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【虎に翼 感想】 9/26 最後に法を語り、憲法を反芻する


個人的に伝えたかったこと。昨日からの続報。

袴田巌さんに無罪判決が言い渡された。
巌さんは88才。長期収容による拘禁症状が出ているため出廷が免除されており、姉のひで子さん(91才)が出廷していた。

報道によると、主文の読み上げを前に裁判長はひで子さんに対し、「前で聞きますか?」と促し、ひで子さんは証言台の場所まで来て、そこに座って判決を聞き、無罪が言い渡されると、深々とお辞儀をしたとのことだった。

『虎に翼』で、新潟のスマートボール場火災の裁判、原爆裁判、尊属殺裁判を観てきた後にこの話を聞くと、情景がよりリアルに感じられるのではないでしょうか。

3つの証拠の捏造があるとも認定された。警察、検察、裁判所、すべての間違いにより、一人の人生を犯罪者として58年間過ごさせ、危うく死刑にするところだったのだ。

まだ1審だから検察が控訴する可能性はある。過去の再審無罪事件と同様、控訴せずに判決を確定させるべきだ。


優未の言葉は憲法そのもの

重苦しかった週の前半が終わり、残り2回となったところで、回想や写真も含めてトラつばオールスターズが続々登場する。オープニングのクレジットで、はるさんと直言、星長官と百合さんの両夫婦が並んで表示されていたことになんだか目頭が熱くなってしまった。ついでに杉田タロージロー兄弟も。

六法全書並みにぶ厚い物語の編纂は、いよいよ完成を迎える。

優未の話す言葉、

寄生虫の研究も好き。
家のことも、料理も好き。
読書も好きだし、麻雀も好き。
着付けも、お茶や刺繍も好き。
笹竹で働く時間も好きだし、
みんなといる時間も、一人でいる時間も、お母さんといる時間も好き。
好きなこととやりたいことがたっくさんあるの。
つまりね、この先、私はなんにでもなれる。
それって最高の人生。最高に育ててもらったと思ってるから。
私のことは心配ご無用。
昔言ってたでしょ。拠りどころを作って欲しいと。

優未の語る憲法

あぁ……これはつまり、優三さんが話していた、
寅ちゃんができるのは、寅ちゃんが好きに生きること。
弁護士をしてもいい、違う仕事を初めてもいい。
優未のいいお母さんでもいい。
ぼくの大好きな無我夢中の寅ちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。
いや、頑張らなくてもいい。
後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。
これが僕の望みです。

の承継でもあるし、言い換えれば、
“労働の権利”
“職業選択の自由”
“学問の自由”
“居住の自由”

であることだ。
そして、寅子が優未の選択を真に応援してくれて初めて、
“個人として尊重される”
ことになるじゃないか……。

寅子が優未に抱きつくタイミングは予定より早かったのかもしれない。
もしそうだったとしても、もう抱きしめずにいられなかったのだ。

望みどおりに生きていてくれることのあまりのうれしさに、優三さんも星家に現れてしまった。
国民服を着る優三さんは時が止まっていて切ないけれど、彼の思いは優未に承継されている。

航一の姿に一気に現実に引き戻されてしまった。優三さんと航一は、寅子の前に同時に存在しない。
星長官の書籍の改訂作業が思い出される。優三さんは本を出したいと願っていた。寅子はその書籍に “佐田” の名前を残したし、隣には航一の名前もあった。優三さんの望みは航一にもすでに託されているのだ。


もう一人の核となる女性、猪爪花江

寅子は横浜家庭裁判所の所長に就任することとなった。横浜家裁だけいまだに、横浜地裁、地検などの合同庁舎と別の場所に置かれている事実。

本作の主人公はもちろん寅子だ。だが同じくらい本作の核となる登場人物は存在する。
登場人物が法曹者が多いゆえに、花江は、ほぼ家の場面で登場して、家族以外の登場人物との交わりが少なかった。だが忘れてはならない。第1回から最後まで登場している寅子以外の女性は花江だけのはずだ。

