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JASRAC擁護勢に絡まれた時のために (知財高裁・最高裁の結果を反映)[全文無料で読めます]

ネットで他のみんなと同じノリで軽くJASRACをディスったら、なぜか自分だけ突然絡まれること、ありますよね。そんな時のための情報を、絡まれるきっかけ別に分類してまとめています。
(有料設定していますが、末尾まで無料で読めます)
・追加すべき項目、誤りや補足訂正、参考になる他の情報
などございましたら、ぜひコメントでお知らせください。

現在調査中: 久住メソッド(孤独のグルメ)
       徴収金額と分配金額のずれ
2023年の更新:音楽教室裁判関連を全体的に加筆修正
                        【独占禁止法に触れるのではないか】を大幅加筆
       【私腹を肥やす】を更新
        【著名人】関連について全般に最新化
2023年の追加:GLAYさんの楽曲の結婚式利用
        高校野球のブラスバンド

当時の状況(再現)

著名人の名前を出したら絡まれる


【ファンキー末吉さん】

よし!アーティストを食い物にするJASRACの悪の所業を並べ立てて、追い払いましょう!

ファンキー氏の主張は「自分の店で自分の曲を演奏したら使用料請求されたのに、自分には振り込まれてない!」である、と一般に受け止められていますね。

ところが・・・

一審・二審と進むにつれ、ファンキー氏の経営する店の契約に対する誤認識や、申告方法・内容の不備が判明し、敗訴となりました。最高裁でも棄却されて確定。

最高裁判決後、ファンキー氏から文化庁に上申書を提出して注目を集めましたが、一般に、最高裁で結論が出ている件に省庁がコメントを出すことはなく、本件もリアクションは特にないようです。

なお、ファンキー氏ご本人はJASRACそのものを悪の組織だと決めつけるようなご発言はしていません。ご自身を含めた音楽作者が収入を得るために有益な団体であることは(ご自身がJASRACを通じて高額な報酬を得ていることも含め)お認めになっています。

純粋に、契約のあり方・調査・集計のあり方について、ご自身の実感をもとに問題提起なさったものです。JASRACが法に則り、限られた人員と技術的な限界の中で努力していることもご承知の上で、ご自身が納得できない点を説明・改善するよう主張しているものですので、一般にイメージされているような感情的な対立というものではなさそうです。

知財高裁の判決文(一審より厳しい判決になりました):

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/086203_hanrei.pdf


【しほりさん】

よし!アーティストを食い物にするJASRACの悪の所業を並べ立てて、追い払いましょう!

しほりさんがブログで、自分の曲が頻繁に演奏されているのに自分に入金がない、と書いたことで話題になりました。これは許し難い!

ところが・・・

その後、しほりさんご自身で確認したところ、ライブハウスの不適切な処理(契約や楽曲利用報告)が判明し、JASRACに何の問題もないことが分かりました。

後日同じブログにその顛末をしほりさんご自身が記載しています。(本項末尾にリンク)
しほりさんとしては、ご自身で把握している楽曲利用の実態と、そこから想定される収入との間で明らかに矛盾があることからブログ記事を書いたものです。

行動的なお人柄のしほりさんらしく、JASRACから丁寧な説明を受け、ご自身の様々な疑問も質問して回答を受け、上記の通り手続きの問題であったことが判明し、納得しておられます。

*2020/03/12 この記事をご覧になったしほりさんご本人が、ページの末尾にコメントを下さいました。


【大槻ケンヂさん】

いわゆるオーケン事件ですね。これだよ!こういうけしからん事実を突きつけて、追い払いましょう!

大槻ケンヂさんが自分の歌詞をエッセイに使ったところ、JASRACに使用料を取られたという話が広く知られています。

ところが・・・・

全く身に覚えのない大槻ケンヂさんご自身が雑誌「ぴあ」にて都市伝説であろう、と否定しています。


【宇多田ヒカルさん】

待ってました!さすが僕らのヒッキー!
この話題を突きつけて、叩きのめしましょう!

別項で取り上げる「音楽教室での楽曲利用」に関連して、宇多田ヒカルさんが「私の曲を『学校の授業で』使いたい場合は、著作権を気にせず使って欲しい」と発言して話題になりました。

ところが・・・・

この宇多田ヒカルさんのご発言を、「音楽家自身がこう言っているのに徴収を進めるJASRACはけしからん」というように利用する意見がネット上に見られました。

実際のところは、宇多田ヒカルさんがおっしゃる通り、そもそも学校の授業で先生や生徒が使うための印刷などの場面では、著作権使用料が最初から免除されています。

また「無報酬・非営利・入場観覧無料」で演奏(生徒が授業で教材の楽曲を演奏したり、学校の先生が授業で生徒に演奏して聴かせたり、生徒同士が授業の題材を互いに弾いて聴かせたり)には著作権料は掛かりません。これは、JASRACの恣意的なルールではなく、大元の著作権法で決まっています。

また、宇多田ヒカルさんは日本国内での楽曲利用の管理を、JASRACに信託しています。それも、楽器教室での使用に対して著作権料を請求する対象となる「演奏権も含む全信託」としてです。

学校利用での著作権料免除については、JASRACのサイトでも公開されています。


【平沢進さん】

よっしゃ〜!!!俺たちの平沢御大を持ち出せば、あいつら恐れをなして沈黙するに決まってます!やったりましょう!

