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生きる苦しみも悲しみも、他者と味わって進む

9センチの子宮筋腫をなんとか手術なしで克服するべく、お灸に通っている。
お灸ももちろんいいのだが、先生からの内臓へのアドバイスが的確で、それ目当てに通っていた。

夏の終わり、先生より「小澤さん、じん臓の調子がだいぶよくなってきましたね。次はひ臓に取り組みましょう」と新たなお題が生まれた。

ひ臓とは、胃の近くにあって消化液を出してくれる臓器である。どうやったらよくなるのか先生に聞くと「ひ臓の改善のためには、お水を大量に飲まないことです」という答えが返ってきた。

私は根っからの水のみである。一日に2リットルでも苦にならないし、何より一日の終わりにお酒や冷たい炭酸飲料をぐびぐびと飲むのは楽しい。一種のストレス発散でもある。
だいたいCMだって出ているタレントさんたちはみんなおいしそうにぐびぐびと飲んでいるではないか。それを辞めろというのか!

「水や飲料を一気に飲むと、消化液を必要以上に薄めて消化機能を落とし、内臓に負担をかけてしまいます。確かに水を飲まないのはあまり良くないですが、飲みすぎもよくないんです。飲み物は一口ずつ、ゆっくりかみしめるように飲んでください」

先生に正論を説かれた私は何も言い返せず、すごすごと店を後にした。
その後、季節が暑い熱い夏になってしまい先生との約束を破ってしまう日々に突入した。こうなると「ちゃんとできていない自分」を責める自分も登場し、お灸の店から足が遠のいてしまっていた。

しかし先日、友人宅でピザパーティーをしたときのこと。
集まったのは同世代のかわいい女子2人と私。女子トークを展開したあとピザが届いたので、さっそく3人でいただきますをして食べ始めた。

食事をしながら楽しくおしゃべりをしていると、はたと気づいた。私だけ彼女たちと食べるスピードが違う。私はピザをバグッと大きく口に入れて5回くらい噛んだら、お茶で胃に流し込んでいる。接客業で培った、いつ休憩中に業務へ戻されるかわからない人の食べ方だ。

対して彼女たちはゆっくりと、一口(そもそも一口が小さい)口に入れたら、一生懸命かんでいる。30回くらいだろうか。私はすぐ取り皿が空になってしまうのに対し、彼女たちは全然お代わりをしようとしない。食事を、命を頂いている感じがする。気づいた後は、彼女たちのペースに合わせるようにゆっくり食べてみたところ、いつもより少ない量で満腹になった。

2キロ、4キロ、6キロ、8キロと距離が選べる小学校のマラソン大会で、毎年一人だけ2キロを選び続けたほどストレス耐性が低い私は、とにかく現実逃避したがる傾向にある。嫌なことがあるとお酒や食べ物に逃げ続けた、その結果が子宮に来てしまったのかもしれない。

このピザパーティー以来、一口30回・飲み物はゆっくり飲むようにする日々をここ一週間ほど送っている。
よく噛まずに飲み込んでしまったり、お酒をグッと飲んでしまうときもあるけれど、意識しないで乱暴に飲み食いするよりは良いと割り切ってやっている。まだ大きな変化はないが、変化というのはだいたい、自分が思うより300倍くらいゆっくりのペースで訪れるものな気がするので、このまま続けてみようと思う。

自分一人ではどうしても見えなかったところ、見ようとしなかったところも、他者が何気なくやさしい光で照らしてくれることって、生きているとあるものですね。