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2021年~ 舌がんをめぐる記録7

初めての大学病院


2021年10月某日、近所の歯科で出してくれた紹介状を持ち、大学病院へ。

到着した大学病院は、あの土地のあの建物という記憶、前の週に自分で大学病院を決めた時やネットやストリートビューなどで見ていたのと違った。
違ったと言ったって、私の持ってた印象と違うだけなんだけど。

思ってたより、古いなあ。

数年前、自分の母が手術・入院した病院が土地を変えて建て直し直後で、「新しいっていいねえ」なんて家族で話していた。手術前後の不安な状態や入院中も、目に入るものが新しい、きれい、というのは気持ちが違う。
その前に父が入院し見送った病院が年季の入ったところで、面会で訪れた健康な当時の私はなにか影響を強く感じたもので、せめて気持ちのいいところと思っていたのに。
早くも選択ミスか?と思いつつ、受付で初診であることを伝え、紹介状を渡して指定されたフロアに移動する。

大学病院は初めてだから、準備として予備知識はいれてきた。
学生が見学するけど、断ることもできる、とか、とにかく診察のユニット?がたくさんある、とか。

総合的に診察をしてくれるフロアに通され、人生で初めてこんな近距離で会ったよ!と報告したくなるような見た目ギャルの診察が始まった。
見た目ギャルの先生も痛がる私を痛くないように、逐一確認しながら口内をみてくれた。
親知らずは紹介状の通り欠けていることもあり、右側の親知らずと同時の抜歯を勧められ、虫歯もあるので治療しましょうとなる。
舌の状態次第ではあるけれどもとしながら、大まかな治療方針が決まり次回の予約をする。
次は口腔外科なので〇階の受付に行ってくださいと促される。


病院内をはしごする 口腔外科へ

病院内をはしごするという経験は健康診断以外でなかったので、へーと思いながら移動する。

口腔外科に移動し、待合で待つ。
待ち時間が長いと口コミにあったが、そんなこともなく数分で名前を呼ばれた。

医者に見えるようなまったくそうは見えないような人が迎えに来て、うながされて後をついていった。
さっきの診察フロアでもこの待合でも、看護師さんや学生さんではなく医師が待合に迎えにくるのを観察して把握していたので、辛うじて「この人お医者さん」か、と思った。
(のちに時期も関係していて決まってるわけではなさそうだと知る。)

四角くパーティションで区切られたさっきのフロアと違い、所々棚などで仕切られた通路があり、右へ左へと移動する。診察のユニットは壁に対して斜めに設置されていて、隣は仕切られているが、中央の通路からはどこも丸見え。
きょろきょろとする余裕もないし、じろじろと人の診察風景に見入るようなことはしたくないので、初めての場所にほう、となりながら「お医者さん」についていった。

荷物はここにおいて、ここに座って、と言われ、窓際の、窓に向かった椅子に座った。

はーい、口あけて、舌さわります
痛いかもしれない、痛かったら言ってー
はい、はい、痛いかも

そう言うのと同時か、それより速かったか、舌をグイッと手袋をした手でつかまれ、つかんだままもう一方の手の指を舌と歯の間に入れられた。

声も出ない、口開いて手が入ってるから声はだせない。
!!
ってなるだけなって、閉じていた目が開いた、と思う。

ぐいぐいと、舌の下ってこんなに空間あるのか?と思うような深さを知る。

目をひんむいたまま、ぽかんとする私と、つけていた手袋を取り、そのままふらふらと電子カルテが開かれたパソコンに向かって数歩あるいて後ろ姿のまま、

「ご家族はー?いますかー?」

と聞くので、びっくりさせた自覚はあってクールダウンに世間話か、と思い、「娘と夫がいます」と答える。

「お子さんは、小さいの?」
「高校生です」

身体はパソコンで顔はぎりぎり横顔なお医者さん。
ふんふん、とうなずきながら、振り向き私を見る。

「その腫れているのは腫瘍です。僕はずっとこういうのを見てきているので、今の時点では経験だけど、ずっとみてきてるから。
腫瘍には良性と悪性があって、僕の見立てでは後者です。」

「? 後者って、どっちでしたっけ?」

「悪性、です」

「診断は細胞をとってする必要があって、切除をしたきっかけで進行がはやまる可能性があるから、それする前に出来る限りの検査をしましょう。」

両者目を離さずこのやりとりをした後、後ろに振り返ってカルテをカチカチしながら、

「今日来てよかったね」

と言う。

「今からできる検査を全部して、結果を踏まえて、ちゃんと説明します。悪性だと思うけど。その説明はご主人とか娘さんとか、家族で聞いてもいいし、ご家族にだけでも説明するから。」

