見出し画像

男性の精子が減少し続けている。しかも減少率は加速している。

5年前にすでに発表されている研究に加え、2022年に新たに発表された研究により明らかになったことをまとめます。

5年前の研究は2017年7月、学術誌「Human Reproduction Update」に発表されました。
北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドの男性の精子を分析したところ、1回の射精に含まれる精子の数が1973年から2011年までに50%以上減少していました。

この論文は、ヘブライ大とマウント・サイナイの疫学者や臨床医などからなるチームが既存の論文185本のデータにメタ分析を加えたもので、約4万3000人の男性の精液を調べています。
1973年時点で精液1ミリリットルあたり9900万個だった精子数が、2011年には4700万個に減っていました。

その後、同じ研究者が率いるチームが2014年から2019年までに公開された精子サンプルの研究結果を分析し、これを以前のデータに付け加えました。
新たなメタ分析は、世界的な傾向を知るため、中南米、アフリカ、アジアを含め1万4233人分のサンプルを使用しています。

その結果、精子の総数は70年代に比べて62%減少していたことが判明。
しかも1年ごとの減少率は2000年以降2倍になっていました。
2022年11月、同じく「Human Reproduction Update」に掲載されています。

不妊症は主に女性の問題だと思われがちです。
しかし男性が原因の不妊は、女性が原因の不妊とほぼ同じ割合で存在しています。
医学界では、不妊症全体のうち男性不妊が3分の1、女性不妊が3分の1を占め、残りの3分の1は男性側の原因と女性側の原因が組み合わさったものであるというのが共通の認識です。

精子の数は男性の全体的な健康の指標として見ることができます。
2018年2月、医学誌「Andrology」に掲載された論文では、精子の濃度が低い男性の入院率が高いことが示されています。
精子の数が少ないとされる1ミリリットル当たり1500万未満の男性と、1ミリリットル当たり5100万~1億の男性を36年間にわたって比較したところ、前者の方が何らかの理由で入院する割合が53%高くなっていました。
これは、体重や喫煙の有無、その他の要因を差し引いても変わりませんでした。

精子数だけでなく、精液の量、そしてテストステロンの分泌も減っています。
身体的な性差の指標のひとつにAGD(肛門・性器間距離)というのがあります。男性の場合、AGDは女性の2倍というのが相場です。
しかし男性ホルモンが少ないとAGDは短くなります。
そしてAGDが平均より短い男性は一般に生殖能力が劣り、精巣の形成不全や精巣癌になりやすくなります。

研究者は、いくつもの化学物質が環境中で混じり合い、それぞれのマイナス効果が拡大されてより大きな問題になってしまったのではないかという見解を示しています。
何世代にもわたって環境化学物質の影響が蓄積することで問題が加速するのではないかと考えられています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?