【虎に翼 感想】第107話 伝えなかった大人の責任
「チチンプイプイ」
たしかに、誰とでも溝を埋められる寅子は、魔法使いのようなものだ。
寅子が今、航一にかけた魔法が効いたのかは分からないが、少なくとも、諦めかけていた航一を救ってくれたのは間違いない。
朋一とのどかは二人で支え合って生きている。未成年ののどかに「(タバコを)他では吸うなよ」と言ってくれるのは、たぶん朋一だけ。百合は、吸殻が庭に捨ててあったとしても黙って片付けるだけだろうし、きっと航一は気づかない。
二人は諦めてしまっていた。
自分たちにしてくれなかったことを、ことごとく優未にしてあげている父親の姿を見るたびに、心がざわつき始めて、その波を静めようとする毎日なのだ。
入学式に向かう3人の写真を撮ってあげている朋一と、それを見守るのどかの心境はいかばかりか。
優未からしても、初めて生身の父親の実感を得ているところなのだ。絶対にこの手を放したくない。
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中学校の入学式には花江も出席してくれた。優未の12年余の人生の中で、少なくとも半分は花江が育てていたから、その権利はあるな。
もしかしたら、寅子も焦っていたのかもしれない。星家では先走って、かえって溝を大きくしたようだから。
久々の猪爪家で、料理の味を確認しない玲美や、司法試験を前にナーバスになっている直人や、ますます直道化しているとはいえダンスホールで働きながらサックスを頑張っている直治との関係構築に腐心する花江を見て、気持ちを落ち着けることが出来たのではないだろうか。
直明の学校の生徒のために、寅子は休日に特別授業をすることになった。若い子が裁判官に興味があるのはうれしいことだ。
特別授業の日
“休みの日は休む” をモットーとする航一と、勉強はそれほど好きではない優未は、自宅でゆっくり過ごしている。優未は百合からお茶を教わっていてとても和やか。3人とも血が繋がっていないとは思えない光景だ。あらためて、家族とは血の繋がりだけではないのだと認識できた。
航一が、のどかを散歩に誘った。
この血の繋がった親子の溝は一向に埋まらないが、航一は寅子の魔法に従い、諦めずに溝を埋めようとしている。
だが、これは逆効果のようにも思えた。寅子と優未と出会ったことで父親が変わったのであれば、それはのどかから見ると、亡き母親も、自分と兄の存在もまったく意味をなさないことになる。むなしいばかりだ。
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同じ日の裁判所。
寅子の授業を手伝ってくれるのは、後輩の真理子だけでなく……家庭裁判所設立に尽力した、伝説の稲垣と小橋である。
現在、稲垣は東京家庭裁判所の少年部部長の任に就いており、小橋は同じく東京家裁の裁判官を務めている。
小橋はずいぶんと卑屈になっていたが、何も小橋が無能ということではあるまい。裁判官(と検察官)は年功序列だから、修習期が違う二人の出世に差があるのは自然な流れではないか。
花岡とともに現役合格した稲垣に比べ、小橋は翌年も受からず(その年に受かったのが寅子と轟たち)、少なくとも2年は期が下なのだ。
それに、小橋の良さを知るには時間がかかるのだ。私たち視聴者も3か月くらいはかかっていたから。焦らず頑張れ。
特別授業の出席生徒は3人……ひと悶着あったようだ。玄太少年が気になる。
伝えなかった大人の責任
申しわけないが、益岡少年の「女性は働かないほうが得だ」には1ミリも共感できなかった。
働く理由は人それぞれだ。収入を得るため、社会と繋がるため、やりがいなどなど……
働かないと損だという話でもない。選択ができることが大事だ。
彼は頭は良さそうだが、その分視野が狭く柔軟性がないように見える。
だが、これはすべて、話をしてこなかった大人の責任ではないか。戦争の話も、日本国憲法で平等が保障された話も、きっと両親は話をしてこなかったのだ。学校もどれだけ教えられていたのか。この話に触れない自分では、この大人たちと同じだとも思ってしまった。
中学生をあまり責め立てたくはない。彼の家庭は、父親が働き母親が家にいることで安定しているのだろう。頭が良いだけに、女性が外に出ることの障害も、男性が “好きで働かない” 選択ができない苦しみも理解しているに違いない。彼なりの素朴な疑問なのだ。
日本国憲法が当たり前に存在している時代に物心がついた中学生たち。だからこそ、平等を強く欲しなくなってしまったのかもしれない。
「昔は男女平等じゃなかった。あなたたちは恵まれている」などと言ってしまったら、いつかの竹もとでの女子司法修習生たちへのマウントと同じになってしまう。
どのように伝えるべきか……
「そう、わかる」
額面どおり受け止めるつもりはない。小橋から発せられる言葉を信じている。
「虎に翼」 8/27 より
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