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日が落ちきる前に 【秋の散文】

通勤電車。

人混みが嫌いだから、ゴリゴリにSAN値が削れていくはずなんだけど、ほとんどの集中力を1つの分野に向けることができるので、毎朝の読書タイムになっている。活字を浴びていれば、世界が潤う。それでいて、降りる駅を逃すことはないから、長年の読書経験は伊達じゃない。

会社付近のコンビニ。

いつも同じ従業員の方々が俊速で、慣れた手つきで、淡々とお会計をさばいている。お客さんも列に並びながら支払方法を準備している、あの連帯感。この光景を見ていると、いつだって大学のビルに入っていたファミマの敏腕店員さんたちを思い出す。

ほぼ現金でしか払えなかった数年前に、すごい速さでお会計をしてくれた凄腕の方々。もはや税込の商品の値段全部覚えていた。それでいて、学生側もなるべくもたつかないよう、お釣りが少ない小銭を手に準備していた。

変わることがあっても、変わらないこともある。

10月は、そういえばハロウィンがある。

日本に来てからはさっぱり祝っていない。だからだろう。ここ数年で10月がなんだかぽっかり穴の空いたような季節に心が感じていたのは。本来は、かぼちゃとお菓子と子供のお祭りで、盛り上がりが最高潮になるタイミングでしれーっとクリスマスへと世の中は移り変わっていく。

その、地道な盛り上がりと早くなる夕焼けの時刻がないから、心が追いつけなくて、なんだか淋しく感じてしまうんだと思う。

来年は、もうちょっと祝ってみようかな。

やっぱり、縁のない韓国。

私にとって、本当に近くて遠い国。

もう3回も行っているけど、毎回ツンデレをちょっと溶かすぐらいの親密さにしかなれない。よくいく場所の中では唯一レベルで言語が微塵も分からない場所。「あんまり海外に来ている感じがしない」という人が多いけど、私にとっては多分かなり神経をすり減らす場所。それでもあそこのガタガタな道と、深夜の静かで、それでいて眠らない街を歩いている瞬間の風が結構好きだから、まためげずに行ってみようと思う。

お仕事と移動。

注意深く見てきて、察してきて、さじ加減がちょっとずつ分かってきた。

1年目でこんなに会社に行きたくないアピールを半年も経たずする人は珍しいんだろう。ハラハラする部分もあるけど、量さえ調整しておけばあとは、過去の、今の、未来の私がどこかで頑張ってくれるでしょう。

飛行機から見る夕焼けは綺麗。

日中移動すること、なんだか1日をかなりせわしなく、そわそわ使ってしまう気がして、私はあまり好きではないのだけど、さすがにお金の関係でたまにやらざるを得ない。(平日午後の航空券は安い…!)だけど空の上に、中に溶け込んでいるから、遮るものが何もない太陽が描く空の色をゆっくりと見れるあの時間は、この時間だけの特権。

工夫次第で、思い立った瞬間での行動はまだ可能。

仕事を手早く済ませるコツ。連絡の抑えどころ。言葉の、行間の間の優しさを読み取ること。それら全てが私の糧となって、私を支えて、私を自由にしてくれる。これからも、映画とかカフェとか、本屋さんとか美術館とかに浸れる時間をそうやって、手繰り寄せていくんだ。人は結局美しいものを求めて、どうにかして、なんらかの形で、自分の手元に置いておきたいんだ。

人の持つケガレと、ぬくもり。

常に穏やかさを携えて生きていく、ということを意識においているけど、それは別に心を凪いだ状態にすることを私は意味していない。

凪いだ心は穏やかだけど、なんでか大事な揺れる心の機微を優しく覆い隠してしまいそうで、なんだか大事なことを聞き逃してしまいそうだといつも感じているから、揺らがせたままでいる。静かな、静謐な空間の方が水中に落ちる泡の音は聞こえそうだから、なんとも矛盾した考え方だと自分でも思う。

それでも、私がこの考え方に忠実でいるのは、揺らぎは、私の中で海のイメージと一致するから。

人の放つケガレに敏感であり、すぐに涙が溢れてしまう夜を何度も抱えてきているけど、人の発するぬくもりの温度もちゃんと分かっているから、人が好きなんだと思う、って今日も言えている。

今まで私を支えてきてくれたものとの別れ。

金木犀が雨が降る都度にその花びらを散らすのと、同じぐらいの頻度で私はちょっと前、ハラハラと涙を流していた。

何も哀しいことなんてないはずなのに、気付いたら雫が頬を伝っていた。瞬きして、もっと落ちてきて、私は訳が分からなかったんだけど、数日過ごして、話を聞いてもらって、紅茶を飲んでいる間に、私を立ち上がらせ、ここまで支えてきてくれた私の中の柱である考えた方の1つから、私が離れていく感覚がするのかもしれない、と腑に落ちた。

瞼の裏で思い出す。「あなたは、一回大泣きした方が良いよ。そんなに抱えなくて良いんだよ」そう言ってくれた人の顔を。

ついに、この手で別のものを掴み取りたいから、今まで持ってきたものを手放す瞬間が近づいてきているのかもしれない。

それでも、今までの私には間違いなく必要だった。それで私が傷付こうと、泣こうと、私の心が必要としていた。だから「もう良いかな、」そう私が思ったとしても、人の心というのは身勝手なものだから、勝手に哀しくなって、別れを惜しんでしまうんだと思う。

嘘をつかないと約束した君に、黙っておいてあげるね。

私のことを想って、我慢してくれる君の優しさを知っているから。
それでも、どうしても溢れるものがあることを知っているから。
ネオンも消えて、電気も消えて、星と、たまに月しか輝いていないあの隙間の時間だけは、黙っていてあげる。
だから多用しないでね?

エンタメが好きで、良かった。

おかげで出会えた人たちがいる。
楽しみなことが日々の生活の中にいっぱいある。
一人じゃ抱えきれない心の波を、揺れを、綺麗な言葉として、暖かい情景として受け止めることができる。
今日も、明日も、生きていける。

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