ところが・・・・

1)「平沢進はJASRACの問題点を批判した」 → してません。平沢さんが一貫して批判しているのは、音楽業界の構造であり、特に音楽出版社・レコード会社とアーティストとの契約習慣についてです。2006年のインタビュー記事でも、平沢さん自身の口から、業界の契約習慣に関する部分についてJASRACが悪いとする発言はありません。記者さんの執拗な誘導にも関わらず、そこはぶれていませんね。

2)「平沢進はPVでJASRACを空爆した」 → してません。映像を確認してください。爆撃されているビルの看板には「・・・RECORDS・・・」と書かれています。上述の通り、平沢さんの批判対象はレコード会社・音楽出版社などの業界構造・契約習慣です。

3)「平沢進はJASRACを使っていない」 → 使ってます。JASRACの管理楽曲検索サイトJ-WIDで、平沢さんの楽曲を検索してください。P-MODEL時代の曲も、ソロアーティストとしての曲も、この記事の更新時点で実に537件もの曲がJASRAC管理となっています

この様に、平沢進さんの名前を出すのは、JASRAC批判としては無意味な上に、レコード会社・音楽出版社という業界構造・契約内容への批判に繋がりかねません。平沢進さんの各種ご発言での問題提起は、ミュージシャン以外には関係ありませんし、ましてあなたがミュージシャンで、レコード会社や音楽出版社を敵に回すつもりがないのであれば、もっと有利な他の話題で戦いましょう。


【GLAYさん】

これだよ!権利者本人が無料で使ってくれって言っても無理やり徴収する権利がどこにあるんだよ!そういう横暴で強引な手法が嫌われてるんだよ!

ところが・・・

2017年にGLAYさんが「結婚式での利用について、著作隣接権について無償で提供する」と公式サイトで発表しました。

例によって閲覧数を稼がなくてはならない各種報道が、我々を釣り上げるために施した記事タイトルのマジックで、まるでGLAYさんが著作権使用料(演奏や録音)を無償と発言したかのように、捻じ曲がってしまったもののようです。

サイト内で明確に、「著作権自体は普通にJASRACやNexToneなどに申請が必要」である旨、記載されています。https://www.glay.co.jp/news/detail/4199

ですので、「結婚式の音楽から利用料を徴収するのは強欲だ」と言ってしまうと、GLAYさんご自身を強欲だと批判することになってしまいますので、注意が必要です。


不透明な組織運営を指摘したら絡まれる


【不正・不透明な分配】

これだよこれ!自分の懐に入れた金を、こっちが知らないのをいいことに、謎ルールと業界の力関係で勝手に分配してるに決まってます!実際はどうかわからないんだから、否定されることもないでしょう。しめしめ。これで追い払えますよ!

ところが・・・・

JASRACのサイトには、詳細な分配ルールが公開されていますし、そもそもJASRACに権利を信託している音楽家は契約時に説明され、納得して信託しているわけです。

また、著作者には、いつどこでどれだけ使われ、分配がいくらになったのか、詳細な明細が届くそうです。

あまりにも不透明不透明と鬱陶しいので、明細を公開する著作者も増えてきました。
JASRACからの分配を喜び、互いを労い合う著作者たちのツイートhttps://twitter.com/search?q=印税分配日


【私腹を肥やしている】

言ってやりましょう!悪の組織の私服を肥やすために、アーティストが搾取されているのだと!正義は我々にあるのだと!

ところが・・・

JASRACのサイトに徴収額・分配額を含めた事業報告書が公開されていて、利用種別ごとの徴収金額がそのまま著作者に分配されていることが分かります。

また、予定よりも年間の運営経費がかからなかった場合は、年度末に手数料率を下げて、余ったお金を著作者に分配してしまいます。


【天下りの温床】

諸悪の根源はこれだよ!硬直した運営に問題があるんだよ。それもこれも、官庁からの天下り先として悪事を全てもみ消され、やりたい放題が許されてるからだよ!さすがにこれを突きつければ、追い払えそうです!

ところが・・・

いねぇ・・・・天下り、ひとりもいねぇよ。20人ぐらいいてくれよ!

JASRACのサイトに理事・役員が公開されています。作詞作曲家・音楽事業者・法律関係者ばかり。この中に文化庁や文科省出身者の名前を見つけたら、その時こそ逆襲しましょう。

にしても・・・法律と業界調整の塊みたいな仕事を、天下り抜きで進めてるんですね・・・逆にすげぇな。


【独占禁止法に触れるのではないか】

これだよ!独占的な地位を悪用して、不当に利用者から搾取し、さらには著作者に対しても不公正な管理運営をしてるに決まってる。なんか昔、公正取引委員会から訴えられてたはず。俺たちの目は誤魔化せても、公取委様の目は誤魔化せない!これで黙らせましょう!

