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【虎に翼 感想】第122話 理想を掲げる者の孤独


家庭裁判所の疲弊

東京家庭裁判所調査官の音羽が疲弊している。以前よりも厳しい表情になっている気がする。少年たちと最も接する時間が長い調査官だ。更生を期待しても応えてくれない少年たちの姿に直面し、限界を感じているのではないか。
難しい案件をいくつも抱え、裁判官に早く結論を出して欲しいところ、寅子としてはできる限りの検討をしていきたいと考えている。

今のままでは調査官が耐えきれずに辞めてしまいそうで心配だ。
昨日の記事では「家裁と一般人の認識に齟齬ができている可能性は十分にある」と書いたが、家庭裁判所の内部でも既に齟齬ができている様子で、音羽だけでなく寅子も家裁の皆も疲弊しているようだ。

(※少年法第2条で『この法律において「少年」とは、二十歳に満たない者をいう。』とあるので「少年たち」と記載しています)


法制審議会の紛糾

少年法の法制審議会は相変わらず紛糾している。
弁護士となった汐見も少年法の専門家として出席しているから、家庭裁判所設立時のメンバーは束となって政府の意向を汲む者たちへ立ち向かっている。

多岐川がいないことを痛感させられる日々ではある。
昨日は久藤に物足りなさを感じてしまったが、今日は久藤らしさを武器として矢面に立ってくれた。聞けば、多岐川を思い浮かべながら話していたという。寅子の “はて” も使用しつつ。

それはとても心強いことではあるが、桂場と久藤のパワーバランスにも変化が生じているように見える。
3人のときはよかった。誰か一人が道を誤りそうになったら二人がかりで止めることができた。今の桂場に対しても、多岐川が長官室に乗り込んで強く言うところを久藤が落ち着かせるくらいの図だったのではないか。
優しく相手を尊重してくれる久藤一人では、桂場と向き合うのは難しいように思えた。

多岐川の代わりを寅子は引き受けようとしたのだろうか。桂場との決別の場になってしまったのは残念なことだ。


「純度の低い正論は響かない」

第54回のことである。 
家庭裁判所設立の少し前、亡き花岡の妻、奈津子が桂場の元を訪れていて、そこに寅子が駆けつけたときのこと。
少年部と家事部の調整が上手くいっていない時期だった。寅子が奈津子にとんちんかんな謝罪をしていたことも思い出す。

「正論だけでは皆さん納得しない」という寅子に桂場は、「正論は、見栄や詭弁が混じっていてはダメだ。純度が高ければ高いほど威力を発揮する」と話したのだった。
結果、弟の直明たちにその役目を引き受けてもらい、無事、設立にこぎ着けたのである。

法制審議会が続く中、皆が家庭裁判所設立時のことを思い出しているに違いない。
それは桂場も同じである。だから寅子の言葉にも身に覚えがあるし、それにより “イマジナリー多岐川” を登場させてしまった。多岐川の言葉は自身の迷いの心を表しているのだから。

桂場は孤独だ。自分を支えてくれた人たちは先に逝ってしまい、最高裁長官に上り詰めた今、全裁判官の命運を握る立場なのだ。強固な理想の鎧で固めてしまい、その重みで身動きがとれなくなってしまっている。下からの突き上げと、政府からの圧力を何とかはねのけている状態なのだ。


朋一、東京家庭裁判所へ異動

どうやら朋一の勉強会に参加していたエリート若手裁判官たちは、桂場の仕打ちに失望し、早々に辞めてしまったようだ。
一人残された朋一は、昭和46年春、東京家庭裁判所の寅子がいる部に異動してきた。
着任早々、すっかり浮いてしまっている……一介の調査官やヒラ裁判官や事務方からしたら、まだまだ現実を分かっていない星家のおぼっちゃまくらいなものなのだろう。誰もついてこない中、理想、理念を貫けるだろうか……。


よねの、美位子を代理する言葉の重み

美位子の裁判は、上告(上告受理申立)を行ってから既に1年が経過していた。忘れた頃にやってくる最高裁判所からの通知なのである。

調査を担当している航一は、山田轟法律事務所を訪問した。美位子が笹竹に行ったのは、もちろん二次被害を防ぐため。

「決してめずらしい話じゃない。ありふれた悲劇だ」
よねの言葉は警告だと思った。
尊属” の立場の親が子を苦しめているのが原因なのに、その苦しみから逃れるためにやむなく殺めてしまった者の刑罰だけが重い。そんな法律でよいのか。また同じことが起こる可能性は十分にある。上告を受理しないで放置してよいのかと。

航一は記録を読み込んでいるから経緯は全部知っている。
だが、文字を読み込むだけでは伝わらないことはたくさんあるのだ。
代理人であるよねの口からあらためて聞かされることにより、この事件がどれほどの地獄だったのか。そして、この件は氷山の一角だということを痛感させられるのである。

「心を痛める暇はない」
依頼者のために最善を尽くすことと、肩入れしすぎてしまうことは違うのだ。できる限りのことをしたいと思ったときに、自分に置き換えて感情的になっていては、弁護士としての冷静な判断ができなくなってしまう。

直接話を聞くことができてよかった。受理するかの判断の権限は航一にはないし、最近の桂場を近くで見ている者としては不安がつきないだろう。
伝えなければ” という思いを強くして帰ることができたなら幸いだ。

穂高教授が少数意見を出したあの裁判のことまで封印するつもりはないだろうな、桂場長官……


「虎に翼」 9/17 より

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