車っていいな。
運転が好き
先日、勤めている会社のほうで、ちょっとした仕事を頼まれて、社用車で出かけた。
社用車は僕一人だけが乗っていて、けっこうボロで、なんかちょっと臭かった。
慣れないオートマ車だった。アクセルペダルを踏まなくても、ブレーキを離せば前に進むということに少し違和感を覚える。
でも道路に出てしまえばなんてことはなくて、効きすぎてしまう冷房の風向きを横にずらし、窓をほんの少しだけ開けて国道50号線を走った。
無音は寂しい。そう思って、おもむろにカーナビに手を伸ばした。操作はよくわからなくて、チコチコいじっていたらラジオがかかった。FMだ。
NHKは滅多に聴かない。最近亡くなった、坂本龍一氏。彼の特集、みたいな感じで音楽が流れていた。社用車の窓から眺める見慣れた街。洗車なんてほとんどしないであろう薄汚れた社用車の窓から見ると、なんかちょっと、見慣れているはずの景色のはずなんだけれど、やっぱりどこか違って見えた。
ふと、アイディアが降りてきた。あー、いいなぁ。いつか形になるのかな。不思議と次々と、アイディアが降ってきた。助手席に置いていた自分のカバンに目をやる。ノートは持って来てたっけ。ペンはあるかな。赤信号が恋しくなる。早くブレーキを踏みたい、停車したい。
信号待ちで、ノートに文字を書き連ねる。ペンもノートも、持って来ていてよかった。僕は本当に、車の中でアイディアが浮かぶことが多い。いつもの愛車じゃないけれど、関係ないんだなぁと苦笑した。
クラクションが鳴らされる。目の前の信号は青信号に変わっていて、あっ、と、僕は声にならないような声を出して慌てて発進した。後ろの車の人、すみません。なんかすごく悪いことをした気分になるが、こんなことは申し訳ないがしょっちゅうある。
それから先も次々とアイディアが降ってきて、もう止まらなかった。信号待ちのたびにノートにペンを走らせて、僕は必死にメモをとっていた。また後ろの車にプップーとクラクションを鳴らされないように、信号の変わり目には神経を使った。
一応仕事中だったのだが、仕事の記憶はあまりなくて、気付けばカーラジオも坂本龍一特集は終わっていて、数ページ分のアイディアがノートに記されていた。
やっぱり僕は車と運転が大好きだ。
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