見出し画像

Bill One T2D3達成!MVV不要論を一蹴するSansan流タグラインの作り方

Sansan株式会社の尾花です。

2024年5月期(通期)の決算で、Bill OneのARRが76億80百万円に到達したことが発表されました。

Bill OneのARRは76億80百万円に到達

Bill OneのARRの推移は以下の通りです。

2021年2月:ARR1.05億円
2021年8月:ARR3.91億円
2022年2月:ARR10.86億円
2022年11月:ARR21.24億円
2023年5月:ARR37.98億円
2023年11月:ARR59.37億円
2024年2月:ARR68.44億円
2024年5月:ARR76.80億円 ← New!!

本来は5年かかるT2D3(1億→3億→9億→18億→36億→72億)を3年3ヶ月で達成しました。


このような事業の急成長を実現するSansanの強さの一つに言葉に魂を込める文化があります。

「Mision・Vision・Valuesを決めたところで意味がなかった」「結局、浸透しなかった」「最後は言葉遊びのようになってしまった」
そんなご経験がある方は数多くいらっしゃるかと思います。

Sansanにおいて、"Sansanのカタチ"として定義されるMision・Vision・Values・Premiseは、全社に浸透しており、日々の判断に活かされています。
そして、各プロダクトのタグラインは実用的な価値をもたらしています。

本記事では「事業の核となるタグラインの作り方」を私がゼネラルマネジャー兼プロダクトマネジャーを務めるContract One(コントラクトワン)を例にご説明します。

タグラインとは何か?

タグラインとはプロダクトが顧客に提供する価値をシンプルな言葉で表現したものです。
2024/07/17現在、Sansanの各プロダクトのタグラインは以下の通りです。

Sansan:名刺管理から、収益を最大化する
Bill One:請求書受領から、月次決算を加速する
Contract One:現場の習慣を変える、契約データベース
Eight:タッチで交換。スマートに管理。

Sansanのサービスサイトより

プロダクト開発も、営業活動も、マーケティング・インサイドセールス・カスタマーサクセスまで、全てがこのタグラインを軸として展開されています。

こだわり抜いた言葉をおくことが、プロダクトの鋭さと組織の意思統一をもたらし、事業の急速な成長を実現します。

Contract Oneとは?

今回、タグラインの作り方の例として上げる、Contract Oneという事業はSansanが提供する契約DXサービスです。

あらゆる契約書を正確にデータ化し、日常的に契約データを活用できる環境を作ることで、管理部門だけでなく事業部門の習慣も変える契約データベースのサービスです。

現在のタグラインに至るまで

Contract Oneのタグラインは以下のような経緯を辿っています。

2021年3月:Smart判子で紙の契約書もオンラインで完結
2021年7月:紙の契約書もオンラインで完結。締結も管理もSmartに
〜ここまでクローズドセール〜
2022年1月:契約業務のDXから、リスクを管理する ※LP公開
2022年12月:契約データベースが、ビジネスを強くする
2023年10月:契約データベースが、収益を最大化する
2024年7月:現場の習慣を変える、契約データベース ← New

私がContract Oneにプロダクトマネジャーとして参画した2023年8月時点で、Contract Oneのチャーンレートは非常に低く、一度使い始めたら手放せないサービスにであることは明白でした。

一方で、事業を急速にスケールさせられるほど、受注に勢いが出ていない課題がありました。
そこで、導入を最終決定する経営層に、Contract Oneの価値を訴求するため、2023年10月に「収益を最大化する」に変更しました。

「収益を最大化する」に関する課題感

再度タグラインを変更する議論が始まったのは、意図をもって設定した「収益を最大化する」に対する課題感がキッカケでした。

「収益を最大化する」という言葉は、我々がビジネスの成果に強くコミットするというスタンスを表しており、他社と大きく差別化できていました。
また、以下のセイノーロジックス様の事例記事のように、Contract Oneを活用することで収益を最大化する企業が現れ始めていました。

https://support.contract-one.com/hc/ja/articles/24630022352153--Contract-One-Sansan連携で取引情報を営業にフル活用-ユーザー事例Vol-3

セイノーロジックス様は国際輸送を行っています。Contract Oneの各機能を活用しながら契約内容を見直し、輸送ルートを変更することで、輸送に係る無駄なコストや工数を17%削減できたのです。

