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旅する日本語

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「旅する日本語」投稿キャンペーンhttps://note.mu/info/n/ndba45f9d066a に参加しています。対象になっている全ての言葉について書きました。
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2018年9月の記事一覧

恋草(こいぐさ)

「理由ばかり尋ねる世界で、わけなど一つもなく恋をした」という歌詞が好きだ。 時代の転換期には今までなかったことが言語化され、みんなその言葉に耳を傾ける。 だからということもないけれど、言い表せない感情はとても贅沢だ。自分が好きな気持ちは自由で、その一部は恋人とだけ共有できるのだと思う。 旅をしている時は、普段とは別の時間が流れている。自分の気に入らないところを日常に置いてきて好き勝手に振る舞うこともできる。 旅先で出会った人と恋に落ちたという話を時々聞く。 日常の中

奇偉(きい)

記録する簡単な作業より、何かを見つけることに注意深くいる方が楽しい。モネはその事柄を絵で残してくれた。 この夏に行ったモネの美術展は、魅力的に感じる絵が多かった。 モネの絵は夕日が水辺に反射している色や、木々の隙間から漏れ出ている光の色が鮮やかに見える。強調されたデフォルメに強く惹かれた。 ある色や一部分をフォーカスして描く写真の修正技術をとっくの昔に気づいて実践していたのだ。 でも本当に素晴らしいのは先進的な技法などではなく、美しい目線を景色に投影していたことだ。

差添い(さしぞい)

温泉に行った時、「あっ」という声がして振り返ったら、おばあさんが支えられていた。 どうやら、転びそうになったおばあさんを見知らぬ人が支えてくれたらしい。 付き添いの娘さんが支えた人にお礼を言った後、「ちょっと目を離すとこうなんだから。」とおばあさんに言った。 その声に不機嫌な感じはなくて、朗らかだった。 見る人が見れば、足元がおぼつかない老人から目を離すと怒るかもしれないけど、意思ある人間をずっと見張っておくのも無理がある。 支える人は一人でなくてもいいのだと思う。

幸先(さいさき)

同じ場所に日をおいて何度も旅することがある。 私が気に入っている場所は新旧入り混じる街で、いつ行っても同じものがある安心感と発見の両方があるから楽しい。 ある日その街の割烹の店で、料理人と会話した。 料理人は地元の人ではないらしく「店の入れ替わりも激しくて。」と言った。 私は能天気な自分に気づいた。商いをする側からしてみれば、競争も多く厳しい環境なのだ。 人は大抵、自分のポジションからしか物事を見れない。 「街も自分もアップデートしている感じがして気持ちが良い。」