『Dr.ハルトムートの冒険』:The Betweenリプレイ

 日本語化されていない海外のインディーズTRPG『The Between』のリプレイです。KPはふぇるさんhttps://twitter.com/feltk、プレイヤーはdjangoさんhttps://twitter.com/django88628676、ぴろきさんhttps://twitter.com/piroki_wod、Hayakawaさんhttps://twitter.com/hayakawa74、そして折易https://twitter.com/o_ri_iでした。プレイヤーの皆さんの許可を得てリプレイにしています。ありがとうございます。
 
    ※  ※  ※
 
 さて今回は、全員がなんらかの形で英語のゲームを日本に紹介しているという屈強なメンバーで、The Betweenという未訳のナラティヴ系TRPGを遊んでいきます。簡単に特徴を述べると、
 
・ヴィクトリア朝ロンドンで超常狩り
・ミステリ仕立てなんだけど真相はシナリオで決まっておらずプレイヤー任せ
・キャラの過去をどう語るかがルールで定められている
 
 みたいなのが売りのゲームです。
 
 今回も、何が起きているのかわかる程度に解説しつつ、ルールより雰囲気優先で書いていきます。(未訳のゲームのルールを詳しく書くのはアレですし)
 また今回は全員が初めてというお試しプレイで、ルールどうだっけ? みたいに再々なったのですが、その辺は適当に編集してあります。

■□■イントロとキャラクター紹介

KP:はい、このような挑戦的で怪しげなセッションにお集まりいただきありがとうございます。The Betweenというゲームをやっていきます。
プレイヤーたち:よろしくおねがいしますー。
KP:改めてさっくり解説します。このゲームは1860~70年代のロンドンを舞台にしていて、PCは言ってみれば妖怪ハンターのようなことをしています。各PCは謎めいた暗い過去を背負い、それはある程度ルールで定められています。ユーモラスでダーク、時にはアダルトでエロティックな雰囲気を指向しているゲームです。
プレイヤー:シャーロックホームズよりちょっとだけ前ですね。でもあんな感じの町並みかな。
KP:PCたちはハーグレイヴ館というところに住んでいます。これは古くからロンドンにあり、代々超常狩りの本拠となっているという建物です。
プレイヤー:我々は誰かに雇われていたり、ボス的な人がいたりするんでしょうか?
KP:そうではない、ですね。というか、そういった設定はプレイヤーのみなさんが決めてよいことになっています。基本的には、各PCはそれぞれの事情によりこの館に集まり、自主的に超常狩りをしていると思って下さい。
プレイヤー:なるほど。
KP:もう一点、このゲームではプレイヤーのためにハンドアウトがあるんですけど、それがけっこうあからさまに元ネタがある感じです。例えば今回のPCに生命創造者がいますけど、非常にフランケンシュタイン博士を思わせる造形です。今日はいませんが、ドリアングレイみたいなキャラもいます。というわけで、みなさんキャラの自己紹介からいってみましょうか。
プレイヤー:自分のキャラが「用人」で、他のキャラの一人に仕えるキャラなんですよ。自己紹介の順番を最後にしてもらって、他の人のを聞いてから誰に仕えるか決めたいです。
KP:ではそうしましょう。あと、このゲームでは自分のキャラの過去について語るタイミングがルールで決まっています。テレビドラマ的な展開が意図されていて、物語の途中で登場人物の過去がわかる回があるイメージです。セッション中に薄暗い秘密が明らかになってゆくので、今の時点では自己紹介は簡単なものにとどめて下さい。ハンクさんからいきましょうか。

ハンク:はい。ハンク・ナバロです。「米国人」です。アメリカ人でくくってアーキタイプっていうのもすごいですね(笑)。このゲームの舞台はイギリスなので、アメリカから渡ってきて、このハーグレイヴ館にいます。外見は、擦り切れたダスターコート、細身だけど筋肉質、シガリロのケース、という感じです。悪習は安ウィスキーです。
 
(※:外見や悪習はルールに多くの選択肢があって、好きなのを選ぶとそれっぽいキャラができるようになっています。自分で自由に決めてもよいです。)
 
ハンク:で、イーストエンドとかの悪所に行って飲んだくれてます。「ほっといてくれー」という感じのキャラですね。拳銃の腕前はなかなかで、アメリカにいた頃はそれを見世物にして旅一座に加わったりしていました。
 
(※:過去を語るなと言われたのに語りはじめたぞと思われるかもしれませんが、この辺りは最初からキャラシートに書かれていて、他のプレイヤーにも見えている情報です。ルールによってある程度のイメージが提供されており、プレイヤーはその先の詳しい部分を考えるわけです。)
 
ハンク:今では飲んだくれに拍車がかかって、館のみんなになんとかしてもらいつつ生きています。
他プレイヤー:(笑)
KP:はい、このハンクさんに、皆さん質問はありますか?
他プレイヤー:飲んだくれだけど、銃は上手いんですよね。
ハンク:いや……。
他プレイヤー:いや(笑)。
ハンク:ルールには銃の能力あるんだけど、取ってないんですよ(笑)。設定上でだけ銃がうまいという。能力的には肉体系です。
 