「あーーー、はい」
返事はした。


真っ白だけど鮮明

こういう決定的なことを言われた時は、頭が真っ白、というのはそうなんだけど、どうにも目に見えているもが妙に鮮明で、窓の外の景色やその空気感、診察台と周りの機材の距離感、「お医者さん」のマスク上の目やその動き、全部覚えてる。文字にしてしまえば、なんだか無神経な医者に映るかもしれないが、全く嫌な思いはしなかった。
「お医者さん」の話すことの意味がすぐに理解しきれず、言葉のまま受け取りながら気が付けば周りに「白衣の先生」が増えた。
「お医者さん」も内線か、PHSで どうですか?とか話している。
「お医者さん」が私に、どこに住んでる? と聞く。
言葉のまま受け取り住所の一部を言うと、どこだろう、わからないな、と言う。
必要な検査で、MRIとPET検査は院内に設備がないから外部の施設に行ってほしい、どこが近いか、という話だった。
MRIはなんとかわかるけど、PET検査がわからない。
いつのまにか周りにいた「白衣の先生」が説明してくれた。
直近での予約をということで、明日MRI、明後日PET検査となった。
さらりさらりと予約票のハードコピーを渡される。

この病院でできる検査が、午後からになってしまうけど、と午後の都合を聞かれる。
もちろん予定もないのでまた時間になったら待合にくることになる。

ぽつっと、ひとりになる時間ができた。


大学病院受診の話を家族にする

夫にも子どもにも今日大学病院を受診する話はしてある。
子どもは私の調子の悪くなっていく様をみているし、痛いという話もしている。病院に行ったら?と一度言ってきたし、歯医者に行って診てもらったことも、歯医者の範疇ではない治療が必要だから大学病院に行くと話してある。
私はもうだいぶ前から、がんだったら嫌だな、と思っていたし、検索もしていた。そして「そうではない可能性」を模索してきた。
その気持ちは子どもにはもちろん話していない。
予想される見解以外の私の状態と行動のみを伝えたり見せたりしてきた。

夫とも、話をしている最中に舌をひっかけて痛みを感じても最初は表に出さないように隠していたが、隠しきれなくなった。
夫には可能性の話として、何かわかるかもしれない、けれど治したいから行ってくるねと伝えた。
「何か」が持つ意味はお互いにわかっている。


ひとりになった時間に


悪性の可能性を指摘され、また検査に戻るまでの間にどうしたらよいか。
診察室を離れて屋外に出た時に、ようやく「お医者さん」に「ご家族はー?」と聞かれた理由がわかった。
とりあえず検査をして、帰宅した夫に話すのがいいか、どうしよう。
何分か迷って今電話できるか、とLINEした。
しばらくして電話が来た。

「お医者さん」に言われたことを全部と、これからすることを話した。
これから経験することになるだろうこと想定し、謝った。
申し訳ない、いろいろ大変になるかもしれない、ごめんなさい、と。

とりあえずこれからする検査のことも、今日のことも帰ったらちゃんと話すから、話そう、と電話を切った。

コロナになった、とか病気になった、とか謝る必要はない、とは言われるが、周囲の人に対して自然と生まれる感情の一つだと思う。
正しい、正しくない、という話は別の話。
電話口で、まず「ごめんなさい」と言っていた。


そして午後のこと

午後、何をしたか、紙に書いた記録はない。
記憶をたどると、舌に塗る麻酔薬をつけて、舌、首回りのエコー検査や造影CTを撮ったと思う。
舌に塗る麻酔薬が色も味もデカビタCで、心の中で「デカビタうまい、痛くなくなるし、いいぞ」と思った。
MRIとPET検査の結果も含めて次の週の同じ曜日に診察の予約を取った。
ご家族と話を聞いてくださいと。

食事はどうしてるか聞かれ、固形物をほとんど摂っていないと答える。
今の身体の状態、今後の治療に耐えられる、治療が効果的なものになるように栄養をしっかり摂る必要があるそうだ。
とても食べられる状態じゃないと答えたが、痛み止めを飲み、口内が楽なタイミングでこれまで通りの食事をとるように言われる。
塗る麻酔薬を処方する手もあるけど、感覚がなくなる分、無意識に噛んでしまうと予想されてあまりよろしくない、味もあるし、と言いながら「お医者さん」は私にもどうしたいか聞いてくれた。とりあえず、デカビタなしで、あまりに辛いようなら「お医者さん」に電話することに。

最初に受診して入れた予約はキャンセルしてくれることになり、私は口腔外科にお世話になることになった。
その大学病院から一番近い調剤薬局をググってカロナールを受け取る。
確か、もう一種何か処方されたが記録に残していない。

予定より遅くなり帰宅した。
ほぼ決まったようなものだ。
がんだ、がんだよ。
いつものように家族の食事を用意し、早く帰宅した夫と話す。

その日の日記、

行った。
悪性かもしれない。
ふんばろう

私の「Diary for simple life(主婦日記)2021」

明日から2日間検査が続く。次回の記事へ。


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