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映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』監督日記:142 長いロケ 後編

2024/7/14~19 梅雨らしい日々
7月17日。大学生のOさんとYさんは午前中はブドウの摘粒、午後からはイエローマスタード畑の雑草取りに汗を流した。根気が要る作業にも「だんだん楽しくなってきました」と頼もしい。イエローマスタードは瓶詰で販売されるこの農場の人気商品、混じり気のない澄んだ辛味で自分は大好きだ。ソーセージにたっぷりつけると最高でオイルベースのパスタに添えても旨い。日本ではほとんど作られていないイエローマスタードなので是非、超有名商品に育ってほしい。

イエローマスタードVS雑草。イエローマスタードに加勢するお二人

陽が傾き始めた頃にお二人のインタビューを撮らせてもらった。映画で見たソーラーシェアリング農場で働いた、ロマンティックに言い換えると映画の世界に入って働いた感想を訊いた。面白かったのは「そうか、ここは発電所だったんだ」、「屋根がある農場って感覚になってました、違うんですけど」という感想。
これは自分に全く無い感覚だった。2021年5月に初めてここに立った時から常に農業と発電の親和性を伝えるためにカメラを回してきたが、ほんの数日の農業体験でも彼女たちは頭上のパネルにもそれを支える柱にも違和感を得ず、発電していることもうっかり忘れかけていた。これは労働したからこそ感じる“無意識の親和性”、“意識されないほどの親和”と言えるのではないか。

「ここは発電所だったんだ」

農業界ではソーラーシェアリングに懐疑的な人が多いために広まらないという現実がある。懐疑的な人たちは彼女たちのようにソーラーシェアリングの中に立ってみてほしい。外から眺めるのとは全く違う農と発電の親和性を実感できるはずだ。
「親和性」というとカタイ響きだが「親和」とは仲良くすることだ。電力が普及する前、農とエネルギーは仲良しだった。むかしお百姓さんは炭や薪を作るエネルギーの供給者で農業と薪炭業の両方の担い手だった。
桃太郎のおじいさんは山に柴刈りに行った。柴とは地面に落ちて乾燥した小枝のことだ。どんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れて来なければ、おじいさんはその日、薪となるエネルギーを里まで売りに行ったのだ。


18日は午前中に川俣町の齋藤広幸さんの農場を撮りにうかがった。

齋藤さんの農場
パネルの下で米ができる

齋藤さんのソーラーシェアリング農場は米を作っているのが魅力のひとつだ。ソーラーシェアリングを懐疑的に思う人はパネルの影が作物の出来にどれだけ影響を及ぼすのを心配しているわけだが、日本人の主食の米が問題なく出来ていることが解れば安心してもらえるはずだ。齋藤農場ではそれが証明されている。

立派なブドウの房といつも笑顔で迎えてくださる齋藤さん

齋藤さんは今年からブドウの根域制限栽培を試験的に行っているが、先々月とは見違えるほど見事な房に育っていて驚いた。根域制限とは読んで字の如く根が張られる範囲を制限することで水や肥料を無駄なく与えられる栽培方法だ。現時点はビニールハウスで育てているが来年はソーラーシェアリングの下での栽培が始まる。齋藤さん曰く、根域制限は通常の野地栽培に比べてコストがかかるので利益の見極めも試験栽培のうちとのことだった。自分とは職業こそ違うが、いつもいつも挑戦を続ける齋藤さんから学ぶことは多い。

絶対日焼けしない未瑠さんと幸人さん。お顔を写したいが無理は言えない

次男の幸人さんと未瑠さんが育てているダリアが咲き始めていた。8月から本格的に開花が始まるとのこと。8月後半にはブドウの収穫、ダリアの花畑、そして自分が一番好きな穂が垂れる前の稲を撮れる。楽しみだ。


垂直設置型太陽光発電パネル

午後は、二本松市の米沢(よなざわ)にある農場で牧草の刈取りを撮影。ここは近藤恵さんがプロデュースした日本初の垂直設置型ソーラーシェアリング農場。両面太陽光パネルを垂直に設置する利点は大型刈取機が入ることだ。今回は横幅があるコンバインでの作業で柱が無い分Uターンが楽に行える様子が撮れた。もちろん背の高いコンバインにも向いている。

畜産の大ベテラン佐久間さんが牧草を刈る

パネルが垂直なので発電量は大丈夫か?と思う人もいるはずだが、垂直設置型は東西の陽光を受けるように建てるので太陽が一番高い位置にある時間帯よりも、その前後の時間帯での発電を主にしている。天に向いているパネルよりは少ないが、陽が高い時間帯にももちろん発電する。
垂直設置型を開発したドイツでは高速道路の防音壁や集合住宅のバルコニーに使われる例が多いそうだ。
梅雨の最中の見事に晴れた刈取り日和、コンバインを運転する畜産家の親方・佐久間さんのカッコいい姿が撮れてよかった。

19日も晴れた。福島市から、ほりこしメンタルスクールジュニアの中学生のみなさんが農業体験に来て賑やかになった。Oさん、Yさんと一緒にイエローマスタード畑の雑草取りをしたので一気に畑が綺麗になった。

雑草取りと収穫を同時にできて綺麗になった
台湾からの取材クルー

午後には台湾の国営テレビ局が取材に訪れた。海外からも注目される農場という視点で取材の様子を撮らせてもらった。
意外にも台湾ではソーラーシェアリング農業が法的に認められていないそうだ。魚を養殖する営漁型ソーラーシェアリングが普及しはじめた時に売電収入目当てでまともに養殖業をしない事業者がたくさん現れたことが悪しき前例となって営農型の普及にブレーキがかかってしまったとのこと。
日本でも農業を蔑ろにする事業者がいることでソーラーシェアリングの信頼を損ねている事実もある。

台湾クルーは塚田さんと菅野さんがデザインしたTシャツを5枚もお買上げになった!

台湾も日本と同様に農業者の高齢化と若い担い手が少ないことが深刻だそうだ。台湾政府としてはその状況下で売電収入目当て、農業放ったらかしにされては困るという判断なのだろう。
今回の訪問は、日本各地の状況を取材して台湾事情と照らし合わせるのが目的とのこと。大変興味深い取材風景を撮らせていただけた。

夕方、長いロケが終わった。
自分は梅雨の曇天をナメていて真っ黒に日焼けしてしまった。毎年学習できていない。
明日が最終日となるOさんとYさんにお別れを告げた。
彼女たちはジャージーの仔牛にチャチャという名前をつけた。呼びやすく覚えやすく茶色一色の子に相応しい良い名前だ。

いい名前つけてもらえた

映画を通してここを訪れたお二人に改めて感謝した。
名残惜しいがきっとまた会えるはずだ。
 
<映画公式サイト DVD、サントラCD、パンフレット販売中>
https://saibancho-movie.com
 
<上映会サイト(上映スケジュールもご確認いただけます)>
https://saibancho-movie.com/wp/

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