虚構を越えろ グレショー第10回公演「HAPPY ENDie」
ハッピー? アンハッピー?
グレショー(朝日放送「THE GREATEST SHOW-NEN」)第10回公演「HAPPY ENDie」が完結した。この番組のすごいところは、毎公演「今まででいちばん好きかも?」と思わせておいて、ひとつの作品が終わると次は全く別の角度から切り込む作品が始まり、また「今まででいちばん好きかも…?!」になることだ。毎公演、毎公演、最高。
さて、今回の「HAPPY ENDie」は劇団壱劇屋さんとのコラボで、パントマイムを多用したSFミステリー風の作品だ。Twitterを見ていると、いつも以上に「今まででいちばん好き」という書き込みが多かったように感じた。一筋縄ではいかないストーリーで、いろんな解釈が成り立つため、毎週放送後しばらくはTwitterが考察祭りだった。
そして、私もあれこれ考えてみた結果がこれから書く考察だ。ネタバレに大幅に個人の解釈を足していることをお断りしておく。
ひとつの解釈として、たとえば
作者のロングコートの男(演じる人・正門)は、過去に悲しい別れを経験している。彼の独白にあったように、学び舎での日々を共に過ごし、慎ましくも幸せな生活を送っていたときに隣にいた存在が、「立ち読みを注意した相手に殺された」くらいの理不尽で突然の死を迎えたのかもしれない。ひとり残され、喪失を抱える彼は、自分の経験を物語にしようとする。
登場人物は主人公モトム(末澤)、モトムの大事な存在で被害者となるユウキ(佐野)、犯人(福本)、警官(草間)の4人。これはモトムとユウキが引き裂かれる物語であり、ユウキは絶対に死ななければならない。だが、心の深いところではユウキの死を回避したい作者は、うまく物語が書けずに何度も改稿を繰り返す。
作者の葛藤は物語に「ひび」を入れ、そこから作者の分身とも言うべき偽主人公ジンタ(小島)が現れる。ジンタはどうにかユウキを救おうと、改稿されていく物語の中をくぐりぬけながら、ユウキを犯行現場に行かせないようにしたり、警官と協力して犯人を追ったりする。このときの物語世界が、木枠(=原稿用紙のマス目)や、不気味な白塗りの男たち(=作者の中にある物語を守ろうとする気持ち)で表される。
そのうち、自分たちが誰かの書いた物語の登場人物に過ぎないと気づいたジンタら5人は、悲しいストーリーを改変しようとする。決められた物語から抜け出そうともがき、最終的に「ひび」から作品の外に出て、作者であるロングコートの男の前まで行けたのはジンタ(=作者の分身)だけだった。「作り物くらい幸せな世界にしろよ」と詰め寄るジンタは、本当はユウキを死なせたくなかったロングコートの男の矛盾をつき、勝手に物語を書き換える。
晴れやかな顔で手の届かない物語世界に行ってしまった5人に対し、ロングコートの男は「役が勝手に幸せになってるんじゃないよ……おれを置いてさ」とつぶやき、日常に戻っていく。
初稿を越えて、虚構を越えて
繰り返すけれど、以上は個人の一解釈でしかない。作・演出の大熊隆太郎さんの胸の内にあるものとはまったく違うかもしれないが、ストーリーにいろいろな想像を許してくれる懐の深さがあったと思う。また、SF的な世界観をパントマイムや、ひも・木枠などのアナログなツールで表現するところも、身体の可能性が感じられて面白かった。
好きな場面はたくさんあったが、特にラスト近くでジンタとロングコートの男が対峙する場面は圧巻だった。声を荒げ、汗を流し、架空の作中人物(役)とは思えないほどの熱を感じるジンタと、淡々とした口調に悲しさややるせなさをにじませるロングコートの男には息を詰めて見入った。
5人が去り、残されたロングコートの男が退場していくときの表情はよく見えない。台詞としては、勝手に幸せになった5人をうらやみ、自分を嘆いているようにも聞こえるが、私は彼の心の一部も救済されたのではないかと思っている。ユウキを助けたいという思いを、自分の分身的な存在であるジンタが叶えてくれたのだから。
芝居が終わり、最後の挨拶では6人のメンバーが2人ずつ画面に収まる。劇団・演目によってここの演出もかなり違うので、毎回楽しみにしている部分だ。今回もみんなとてもいい表情をしていて、最後に映るのはまだ興奮が冷めないといった様子の小島くんと、軽くほほえんでみせる正門くん、この2人の対比……。音楽も照明も美しく、心を揺さぶられる作品だった。
こんなに素敵な作品が1回きりの上演だなんてもったいなさすぎる、生の舞台で見たみたいとも思うけど、テレビ放送の良い面もある。いちばん大きいのは、チケットがなくても見られることだ。もしも、もしもABCホールを借りてグレショー公演をしてくれるとして、今のAぇ! groupの人気では、公演期間が1か月あってもチケットは激戦だろう。そう考えると配信で見られるだけでありがたいのだけど、あきらめが悪いので円盤化や過去作の配信を願わずにいられない。
……でも、まずは4月の改編期を乗り切ってくれますように。
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