【虎に翼 感想】第83話 なぜこうなってしまったのか
「帰る場所は、ないのよ」
なぜこうなってしまったのか。
華族、桜川家の呪縛に苦しんでいた涼子は、戦後の新しい日本国憲法によって解放されたはずだ。新しい民法により、梅子が解放されたように。
だが、華族や旧皇族に対する国の政策は、酷なものでしかなかった。
玉の口から、戦争中から今にいたるまでの経緯が語られた。
涼子が結婚したのは、昭和13年のこと。
昭和17年、結婚して4年経っても涼子夫婦は子を授かっていなかった。病に伏せっていた母、寿子は死んでも死にきれない気持ちだっただろう。
相手は誰でもいいから子を産めと、桜川家の血を途絶えさせるなと、絞り出すように涼子に言い聞かせていた。桜川家を存続させなければ、自分の人生も否定されてしまう。その執念たるや、凄まじいものである。
母が亡くなった直後に東京大空襲が起きる。桜川家にもっとも忠実な執事だった岸田も、他の多くの人々も亡くなってしまった。
玉は逃げるときに腰を強く打ったことが原因で、足が動かなくなってしまったのだ。
戦後、華族には、財産が多いほど税率が高くなる累進課税方式の財産税が課せられた。このことが関係するのか涼子も借金を抱え、屋敷だけでなく、新潟の別荘を売却したお金を元手に、今の『Light house』の建物を手に入れ、お店を開いたのだ。
昔って、エントランスに入るまでに2~3段くらい階段がある建物が結構あって、バリアフリーなんてお構いなしだった。涼子は今でも毎日、車いすを押して玉をお店に入れているのかもしれないね……。
玉は、自分のせいで涼子夫婦が離婚したと思い込んでいる。だが本当にそれだけだろうか。
そもそも桜川家存続のために結婚した二人だ。戦後、華族という身分を失った以上、二人ともが、一緒にいる意味を見いだせなかったはずだ。彼女がいようといまいと、そこまでの結びつきがなかっただけの話ではないか。
それに玉がいたからこそ、戦後、涼子にとって生きること、仕事をすることのモチベーションになっていたのではないか。
玉は障害者手帳を持っていた。以前、轟法律事務所に相談に訪れていた人物は、身体障害者福祉法の存在を知らず、轟とよねから説明を受けていたが、一度、法を学んだことのある涼子が知らないはずはない。速やかに手続きをとったものと思われる。
玉はずっと施設に入りたいと考えていたのかもしれない。だけど、涼子に相談しても止められるし、だからといって一人で役所に相談になど行けるはずもない。寅子との再会は、千載一遇のチャンスなのだ。
寅子にとっては悩ましい。涼子に黙って動くわけにもいかない。涼子に話せば止められる。玉の切実な訴えに何も答えられなかったのも、うなずけることだ。
三条支部にて寅子は、森口から娘がお世話になったお礼を言われていた。
隣にいる美佐江がスンとしている。
赤のビーズのミサンガがとっても可愛い。「特別」なミサンガの可愛さに惑わされてしまった。美佐江はあれを赤い首輪に見立て、リードをしっかり握っていたのだ。
新潟地裁本庁の航一から電話が入る。高瀬、堂々としていていいんだよ。
寅子は、仕事の用事のときは名前呼びはやめたほうがいいんじゃないかな。
例の傷害事件に関連したひったくりの件で、6人もの人物が自首してきた。
住まいも学校も違う少年少女たち。決して家庭環境が悪いわけでもない。共通していることは、「気持ちをスッキリさせるため」との動機のみ。少年部の職員も困り果ててしまった。
謎が解けぬまま、傷害事件の裁判で、被害者である元木少年の尋問が行われた。
寅子、ミサンガは外してきたほうがいいんじゃないかと思っていたら、それが大きなヒントになったとは……元木少年は気づいてしまった。自分は、これっぽっちも特別な存在ではないことを。
寅子とおそろいのミサンガをつけていたのは、元木少年だけではなかった。自首してきた少年少女たちも同じだった。
「あの子をスッキリさせたくて」
ひったくり犯だと自首することが、手柄になる。美佐江との秘密を共有できることが、少年少女たちにとってどれほどの喜びになっているのか。
美佐江が関係しているかなんてどうでもいいという入倉の言葉は、ひったくり事件に直接関わりがあるかどうかに限ればそうなのだろう。だが寅子は、もっと根本的な解決方法を見出したいと考えていたはずだ。
・・・・・・・・・・・・
なぜこうなってしまったのか。
美佐江が、心に隙間のある相手へのアメとムチでしか、人との繋がりを感じられない人間なのだとすると、とても悲しいことだ。どこで成功体験を得てしまったのだろうか。
父はあんなに応援してくれているのに、なぜスンとしてしまうのか。
今となっては森口の「人のためになる職業に就けさせたい」との言葉も、過剰な期待でしかなく、一人よがりなのかもしれないと思えてきた。
美佐江は、これまで登場した両国満智や元山すみれのような “悪女系” であっさり終わってしまうのか。寅子は踏み込んでくれるのだろうか。
引きちぎられたミサンガは、心の表れだ。バラバラになって落ちていったビーズ、早く拾い集めないと、取り返しのつかないことになるぞ。
「虎に翼」 7/24 より
(昨日の記事はこちら)
(マガジンはこちら ↓↓)
この記事が参加している募集
早いもので11月ですね。ともに年末まで駆け抜けましょう!!