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【虎に翼 感想】第101話 夫婦別姓と同性婚、寅子と優未の名字問題


轟と時雄の同性婚問題

昭和30年7月
寅子は律儀だ。
航一との結婚話をよねに報告しなければと考えたのだろう。雲野法律事務所での苦い思い出があるから、何をおいてもよねに報告すべきだと。
だから、合格を知って数か月経ってからやっと、花束を携えて山田轟法律事務所へ赴いたのだ。

遠藤時雄さん。轟の大切なパートナーだ。
寅子は状況をすぐに飲み込めず、いぶかしげな顔をしてしまった。

よねは寅子を見ても、「二度とここへは来るな」とは言わなくなっている。
寅子の結婚話も、なにも報告せんでもと思っていることだろう。よねは雲野弁護士にも「昔話はやめましょう」と話していた。もうあの頃とは状況も立場も違うのだ。

よねも轟も、本人の許可なく事実を話さないよう気をつけている。

寅子の中には、結婚とはこういうものだという確固たる考えがあるようだ。
だが航一との関係においてはそこに当てはまらず、結婚する意味を見いだせずにいる。

寅子の話を聞くうちに、よねは目の前の複雑そうな顔をしている二人に気が付いてしまった。
だから、「相手に今の言葉をそのまま話せ」とだけ答えて、さっさと帰らせようとしていた。

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権利を持つということは、それが当たり前になること。
いつでも入籍ができる寅子は、その権利の行使に躊躇し、権利を持たない者たちに権利を持っていることを見せつけてしまった。

結婚すると女性は無能力者になるという旧民法に “はて” を感じ、法律の勉強を始めた寅子だったが、自分の価値観にない事柄に対しては無頓着になる。
だから、轟と時雄への謝罪も的外れなものとなってしまった。

轟と時雄は、”俺たちは入籍できない。佐田の悩みはぜいたくだ” と言いたそうに見えた。だけどそれを言ってしまうと結婚を強制してしまうことにもなりかねない。こんなふうにちょっとしたことでも自分を抑えながら生きている。苦しいことだ。

山田轟法律事務所にパラリーガル(事務職員)がいなくてよかった。事務所で弁護士がイチャついてたらブチ切れるところだったぞ。新潟の裁判所でイチャつく裁判官もいたしな。司法研修所もある種出会いの場だしな。


航一が寅子にプロポーズした理由

①新潟と違って、東京では時間の融通が利かない。
②婚姻によって、互いの家族を養い、財産を残すための法的な後ろだてができる。
③婚姻=離婚も可能である。つまり ”永遠の愛を誓わない” 関係が成立する。

寅子は「なるほど」と言った割には、何か引っかかっている様子で、航一の話も梅子が語る轟たちの話も、寅子の体と心の表面で弾かれてしまっているようだった。


夫婦別姓、寅子と優未の名字問題

寅子はハタと気がついたのである。結婚したらなぜ、どちらかの名字にしなければいけないのかと。

猪爪家にいる全員が、寅子が結婚したら星姓になると思っている。

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

民法第750条

旧民法では、結婚後、原則として夫の名字を名乗らなければならなかったが、寅子も関わった民法改正において、久藤に「謙虚だ」と言われるなど紆余曲折あった末に “どちらかの名字を名乗る” となったのである(夫と妻両方とまったく関係のない名字にしてはいけないという意味も含まれている)。

それなのに花江は「星家の嫁」と言い、革新的に思えた直明の婚約者の田沼玲美も、猪爪の名字になることには抵抗がないどころか変えたい派のようである。
もちろん、同じ名字になることで家族になった実感を得られるなら、その気持ちは大事にすべきだ。

この話は当然、航一に佐田姓になってもらいたいという意味でもない。

優三さんと結婚したときには全く思いもつかなかったことだ。
あの頃は、名字を変えて結婚したことを周囲に知らしめ、婦人弁護士としての地位向上、端的に言ってしまえば仕事を受けたい一心だったからだ。
本当は、旧民法時代の優三さんとの結婚で、夫の名字にしないといけないことに “はて” となれたらよかったのかもしれない。

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寅子が結婚して星姓になったら、優未も自動的に星姓になるわけではない。航一と養子縁組をする必要があるのだ。
佐田優三を筆頭者とする戸籍に残るのか、養子縁組して航一の戸籍に入るのか。

ちなみに佐田姓になる場合は、寅子が筆頭者の戸籍を新しく作り、そこに優未と航一が入ることになる。航一と優未が養子縁組をするかは自由だ。

これまで憲法第14条をさんざんクローズアップさせてきた本作だ。星姓となった場合、寅子は優未 “個人” の判断を尊重することができるだろうか。

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寅子との結婚、優未との養子縁組。これは、相続にも関わってくる問題だ。
竹もとでの航一の「財産を残すため」の言葉は、寅子だけでなく優未のことも考えたうえでのことだろう。
朋一とのどかから見れば、航一が亡くなった場合の相続割合が減る可能性があるのだ。

相続とかお金の話ばっかりで、息子と娘だったら父親の幸せを祝福できないのかと怒られそうだが、それは机上の空論だ。
相続問題は、決して取り分がどのくらいになるのかということだけではない。それまでの長年の家族関係が大きく影響し、感情が複雑に絡み合って話をややこしくする。
朋一とのどかからすれば、そこまで寛容になれるのかという問題に直面することになるのだ。

そうはいっても、朋一とのどかが何を思っているのかは、今のところまったく分からない。航一に何も言わないところからすると、逆に無関心なのかもしれないから。それはそれで寂しいことだ。

百合にも百合の立場がある。結婚には反対していなさそうだが、あくまでも星姓と星家での同居が大前提となっている。
亡き夫から義理の息子と孫を託され、家を守ってきたのだ。航一が家を離れることなど、夫に顔向けできないことである。

寅子にとっての結婚の意義を見いだすことはできるだろうか。
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結婚したら、なぜどちらかの名字にしなければならないのか。
なぜ同性の者同士は結婚できないのか。

根本の問題を問いかけられた今日の月曜日だった。


「虎に翼」 8/19 より

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