ところが・・・・

独占禁止法というのは、独占状態そのものを違法とはしていません。独占状態を利用して、需要やコストが低下しても価格に反映されないような状況があれば是正させるというもので、JASRACはこの観点での指摘を受けていません。

他の著作権管理団体からの指摘で公正取引委員会が調査したのは、放送での利用について、他の著作権管理団体の参入を妨げているから是正せよというものでした。

平たく言うと、

JASRACと放送局の契約条件(包括契約:JASRAC管理楽曲をどれだけ使っても、放送事業収益の1.5%を支払えば良い)が便利すぎる。
・そのせいで、他の著作権管理団体が参入しにくくなってる(JASRACの管理曲だけで番組を構成すれば1.5%で済むところ、他団体の曲も使うと、その分は他団体に個別にしはらなければならないので、使いたくなくなる)んじゃないか。

というものです。複数の各種定額サブスクを組み合わせて適宜使うことに慣れてる現代の我々から見ると、「そんなことで利用を控えたりするかなぁ」とは思いますが、他の著作権管理団体からしてみれば、チャンスを奪われているように感じて公取に持ち込んだわけですから、当時の実感としてはそういうことだったのだろうと思います。

じゃあどうすれば公正なのかということで求められたのが、

ー 各放送事業者は、年間で使用した楽曲の中の著作権管理団体の管理楽曲のうち、JASRAC管理楽曲の割合が何%だったのかを集計する。
ー 放送事業収益の1.5%に、その割合を掛けたものを、楽曲使用料とする

というものでした。

全放送で使われた楽曲について、著作権が終了している楽曲・個人で管理されている楽曲・JASRACの管理楽曲・別の管理団体の管理楽曲が、それぞれ何秒ずつ使われたのかを記録・集計するなどというのは、当時のテレビ局・ラジオ局のITレベルでは到底実現不可能な要求ですし、お客である放送事業者にそういう集計をしてくれなければ使わせない、というわけにもいかず、JASRACはこれに従うことができませんでした。公正取引委員会も、確かにそれはしょうがないかということで、JASRACに対する排除措置命令の取消を決定しました。

ところがそれでは他の著作権管理団体は困ってしまうので、東京高等裁判所にこの公取委決定を取り消すよう訴え、高裁は公取委に排除措置解除の決定判断をやり直すように指示。これがいわゆるJASRACの独占禁止法違反の裁判です。(やっと辿り着きました)

ところが、この裁判と、それに続く公取委での決定判断やり直しの間にIT技術は長足の進歩を遂げていて、放送事業者もJASRACも、放送で使われた楽曲の正確な分類・記録・集計が可能になりました。

つまり、裁判・判断の間に参入障壁の解消
の目処が立ち、相手である他の著作権管理団体も納得して同意したことから、JASRACは公正取引委員会の指摘を受け入れて対応することができました。独占禁止法違反による排除措置命令も解消され、現在に至ります。



【人の褌で相撲】

なんだかんだ言って、人のメロディや歌詞を勝手に使って、突然使用料を求めるやり口が反感を生むんだよ。正義はこっちにあるんだよ。叩きのめしてやりましょう!

ところが・・・

音楽著作物の各種の権利は、著作者からJASRACに信託契約の下で信託されています。法的に、JASRACは当事者・権利者そのものとして権利を行使・管理しています。

平たくいうと、作曲家・作詞家が「作品の権利はあなたに預けてしまうので、使われてたら使用料とってきて。利用を許可するのも、請求するのも、何か問題が起きて対応するのも、あなたがやってちょうだい。預けてる間は、権利はあなたのものなんだから、よろしく。あと、徴収したお金は、全部私にちょうだい。払ってくれたら、所定の割合で手数料上げるから」という、なんだかどこまでも作家に有利な契約のように見えます。

著作者とJASRACの信託契約の内容は、JASRACのサイトで公開されています。


強欲な徴収姿勢を指摘したら絡まれる


【雅楽に請求】

きた〜〜〜〜〜!JASRACを叩くなら、鉄板なのが雅楽請求事件ですよね!雅楽ですよ!日本古来の!伝統の!やったりましょう!

ところが・・・

雅楽も歌舞伎も化石ではなく生きているジャンルなので、新曲が作られたり新たなアレンジが誕生して、著作権が生きている曲やバージョンがあります。なので、雅楽の演奏会で演目が不明な場合、JASRACから問い合わせが来ます。これ自体はまさに著作権管理団体の仕事なので、何の問題もありません。

この雅楽奏者さんも当然それはご存知で、「今回は新作はやっていないですよ〜」と説明すれば終わる話ですし、普段もそうされていたとのことですが、この時に限って、twitterで面白おかしく愚痴ってしまいました。

事態を受け、JASRAC側から不快にさせてしまったことへのお詫びと説明を行い、大人同士の話なので、それで解決したということのようです。

ただ、ネットニュースに取り上げられるなど、不本意に騒ぎが大きくなっていることに気づいた雅楽奏者さんご本人が「請求されたわけではない・怒っていない」と訂正しています。


【鼻歌に請求】

こういうことですよ!音楽は自由であるはずなのに、こんなところまで土足で踏み込んでくるから嫌われるんですよ!わからせてやりましょう!

ところが・・・・

演奏に関する利用料は、「入場・観覧無料」「無報酬」「非営利」の場合は必要ありません。なので、JASRACは来てくれません。お金をとって鼻歌リサイタルを開く場合は、大した金額にはならないので、以下のサイトで一度見積もってみると面白いですよ。


【学校での校歌斉唱にまで請求】

いったいこの国はどうなってしまうのでしょうか!こんな暴挙を許してはなりません!叩きのめしてやりましょう!

