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伊藤実希の物語が、名場面へ回りだす

 けんすうこと、古川健介さんの著書「物語思考」が面白いです。
 起業家であり、様々なウェブサービスを作ってきた彼は、就職活動でよくある過去から自分のこれからを考える自己分析ではなく、未来から自分のこれからを考える方式を取ります。
 そして、物語の方式を試行のプロセスの中に入れることで、より人生は面白くなるという考えを提唱しています。人生の中の幸せとはどういう状態だろうと考えた時に、今( プロセス )が充実している状態であると。目標の未来へ向かう自分の物語を考えてみるというやつですね。また、物語にしてみることで、ちょっと自分の人生を客観視できるということも可能であると唱えます。
 そして、第5章では「物語を転がす」ことの面白さが語られていきます。
 時には失敗することも物語を盛り上げる材料になりますし、時には自分の物語の名場面を想像することで、自分がワクワクしながら進めるイメージを広げることが書かれています。この想像する名場面がすぐに忘れるものだったり、ぼんやりしていたりすると、魅力がなかったり、解像度が低かったりするわけです。
 よく無いのは、アイディアを温めすぎて使わないまま終わることや、「判断」と「決断」の区別がつかないことが挙げられていました。よく漫画家になれない人が言うことで「もっと上手くなってから漫画を描こう」と言っているうちに漫画家にならないまま終わってしまうというやつですね。
 僕のような人生を行き会ったりばったりで生きている人間からすれば、「自分の物語って、常に試行と失敗とアップデートの連続だよなあ」と読み終えて思いました。 
 そして、ふと思ったんです、この物語思考って、自分自身だけじゃなくて、アイドルを見る時にも活かせるのでは、ということです。
 推しの目標や目指したい名場面を知ることで、時にはメンバーが何か失敗したり、イベントで結果が出せなかったりしても、悲しみや戸惑いだけでなく、この後の物語の盛り上がりに重要なシーンかもという視点が増えるわけです。
 ただ、この物語思考で考えてみた時に、「あれ、ひょっとして今、自分の推しの物語は転がってないのでは?」という視点も生まれるので、そんな時は推しが行動するの判断をした時に、全力で物語を転がすことに協力するのも良いかも知れません。

 この本を読み終わって、思い出したメンバーが二人います。
 一人は青海ひな乃さん。
 もう一人は伊藤実希さんです。
 青海さんに関しては、まさに物語が転がっている状態ですよね。
 彼女はいったいどんな名場面を思い浮かべて、海外へ旅立とうとしているのか楽しみです。
 いつか、SKE48のシングル選抜が日本組と海外組で編成されるようになると、面白いかもなあ、と想像が膨らみます。サッカーの日本代表のような感じですね。是非、SKE48に新しい刺激を与える存在になってほしいです。
 彼女が出ていくことで、空いた公演のセンターポジションやシングルの選抜の1枠。誰が入るのか。誰も知らないところで、次の誰かの物語は静かに始まっています。

 その次の誰かが、今回の記事の主役である、伊藤実希さんです。
 SKE48の15周年記念のムックを読んだ時に、何か、物語が転がり始める感じがしたんですね。
 自分が「選抜を目指したい」と言ってもいい人間なのか、という葛藤があり、なかなか口に出せなくなってしまったというところが印象的でしてね。これは、さっきの「物語思考」でいうところでの自分が設定した選抜になるという名場面に対して、最初は口に出せたけども、徐々に解像度が上がっていくに連れて、これは今の自分では気軽に言えることではないのでは、という葛藤が生まれるわけです。僕はこの葛藤が、まず素晴らしいと思いました。夢との距離が近づいてきたからこそ、解像度が上がってきたわけです。やはり、物語は静かに転がっている。

 彼女は去年、Showroomのイベントで「パレオはエメラルド2023」選抜に選ばれます。彼女やファンの方々でつかんだこのチャンスは、彼女のダンスの素晴らしさを多くのファンに改めて実感させたMVになったのでは、と思います。個人的に、このMVでは西井さんにも目が行くんですが、二人の共通点はやはりダンスの表現力でしょうか?