KP:では次はサイモン・パーシー卿
サイモン卿:はい、ロード・サイモン・パーシーです。ノーサンバーランド公爵家に連なる貴族でして、現在の当主の弟です。当主がすごく堅物で反りが合わず、しかも自分は庶子なので、好きに暮しています。ヴィクトリア女王陛下への敬愛の念は誰にも負けず、世界を飛び回って大英帝国のために活動していました。その内に大英帝国に害をなす黒幕の存在に気付きまして、こいつと戦えるのは私しかいない、と覚ったので、イギリスに戻って超常と闘っています。
KP:はい、いま黒幕という言葉が出ましたが、このゲームには黒幕がいます。これは単発のセッションにはちらりと顔見せをするだけで、キャンペーンを遊ぶときにラスボスになる敵です。言ってしまえばモリアーティ教授のようなイメージです。サイモン卿の元ネタはおそらくマイクロフト・ホームズとアラン・クオーターメインが半々です。
サイモン卿:サイモン卿ですが、貴族ではありますが、実は下々に混じって下賎な遊びをすることがしばしばあります。貴族社会ではちょっと眉を顰められる感じ。悪習はジンです。
KP:すでに飲んだくれ率50%。
他プレイヤー:いやいや、ジンは薬ですから。
他プレイヤー:赤ちゃんに飲ませたりもしますからね。
サイモン卿:旅先でも何度となくジンに助けられました。あと、これはルールにもあるんですが、英国探検家俱楽部というクラブに所属していまして、そのメンバーに色々助けてもらう能力があります。
KP:はい、他のプレイヤーの方質問は。
他プレイヤー:ハンクさんの酒の趣味をどう思いますか?
サイモン卿:まあ彼はね、アメリカ人だからね、仕方ないね。
 
KP:では次は、ドクター・ハルトムートお願いします。
Dr.ハルトムート:はい、ドクター・ハルトムート・ウェイクフィールドです。ハルトムートはドイツ系の名前なんですけど、親が子供を医者にしたくてドイツっぽく名付けただけのイギリス人です。外見は、中古のシルクハット、射るような鋭い眼、清潔で質素な手。人体構造を熟知しているロンドンでも有数の医師です。大学などに身分を見つけることもできたはずなんですが、より薄暗い道に踏み込みました。彼は生命の創造を試みていまして、ハーグレイヴ館に研究室を持っていて日夜実験をしています。キャラ絵一応描きました。

KP:ヤバそう(笑)。
ハンク:なんだこいつは。
Dr.ハルトムート:飼犬です。
ハンク:ソウデスカカワイイワンチャンデスネ。
Dr.ハルトムート:名前はスティッキー。
サイモン卿:うん、まあ。
KP:これを連れ歩いてるんでしょうか。それともこの人には世界がこう見えてる、みたいな人なんでしょうか?
Dr.ハルトムート:こういうのを生み出したんですが、これを連れ歩くわけにはいかないので、こいつはハーグレイヴ館から出さない感じです。
KP:はい、OKです。
 
※※※※※※
 
 というわけで、僕のキャラがドクター・ハルトムートです。アーキタイプは「生命創造者」です。「こども」の人体を完成させようとしている。「こども」とはかつて「生命創造者」が愛し、失ってしまった人物を再現しようとしたものだ。というところまでがルールで決まっていて、その先をプレイヤーが考えます。
 というわけで、自分が生み出そうとしているのはどういう人物かを考えてあるのですが、この設定については、自己紹介の時点では話すことができず、本編中に徐々にこれを明かしていくことになります。なお、事前に特に考えず、セッション中にアドリブで考えてもよいというゲームです。
 
※※※※※※
 
Dr.ハルトムート:治療系の能力を取ったので一応ヒーラーです。あとこの人は館に研究室を持っていて、「見ちゃ駄目だぞ」と言いながら一人で何かしています。
KP:ではやはり他の人から質問は。
ハンク:酒の趣味について(笑)。
Dr.ハルトムート:悪習はですね、リストに浄化強壮剤という怪しげなものがあったのでそれで。
KP:これは訳してても謎だったんですけど、当時そういう感じの栄養剤が流行ってたらしいです。
Dr.ハルトムート:では、飲むと汗をダラダラかいてガタガタ震えながら元気になるみたいな薬です。
サイモン卿:駄目だ(笑)。
Dr.ハルトムート:駄目じゃない!
ハンク:アル中、アル中、ヤク中……。
 
KP:では最後、「用人」のアルフレッドさんは誰に仕えますか。
アルフレッド:執事なのでアルフレッドです。仕えるのはパーシー卿かな。
サイモン卿:まあ順当ですね。
アルフレッド:元々は本家に仕えていたんですけど、当主が、「あの跳ねっ返りの面倒を見てやれ」と言ってアルフレッドを派遣しました。サイモン様のことは子供の頃から世話していて、親身に大切にしています。キャラの悪習は私設馬券屋にしました。予想を売ったりもする。
Dr.ハルトムート:大分入れ込んでる賭け師だ。
アルフレッド:スキットルを持っていまして、中にはジンが入っています。「ぼっちゃまどうぞ」
サイモン卿:「やあありがとう」(笑)
 