ところが・・・・

そもそも学校(一条校)での授業目的での複製については、条件付きで無償で利用できます。なので、普通はJASRACは来てくれません。条件というのは、先生と生徒の分、という意味です。また、作詞・作曲者が「校歌については請求しない」と決めることもできます。請求されるのは、授業の範囲を超えて利用し、なおかつその曲の著作者が校歌であっても請求する、と決めてあった場合のみです。


【町から音楽を消す】

これだよね!このセリフを呟くと、なんかかっこいいよね!音楽を愛する我々は、音楽の敵を許してはならんのですよ!

ところが・・・・

町から音楽を消しているのはJASRACではなく住民でした。
これは改めて考えてみますと、当たり前の話ですね。
JASRACの収入は楽曲の利用者から徴収した使用料を、著作者に渡すことにより、その手数料として発生するわけなので、動きとしては使わせない方向ではなく、使ってください・払ってくださいという方向になります。

さて、では誰が音楽を消そうとしているのかと言いますと。
・騒音苦情
・自治体の騒音防止条例
・店内顧客クレーム
・路上ライブ通報
などなど、音楽を邪魔・うるさいと感じ、自分の身の回りから消し去るための具体的な行動に出る人たちは一定数存在します。

その一方、著作権料徴収が原因で町から音楽が消えた事例は、今のところ一つも確認できていません。情報があればぜひコメントからお知らせください。
リンク先に、関連情報があります。


【自分の曲にも使用料請求】

本当に奴ら、人様の財産で商売してる上に、持ち主にまで請求するとはけしからんよね。なんでわからんのかね。ちょっと教育してやりましょう!

ところが・・・

JASRACに曲の権利を信託している場合、自分の曲であっても、イベントなどで利用するにあたって利用料を支払うことは契約で互いに合意していますので、音楽家自身がこの話をする場合は全てジョークの類です。

この記事で何度か触れますが、JASRACに楽曲を信託するというのは、大まかに以下のようなことです。

  • 権利について:著作者は楽曲の権利を、契約に基づいて、JASRACに譲渡する。契約が有効な間、JASRACが著作権者となり、許諾申請の受付・審査や確認や説明・許諾実施・利用調査や確認・請求・収納を行う。トラブル対応(訴訟含む)も、著作者の求めがあろうがなかろうが、JASRACが主体的に行う。

  • 分配について:JASRACは利用者から得た楽曲の使用料を、著作者が提出した分配比率に従って分配(作曲者・作詞者・音楽事務所・音楽出版者など)する。

  • 手数料について:著作者は、上記で分配された楽曲の使用料に対して、信託契約で定められた料率にしたがってJASRACに手数料を支払う

ということで、自分が作詞作曲した曲であっても、契約が有効な間は、JASRACが権利者であり、利用の場面では自分は利用者としてJASRACに許諾を申請する必要があります。

ちなみに。一般的に楽曲の許諾申請は、演奏者ではなくイベントの興行主が行うものなので、著作者自身が支払うケースがそもそもレアケースです。
・そうしたケースの場合も、支払った利用料は通常の楽曲利用料と同様、全角著作者に分配されます。
・また実際には、自己利用について支払い不要のケースも整備されています。

自己使用について→ https://www.jasrac.or.jp/contract/pdf/04.pdf


【MIDI文化を潰した】

大本命登場!!!!文化を守るべきJASRACが文化を破壊したのだから、誰がなんと言おうと、悪いのは奴らですよ。ぐうの音も出ないほどぶちのめしてやりましょう!

ところが・・・・

当時の法律でもすでに、MIDIで人の曲をネットに公開するのは、著作権侵害以外の何ものでもないお話でした。

権利関係に慣れた現代の若い人から見ると、侵害の恐れありと警告されたなら、侵害しない形にするか許諾をとって継続すれば良いだけなのに、何が問題なんだろう?となってしまうかも知れません。

でも、当時の感覚としては仲間内で楽しく公開・交換している楽曲MIDIIデータについて、いきなり著作権者の権利を侵害している可能性があると言われ、驚いたかも知れません。

感情・思想を表現するためにメロディー・ハーモニーを創作することだけではなく、既存の楽曲をMIDIデータで再現することについても「作曲」であり、自由に行えるという認識の方もいましたが、やはりそれは別のもので、MIDIという仕組みを使った「演奏」であり、MIDIファイルとネットを用いた「公衆送信」となります。

混乱し、「権利処理について勉強したり費用を負担するほどの大切な趣味か、まして著作権者の権利を侵害してまで続けるべきかというと、そこまででもない気がする」ということで、離れて行った人も多数います。しかるべく権利処理してMIDIの公開を継続したサービスや個人サイトは複数存在していますし、その後もMIDIはプロアマ問わず、演奏情報の電子媒体としては主流のまま本日に至っていますので、潰れた・潰されたという状況にはありません。

ネット上でまとめられている経緯や分析(検索見出しとなります)


【いきなり請求書】

たとえ請求が合法だとしても、こちらの事情も聞かずにいきなり請求書を送りつけてくるなんて、非常識すぎる。そういうところが理解されない理由なんだよね。ちょっと躾が必要ですよね!

