【あ・うん】┃昭和初期の価値観と通ずるもの
著者 向田邦子さん
向田邦子さんの本、読んだことありませんでした。
読んでみなきゃ、と初めて手に取ったのが『あ・うん』
向田邦子さんの初めての長編小説とのこと。
昭和の豪快さ、男性と女性の地位の違いをありありと感じさせられます。
あらすじ
金属会社の社長である門倉修造は軍事特需に沸き成金。
一方で製薬会社勤務の水田仙吉はつつましく暮らす。
門倉は銀座を歩けば女は一人残らず振り返るような男。
仙吉のことは誰も振り返らず、ちょび髭をはやしてさらに冴えない男。
対照的だが、神社の鳥居のところにいる石造りの狛犬「阿」「吽」のような二人。
門倉は、水田のためにお金に糸目もつけず手を貸す。
新居を探してあげたり、水田の娘さと子にも気を配り、水田と折り合いの悪い父親初太郎とも気さくに話す。
一方で仙吉も門倉の自由奔放な女性関係により起こるトラブルをフォローする。
家族以上に深い関係だが、実は門倉は水田の妻、たみに対して愛情を感じている。
成長したさと子もそのことに気づき始める。
「おとおは、大事なことは言わない」
感想
娘さと子がお見合いする場面がありますが、家族の意見もあり断ることになってしまいます。
『さとこは「向こうに断られたに決まってる」
「新聞、どちらから読みますか」に対して、「三面記事からです」
答えてから、しまった、と思った。あれがよくなかったんだ。』
今の時代でも話す内容は違えど、後から会話内容を思い出して、悶々とするってあると思います。
それがその後、彼は電柱の陰に立ってさと子を待っていた。
さと子は初めて喫茶店に入り、珈琲の香りにめまいがする。
その後のデートが父親の仙吉に見つかり、怒られてしまうというのも、かつては恋愛も自由ではなかったのですね。
登場人物の背景が多く語られていないのに情景がありありと浮かぶお話です。強くいなければ、という男性の虚勢のようなものや、今のように自由に発言できずにも、男性を支える女性の強さ、戦争時代の話と言うことも随所に織り交ぜられ、人間の心理を絶妙に描いたお話でした。
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