ニセひまわりの話(架空の虫が登場するグロい話です)

 ひまわり、綺麗ですよね。僕も好きな夏の花です。たんぽぽ、あじさい、あぶらなくらい好き。僕はあの辺の花が同じくらい好きです。ひまわりはその中でも大きくて太陽に合わせて向きを変えるところが独特で、素敵だと思います。

 ところでニセひまわりのことを知っていますか。ニセひまわりはひまわりによく似た生き物、より正確には生き物たちです。生き物たちというのは、ニセひまわりが複数の生き物によって構成されているからなんですが、これはひまわりも人間も同じですね。生物学的な定義はともかく、普段私たちがひまわりと認識するもの、人間と認識するものは微生物を筆頭としてたくさんの生き物によって構成される系です。ニセひまわりも同じだということです。

お絵描きばりぐっどくんが描いたニセひまわりの花

 本題に戻りましょう、ニセひまわりの話です。ニセひまわりという生き物たちは、ひまわりが群れて生えている、ひまわり畑などに存在します。ひまわりが数十本咲いていれば、そのうち一本くらいはニセひまわりが混じっているそうです。

 ニセひまわりはひまわりに本当によく似ています。黄色の花弁が多くあり、中心にはフィボナッチ数列に従って粒が配置されています。花の中心を近くで見れば見分けることができますが、ポピュラーな見分け方は太陽の方に向かって向きを変えるかどうかです。ひまわりは花の成長中に太陽を追って回る一方で、ニセひまわりは必ずしも太陽の方を向いているわけではありません。偶然向きが一致することもありますが、しばしばニセひまわりはひまわり畑でぽつねんと、明後日の方向を向いています。

 ニセひまわりは、主として虫たちによって構成されています。花弁のように見えるものは、成虫の羽です。花弁の一枚一枚が、ニセひまわりを構成する虫の成虫です。中心に整然と並ぶ茶色の粒はその虫の卵です。卵は外側にあるものから順に孵化し、これまた茶色のイモムシ状の幼虫になって花の中心部の外側にとどまります。幼虫は花が咲いている向きと垂直に立つような形でひしめき合っていて、結果的に本物のひまわりとよく似た形になります。本物のひまわりの中心部も、外側は筒状の器官が立っているんですよ。ニセひまわりの中心部は卵と幼虫ですから、似ているといっても近くでじっと見ていればひまわりとの区別がつきます。卵には粘液がついていて近くで見れば見ただけでわかるくらいベトベトしていますし、幼虫も動く時は動きますからね。

 ニセひまわりの茎や葉の部分は本物のひまわりです。本物のひまわりだったものというべきかもしれません。ニセひまわりはもちろん種子から育ってきたわけではなくて、すくすくと花をつけたひまわりの花の部分だけが虫のコロニーに置き換わるのです。ニセひまわりの成虫たちはひまわり畑に生えているひまわりのうち一本に目をつけ、数日間かけて花びらを食べて、花びらがあった位置に収まります。花びらをすべて食べてしまった後はひまわりの花の中心にある粒も食べて、その位置に産卵します。一本のひまわりをまるまるニセひまわりのコロニーにしてしまったら、成虫たちはニセひまわりの花を形づくりながら交代で根本の葉っぱや周囲のひまわりを食べます。ニセひまわりの成虫たちは畑ごと枯れる頃まで生き延びるようです。

 ニセひまわりは変わった生態をしていると思うかもしれませんが、この生態にはこの生態なりの合理性があります。ニセひまわりは、群れごとひまわりに擬態することでより強い虫や鳥などから身を守っています。ひまわり畑にコロニーを構えることで、成虫は餌に困りません。成虫はまわりのひまわりを食べます。中心部に立っている幼虫たちはひまわりの花にとまった虫たちを食べています。ニセひまわりの中心部の卵の粘液には強い毒性があり、小さな虫は周辺にとまっただけでしびれてじき死んでしまいます。ニセひまわりの幼虫はもちろん自分たちの卵についている粘液の毒には耐性がありますから、花の中心部の卵の近くで死んでいる小さな虫たちを食べるのです。足りないときは成虫が周囲の葉をちぎって幼虫に運んでくることもあるようです。

 ニセひまわりは目立った動きをとることが少なく、遠目にはやはりひまわりにしか見えません。根元から折って切り倒したりすれば違うひまわりを目指してみんなで飛び去ってしまいますが、そうでもなければじっとしています。たとえば幼虫の動きがわかるくらい近くで眺めていてもじっとしているはずの不思議な虫たちです。成虫は夏が終われば死んでしまいますが、幼虫たちは地面で生き延びてサナギの姿で越冬します。次の夏にはまたひまわりの花畑を見つけてそのうち一本をニセひまわりにし、次の世代を育てます。

 人には無害ですが、少し怖いような気色の悪いような虫たちですね。嘘です。そんな虫はいません。


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