ところが・・・

筆者が個人的に、Twitterで「非商用でJASRAC管理楽曲を自分でカバー演奏する」ための許諾を取得した時の請求書には、
・「許諾内容」(非商用・ストリーム配信)
・「許諾期間」(1年間。自動更新)
・「許諾を受ける人(筆者)の名前」
・「許諾番号」←筆者からの申請を、JASRACが許諾するという契約の番号
・「金額」
が印刷されています。ネットで 「JASRAC 請求書」を画像検索していただければ、みなさん同様のものを公開なさっていることがわかります。

これがどいうことかというと、「僕が許諾申請をし、JASRACと相談・確認しながら利用内容を決め、JASRACが許諾した(許諾番号が発行された)」あとで請求書が作られた、ということです。つまり、「何を申し込んで、どういう条件で許諾されたのか」が決まっていないと、この請求書は作られないんです。

というわけで「いきなり請求書を送りつけられた」という話は全てデマです。ご安心ください。

請求書
Twitter での非商用・ストリーム配信の請求書

【自作BGM】

著作権を盾に取り、庶民の生活から正当な理由なく一方的に音楽を奪う行為は許しておけません。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20190513-OYT1T50235/
(2023年8月時点でリンク先消滅しています)

甲府の喫茶店がBGMでの楽曲利用について契約を拒否して、訴えられました。店主さんは「近所の学生が作った曲しか流していない」と主張しました。この店主さんからお金を巻き上げる権利が、誰にあるというのでしょうか!叩きのめしてやりましょう!

ところが・・・・

JASRACの再三の説明にも納得せず、訴訟となりました。法廷では、実際に管理楽曲を使用していたことがあっさり認定されました。
「管理楽曲は使っていない」と言っていたのは思い違いだったということですかね。店主さんとしては「実は、楽曲の権利についてはあまり勉強しておらず、よくわからずにやっていました。不法行為の認識はありませんでした」という趣旨の説明を行いました。
管理楽曲を使っていたということなので、この件はBGM契約締結と、過去分の支払いに応じることで和解となりました。

https://www.sanspo.com/geino/news/20190711/sot19071117210007-n1.html
(2023年8月時点、リンク先消滅しています)


【高校野球のブラバンにまで請求】

  • とどまることを知らないとはこのことですね。甲子園球場の高校野球の全国大会の風物詩、ブラバンの応援にまで請求するとは!白球を追いかける少年の夢を土足で踏み躙る行為は許せません。

    ところが・・・・

    これについては、どれだけ探しても、許諾申請を求められた・申請したら許諾された・使用報告をした・請求を受けた・支払った、という話が見つかりません。それもそのはず、

  • 観覧無料(お客はブラバンを聞くために入場料を払っていない)

  • 無報酬(ブラバンの生徒は交通費・宿泊費・飲食代を学校に出してもらっているとしても、演奏報酬としては受け取っていない)

  • 非営利(ブラバンの活動は課外授業であり、営利活動ではない)

    と、著作権法で定める演奏の許諾不要の三要件を満たしますので、そもそも対象外なんですね。

    以下、検索すると普通に「払わなくて良い理由」ばかり延々と出てきますので、どうぞ。(検索見出しとなります)


音楽教室への請求を非難したら絡まれる


【教育は無償利用可能のはず】

崇高なる教育の場にまでお金を持ち込むことは許されません。思い知らせてやりましょう!

ところが・・・

まず、楽器教室は「学校(学校教育法第一条に定める学校)」ではありません。楽器教室側も、学校でないことは承知しており、学校教育に準ずる「社会教育である」と主張しました。
東京地裁・知財高裁とも、「楽器教室は営利事業」であり「社会教育法に定める公民館などの公的教育」に該当しないことは明らかであると否定しました。

営利事業であることは外形的に明らかですが、教室側も認めています。
ヤマハ音楽振興会常務理事・音楽教育を守る会会長の大池さんも、東洋経済誌のインタビューに答え、「売るために教室をやっている」という側面はあると発言しています。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf
東洋経済(2020/04/08)記事は以下。


【未来の音楽家が育たなくなる】

これですよ!楽器教室から世界に飛び立つ子供たちが生まれてくるのです!そのためであれば、著作者は無償で楽曲を提供すべきなんですよ!当たり前ですよね?性根を叩き直してやりましょう!

