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パーミション

  • 『文學界』2022年02月号

  • 『文学2023』日本文藝家協会編 所収

  • 約090枚/400字詰め換算

権限のない人がやったらダメで、蔑まれたり嫌悪されたり罵倒されたりと手きびしく非難されるようなことでも、権限のある人はしてもいい──というより、むしろしなくてはならなくて、するのがあたり前、さらには、より発展的なこともすべきであり、それらをしないでいると責務を果たしていないと非難されることすらあります。

あるひとつのことが、権限の有無でガラリと意味合いが変わるというのは、特に珍しいことではないかもしれませんが、でもなんだかちょっと不思議な気もするので、前作「キャッシュとディッシュ」を書いたことで、すこしなじんできた文体をつかって、なにか探りを入れられないものかな、と思いついた次第です。

思いつきは大成功!──だったらよかったのですが、なんかちょっとズレたかもしれないな、と思わないでもないし、こちらの浅知恵どおりにならずに済んでむしろよかったのかもしれない、と思わないでもありません。

権限にかぎらず、影響力でも発言力でも、権威でも名声でも、評価でも信頼でも、期待でも資格でもなんでもいいですが、それ以前とそれ以後で、なにかが変わってしまうなら、できるだけ“以前”の状態にいるままで、どうにかできないものかな、と考えてしまう傾向があるみたいです。それもあって、いつまでたってもパッとしないのかもしれませんが(…あ、でも、こういうのはただの言い訳で、ぜんぜん関係なさそうな気がしないでもないです)。

まあでも、手に入れた後の懊悩のほうが、手に入れる前の幸福よりも、きっとそれっぽいことなんでしょうね──けっこう大ぜいの人たちが、そっちのほうをめざすということは。


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