一方で、収益を最大化させることは企業にとって究極の目的ではあるものの、契約管理を主に担当している方々にとっては日々の業務とひも付けづらい言葉でした。
そこで、契約管理に携わる方々も自分事として捉えやすい言葉を探していました。

カスタマーサクセスのオンボーディング資料がヒントに

そんな時、ヒントになったのが、カスタマーサクセスがオンボーディング資料で使っていた「現場の習慣を変える」という言葉でした。

契約書を確認することは業務フローの一部というよりも、日々のビジネスシーンで日常的に行われる行動です。
そもそも、契約締結行為自体が我々の日常に当たり前に存在しています。家を借りる時には賃貸契約や火災保険保険契約を結びますし、WEBサービス利用開始時には利用規約や約款に同意しています。
ビジネスにおいては、出会いから始まり、商談が進み、本格的に財・サービスのやり取りが開始される前に、必ず契約を締結します。

「契約書は訴訟や裁判になった時に見られるもの」「契約書は法務だけが見るもの」という認識ではなく、現場の日々の日常において正しい契約の理解と活用が進むこと。その礎となる契約書のデータベース化や、契約データベースの検索・参照が習慣化すること。
契約管理に日々向き合っている担当者、そして日々契約と奮闘する現場の習慣を変えるプロダクトこそが、求められているのではないかと考えました。

我々はどのような存在でありたいか?

Contract Oneのメンバーの中で、Contract Oneプロダクトの価値を定義するワークショップを行いました。

「我々はどのような存在でありたいか?」ということを議論し、以下の通り、機能的価値と情緒的価値にまとめました。

  • 機能的価値

    • ありとあらゆる契約書を理解してデータベース化する

    • 契約データに日常的に触れる環境をつくる

    • 契約管理にとどまらず、売上増・コスト減に活用できる

  • 情緒的価値

    • ユニーク

    • シンプル

    • 現場の味方

ここでも、我々はビジネスの現場の味方であり、あらゆるビジネスパーソンが契約データに日常的に触れる環境をつくりたい、と皆が話していました。

特にワークショップの中であがった印象的なエピソードがあります。Contract Oneとして展示会に出展して、顧客にContract OneがSansanのプロダクトであることをお伝えすると、「あぁ、Sansanさん。いつもお世話になってます。」と言っていただけます。
こう言っていただけるのは、当社のメインプロダクトであるSansanが、名刺管理という普遍的な課題にアプローチしており、多くのビジネスパーソンに日常的に使われているからこそです。

Sansanで培われたノウハウを活かして、Contract Oneも現場の味方となるプロダクトに進化させていきたいと考えました。

日経からも現実に即した機能特化型としてご紹介いただく

2024/4/25の日経新聞記事↑にて、リーガルテックには「多機能な統合型」と「現実に即した機能特化型」の2つ方向性があり、Sansanが提供するContract Oneは「現実に即した機能特化型」としてご紹介いただきました。

我々自身の自己認識だけでなく、マーケットから見た認識としても、現場・現実にフォーカスしたプロダクトだということが確立されてきました。

全員で、言葉に魂を込める

ここまででタグラインの変更は現場にフォーカスする方向性でいくことは固まりました。
ここで終わらず、さらに言葉にこだわり、魂を込めていくのがSansan流です。

現場とは何か?

まず、”現場”という言葉が相応しいのか、”現場”という言葉が何を指すのかを議論しました。

契約管理は、契約書をデータベース化するところと、出来上がったデータベースを活用するところの2つに分かれます。
前者は法務や総務が行っていたり、各事業部の契約管理担当が行っていたりします。後者は、営業や調達、研究開発や製造部門など様々なところで行われます。

法務も含めて、契約を日常的に管理・活用する全ての事業部の当事者を”現場”と定義しました。

契約データベースを残すのか、残さないのか?

次に、「Contract Oneが契約データベースであることは自明であり、わざわざタグラインに契約データベースという言葉を入れなくてもよいのでは?」という論点がありました。

Contract Oneには、契約先・契約書タイトル・締結日など9項目のOCRとオペレーター補正を組み合わせた精度の高いデータ化、そして、そのデータ化結果を活かした契約状況判定・親子契約の自動ひも付け機能が備わっています。そんなContract Oneは他社には簡単には真似できないデータの精度や構造化にこだわったデーターベースであると自負しています。

我々の強みを堂々と伝えるためにも、"契約データベース"という言葉は入れると決めました。

習慣を変える、で良いのか?