ところが・・・・

そもそもJASRACが著作権料支払いを求めているのは、あくまで「音楽教室ビジネスを行なっている人・会社」であり、講師でも生徒でもありません。

楽器教室側は訴訟に向けて、「営利事業の主体者である楽器教室が、レッスンで楽曲を演奏利用する」という外形を、「先生が生徒にお手本を聴かせる」「生徒が先生に練習成果を聴かせる」「生徒がグループレッスンの仲間に練習の成果を聴かせる」のように分割し、それぞれについて「著作権法に定める営利の演奏に該当しない。そもそもそれは演奏ですらない。先生のお手本が演奏だとしても、それを聴く生徒は著作権法に定める公衆に該当しない」(従って、支払う理由はない)と主張する戦術を展開しました。

筆者含め、法律や司法手続きに詳しくない人間には「でも結局は有料のレッスンで、JASRACの管理楽曲を使ってることに変わりはないのでは?」と思えてしまうのですが、カリキュラム・システム・メソッドを磨き上げてきた楽器教室の目線では、そんなに乱暴に括られるものではない、ということかもしれません。

さて、法廷戦術としての細かな場面分けですが、これを法廷の外で受け取る人の中で、「生徒の演奏について著作権料を支払わなくてはならないのか?」→「未来の音楽家になる子供から著作権料を取るのか」と変形していきました。

戦術を理解しているであろうはずの新聞やネットニュースも、「教室ビジネスを行う楽器店が著作権料を請求されたら、(自分が支払うべき著作権料を)生徒の月謝に加算することになる」→「生徒の負担が増える」→「楽器教室に行けなくなる子供が増える」→「未来の音楽家が出なくなる」と煽り立てます。

楽器教室は、必要に応じて適切な月謝を設定するだけのことであり、決して便乗値上げを図るようなことはないと信じていますし、実際に大幅値上げがあったのは、地裁で支払い義務ありという判決が出るより前で、著作権料とは関係のないものでした。


【スパイ・潜入捜査】

全くもってけしからん話ですよ。潜入捜査って、スパイ映画ですか!こういうやりすぎがあるから嫌われるんですよ!

ところが・・・・・

これもまた、新聞・ネットニュースが発端でした。潜入捜査って、訴える側が事前に証拠を揃えるためにやるものですよね。これ、訴えたのは楽器教室側(払いたくないんだけど、払わなくて良いよね、という裁判です)。その裁判で、原告である楽器教室から、演奏主体や演奏形態を細かく分割し、それぞれ「著作権法で規定されている意味での演奏には当たらない」から支払う理由はないという主張を繰り広げられたため、訴えられているJASRACとしてはその内容を確認し、法廷で反論するために実態調査を行なったものです。

これが、音楽教室の職員や講師として送り込んだということであれば、まさにスパイであり潜入ですが、普通に教室に受講を申し込み、2年間月謝を払って通常カリキュラムのサービスを受けたものですので、どこの業界でも行われる市場調査の類、というのが実態でした。

楽器教室側からもスパイという非難は出ていなかったように記憶しています。これは当然のことで、教室側は「著作権を侵害していない」という主張なので、JASRAC職員がレッスンを受けていても全く問題がない、という立場のはずだからです。

地裁・知財高裁とも、調査方法として不当とは認めず、証拠(民事裁判ですので、判断材料になる情報・事実)として採用されました。

東京地裁の判決文には楽器教室側が構築した、権利侵害に当たらない理由のリストが明らかにされていますので、ぜひご覧ください。地裁では全て否定されましたが、教室側は知財高裁でも同じ主張を繰り広げ、さらに「曲目を決めるのは講師であり、事業者である教室は関与していない」(だから、権利侵害があるとしても、教室は支払わない)などの主張も展開しましたが、やはり採用されませんでした。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【楽譜の著作権料を払っている】

強欲とはまさにこのことですね。レッスンに際しては当然楽譜を購入して用いるわけで、楽譜には著作権料が含まれているはずです。あるいは教室独自のレパートリー楽譜を出版する際にも、同じように著作権料の手続きは行なっています。この上さらにとは、どれだけ搾り取れば気が済むんでしょうか!

ところが・・・・

楽器教室さんは確かに、音楽出版者としてテキスト作成時に「印刷して売るためのの著作権料」を支払っています。支払った著作権料は、JASRACを通じて、曲の作者に全額分配されます。
また、楽器教室さん自身が著作者である練習曲も多数JASRACに信託されてますので、その分の著作権料は、ちゃんと楽器教室さんに返ってきます。

今回問題となっているのは、音楽教室事業として「講師を雇い、広く集めた生徒に向けて演奏させるための著作権料」を支払っていない、ということでした。

著作権法では、「印刷して売るために複製すること」と「お金を取って演奏する・させること」は、別の権利でそれぞれに支払いが必要と明確に定めています。

ちょっと難しい話になります。

例えば我々が日常楽譜を購入する際、なんとなく我々自身も著作権料を支払っているような感覚はありますが、実際の手続きとしては、我々楽譜購入者は、一円も著作権料を支払っていません。店頭に並ぶ以前の段階で、楽譜を売るために印刷することに関する著作権料を出版社さんが支払い済みです。著作権には「楽譜を読む権利・楽譜をもとに自分一人で演奏する権利」などの定めがなく、その行為は無償で行うことができます。楽譜を読んだり、一人で弾くだけの場合、著作権料を払いたくても払えないのです。

当然、今回の地裁・知財高裁の判決でも、従来の判例通り二重取りに当たらないと判断されました。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【発表会で著作権料を払っている】

そもそも発表会の演奏に著作権料を取るというのが腹立たしいわけですが、どうやらそれ自体は法律上普通のことらしいので仕方ないとして、さらに練習からも取るとはどういう了見なんでしょうか!全く正気の沙汰とは思えません!

