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【虎に翼 感想】 9/11 下の者たちは怒り、上の者たちは変化を恐れる


女性法曹の抵抗

悪い話だってことは明らかだから、寅子が話し出す前から泣き出したとて、弱いわけではない。最初の頃はうっとおしい人だと思ったりもしたが、今となっては中山先輩が一番、“芯” を持っている人なのかもと思えるようになった。男性たちに女性を揶揄されることに “慣れてしまう” ことなく怒りをあらわにするところにそう思った。
中山先輩が検事としてどのような取り調べをしているのか。取り調べの可視化を切に要望する!

女性が裁判官を務めることの是非について、最高裁人事局の会議で男性裁判官たちが断じていた。だから女性法曹の会の皆で要望書を出すこととなったのだ。もちろん、今のところ非公式のこの話を誰が誰から聞いたかは分からないように。じゃないと犯人探しが始まっちゃうから。なんだか既視感のある話だ。

こうやって、怯むことなく上へ要望を伝えることが大事だ。
寅子は「ぶり返し」と表現していた。
法曹界でも女性が増え、男女平等に近づいていると思われていたが、男性裁判官からすれば、今まで男性だけを相手に競争すればよかったことが、女性もその競争に加わっている。それに対する反発、防御行為なのだ。小橋もそんな話をしていたな。
女性特有の状況で周囲に負荷がかかるなら、そのことへの対策は必要だ。負荷がかかるから排除という考えは都合のよい解釈でしかない。


若手法曹の反発

朋一が久々に星家を訪れている。このとき昭和44年4月だからお正月以来か。
東京都の教員と仙台の裁判所職員、2件の公務員に関する類似の裁判の最高裁判決が同日に出たが、一方は無罪、一方は有罪となったことに朋一は憤っていた。

朋一が開いているという勉強会。今後、大きな集まりになっていく勝手な予感。

寅子は、
「多くの人は変化を過剰に恐れる。(略)なかなか変わらなくても、声を上げていくことに意義がある。一歩一歩ね」
と話していたが、なんだか聞き覚えのあるお話だ。
今週はやはり、今は亡き穂高教授を振り返る週となりそうである。
“雨垂れ石を穿つ” の教えは寅子に染みわたっていた。

その後も活発な意見交換が続けられたのか、朋一は終電を逃して泊まっていくことになった。夫婦仲は大丈夫だろうか。仕事のことに関しては変革を求める朋一も、家では意外と家長風情でいたりして。

のどかが当時の価値観では婚期が遅い理由も判明した。やはり芸術系の人が好みなのか。来年まで待てるのか。
翌朝、それを勝手に寅子と航一に告げる朋一に注意したかったけど、航一のエプロン姿でそれどころではなくなった。


司法の抵抗

政権与党、政民党の寒河江幹事長が、裁判制度に介入してきた。裁判制度に関する調査特別委員会を設置し、最高裁判決の調査、裁判官の人事にまで手を入れようとしたのである。
それに対し最高裁長官である桂場は記者会見し断じた結果、その話は立ち消えになった。
秘書の反町が謝りに来たが、桂場は怒りが収まらず、ソファーのカバーを整える体で怒りを表していた。
反町が持ってきた手土産……お金が入っているとまずいから、すぐ開けて確認してーって、みんな思ったよね……。
これは政治への司法の抵抗の図だったけど、桂場の部下を引き連れての記者会見の図もなかなかのものでしたよ……。


若者の反発

安田講堂事件で逮捕された二十歳以上の若者たちの裁判が始まった。
自己批判……その後の経過を私たちは知っているから、歌うのやめんかい!と本気で思った。
法廷で歌っている若者たちの熱量だってそれぞれなのだ。大学を卒業したら何事もなかったように就職する人もたくさんいる。あの若者たちは、団結しているようで団結していないのだ。この法廷ではまだ誰も気づいていない。

汐見薫も逮捕されていたが、怪我をした学生たちの介抱をしていただけということが判明し、起訴猶予となり、自宅に戻ってきた。
香子は、寅子やよねたちの前で恐縮していたが、心配し過ぎるくらいでよかったのではないか。
薫はいつも多岐川の部屋にいる。一番、心安らぐ場所なのではないだろうか。
自分に隠し事をしていた両親より、今は、傍らでいつも見守ってくれているおじちゃんのほうが自分をさらけ出せているのかもしれないね。

・・・・・・・・・・・
日本国憲法が公布されて20年以上が経ち、上の者へもの申せない世の中ではなくなっている。下の者たちは怒り訴え、上の者たちは変化を恐れ押し戻そうとする。その苛烈な争いの時代となっている。


美位子の母親への怒り

昭和44年6月
美位子の裁判は、1審で “尊属殺人は憲法違反” “過剰防衛” との認定となり、刑を免除される結果となった。
これは憲法違反に関わる裁判だから、1審で終わるわけがなく、検察はすぐに控訴した。

美位子の母親への「一人で逃げたのはお母さんでしょ」の言葉は、母親にとっては酷なものだったに違いない。
母親の服装や、弁護士費用のことばかり気にする姿が全てを物語っている。
美位子を連れて逃げ出したくても、育てる経済力もなく、何の力もないことも分かっていたから連れ出せなかったのではないか。
それに……娘のことを “女” として扱っている夫、二人の姿を見て、妻として平常心を保てるとも思えないのだ。それは “敗北” とも言ってもいい。気が狂いそうになる日々から逃れたかったと言われたら、非難するのをためらってしまいそうだ。

もし仮にそうだったとしても、美位子にそんな理由は通用しない。今さら「私もできることは(する)」と言われても、だったらなぜもっと早くしてくれなかったのだ。できる範囲のことだけしようとするのは勝手だ。自分が地獄を味わいたくないからといって、娘に味わわせてよいわけがない。

美位子の両親の娘に対する愛情は、二人ともいびつなものだった。
独占欲が強く支配し続けた父親、自分のできる範囲でだけ娘を守ろうとした母親。
美位子は今日、二人ともに永遠の別れを通告したのだった。

美位子の微笑みが悲しくて泣けてきた……お皿の水滴を拭きとるように、美位子の涙も全部乾けばいいと思った。


「虎に翼」 9/11 より

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