BSの資産、PLの費用、無形資産
◆ 資産と費用 『GAFAの決算書』を新宿NEWMANのエキナカ書店で買って、読んだのだが、普通のことが気になった。以下の箇所だ。
企業は、経営のために銀行や株主からお金を調達します(負債や自己資本)。調達したお金を資産(現金や在庫等)や費用(人件費やマーケティング費用等)に使って売上や利益を出していくわけです。(『GAFAの決算書』、P6-7)
以上の箇所を読んでいて、そうだ。企業は、調達したお金(BS左)を資産(BS右)に投じるとしたが、なるほど、商品を仕入れて、BS左資産が増える。ところが、これは財産状態が増えたということだけなのだ(『新装版 財務諸表の卵』、P19)。
例えば、車を売る商売を始めるとしたら、現金で車を買うわけだ。その時点で、車100万は、BSの資産に計上されることになる。しかし、売上を上げない限り、私は事業を継続できない。そこで売上を立てるために、営業活動をおこなう。それは費用ということになり、BSには計上されない。あるいは人を雇うということであれば、それは一般管理費という費用に計上されることになる。
で、この車が販売されたとき、売り上げがたつ。120万でうれたら、20万のもうけなるのだ。その間、この車は、BSから消えてしまうことになり、売掛金や現金に姿を変えることになる。
◆ 無形資産と人件費 なんとなく、BSとPLのつながりのイメージができたが、私がわからないのは、無形資産と言われるものだ。人件費やこの場合、費用ということになり、PLで計算される。無形資産は、資産というのであるから、BSの方に入らないといけないだろう。ただ、PLの中にはしっかりと人件費という無形資産は計上されている。PLに計上されているので、資産とはいえないだろう。
◆ 再び、BSの意味 『財務3表のつながりでわかる会計の基本』によれば、BSは、どのよういお金を集めて(BS右)、そのお金を何に投資しているのか(BS左)をあらわしたものだ。上記に例でいうと、私は、車100万に投資したわけである。投資したけれど、その車は、車庫においてある状態だ。この車庫で保管するというのにもお金がかかるが、このことはまず無視しよう。今度は、車ではなく、人に投資した場合はどうなるのか?ここが問題だ。会計では人は資産と見なされないので、おそらく、費用とみなされる。ここがやっかいな問題となる。あとはR&Dへの投資ということも問題だが、人、R&Dでは費用として一括処理をされることになるのじゃないか。
◆ 伊藤レポート2.0 「伊藤レポート2.0」は、売上を上げるために費やされた取組みの中の人的投資を、将来の業績を左右していく見えない資産、言い換えれば、無形資産とみなすのだ。では、資産というからには、PLではなくて、BSの中に計上しなければならないということになるのか?BSは、いわばその時点での財産状態ということになる。これから売上や利益、もしくは損失を被るかも知れない。その可能的な資産である。そういう意味では、人材は資産である。しかし、会計では人を資産として捉えないので、BSの中には入らない、じゃあ、費用なのかということになる。伊藤レポートでは、こうした人的資本などの無形資産が競争力の源泉として注目を浴びているとして、以下のような説明を行っている。
企業がイノベーションを生み出し、企業価値を高めるために、施設や設備等の「有形資産」の量を増やすことよりも、経営人材も含む「人的資本」や技術や知的財産等の「知的資本」、ブランドといった無形資産を確保し、それらに投資を行うことが重要になってきている。財務諸表等に表れにくい無形資産を正確に捉えることは難しいが、いくつかの調査研究では、企業価値を決定する要因が有形資産から無形資産に移っていることが示されている。図表 3 は、米国 S&P500(米国に上場する主要 500 銘柄の株価指数)の市場価値の中で、有形資産が占める割合が年々少なくなっていることを示している。(伊藤レポート2.0、P10)
上記の文章で問題なのは、施設や設備等の「有形資産」である。企業価値を増やすために、有形資産を増やすとある。これまではそうだったのだろう。そして、この有形資産は、BSの中に計上されているのであるが、無形資産はBSの中にでてこない。企業価値を決定する要因が無形資産といいながら、BSを代表する財務諸表には表れてこない。まさに、The end of accountingということになる(邦訳では『会計の再生』)。
下記の引用は、整理をすること。今は、そのままの貼り付け
一株当の純資産と一株当の株価の乖離
借対照表(B/S)の固定資産の中に「無形固定資産」があります。「無形なのに固定資産なの?」「どういう資産が無形固定資産に区分されるの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
無形固定資産には、特許権、借地権、商標権のような法律上の権利やソフトウエア、営業権などがあります。ざっくり言うと、将来おカネをもたらす経済的価値(=資産)であり、建物や設備とは異なり目に見えないもの、です。以前、「サントリーのJT自販機事業買収で生じた「のれん代」って何?」で取り上げた「のれん」も無形固定資産の1つです。
無形固定資産は、一旦はその取得に費やされた金額でB/Sに計上されます。特許権であれば特許権を取得するため登録等の手続きに係る費用、(自社で利用する目的の)ソフトウエアであれば製作導入するまでに係った費用がB/S計上の対象となります。一旦、取得に要した費用でB/Sに計上された無形固定資産は、建物や設備などの有形固定資産と同様に一定年数(耐用年数)で償却(一般的には定額法)されます(例:特許権は8年、自社利用のソフトウエアは5年)。例えば、100で取得された特許権を5年で償却する場合は、1年あたり20(100÷5年)が償却費として損益計算書(P/L)に計上されます。
また、耐用年数を待たずして使用価値がなくなった場合は、一部を除き減損処理の対象にもなります。例えば、100で取得した耐用年数5年のソフトウエアが2年使用した時点で使用価値がなくなったとすると、帳簿金額60(100-100/5*2年)をP/Lに減損損失として計上します。
ところで、特許権などの知的財産権(無形固定資産)は市場価値でB/Sに計上されているわけではありません。特許取得までに費やされた研究開発費用はすでに発生年度で費用処理されているため、実際に無形固定資産としてB/Sに計上されるのは特許の登録料や印紙代などの事務手数料程度となり、必ずしも無形固定資産の市場評価金額(売却したらいくらか)を反映しないことになります。同様に、ブランド、ノウハウ、人的リソースもその金額的価値はB/Sには表れません。一方で、株価には投資家などによる独自の評価も反映されます。社長が交代すると株価は変動することがありますが、B/Sは一切動きません。その結果、(1株当たり)株価と1株当たり純資産の差異が生じる原因となります。