ところが・・・・

楽器教室は確かに、発表会での演奏について著作権料を払っています。が、これは営利事業で演奏会を行う際に当然支払うべきものです。

教室側は裁判で「練習からも取るのはおかしい」と主張しましたが、レッスンは別に発表会出演のための練習に限ったものではありませんし、そもそも発表会に出る出ないは生徒の自由です。レッスンでのお手本は「自分のところで雇った講師に、広くあつめた生徒の前で演奏させる」わけですので、それはそれで著作権料の支払いが必要という判断となりました。

地裁・知財高裁ともに、二重取りに当たらないと判断されました。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【今まで取ってなかったのに】

これですよ!きっと、なんか収入が下がってるのか、もっと荒稼ぎしたいのか、次から次へと手当たり次第にとれるところから搾り取ろうとする根性が気に入りません。今までOKだったものを勝手に徴収対象にするのは、非常識ですよね。きっと何か、法に触れるはずです。解き明かして、小一時間説教してやりましょう。

ところが・・・・

今の著作権法が出来た時、「でもまあ日本って著作権料なしでいろんなビジネスやってきてるし、そういうのは今後も取らずに行こう」として、著作権法附則14条という制限がつきました。「こういう場面では著作権料の徴収を免除しよう」という法律です。レッスンでの演奏はこの時点でも徴収対象ではあったのですが、1970年代からすでに録音テープ教材を組み込んだカリキュラムが行われており、この「録音物の再生」部分が著作権の対象外となっていたため、生演奏部分も徴収見送りとなっていたという経緯です。

で、何が起こるかというと、例えば日本のアニメやJ-POPの名曲なんかは海外でも人気で、現地楽器教室で使われ、現地の法律通り使用料が支払われ、国際的な著作権管理団体の連携(CISAC)でJASRACに送られ、JASRACから作者に使用料が分配されるわけです。ところが同じ国際枠組みに入っている日本でディズニーの名曲が演奏されても、日本では楽器教室が使用料を支払わないので、作者に使用料が送られません。

この不公平について貿易枠組のWTO(そしてその知財部門のWIPO)から指摘され、是正を求められたのが1996年〜1998年。日本の国会で審議され、附則14条廃止が決まったのが1999年

「こういう場面では使用料を取らないという法律」が、国際情勢の下、ちゃんと国会で、「そういう場面でも使用料を取るという法律」に変わったのです。著作者や権利団体が勝手に範囲を広げたわけじゃないです。

さて、上述の通り、諸外国から経済制裁をちらつかされた上に、法律が変わったことで、徴収役であるJASRACが請求対象となった各団体との打ち合わせを始めたのが2000年以降のことです

・こうした場面では、著作者の許諾が必要である
 (著作権に関する法律)
・こうした場面での使用料をちゃんと取れ
 (日本が加盟している国際条約や通商会議)
・使用料を決めるときは利用者側の代表と話し合わなきゃいけない
 (著作権管理事業者に関する法律)
という、三つの決まりがあり、日本国内から見ても、日本が加盟している国際的な著作権管理機構から見ても、その調整ができるのはJASRACだけだからですね。

音楽教室とも、少なくとも2003年から公式に交渉開始。ところが教室側は交渉に応じません。とうとう突然一方的に交渉しないことを宣言し、東京地裁に「払う理由がないことの確認」の裁判を起こしたわけです。

そうした経緯なので、東京地裁も知財高裁も「JASRACは法に基づき普通に打ち合わせを求めたのに、拒否していたのは楽器教室」ということで、JASRACには責任はないと判断しました。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【教室が潰れたら元も子もない】

JASRACも楽器教室も、日本の音楽を守り育むという共通の役割を担ってるのに、教室が倒産したらどうするんですか!それこそ未来に大きな損害が出るじゃないですか。そんなことも想像できないんですかね。ちょっとわからせてやりましょう!

ところが・・・

前述の通り楽器教室が交渉に応じなかったため、困ってしまったJASRACはレッスン利用の料金体系を2016年に文化庁に提出してあり、JASRACのサイトにも詳細な計算方法が掲載されています。地裁でも知財高裁でも、きちんと説明されています。

それによると、いわゆる子供向けの伝統的な練習曲(バイエルとか)で構成したカリキュラムでは、「著作権は切れているので、当然使用料もゼロ」。客寄せのためにポップスなど、著作権の生きているJASRAC信託曲を使う場合に限り、その使用割合に応じて、最大で月謝の2.5%が使用料となりますし、他にも「割合を厳密に出せないなら、簡易的に半分として計算してもいい」という使う側に有利な計算条件があります。
これらを適用すると、1.25%を超えるケースは結果的にほとんどない方式になっています。1.25%というのは、月謝が5,000円であれば、62.5円です。

現実問題として、音楽教室の経営にインパクトが及ぶものではありません。東京地裁・知財高裁の判決でも、最大2.5%という上限は、決して高すぎるということはない、という判断になりました。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【生徒は公衆ではない】

著作権法で許諾が必要な「演奏」とは、公衆に向けて演奏することを指しています。レッスンの場で「先生と生徒」という特定の関係の中で演奏することが、公衆に向けた演奏になるというのは、直感的にピンと来ませんね。こういう自分勝手な解釈で使用料を取ろうというのが図々しいんですよね。ぶっ潰してやりましょう。

