【虎に翼 感想】第94話 優三のもう一つの遺言
稲は酒豪だった。手酌ペースが速くて寅子も顔負けである。そんな寅子は優未の前だからかゆっくりめだ。花江も飲める口だが、食事中は控えている。3人とも思うままに飲んじゃってたら、海賊の宴になるところだった。
稲は一人寂しく暮らしていた頃は、どれだけ飲んだくれていたのだろうかと考えてしまったが、今日は楽しい酒で本当によかった。
童謡『砂山』。やはり歌詞に「海」がつく曲が好きなようである。
花江も稲と顔を合わせるのは10年ぶりくらいか。戦争で両親を亡くしている花江には、唯一の身内みたいなもんだ。子ども扱いされた喜びをかみしめている。
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同じ頃の『Light house』。航一がいつもと違うメニューを注文している。カニクリームコロッケ的なものか。水曜日はハヤシライスと決めているのだろうか。
「気立ては良いけど、全方位に愛があるゆえに、男女の機微に疎い」
寅子と付き合いの長い者たちは、皆分かっている。だから皆、もどかしくなるのだ。
涼子からのお気立て優認定をしてもらえていないのは、きっとよねだけ。
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さて、本題……花江は優未から手紙を受け取っていた。トラちゃんのことだから、また話をややこしくしているだろうとばかりに、新潟までやって来てくれたのだ。
優未が起きてきた。立ち聞きはダメだと、寅子よりも花江がたしなめている。東京で同居していた頃の “母” の感覚が抜けていない様子だ。
あのお守りの中に手紙が入っていたなんて……。
大人になるにつれ、「お守りは開けるもんじゃない」といつの間にか刷り込まれているけど、子どもはお構いなしだ。興味が先に立ち、寅子のいないところで勝手に中を見ていた。
優未ももどかしく思っていた。
勝手に見た以上、母に話せば叱られるかもしれない。だけど、母がこの手紙の存在を知らないのであれば、教えてあげないといけない。どうしたものか……。
優未はとにかく賢い子だ。花江に助けを求めたうえで、花江が立ち会っている場所で、存在を知らせることにした。
出征する前、寅子と二人で河原に出かけ、おにぎりを分け合った日。あの日優三さんは、後の日本国憲法ともいえる言葉を寅子に語りかけた。
あれが遺言だと、ずっと思っていた。寅子はあの言葉を芯に、ずっと生きてきたから。
だが今、見返すとあの言葉は、優三さんが寅子の傍にいても成立するのではと思えてしまう。ちゃんと帰ってくるつもりだったんじゃないかと……。
どこかで死を意識し始めたから手紙を書いたんじゃないかと、そう思えてしまった。
優三さんは心配だったんじゃないだろうか。寅子が胸が高鳴る相手に出会ったときに、また難しく考えちゃうんじゃないか。これは、ちゃんと言わなきゃ分からんだろうと。
オープニングのクレジットの「佐田優三」のところに、(回想)とも(写真)とも(声)ともついていなかったから、どのような形で出てくるのかと思っていたが、手紙を読み上げる声だけだった。
だが、声だけでも姿が容易に想像できた。
どのタイミングで手紙を書いたのかは分からない。
それでも、あのくもったような、しわがれたような低いトーンの話し方に、異国の地で誰にも見つからないようにして書いている姿が浮かんできたのだ。
だから、(声)とつける必要などまったくなかった。
優三さんには一つだけ譲れないことがあった。それは、寅子と優未を一番愛しているのは自分だということ。自分がいなくなった後、寅子が別の人を愛したとしても、その相手より自分のほうが彼女を愛しているのだという自負である。
今となっては、お守りを届けに来てくれた小笠原氏に感謝しかない。ほんのわずかな期間の交流であったにもかかわらず、わざわざ来てくれたのは、彼が優三さんの人柄に触れた結果だ。そして……体が衰弱する中、優三さんが必死の思いで頼み込んでいたのかもしれない。
優未が思い切れたのも、父の言葉に導かれたからだ。その姿がなくとも、愛されているというのは妙な自信につながる。その父が「お母さんを信じて」と言っているのだから。
優三さん……やっと今、あなたの想いが届きましたよ……「トラちゃんらしいな」と思ってるかな……
優三さんが背中を押してくれたからといって、じゃあ、すぐに航一とくっつくかというと、それは微妙な気がする。寅子にとって航一と生きるための ”芯” は何になるのだろうか。
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翌日、寅子は高瀬と知子にも、二人の納得する二人の結婚の形を見つけて欲しいと伝えることができた。
そうなのだ、自分の結婚の形を当て込めてえらそうに言う必要などなかったのだ。
そうはいっても、「好きにしなさい」と話す寅子は、ちょっとえらそうだったけどねっ。
「虎に翼」 8/8 より
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