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実は全部、ロッカーの中での話

今年、自分の周りで異常に結婚式が多い。みんなコロナが落ち着くのを待っていたのかな。
実際、マスクを外してもいいような社会の中でみんなでご飯を食べるのはとても楽しいんだな、と改めて思った。

「コロナが落ち着いたら、みんなで集まりたいですね」などと、事実上のお断りをした誘いもいくつかあった。当時は本当にコロナが終わらないんじゃないかと思っていて、落合陽一が「ポストコロナでなくウィズコロナを考えるべきだ」と言ったのに素直に共感したりした。

閉塞感の中で、ゲームやアニメの需要は急進したように実感している。この3年弱のうちにオタク諸君は本当に生きやすくなったんじゃないか?
僕は結構のびのび生活したなと振り返る。

忙しくてコンテンツに触れる時間がなく、風貌だけオタクのただの気持ち悪い人間だった僕も、コンテンツに触れる時間が取れた。高校時代、とあるシリーズや俺妹にどっぷり浸かっていた頃から久しぶりだ。

とある魔術の禁書目録
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
ラノベ全盛期時代の作品な気がする

中学の頃は、ライトノベルを結構バカにしていた。
ご都合主義の煮詰めたやつ、村上春樹ワナビー、オタク特有の性の鬱屈螺旋丸。
そんな感じで。
普通の小説に比べて、劣っているコンテンツだと心から見下していた。だから、教室の隅で村上春樹や伊坂幸太郎、星新一やカートヴォネガットを読んでいる自分は、同じく隅でラノベを読んでいるあいつらとは違うというのは、割と本気で思っていた。笑えるね。ラノベっぽい作家ばっかり読んでいた、今考えると。

高校で男子校に入り、入学式の後、担任に連れられて教室に。そこそこお勉強してきた連中が、あいつは推薦だ、俺は入試の自己採点何点だったという会話をしているのが聞こえてきた。
学校には持ち込み禁止のものはなかった。スマホはもちろん、漫画も小説も当時最先端だった3DSだって。
クラスで一番後ろの出席番号だった友達は、自宅からちょっとえっちな漫画を持ってきてロッカーに入れていた。
彼のロッカーはクラス共用の学級文庫として使われるようになり、やれ「快楽天」だ、今は下火だが当時はすごかった「LO」だ、名前はわからないが2、3回実写の雑誌が置かれたこともあった。
必然、彼の荷物は周りに置くしかなくなるので、彼の机の周りはいつもジャージやエプロンの袋、教科書なんかでごった返していた。

あのクラスでは、運動部の連中も全員ロッカーのユーザーで、深夜アニメの最先端に追いつくことがマストだった。非オタクはオタクにならなければならない、異常なクラスだった。
いじめもなかったように思う。見える範囲では。
ロッカーのパスワードは「0721」、誰が広報するわけでもなく、クラス全員がパスワードを知っていた。

あの時、ロッカーの持ち主がクラスのみんなに読んで欲しいコンテンツを置き、それをみんなが暇過ぎて読む、という関係性が自然とできていた。
その中で、僕はラノベに触れたのだった。
当時としては僕にとって革命で、割と面白いのあるんだな、見下すものでもないなと思った。
その時に本屋で買って、ロッカーに寄付した作品である「狼と香辛料」は今でも好きなシリーズだ。

先日の結婚式で、久しぶりにそのロッカーの持ち主に再会した。黒髪メガネで小太りだった印象の彼は、背も少し伸びて痩せ、髪は毛先をブリーチしてコンタクトレンズにしていた。
仕事は、漫画誌の編集者をしているんだってさ。
なんだかとってもうれしかった。
あの頃、僕を含めたクラスメイトと「0721」のロッカーで繋がっていた日々が、彼の今の仕事につながっているような気がして。
僕がとことん見下していたライトノベルについて、再会したロッカー君は、書いてみようかなと言った。「自分が書いたらもっと面白いものを書ける。ラノベ原作やろうかな」なんて言ってた。

バナナマンが小学校の時にふざけあっていた「雰囲気/関係性」をお笑いの世界に持ち込んで伝説のコント師になったように、当人同士が自然に面白いと思う「無加工の感覚」は時々すごい力を発揮する。

何か一緒にやりたいなと思った。
そんな熱い話をして、酒を飲んだ日があったから書いてみた。

人と人が話すから、世界は広がり、地球は平面から球になり、世界の中心から銀河の端っこの辺境へ飛ばされた。
僕と彼なら、世界はどこまでいけるかな。
案外世界は全部、小さなロッカーの中での話だったりして。
そのロッカーのパスワードを知っている僕たちなら、きっとその外側にだって、行ける。

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