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過剰な期待と過剰な幻滅の先に


 先日、幻冬舎から発売された佐藤航陽さんの「世界2.0」が面白いです。
 メタバースの歩き方と創り方について書かれた本で、この1ヶ月間で何冊Web3.0関係の本が出たんだ、と思うんですが、その中でも語り口が見事な1冊だと思っています。


 ちなみにシステム的に理解していきたい方には、國光宏尚さんの「メタバースとWeb3」(MdNコーポレーション)がおすすめです。ビジネス活用のヒントが多かったです。当事者の話が聞きたい方は、バーチャル美少女ねむさんの「メタバース進化論」(技術評論社)がおすすめです。なぜ、人は美少女のアバターや声を使いたがるのかが面白っかったです。雑誌の特集だとWIREDのVOL44の執筆陣が非常に豪華です。コムギさんの図表がピカイチでした。なんでこんなにWeb3.0関係の本ばっかり読んでいるかというと、完全に自分が勉強したいだけなんですが、SKE48とも関連した記事をそのうち書けたらいいかなあ、と思っています。


 さて、話を佐藤航陽さんの「世界2.0」に話を戻すと、彼の語り口のうまさとしては、システムを歴史の軸に乗せて語っていくということがあります。
 早すぎた天才テスラの物語から、テクノロジーの進歩と民衆が気づくまでの速度についてなどごりごりの文系出身の僕にも親しみやすい語り口で書かれています。
 その中で印象的なエピソードがありました。
 新しい技術は「過剰な期待」と「過剰な幻滅」に交互にさらされながら、普及していくそうです。
 何かのきっかけであるテクノロジーが注目を集めると、大衆は「過剰な期待」をします。期待から多くの投資家たちは資金を投入します。しかし、期待というのはずっと続きません。なぜならテクノロジーが実際の経済の中で活用されて価値を生むまでは時間がかかるからです。
 目の前のリターンが期待できなかったり、参入してみても四半期単位で結果が出ないので、多くの投資家たちは撤退し、市場からそのテクノロジーは消えていくことになります。
 そんな幻滅期の冬の時代でも一部の人たちは市場に残ってコツコツと技術を磨き続けるそうです。そして、社会実装が進みいよいよ本格的に経済価値を生む状態になった時に、残った人々が収益を大いに得るわけですね。
 僕はアイドルにも「過剰な期待」と「過剰な幻滅」のサイクルはあると思います。
 新人としてデビューした時に、「この子ならグループに新しい風を吹かせるかも未来のセンターだ」と「過剰な期待」を持たれ、「でも、なかなか選抜に入らないなあ。みんなが期待しているほどでもないのかなあ」といった「過剰な期待」をした分だけの「過剰な幻滅」もされるのではないかと思います。
 

 SKE48なら誰を思い浮かべるでしょう?

 僕は水野愛理を思い浮かべます。

 彼女ほど多くのファンに「過剰な期待」をされ、そのせいで「過剰な幻滅」をされたメンバーもいないのではないでしょうか?
 ドラフト2期生としてSKE48に来た彼女は、多くのファンが「期待」しました。
 しかし、当時のSKE48は群雄割拠の世界でした。
 先輩にはセンター候補がゴロゴロいますし、同世代には新センターになる小畑優奈や最速選抜入りの後藤楽々、後に本店超選抜まで行く菅原茉椰や配信の女王である白井琴乃がいました。
 才能が渋滞中だったわけです。
 やがて、彼女にかけられた期待は「幻滅」に変わっていきます。
 それが彼女のせいなのか、周りの「期待」のせいなのかは、分かりません。
 何度か波のようなサイクルでそれは続きました。

 やがて、時は経ち2021年10月11日。
 この日は彼女の生誕祭でした。
 ちょっとその時、読まれた手紙を読んでみましょう。


「愛理へ

 19歳のお誕生日おめでとう。

 まさか、卒業してから約5か月経つのにお手紙を書かせてもらえるなんて思っていなくてビックリしています。

 愛理もファンの皆様もお久しぶりです。竹内彩姫です。

 愛理と仲良くなったのは同じチームになってからかな?由麻奈さんと3人で毎日のように一緒にいたあの時を思い出します。

 公演終わり、盛れなかった写真を見ながら誰が一番ひどい顔をしているか勝負したり、急に3人でミュージカルを始めてみたり、動画配信を始めようって1日中撮影したり、いつもひっつき虫の愛理は冬、ニットを着ている由麻奈さんの服を引っ張って『伸びるからやめてよ』って毎年怒られていたり、SNSを更新しないで遊んでいると、『由麻奈さん、愛理、ブログ・メールやったの?』って私にしつこく言われたりはいつもの恒例で、傍から見たらきっと何が面白いのかわかんないようなくだらない出来事だらけだと思うけど、毎日息が苦しくなるくらい笑ってたね。