 正直に書きますが、このイベントの発表が出た時は、「ああ、SKE48は昔のコンテンツを食いつぶし始めたのか…。新曲出してよ…。もうオリメンもいないし、なんでこんなことするんだよ…。あと、衣装が1種類しか出てこない。このMV予算がないのかな…。思い出には勝てないと思うんだよなあ…」と思っていたんです。でも、先日、クラシック音楽の本を連続して読みましてね。
 クラシック音楽って300年ぐらい前に演奏されたものもあって、当然ですが、オリメンは生きてないわけですよ。現在に至るまで様々な楽団が様々なホールで演奏し、レコードやCDに録音して残されているわけです。同じ曲なんですが、聞いた時に浮かび上がってくる感情や心情は少しずつ違う。
 何か楽しみ方の選択肢が、一つ増えた気がしました。
 それから、もう一度、この曲を見直すとまた違った味わいがありました。
 初見の時に抱いた感想がかなり変わりましてね。
 もしかして、これは「再現」や「懐古」ではなく新しい「発見」を生み出すための曲なんじゃないかと。
 実際にこのMVを改めて見直すと、2番サビからのカメラの移動の面白さや日常の中のドラマの良さを感じます。メイキングが凄く観たくなる工夫があります。ドローン撮影についてはもうちょい止まっててくれた方が見やすかったかもと思いますが。
 あと、最後の夕方からお昼に時間が変わったのは、てっきり妄想の中で踊っていたのかと思ったら、スマホの時間表示が7月5日の15時36分から7月5日の15時48分だから地続きなのか、とか、色々と発見がありました。そして、人数が限られた若手メンバーだからこその「発見」があります。
 その中で僕が「発見」したのが、伊藤実希さんの華やかさでした。
 SKE48のファンの方なら、「パレオはエメラルド」は何度も見たことがある曲だと思うんですね。知っていれば知っているほど、観れば観るほど、「確認」になりがちなんですが、彼女の歌詞を読み取った上での表情に乗せていく表現が非常に素晴らしいと思いました。歌詞にしっくりくる感覚です。うるさすぎないし、無味でもない。ちゃんと曲の世界の中に居る。
 誰かに似てるな、と思ったら古畑奈和さんです。
 表現のアプローチが似ているのでは、と僕は思っています。

 そういえば、伊藤実希さんが奈和ちゃんの代打で出たイベントがありましたね。そして、昨年の彼女の生誕祭では奈和ちゃんから手紙を書いてもらっていますね。手紙の中では実希さんが代打で出演することに対して、「心強さ」や「安心感」を覚えたという記述があります。日々の努力やアイドルに全力を注いでいる姿勢がその裏付けであるとも。
 何故、奈和ちゃんがそう言えるかというと、きっと彼女自身も若手の頃に同じことをして結果を出してきたからではないか、と僕は思っています。努力していたからこそ、パフォーマンスを観た時に分かるのかも知れません。周りが見える実希さんに対して、グループのバランスも大事だけれど、自分も大事にというのも、どこか奈和ちゃんのこれまでの歩みがあったからこその説得力を僕は感じました。
 そして、2023年の生誕祭では、奈和ちゃんと同じ5期生の江籠ちゃんからお手紙をもらいます。
 この手紙でも実希さんの努力について書かれています。アイドルとしての考え方やパフォーマンスについて本当に尊敬すること、「We're Growing Up」公演のセンターで最高のパフォーマンスをしていること。ベテランで様々なアイドルを見ている江籠ちゃんの目から見ても、尊敬できる姿勢というのは凄いですよね。
 5期生の二人が感じた彼女の「心強さ」や「安心感」、そして「尊敬」できる姿勢。
 ううむ、素晴らしい。
 でも、そこで僕らファンまで安心してはつまらないと思います。
 そろそろ彼女の物語が、次の「名場面」に転がり始めてほしいと思っています。
 たとえば、青海ひな乃さんがやっていた「流星」。
 伊藤実希版の「流星」も見てみたいなと思っています。
 チームSのファンの方にも彼女の魅力の解像度がもっと見えて行って欲しいです。
 そう、今、伊藤実希は様々なものとの掛け算のフェーズに来ているのかも知れません。様々な曲を表現する度に新しい「発見」がある。仕事が忙しい上に、来年に向けて色々と作るものがあって、全然観られてないんですが、リクエストアワーというまさに過去と現代の掛け算のイベントが今年ありました。
 今、一番みたいのは伊藤実希×「Escape」のところです。
 次に伊藤実希さんのパフォーマンスを見た時、皆さんはどんな「発見」をするでしょう?
 その「発見」がファンの方々ひとりひとりに積み重なって行った先に、彼女の物語は、次の名場面が待っていると思います。
 
 
 
  

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栄、覚えていてくれ
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