ところが・・・

楽器教室の演奏の主体は、講師ではなく楽器教室事業者となります。楽器教室は、広く生徒を募集していて、誰でも受講できるものですので、「教室事業者にとって」生徒は公衆に当たるというのが地裁・知財高裁の判断です。

これは、楽器教室だけの話ではなく、他の業態(カラオケもそうだし、ダンス教室などもそう)での最高裁の判決を踏襲したもので、「日本では、客を集めてお金をとって音楽を使う場面では、楽曲の使用料は必要」っていう法律の運用になっています。

東京地裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/200228_02.pdf
知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf


【知財高裁でJASRAC敗訴】

知財高裁の結果を受けて、一部のマスコミやブロガーなどが、JASRAC敗訴の見出しをつけました。これによって、JASRACによる強引な徴収(実際には、教室側が支払い回避のために起こした裁判ですが、そこを理解していない人も多くいました)を快く思わない人々は溜飲を下げました。

ところが・・・

知財高裁の判決文だけでなく当事者である音楽教育を守る会の声明文を見ても、音楽教室側の敗訴であることが明白です。

判決主文の冒頭は、「控訴人(←音楽教室のこと)の主意的請求(←音楽教室での楽曲利用には、著作権は及ばないので支払う理由がない)に係る控訴を棄却する」っていう、誤解しようのないドライなものです。

続く判決の詳細説明の中で、地裁の判決の「教室事業者は楽曲使用料を支払う義務がある。教室が細かく分類しているうちの、先生の演奏も生徒の演奏も、著作権法でいう演奏にあたる」のうち、生徒の演奏は著作権法支払いが必要な演奏ではないと変更になりました。この部分を「一部敗訴」と報道したものです。

で。生徒の演奏が対象外になったとしても、音楽教室事業者が先生を雇い、生徒を集め、月謝を取って先生に演奏させていることについて、「教室事業者が楽曲使用料を支払うべきである」という地裁の判決そのものは、高裁でも変更されていません。

音楽教室側もそのことはきちんと理解していて、声明文の中でも「(判決は)教師の演奏には著作物使用料を支払う必要がある(というもの)」という認識を示しています。

知財高裁判決文:https://music-growth.org/common/pdf/210318_02.pdf
音楽教育を守る会による声明:https://music-growth.org/topics/210318.html


【最高裁でJASRAC敗訴】

さすがは我が国の司法の最高機関です。正義が勝つのです!
今後は何を言われても、「最高裁判決見てこい!」と言い聞かせてやりましょう。

ところが・・・・・

先の知財高裁の判決で

・教室事業者は楽曲使用料を支払う義務がある
・教室側が裁判の中で細かく分類した「先生→生徒の演奏」公衆に向けたものなので、使用料が必要な演奏に該当する。
・しかし、「生徒→生徒や、生徒→先生の演奏は、相手は公衆には当たらないので、使用料が必要な演奏には該当しない。

というように詳細に分類されました。正直、地裁の判決文を見たときには、音楽教室はなぜこんなに演奏場面や演奏形態を細かく分割しているんだろうと不思議に思いました。しかし、全体としては「事業者が使用料を支払う義務がある」という点は変わらなかったのですが、この判決を得たことからすると、戦術としては有効だったのかもしれません。

作戦はうまくいったので、ここで終了でも良かったのかもしれませんが、楽器教室側は、最高裁に「やはり先生による演奏も対象外ではないですか?」
と上告したわけです。最高裁としては、判断を変える新しい材料もないわけなので、早々と「知財高裁の判決で何にも問題ないので、楽器教室の訴えは受け付けません(不受理)」となりました。

一方のJASRACも知財高裁の判決にはちょっと困ってしまったわけです。
ざっくりいうと、
「まず、楽器教室が先生を雇い、生徒からお金をもらって音楽を使っているので、生徒による演奏も事業のサービス内容ですよね?」
「あと、楽器教室の生徒の演奏って、これまでの日本の裁判でいうと、カラオケのお客さんが歌うのと同じなんだと思うんですが、その辺り、どうなんでしょう?」
の2点について最高裁でどう判断されるのかを確認するために上告した、という流れです。

最高裁判決では、新しい観点での上告なので受け付けて、新しい判決を出すか検討した後、前半部分については知財高裁の判決が正しい、としました。後半部分については判決文ではあえて触れられていない(今回の最高裁の検討で、過去の判例とのずれについては判断を表明していない)ようです。結果としては「事業者は楽曲使用料を支払う義務がある。教室側が細かく分類した中で言うと、生徒の演奏は使用料徴収の対象にならない」という知財高裁の判決は正しい、と最高裁も判断しました。こうしてJASRACの上告は棄却(検討した結果、新しい判決を出さない)となりました。

なので、正確には、
・楽器教室の訴えは不受理
(特に新しい情報もないので審理しません)
・JASRACの訴えは棄却
(これにより、楽器教室のレッスンで著作権の生きている曲を使う場合は使用料を支払う必要があるという知財高裁の判決が確定)
ということになります。

なので、この結果について「楽器教室が勝った。JASRACが負けた」という印象を持っていたとしたら、新聞・ネットニュースの見出しに誘導されているかもしれません。

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