ピアノの発表会に出る話

 明後日、ピアノの発表会に出る。簡単な練習曲を弾く。練習曲とはいえ、弾いていて楽しい曲だ。発表会前の気持ちとか、練習の様子とか、すぐに忘れてしまうものだろうから残しておこうと思う。

 ピアノは半年前くらいに始めた。もともとソルフェージュ(楽譜の読み書きやリズム・音程に親しむ練習)のレッスンに通っていたが、先生がやめてしまわれるので同じ教室でピアノを始めることにした。ピアノは中学生か高校生くらいまで習っていたと思うが、それ以来久しぶりなので楽譜の読める初心者という状態だった。

 レッスンを受け始めて半年以内の発表会で、しかも発表会の本番時期は大学の試験とかぶる二月上旬だから発表会に出るかどうか迷った。新しいピアノの先生も無理に出なくてもという態度ではあった。しかし私は発表会に出ることにした。
 発表会に出ようと思った最も大きな理由は、上達したいからだ。発表会で弾く曲は何か月か練習できるため背伸びをした曲を選びがちで、その曲を弾けるようになる過程で飛躍的に上達できると私は思っている。実際、過去にピアノを習っていた経験から言ってもそうだった。
 そもそも忙しい時期ったって、私はだいたいいつでも忙しい。ここ数年で暇だった時期を挙げる方が難しい。今やらないなら少なくとも院生の間にはやらないだろうなと思った。そう思うと、発表会に出ておきたくなった。

 およそ二か月くらい発表会の曲を練習してきたと思う。最初は本番で弾こうと思うテンポの倍遅くしても弾けなかった。今はずいぶん弾けるようになってきた。とはいえ自分の演奏を録音して聴くとよくないところがたくさん目立つ。自分の録音を聴く時間ほど嫌な時間はない。
 数日ごとに何かしら上手になっているというくらい、今は下手だ。これはもうこの曲の練習不足とかではなくて、初めて半年も経たないのだから一般的な技術不足としてそんなものだと思う。実際発表会の練習は勤勉にしている。一日三回も練習時間をとる日も珍しくない。
 そんなだから本番の一週間前になってもあまり緊張していなかった。緊張とは、自分が何かしら試される時に実力を発揮できるか不安になることだろうと思う。私の場合、試されるのは今の自分ではなくて上手になった数日後以降の自分だと思うとどこか他人事で、緊張できなかった。とはいえ明後日ともなるとさすがに緊張もしてきた。上手に弾けるといいな、と思う。

 発表会の準備の過程で新しく身に着けたことはたくさんあると思う。初歩的なことだと思うけど、同じ音符を均等な長さで弾くための練習方法とか、メロディを立たせて伴奏は常に抑えることとか、メトロノームを使って練習するとよいとか、片手練習や部分練習の意義とか、そのレベルの話。
 子どもの頃にしていた練習は怠惰だったし頭を使えていなかったな、と思う。今は頭を使って練習するし練習量も昔とは全く違うし、一度は体になじませたものを取り戻すような練習でもあるから上達は昔よりもとても速い。楽しい。
 今回の発表会の準備で特筆したいのはピアノを楽しむ方法を身に着けたことだと思う。練習中にメロディを歌う練習もできるようになったこととか、本番で着る服を楽しく考えることとか、知り合いに発表会のことを楽しそうに話すとか、聴いてくれるという方を招待するとか。ピアノは楽しい趣味だなと発表会の準備の全ての過程を通じて思えた。
 特にメロディを歌う練習は素敵だと思う。メロディを歌う練習は音感を養う助けになるし、曲を上手に弾き、万一の時にミスをうまく隠せるようになるためにも必要なものらしい。しかしそれだけではなく、メロディを歌う練習は、自分がしていることが単なる指の運動ではなく全身と精神を活用する音楽であって、音楽はこんなに楽しいんだと体で思い出させてくれる。照れがあってなかなかできなかったけど、できるようになったのはとっても嬉しい。

 発表会までの時間を楽しみ尽くしたいと思う。いい思い出にできたらいいな。

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