 今考えても3人とも加入してきた時期、年齢、性格もバラバラなのに未だにぜっと仲良しなのって凄いことだよね。

 だからこそ、愛理を残して2人とも卒業しちゃって寂しい思いをさせちゃってるかな?ごめんね。

 最近はこの状況だから会うこともできないし、話せてないから無理を隠して活動していないか心配です。

 愛理は強がりだし、素直じゃないから誤解されやすいけど、誰よりもアイドルが好きで、アイドルがファンにもたらすパワーがどれだけ凄いものか知ってるよね。

 急なポジション変更に徹夜で対応して完璧にこなしていたり、振り入れがある日はあらかじめ予習してきて誰よりも早く踊れていたり、最近では後輩に注意してたり、教えてあげている愛理を見かけると『先輩になったんだな』と微笑ましく思います。

 アイドルに対して本気だからこそ納得できないことも多くて反発したり、病んでしまうことも多いのかな?

 でも『由麻奈さんと彩姫さんがいなくなったら愛理はもう無理です。やっていけません』って泣きながら言っていた子が、私たちが卒業してからもアイドルとして輝いているところを見ると頼れる先輩、同期、可愛い後輩ができたんだなって嬉しく思うし、安心します。

『公演でセンターがしたい、もっと上に行きたい』きっと思う気持ちがあると思います。本当の気持ちに蓋をせず、素直な気持ちで真っすぐに努力を惜しまず、愛理が大好きなアイドルってお仕事を楽しんでね。

 私にとってはずっと可愛い妹みたいな存在だから、いつでも甘えて頼るんだよ。

 ずっと応援してるからね。

 改めて19歳のお誕生日おめでとう。

 竹内彩姫より」

 

 ついつい、僕らはメディアやSNSなどの彼女の発言や物販での大活躍に目が行ってしまいますが、忘れてはならい水野愛理という人の根幹の部分をさきぽんが、何か思い出させてくれた気がします。
 可愛い後輩だった愛理が、やがて先輩になっていく過程が伝わってくる手紙でもありますが、中でも後輩に注意や振り付けを教えてあげられるようになったところが素晴らしいですね。
 いや、ドラフト2期なんだから当たり前だろ、と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、K2の妹だった彼女が今は引っ張る側になっているんだなあ、と感じます。
※昔の彼女が分かるアメブロはこちら!

 彼女はこの日のスピーチで、「ファンの方がいれくれること」に対して、嬉しさや救いを感じていると語ります。また、自分がアイドルに向いてないんじゃないか、辞めたいと思ったこともあると語りながらも、皆との関わりを切りたくないからここにいるとまだアイドルを続ける理由を明示していきます。
 そして、忘れられないのが、スピーチが後に江籠さんとの会話でちらりと言った一言です。


「このご時世になってファンの方のありがたみが凄く伝わったし、いなくなっちゃった方もいるし、知らない間に。だから、凄い今いる方を大切にしたいなって思います」

 

 「期待」と「幻滅」はひょっとすると、ファンからアイドルへだけではないかも知れません。
 居なくなっていくファンに「幻滅」することもあるかも知れませんが、それでも残ってくれるファン、新しく入ってきたファンへの「期待」をし続けることが出来る。そんなファンに僕らはなっているでしょうか?
 双方向的に「期待」と「幻滅」が起こっていたのではないか、とふとこの記事を書きながら思いました。
 ブロックチェーンが誕生した時、ビット・コインに関するサトシ・ナカモトの論文がはっきりとわかる人は専門家たちだけだったそうです。
 そこから普及していくまでに時間がかかりましたが、最初からチェックしている方は、現在多大な収益を得ているそうです。
 同じく、水野愛理から目を離さなかった人は、きっと「推してて良かった」と思える瞬間が来ると僕は思っています。
 彼女はアイドルについて、続けてこう言っています。

「ライブがしたい。そう、アイドルである意味ってやっぱライブだったりとか、特典会とかもそうなんだけど、こうやってイベントして踊ることがアイドルの職業だと思ってるから、それが出来いのは凄く悲しいので、ライブがしたいなと思います」

 水野愛理の「回遊魚のキャパシティ」のサビ前のキックが大好きです。
 水野愛理の「雨のち奇跡的晴れ」のMVの1分20秒ぐらいの手の動きも好きです。
 歌って踊る水野愛理は、彼女の発する言葉よりもファンの方々の言葉よりも、アンチの言葉よりも饒舌で説得力があります。
 ああ、だからこの子はSKE48なんだな、という説得力です。

 もし、歌って踊る水野愛理が素晴らしいのだとしたら、もっとみんなが見られる場所に配置してみるのも面白いと僕は思います。
 チームでもなくユニットでもなくあの場所へ。


※以前、水野愛理について書いた記事はこちら!


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