『バンブルビー』

 オートボットの「あざとイエロー」ことバンブルビーが主役となったら、ひたすらあざとい話になると思うじゃないですか。少なくとも予告はひたすらあざとかった。ところがどっこい。どっこいでもないけれども、これが、実に胸が熱くなる「思春期」の物語だったのです。
 それもヒロインもの。
 昨今はヒロイン流行りで、スーパーだったりハイパーだったりする力強いヒロインの活躍が目につくようになってきておりますが、本作のヒロイン、チャーリーはスーパーでもハイパーでもない普通の思春期の女の子。
 ちょっとメカニックに強かったり、昔は競技としての飛び込みの選手だったこともあるけれども、いたって普通の女の子。恋人はまだ募集すらしていない。よく見なくても可愛いけど可愛さの恩恵は受けていないし、自分で可愛さを利用しようとも思ってもいない、みたい。未熟であぶなっかしい印象。
 この未熟さ、あぶなっかしさが絶妙なバランスで魅力的なんです。スーパーヒロインじゃないところが良いんです。こんな普通スペックな女の子が活躍する話、見てみたかった!見られて良かった!監督がマイケル・ベイでなくて良かった!マイケル・ベイのTFも嫌いではないんですが、マイケル・ベイだったら、チャーリーみたいなヒロインは登場しなかったと思います。そもそも「思春期」の物語にはならなかったでしょうね。なお、マイケル・ベイは、今作ではプロデューサーに席を移し、監督は『KUBO/二本の弦の秘密』の人だそうです。
 話戻しまして、チャーリーと出会った時点のバンブルビーは退行してしまって幼児同然の状態であざといんですけれども、あざとさ以上に、ビーを匿って保護しようとするチャーリーと、ひょんな拍子にビーの存在を知ってしまったチャーリーに恋する(普通スペック)少年メモの「秘密を共有する」関係が実に楽しい。彼らが大人だったら、あるいはハイスペックな人々だったら「秘密」もシリアスになるだろうところが、大人になりきってない普通の少年少女なのでワクワクする。これは秘密だけど、ぼくたち秘密を共有してるんだよー、て感覚がワクワクする。おイタはちょっと……度が過ぎるかな、と思える箇所もありましたが、かなり痛い目にも遭ってしまうので相殺、ということで……。
 その後定番の秘密の発覚と、ディセプティコンの刺客とのバトルになるのですが、普通スペックなチャーリーとメモが「足手まとい」にならないのです。これ、すごいと思うんです。チャーリーとメモは、「守ってやらないといけないちっぽけな地球人」ではなくて、ちゃんと、ビーとチームを組む仲間なんです。ここは、あくまでウエメセなオプティマス主役作との大きな差異ですね。
 メモの侠気はちょっと空回り気味でしたが……、かっこよくなれないところが魅力だし、チャーリーを孤立させなかった意義は大きいと思います。
 大人は、少年少女の障害物の役割を振られてしまったのと、打算につけ入られてディセプティコンに利用されたりで損な役回りとなってしまいましたけれども。でも、チャーリーの家族は、最初のうちこそは邪魔っけな存在だったのが、なんのかの言いつつチャーリーを(そしてビーをも)助けて、結果としてチャーリーの内面的な問題も解決される流れは爽やかでした。軍人さんも、最終的には悪い人ではなかったですしね!
 何より良かったのは、「青春」を急ぎすぎなかったことでした。
 そこなんです、「青春」ではなく、「思春期」の物語と言ったのは。
 チャーリーとメモの年齢は18歳前後で、そういう関係になってもおかしくないんですが、ならないんです。といって拒絶でもない。「春はこれからなんだから、急がず行こうよ」という幕引きが、むしろ性急なラブよりも眩しく清々しく感じられたのでした。

 それと、今回のオプティマスは、非道なことを言わない「綺麗なオプティマス」でした。
 まあ、プロローグとエピローグにしか出てこないんですけど。あと、ホログラム。

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