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幡多弁×アイドル グレショー第8回公演「いるかボーイズ」(2)

グレショーこと「THE GREATEST SHOW-NEN」(朝日放送テレビ)、今回の舞台は高知県の小さな水族館のバックヤード。セットの中央に配置された非常口の開閉ボタンには「がいに叩くな!」との注意書きがある。今回は幡多弁という方言を使った作品なので、舞台上の小さなところにも方言が活かされている。

さて、このお芝居だが……正直言って、言葉が気になってなかなか平静な気持ちで見られない。
実は、うちの母親は幡多弁話者であり、わたしにとって幡多弁はすごく、ものすごく身近な言葉なのだ。

幡多弁って知ってます? 知ってました?

幡多弁は高知県の西部で話されている言葉で、土佐弁(小説やドラマで坂本龍馬が話している言葉)ともちょっと違う、かなりマイナーな方言だ。そんな方言を、いちばん好きな番組がお芝居に使ってくれるなんて!
これは本当に驚いたし、うれしかった。今も、田舎の実家に友達が遊びに来たみたいな、繋がらないと思っていた2つの世界が突然繋がったみたいな感覚で、ふわふわした気分で見ている。

一方で、心配もあった。幡多弁はアクセントも語尾もちょっと独特で、さらに竹田モモコさんの脚本にはいかにも幡多弁らしい語彙が(おそらく意識して)多用されているため、セリフの意味が多くの人に伝わらないのではないかと思ったのだ。実際、最初の頃のTwitterでは「字幕がほしい」という声も見かけた。でも、方言を使ったことで、これまでにいくつかのメリットがあったように見える。

幡多弁で話すことで…

まず、演者のAぇ! groupが普段話している関西弁でもなく、標準語でもない言葉で話すことで、それぞれの役柄の人物像が際立つ。たとえば、見た目はわたしたちの知っている小島健さんで、さらに今回は役名も本人そのままの「小島」だけど、幡多弁を話す彼はカッとなりやすい性格の、いるか調教師の青年だ。方言によって物語の中の人だとはっきり示されていると言ってもいい。「いるかボーイズ」では、言葉が目に見えない大きな舞台装置として働いているのだ。

それから、言葉の意味がわからない(部分も多い)から、見ている側はひとつひとつのセリフをしっかり聞こうとするし、会話の流れや、演者の表情や仕草に注意を払う。知らない外国語ほど意味がわからないわけじゃないけど、ぽろぽろと意味のわからない言葉が出てくる……という幡多弁のあんばいがちょうどいいのかもしれない。

そして、意味を探ろうとして配信を繰り返して見るうちに、方言の響き自体にハマる人もいるようだ。たしかに、幡多弁は荒っぽく聞こえるけど、語尾などにかわいらしさもあるから、ひょっとしたらそんな人たちのおかげで配信の再生回数がちょっと伸びているかも。(逆に、意味がわからずに途中で脱落した人もいそうだが……)それはともかくとして、幡多弁でのお芝居は、言葉を意味ではなく、音として受け入れる楽しみ方を提案されているように思う。

「がいに叩くな」とは

さて、冒頭の「がいに叩くな!」を標準語にすると「乱暴に叩くな!」くらいの感じになる。
見ていただくとわかるが、これが絶妙に、乱暴に叩いてしまいそうなボタンなのだ。これまでのところ、いかにも頑固で口が悪いベテラン調教師・泥谷だけが比較的やさしくボタンを押し、若いメンバーはまあまあ「がいに」叩いている。注意書きは泥谷が貼ったのかな。口調は荒いけど、意外に悪い人じゃなさそうだもんな。

これは完全な自分語りだが、幡多弁混じりの関西弁を話すわたしは、この作品によって、幡多弁を少し客観的に見られるようになった。そして、向こうに住む親戚にしばらくぶりに連絡してみた。もう10年近くご無沙汰だけど、たまには顔を見せに帰らなくては。

素朴で、どこかかわいらしさもある幡多弁。よかったら、ぜひ聞いてみてください。ただ、今回の放送分の小島と泥谷の口論はかなり迫力があるので、大声が苦手な方はご注意を。

グレショーはいつも次回予告も秀逸です。


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