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【虎に翼 感想】 9/10 人は皆、誰かの親であり子なのだ


「笹竹」誕生!

寿司と甘味を一緒に味わえるお店。桂場の最高裁判所長官就任祝いにふさわしいお店だ。ちらし寿司おいしそう。
多岐川の快気祝いも兼ねている。お店まで来られる体力があることに安心した。

義母と息子たちと離れる選択をした梅子と、戦争中に親と離れざるを得なかった道男が一緒にお店を営んでいる……今日の展開を予感させる二人の画だった。


最高裁判所

汐見は、事務総局の事務次長として司法行政を担当している。
航一は、調査官室の中枢として、上告された事件をどの法廷で取り扱うかを選定する業務を担当している。

朋一は汐見の部下として仕事をしていて、汐見の評価も上々だ。
航一は、朋一が寅子の影響を受けて理想に燃え、視野が狭くなり、正論を述べることと上に噛みつくことを混同しているのではと危惧している。遠回しの寅子ディスり。
言ったそばから最高裁の廊下で父親に噛みつく朋一である。


斧ヶ岳美位子の罪

長年にわたり父親に蹂躙され、子まで産まされた美位子。恋人ができ、結婚を意識したものの、それを告げるや父親が怒り狂い、家に閉じ込められ暴力を振るわれてしまった。
母親は早々に家を出て行ってしまっていたし、美位子が父親から逃れるには、その父親を殺すしか方法がなくなっていた。少なくとも彼女はそこまで追い詰められていたということだ。

依頼を受けたよねと轟の弁護方針は、刑法第200条の尊属殺規定(死刑または無期懲役のみ)が憲法第14条に違反する。刑法第199条(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)を適用せよなどの主張をすることで決まった。

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尊属殺の重罰規定の話が出たのは、これが初めてではない。第14週でも登場していた。最高裁まで持ち込まれたが、合憲と判断されて終わったのだ。
このときに違憲であるとの少数意見を述べたのが、穂高教授だったのである。

事件は起こった。
自分の無力さを心に持ちながら最高裁判事を退任する穂高教授の祝賀会で、寅子は教授の「自分は雨垂れのひとしずくに過ぎなかった」とのスピーチを聞き、怒りに震えた。そして、かつての女子部の仲間たちの思いを、本人が望んでいたかは別としてもそれを背負い、教授に対し怒りをぶつけ、怒号を浴びせたのだ。
祝賀会は台無しとなり、教授は一気に老け込んでしまった。和解はできたものの、その週に教授とはお別れとなったのである。

法曹の父” である教授に対する寅子の仕打ちは、“尊属殺” として第14週の核となっていた。

この第69話は、穂高教授に完全に寄り添った記事を書かせてもらった。これは、私のバックボーンが影響していることもあるし、中途半端に寅子の気持ちを書くよりは振り切って書きたいと考えたことも理由にある。

法学部的には、美位子がモデルの裁判は広く知られているものなので、穂高教授が少数意見者のまま終わるのではなく、必ず続きが描かれるところまで予測していた。
だが第14週から時間が経ち、第24週に再び描かれた今、あらたに感じたこともあった。

第69話のときの
「寅子、何をやってくれちゃってんだ!!」
この気持ちこそが、まさに尊属殺の重罰規定の根拠なのではないかということだ。
戦前までの家制度、家長制度の中、親を殺めるなど到底許されるものではなかった。
穂高教授の少数意見は、昭和25年の話だ。終戦からまだ5年しか経っていない。家制度が色濃く残っている時代には、まだ超えられない壁だったのだ。


東大安田講堂事件

この事件で抵抗した若者たちが逮捕された。その中には未成年の者も多くいる。
家庭裁判所は大忙しだ。その中でも裁判所の者たちは、愛の裁判所の理念に基づき、少年少女たちにじっくり向き合い、更生の道を探ろうとしていた。

安田講堂事件では、汐見薫も逮捕されていたことが判明する。

香子は司法試験に合格し、司法修習を終えたばかりだった。実務経験がないがゆえに薫の弁護をよねたちに頼みに来たものの、他の弁護士に委ね、自分の手を離れることに抵抗を感じ、やはり自分が弁護したいと翻意したのであった。
法曹資格があるとはいえ、司法修習を終えたばかりの香子が担当するのでは、かえって薫の不利益になる可能性が高い。それでも香子は引かなかったようで、この件はひとまず様子見となってしまった。

美位子の父親は、美位子が別の男性を愛し結婚をしようとすると激しく怒り狂い、暴力をもって拘束した。
香子の薫に対する執着(といってよいのか)と、美位子の父親の、娘に対する執着は、質は大きく違えど、通ずるものがないだろうか。

人には皆、親がいる。誰しもが父親の遺伝子を受け継ぎ、母親の体内から出てくるのだ。
自分の親や血筋を好意的に、もっといえば誇りに思っている人は、何の疑問もなく周囲に話をするだろう。それが自慢と受け取られても。
だけど、皆がそうではないのだ。美位子のように、この非道な父親の子である自分の血を忌まわしく思い、苦しんでいる人もいる。

薫は自分の生い立ちを知ったとき、両親に向かって日本人(日本)のことを「加害者」と言った。それはつまり、朝鮮(韓国・北朝鮮)人のことを、自分の親以上の世代が支配していた国の人たち、と思っていたということはないだろうか。
薫は、自分に朝鮮人の血が流れていると知ったとき、内心、どのように思ったのか。香子に対し「自分の血が恥ずかしいと思っていたのか」となじっていたが、薫自身はどう思ったのか。薫の両親に対する怒りや苛立ちが、複雑かつ解決方法など見いだせないものなのであれば、それはとても辛いことだなと考えてしまった。

自分の親や子を殺す人もいる。その一方で他人を殺す人もいる。だがその他人も、誰かの親であり子であるのだ。
自分の親を殺した尊属殺だけ重罰規定が課せられているのは、やはり酷なことではないだろうか。


政治家からの圧力

原爆裁判のときの国側指定代理人だった反町は、今は、政権与党、政民党の寒河江幹事長の秘書になっていた。
昔の自民党の幹事長って、今よりもっと権力を握っていた印象がある。小沢一郎氏とか。昭和44年当時は田中角栄氏だったし。そのイメージで反町の話は聞いたほうがいいと思った。

寒河江の地元の名士がご立腹だ。この名士の息子が逮捕、勾留されている。年齢は21才、地裁の公判を待つ身である。
たった1~2才の差で、未成年の者は家裁の審判で不処分となる。その処遇に差がありすぎると、汐見を通して最高裁長官である桂場に圧力をかけてきたのだ。
政権与党の幹事長なのだから、裁判所の人事も把握しているはずだ。だから反町は顔を知っている汐見に近づいたに違いない。いつも後ろ暗い役目を引き受ける反町は、ある意味重宝される存在なのだ。

”司法の独立” を阻む者。いずれ最高裁に回ってくるであろう尊属殺規定の裁判。桂場は最高裁長官に就任早々、さまざまな難問を抱えることになったのである。


「虎に翼」 9/10 より

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