花江は寅子と対極に位置する女性として、法曹者として生きる寅子を常に浮かび上がらせていた。
だからといって花江を影の存在としていたわけでもない。もちろん、登場人物すべてに言えることだが。

そんな花江は達観していた。はるさんの「人生に悔いはない」との最期の言葉の領域に到達している。もし朝、目が覚めなくても、直道やはるさんや直言と会えるからと。達観の姿には、いくぶん寂しさを感じることだ。
真正面から受け止めて真面目に考えちゃって「どこか悪いの?」と尋ねてしまうのが寅子らしい。

二人のやり取りを観て、『全裸監督』を観るためにNetflix入るべきか真剣に悩んでしまった……

寅子をお祝いするために、猪爪家の家族全員が集まってくれている。
男性の直明や直人が料理をしていることに惑わされそうになったが、この家族は、全員がやりたいことをやりたいと言い、周りの者がそれを尊重しているだけなのだ。


最後に法を語り、憲法を反芻する

横浜家庭裁判所に就任した日、笹竹に法曹の仲間たちがお祝いに集まってくれた。

久保田先輩と中山先輩との3ショット……並びも同じで、あの寅子の演説が思い出される。久保田先輩は寅子のことを「誇らしい」と言ってくれたけど、そんな久保田先輩(のモデル)も昭和44年に鳥取県弁護士会の会長に就任している。女性が会長になったのは初めてのことだった。

梅子のあんこの味は、大五郎くんに引き継がれようとしていて、梅子は ”そこにいるだけでいい” 存在に昇華している。

一時期はバラバラになっていた女子部の者たちは戦後、寅子を中心に糸が繋がっていた。そのすべての糸を寅子が手繰りよせたときに、皆は再び巡り合えて、今こうして寅子を祝うことができている。

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そこへ訪れる桂場なのだ。
最高裁長官を退官し、これからは気軽に笹竹を訪れて欲しいと昨日書いたばかりだったが、お会いできてよかった。
団子を出されて「ありがとう」って言ったことあったっけ?

スーツを脱ぎ捨て、隠居感満載で登場する桂場である。
だが、“孤高” 感はいまだ健在だ。だって、あの場にいる者の誰一人として、「顔に花びらついてますよ」と教えてくれないのだから。寅子の小さい仕返し。

寅子と桂場は、“法” とは何かについて何度か会話を交わしたが、年月が経つにつれ、寅子の考える “法” もその都度変化している。

桂場と再会したことにより、寅子はあらためて考えを伝える機会を得た。それは、放送も残り2回となり、人々の関心が他に移る前にあらためて法について考えるラストチャンスだと言われているようでもある。

生きていればいろいろなことに直面する。誰かと揉めたり、失敗したと思うことをしてしまったり、いろいろ……そんなときに、折り合いをつけて人生を前に進めるためのもの。と考えてみた。
なんのこっちゃという感じだけど、自分なりに考えて結論を出し、それを携えて生きていくことが大事なのではと思いたい。

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寅子の話す ”法” はいつも、法曹者らしく理想に満ちたものであると思う。

あらためて、寅子は “” だと言った。
「人が人らしくあるための尊厳や権利を運ぶ船。社会という激流に飲み込まれないための船。船の使い方は乗り手次第。人らしさを失い沈むことも、誰かを沈めることも、間違うこともある。人生という船旅を、快適に幸せに終えるために、乗り手の私たちは船を改造したり修繕したりしながら進む」

今日の回は、最初と最後に憲法を反芻させる仕掛けとなっている。

「生い立ち、信念、格好、男か女かそれ以外か、すべての人が快適でいられる船にするよう、法を司るものとして不断の努力をする」
寅子は桂場に誓い、そして先人たちにも後進の者たちにも誓っているようだった。

「私は今でもご婦人が、法律を学ぶことも、職にすることも反対だ」

裏返しの言葉だと分かってますよ、桂場さん。


「虎に翼」 9/26 より


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