"現場"と"契約データベース"という言葉は必須として固まりましたが、「習慣を変える」という言葉に決めるまでには、いくつかの案を検討しました。

習慣を変えるという言葉は、手段が目的化しており、習慣を変えた先に何を実現すべきかを定義すべきではないかという意見がありました。

「現場の生産性を上げる、契約データベース」
習慣を変えた先、契約データベースの構築負荷が極小化されたり、営業現場での契約参照が進んだ先には、生産性の向上があるのではないか、という意見がありました。
一方で、生産性を上げるという言葉を使うと、ROIに強く焦点が当たる可能性が高くなると考えられました。Contract Oneの利用でROIは出るものの、数値的な効果よりも、現場の習慣を変えることの未来をイメージさせることを重視したく、この案は無しとしました。

「現場の戦闘力を上げる、契約データベース」
現場の戦闘力を上げるというアイデアも上がりました。
ただ、戦闘力という言葉は遠心力が働く可能性があります。戦闘力を上げるという言葉が、気づいたら別の捉えられ方がなされてしまうリスクがあるからです。この案も外しました。

「現場を強くする、契約データベース」
戦闘力を上げるを言い換えて、強くする、も候補としてあがりました。
しかし、強くするという言葉はかなり抽象的です。顧客が意味を捉えやすい言葉の方が良いだろうということで、この案も除外しました。

ここまでの議論を踏まえて、"現場の習慣を変える"、がベストであろうということで結論付けました。

契約データベースを後半におく

言葉の順序にも意味があります。
前後を入れ替える2つのパターンが考えられます。

「現場の習慣を変える、契約データベース」
「契約データベースが、現場の習慣を変える」

名刺管理のSansanの2017年のタグラインは「営業を強くする名刺管理」でした。その前は「名刺管理が営業を強くする」だったそうで、言葉の順序を入れ替えたそうです。
名刺管理をすべきであるということは顧客からも合意を取れるようになってきたタイミングだったそうです。そのため、名刺管理をすること自体を目的として強く打ち出すため、タグラインの最後にもってきたとのことです。

Contract Oneの直近の営業活動の中でも、顧客から「契約管理はしているが、契約データベースになっていない」という声をいただくことが増えていました。
契約データベースを作ること自体を目的として強く打ち出した方が、受注に繋がりやすいだろうと判断し、契約データベースを後半に持ってくることにしました。

こうした議論を経て、ようやく、
「現場の習慣を変える、契約データベース」
に最終決定しました。

Mission・Vision・Valuesへのこだわりから生まれる言葉への感度

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
長文になってしまいましたが、侃侃諤諤の議論が行われた様子が伝わったでしょうか。

一言一句にこだわれるのは、Sansanの言葉に魂を込める文化があってこそです。
そして、その文化はSansanではカタチと呼ばれるMission・Vision・Values・Premiseの議論に全社員が取り組むことで培われています。
直近でも、カタチ議論が行われていますが、各チームからの発表の場では、言葉に特別な意図を込めた背景が、当たり前のように語られています。

言葉へのこだわりは、提案書の表紙に書くタイトルから、スライドのメッセージまで、あらゆるところに活かせます。
言葉は、我々人間が使う意思伝達の手段です。言葉を研ぎ澄ます力を培うことで、自分の提案やアイデアを他者に正確かつ鮮明に理解してもらい、共感を呼ぶことができます。
言葉には、単なる意思疎通を超えた力があります。それは聴き手の心に響き、行動を促すきっかけとなり、時には新たな価値観を築く原動力となり得ます。

Sansanならではのイノベーションを生み出し、世の中に広げていく。その営みに真摯に向き合う過程で「我々が何者であるか、何を成し遂げるのか」をシンプルな言葉へと昇華させていく。
言葉へのこだわりを糧にし続けることは、Sansanがプロダクトを通じて市場を創造し、世界を変えていくための、不可欠な要素であり続けるでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?