Apple信者だろうがアンチだろうが、iOSのサイドローディング開放は何の変化も生まない

こんなニュースがあった。

アップルに「アプリストア」開放義務づけへ、政府が新たな巨大IT規制…他社参入促す(読売新聞オンライン)

アプリストア開放は、実際のところサイドローディングの許容とみなして良いだろう。(そうでなければ、App Storeに他のアプリストアのランチャーが並ぶことになってしまう)

前掲のニュースはYahoo!ニュースであるため、コメント機能があるが、2023年6月3日時点では批判的なコメントが多く見て取れる。いわゆる認証済みの識者ですら、セキュリティがどうのとか批判的な意見を述べている。しかし、私はサイドローディングは当然の権利ではあるが、開放されたって何も変わらないという考えだ。この記事では、自分の主張のうちの「何も変わらない」を記載する。

信者の皆様へ

サイドローディングはセキュリティに定評のあるiOSに脆弱性を与えるものであり、到底許されるものではないと思っている方へ。

Androidはリリース当初からサイドローディングを開放していることは周知の通りである。つまり、Google Play以外のアプリストアも当然許容されている。では、Google Play以外のアプリストアをいくついえるだろうか?Galaxy Storeみたいな機種が固定されたストアや、ファーウェイのApp GalleryのようにGoogleから締め出された挙句仕方なく存在するストアを除けば、AmazonアプリストアF-Droidくらいしか無いのではないか。

そもそもF-Droidすら知らないという人もいると思うが、恥じることは一切ない。それこそが答えだからだ。つまり、Google Play以外のアプリストアなんて、誰も使っていない。仮にApp Store以外のアプリストアが生まれたとしても、じゃあそれが流行るかと言われるとかなり疑問だ。iOSをAppleが制作している限り、最初から入っているアプリストアはApp Store一つだ。もっとも、Galaxy Storeみたいに最初から入っていたとしても誰も使っていない訳だが。

とはいえ、サイドローディングが可能になればいわゆる野良アプリは出てくるだろう。スマホアプリはアプリストアで入れるものという常識が向こう数年で消え去るとは到底思えず、アプリストア以外で入れるアプリに信頼性が無いという認識も変わらない。結局実際に野良で配布されるアプリはごく少数に限られるのではないだろうか。フォートナイトくらいじゃないか?実際Android用の実行ファイルであるapkを自社サイトで配布する行為は一般的ではない。アプリ内課金や有料アプリに対するApple税とAndroid税がほぼ同額であるにもかかわらずだ。つまり、Androidのセキュリティが劣っている(と一般に言われる)原因は、サイドローディングの許容ではなくGoogle Playのザル審査であるということだ。

結局この問題も同じで、結論としてはAndroidで「提供元不明のアプリ」のトグルをオンにしたことがあるユーザーが何%いるかという話でしかない。あなたの懸念はほぼ全てAndroidが15年かけて反証しているのだ。

アンチの皆様へ

さっさと30%手数料とLightningとSafariをジョブズの待つ"向こう"の世界へ!と思っている方へ。

当然App Storeはなくならず、App Storeでは3割のApple税も変わらず、WebKit以外のブラウザエンジンの配布も許容されないだろう。ただ、サイドローディングを許容するに過ぎない。おそらく、代替アプリストアが流行るということも無い。AndroidでGoogle Play以外のアプリストアをあなたの周りの一般人が使用しているかという話である。

サイドローディングが許容されると、真正Chrome(Blink)やFirefox(Gecko)も期待できる……だろうか。実際にBlink搭載のChrome for iOSは製作中とはいえ、自社サイトで配布しかできないChromeを、皆が使うようになるだろうか?使われないブラウザが、どこまで継続的にメンテナンスされるだろうか?WebKitに慣れてしまった一般人はBlinkを求めてはいないし、明日WebKitが消滅する訳でもないので、ウェブ開発者はSafariのことを考慮しなければならないことに変わりはない。

個人が簡単にアプリを公開できるようになるという期待もあるかもしれない。実際、Google Playは最初に数千円払えば掲載できるのに対し、App StoreはApple Developer Program(ADP)に年1万以上を継続的に払わなければ掲載することができない。この高額なお布施が厳格な人力アプリ審査を支えているといえるだろう。

私は、おそらくサイドローディングと同時に公証(Notarization)制度が導入されると考えている。これは既にmacOSで導入されているもので、macOSではサイドローディングは許容されているが、改ざんや不正改造されていないことを証明するために署名が必要となっている。そして、この署名をするためにADPが必須なのだ。つまり、お布施が必要な状態は変わらない。どうせお布施が要るなら審査が厳しくてもみんなにダウンロードしてもらえるApp Storeに出すだろう。macOSでは公証されていないアプリを開く手段を用意している(そこそこ面倒)が、iOSで抜け穴が用意されるかは未知数だ。別に公証していないアプリのインストールを拒否したところで、ADPの加入に審査は要らないことからサイドローディングが許容されていることには変わりなく、セキュリティを名目にすればEUや日本政府が求める条件に何ら抵触しないためだ。

最後に

この記事は私がヤフコメがあまりに反対意見ばっかりで驚いたため、反対派を安心させるために書いたという側面がある。反対派は「じゃあ開放しなくていいじゃん」と感じるかもしれない。とはいえ、アプリストア独占を「セキュリティのため」という理由だけで簡単に許容できる話ではないのは、EUや日本政府が真剣に動いていることからも明らかだ。これはドラスティックな変化のように報じられているが、ユーザー目線でそこまで大きく変わる事はない。しかし、この小さな一歩が健全なエコシステムのために必要なのは認めてほしい。

少し強引な論の展開だったか。


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