がバグる感じというか。そこって面白いと思って」

たとえばお米を食べる習慣がない文化圏の人が、お茶碗にスープを入れたとする。
お茶碗について「お米を食べるもの」と知っていてスープを入れるか、知らないままにスープを入れるか。そこに違和感の感じ方に違いが生まれる。
その線引きや基準を少しずらしてみることがきっとひとつのリトルナレッジだ。

木村「とはいえ、人が作ってきた文化とか歴史とかを全く無視をするつもりもなくて。
そういうところも知りつつ、道具として新しい使い方を。」
歴史の中でつくられてきたものを大切にしながらも、触れる機会を増やすことできっかけがうまれる。

木村「使うことによってそいつが道具として成立するというか。飾っておくだけだったら道具にはなっていなくて。いろんな使い方をするって、道具としてめっちゃ愛されていますよね」

たとえば人へのプレゼント、選んだものよりもあれこれ考えた時間の方が記憶に残ることがあるだろう。
大切なのは考えるということ
ひとつのものをいろいろ使ってみることで出てくる発見は、きっと経験になる。

お茶碗なんてとくに考えずにいるけど、考えてみると新たな学びや気づきが生まれるかもしれない。

木村「お茶碗、ちょっと探してみます僕。」
竹内「これを機に?」
木村「これを機に!買ったらどんな物語だったか報告させてください」


またひとつ、お茶碗を楽しむことに新しい視点が加わった日だった。



抹茶碗ランチことトドの魚定食


- TT" a Little Knowledge Store -

星ヶ丘テラス EAST4F
暮らしをちょっと楽しくするリトルナレッジを扱うお店
http://ttalks.jp/


お茶碗トーク当日の様子はInstagramにて
@ochawan_misete

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?