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【虎に翼 感想】 8/30 ポジションを失う怖さと選択権をもつ喜び


のどかの現在地

のどかは “末っ子” のポジションを奪われていた。

小さい頃から大人に対して “スン” を発動してきた優未は、大人の懐に自然に入り込むことができる。だからかわいがられる。

自分のポジションを奪った優未(と寅子)との出会いによって父親は変わった。そのことへの抵抗や嫉妬の気持ちを持ってもおかしくはない。朋一もその気持ちはあったと語っていた。
父親と一緒になって変わっていける器用なのどかではないが、亡き母、照子が話していた「お父さんを甘えさせてあげて」の言葉を実現させてくれた寅子たちを受け入れようと頑張っていたのだ。

照子の言葉を知ったところで、気持ちを張り詰めさせなければ生きてこられなかった航一なのである。その理由を知っているのは、ここでは寅子だけ。

総力戦研究所にいたことは、航一だけでなく星家に大きな影を落としていた。
その職責から、口をつぐまなければ、距離を置かなければならなかった。その環境を子どもたちにも強いてしまっていたのである。親子そろってまったく不器用だ。

百合には結婚歴があったが、子を産めずに離縁させられていた。
朋彦氏と再婚後、自分で望んで朋一とのどかの世話をし育ててきた。その役目に誇りをもってはいたが、どこか透明な存在でもあったのだ。だから褒めてもらいたかったし、自分を見てほしいと思うのは当然のことだ。その望みを寅子と優未が叶えてくれたのである。

のどかも、寅子と優未が来てからはいつも輪の一番外側にいて、皆からは、のどかの姿は見えていなかった。

思い返せば、寅子は両親の前ではいつも子どものポジションを確保していた。嫁に来た花江と違い、寅子は結婚後も同居していたし、特に、はるさんの死の直前でさえ子ども全開でいたことが思い出される。

物心ついたときから父親がいなかった優未には、寂しい思いをさせ、いい子を演じさせてしまった。親子関係は取り戻せたが、優未はいまだにお母さんにいいところを見せようと思うとお腹を壊してしまう “後遺症” があるのだ。

優未同様、子ども時間が少なかったのどかに対し、寅子は “子ども扱い” することを提案したが、航一がそれは “自分の役目” だと強く主張し、却下した。
代替案として、“家族のようなもの” を一旦休み、星家の問題は星家の者たちで解決することを提案し、了承された。


選択肢がある、ということ

真理子は産休に入ることになった。
修習時代から社会を変えると息巻いていた強気の彼女でさえ、戻る場所を確保された初めての女性裁判官というパイオニアの役目を与えられたことに不安になっている。

優三さんの遺言は、寅子のためだけでなく、同じ道を歩もうとする女性たちにも強く響いた。

女性とポジションを争うことに疑問を抱いた益岡少年。
その屈折した気持ちがよく分かる小橋。
出産後、自分の帰る場所がなくなることへの不安を抱いた真理子。
寅子と優未の出現で、輪の外側へ移動させられたのどか。

誰もがその場所に行きたいと願ったときに、選択肢として与えられていることが大事なのだ。


昭和31年12月

星家の “家族のようなもの” の場所を一時明け渡していた寅子と優未は猪爪家に戻っていたのだろうか。この間、2~3か月くらいと思われるが、星家はすっかり変わっていた。
朋一は司法試験に無事合格した。法曹界では今頃、星家の3代目が合格したとの話で持ちきりになっていることだろう。

真理子は無事出産していた。
今では迷いもなくなり、裁判官への復帰を目指している。
1つ障害となったのが、子どもを預ける先がなかなか見つからないことだった。
百合も仕事をしたい気持ちをずっと持っていたのかもしれない。だからすぐに、その役目を引き受けると手を挙げたのだ。

自分で働いて、自分で自由に使えるお金を持ちたい。選択権を全権与えられるこの喜び、すごくよく分かる。他人(家族)からお金をもらって「自由に使っていい」と言われたとて、この喜びは味わえるまい。

百合の役目を少しだけ引き受けるようになった航一、朋一とのどか。星家を支える役目から少し解放された百合。
星家の問題は無事解決し、新しい年を迎えようとしていた。


次週予告

百合の様子がおかしい。
いよいよ原爆裁判が本格化。
判決までに何年かかった?
竹中記者の生存確認!
誰のための裁判だ?寅子!


「虎に翼」 8/30 より

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