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映画「梅切らぬバカ」 感想

「梅切らぬバカ」見てきました。たぶんそんなにネタバレはしていないと思うのですが、気になる方はご注意ください。

加賀まりこさん演じる母、珠子さんと、塚地武雅さん演じる自閉症の息子、忠さん。母と息子の日常と地域の人との関わりを描いた作品です。

加賀さんが演じている珠子さん。占いをして生計を立てているのですが、この占いが最高。ズバッと言いつつ、でもあまりにも凹んでしまう相手には「そうは言ってもね〜」って言ってみたり。新潟からわざわざやってくる人がいるくらいの人気者のようです。私も占ってほしいなと思っちゃう。この珠子さんのキャラクターはきっと加賀さんだからこそなんだろうな、と思うハマり役。まさに肝っ玉母さんでした。

そして、とにかく忠さんを深く愛していて、ずっと支えて共に生きてきた人。忠さんのことだと他人任せにできなくて、行政との話し合いにも率先して出向いていく。私がいないとだめだから、っていうところに自分の存在意義も見出しているんだろうな、と思いました。支えているようで、忠さんがいることで生きていけるのは珠子さんの方なのかも、とも思いました。

塚地さん演じる忠さん。自閉症があり、毎日の起床、歯磨き、食事などの時間を分単位で決めて生活しています。それからちょっとでもズレるとパニックになり自傷行為が出てしまう。視線の動かし方、手をヒラヒラする常同行動や独り言、パニックもリアリティがあって塚地さん素晴らしかった。素晴らしすぎて、途中からドキュメンタリーを見に来たんだっけ?という気分になったほど。

渡辺いっけいさんと森口瑤子さんの里村さんご夫婦も、夫婦間のちょっとした諍いや不満、障害者への悪意なき偏見や差別感情…当たり前の人の心の動きでした。だからこそ、珠子さんや忠さんと関わることで、少しずつ心が動いていく過程がとても納得できました。山田家に招かれて夕食を共にするシーン、「里村茂です」の挨拶の一言に、対等の一人の人間同士になった瞬間だと思えて、涙が溢れました。

そして、里村家の一人息子、草太(斎藤汰鷹)が素晴らしかったです。子どもらしく、でも誰よりも優しい心で山田家と里村家を繋げる存在に。彼にとっては忠さんは友達で、友達のためにしただけのこと。あの優しさこれからもたくさんの人に向けてあげてほしいな。

グループホームの内部の施設の描写や、生活の様子、事業所での仕事の様子などがとにかくリアルでびっくりしました。玄関に鍵をかけないグループホームは初めて聞きましたが、そこは運営者の考え方次第だと思うので。男性職員の方の描写もよかったな。それにしてもグループホームの職員の仕事は大変だなと改めて感じました。

地域の人との軋轢は、実際にあちこちで起こっていることですよね。どうしたら解決するのだろう、と思いますが、きっと地域の人たちにとっては分からないから怖い、分からないから不安ってところがあるのかな、と思っています。そこは子どもたちの方が今は教育を受けてきていることもあって柔軟かも。知ってもらう努力を続けていくしかないのでしょうが、あそこの場面はしんどいな…と思いながら見ていました。余談ですが、特別支援学校って辺鄙な立地が多いんですよ。

障害がある、ない、性別、人種…様々な違いによる差別は根強いですが、お互いを知ることが大切だな、と改めて感じさせられました。そして、何気ない日常、大切な人と笑いながらごはんを食べたり、好きなものを楽しんだりすることが、どれだけ尊いことかということ、そんな日常をどんな人も過ごす権利があること。そのために自分ができること、考えていこう、自分も周りの人を大切にしていこう、と思いました。