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甲斐荘楠音について

私が彼を知ったのは、小説の挿絵だった。
林真理子氏の短編集「着物をめぐる物語」に、甲斐荘楠音を思わせるような、老着付師の話があった。あらすじはうろ覚えだが、その話の扉絵が"横櫛"だったのは間違いない。
黄色い着物に、なんとも不気味な表情の女。強烈な印象が忘れられず、作者・甲斐荘楠音の名前も一緒に覚えた。
その後、岩井志麻子氏の「ぼっけえ、きょうてい」の表紙にもなり、つくづくドラマチックな絵である。

彼の描く女はとにかく独特。
美しい女性もいなくはないが、むしろ違和感を感じさせる不思議さが最も印象に残るのだ。
それは彼の才能というよりも、彼そのものが投影されているといっても良いかと思う。

楠音はエエトコの坊ちゃんで、幼い頃から芝居や歌舞伎に夢中。金持ちだから、豊かな感受性を妨げるものも皆無。何不自由なくおのれの欲するまま、好きなものに没頭できた結果があの絵達なのだ。

展示の中で私が最も心惹かれたのは、楠音のスクラップブックだった。
数冊に分かれて丁寧に集められた雑誌や新聞の切り抜きは、几帳面な彼の性格がうかがえる。
これは彼が映画制作に関わるようになってから作られたものなのか?
作成年月が不明となっており、その場に学芸員もいないのでハッキリしないのだが
①アラン・ドロン「太陽がいっぱい(1960)」
②ショーン・コネリー「007シリーズ(1962〜1983)
③立川談志が柳家小ゑんだった頃(1954〜1963)

スクラップされていた上記の写真から推測するに、映画関連の仕事を始めた頃なのかと。

青年期に婚約者に裏切られたらしいが、彼のことだからそれさえも造形の材料にしたであろう。

まだまだ書きたいが、とりあえず本日はここまで。

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