KP:はい、ここから、各キャラクターがアイテムを得ていきます。これは使用するとセッション中に判定が有利になります。で、各キャラクターに対して、他のプレイヤーが、その人が持っていそうなものを一つずつ挙げて、それがアイテムになります。選んでいきましょう。
 
 というわけで、各キャラは以下のアイテムを得ました。
 
ハンス・ナバロ──酒瓶、ネイティブアメリカンの仮面、かつての出演ショーのポスター
サイモン・パーシー──望遠鏡、女王陛下にもらった勲章、羅針盤
ハルトムート・ウェイクフィールド──大切な人の写真のロケット、診療鞄、小型電気発生装置
アルフレッド──乗馬鞭、日記帳、サイモン卿の父から託された書面
 
KP:最後に再確認ですが、このゲーム、シナリオはありますが、真相はシナリオでは決まっていません。各シナリオはこのゲームでは「脅威」と呼ばれています。脅威には、どんな事件があったか、被害者や関係者は誰か、どんな手掛かりが手に入るか、が書かれています。プレイヤーはそれらから、辻褄が合うように説明を考え出し、そして判定します。判定が成功なら、それが真相になりますし、失敗ならばそれは間違った推理だったことになります。この判定では難易度を選ぶことができ、低い難易度では力ずくでの解決、高い難易度だとエレガントな解決ができます。手掛かりを多く集めると、判定の際に有利になります。大丈夫でしょうか。
プレイヤー一同:はーい。
KP:ではいよいよ、セッション本編に入っていきます……。
 
■□■第一の日中
 
KP:では、最初の脅威『顔なしサリー』が始まります。ちょっと読み上げましょう。「デイリー・テレグラフ紙に、クララ・ヤーボローという洗濯女がホワイト・チャペルの共同住宅の廊下で死体となって発見されたという記事が出た。彼女の顔は丁寧に剥がされていた、とある。このような事件は今月3件目で、他の二人の犠牲者、エドワード・クライブとドリー・メリーウェザーもホワイトチャペル住まいだった。人々はすでに、顔無しの老サリーの仕業だと噂しているものの、顔無しサリーなど単なる言い伝えにすぎない……」というものです。顔なしサリーとは都市伝説に出てくる存在で、大火傷で顔を失って木の仮面をかぶり、人間を襲って顔を剥ぐと言われる老女です。
サイモン卿:ううむ。
KP:果たして事件の犯人は? 顔なしサリーは実在するのか? といったことを解き明かしていただきます。そして、KPはプレイヤーの一人を選んで質問をします。誰かな……? この事件だと……、ドクター・ハルトムートかな。
Dr.ハルトムート:おっと、はい。
KP:ハルトムートさんは、この犠牲者クララ・ヤーボローと関わりがあります。どんな関わりでしょう。
Dr.ハルトムート:おっと、そうだな……、ハルトムートはスコットランドヤードで検死を頼まれたりしてるので、署のモルグで死体を見る、とか?
KP:んん……、ここでは、生前のクララと個人的に関わりがあるようなのが欲しいんですが。
Dr.ハルトムート:ではさっきのは無しで……。洗濯女ですよね。そうだな、ハルトムートはときどき墓場を掘ったりしてるんですけど、そうすると古着が溜まるんですね。下手に処分するのも噂が立つと困るし、というわけで、溜まった古着をクララに下げ渡していました。洗って、仕立て直したりして売っちゃっていいよ、と。こっちは面倒が解消するし、クララには小遣い稼ぎになる。
KP:死臭漂う関係だ。ではですね、その日、古着が詰まったカバンをもってホワイトチャペルに向かうとですね、殺人事件があったらしく大騒ぎになっています。廊下にまで血が流れていて、ベッドには死骸があります。クララの服を着ているんですが、顔が綺麗に剥がされています。
Dr.ハルトムート:「なかなかの手際だな」と呟きます。で、顔はないんですけど、他の部分の骨格などを見て、間違いなくクララだ、というのがハルトムートにはわかります。
ハンク:プロだ。
KP:スコットランドヤードの刑事が来ていて、「先生、聞きつけて来られたんですか?」。
Dr.ハルトムート:ほんとは偶然だけど、聞きつけたことにしておこう。「うん、なかなか凄惨な殺しだね」
KP:というわけで、ここから日中フェイズが始まります。これは比較的平和に物事が進むフェイズです。日中とありますが、これは状況がまだ落ちついていることを示す概念的な言葉なので、実際の場面は夜であったりしても構いません。
サイモン卿:ふむふむ。
KP:みなさんは、犯罪捜査をしてもいいですし、自キャラのキャラ立ちをさせるようなロールプレイをしてもよいです。
 
(※:このゲームには、自キャラをキャラ立ちさせるようなアクションで経験点が溜まるルールがあります。)
 
KP:で、ある程度話が進んで、KPがこの先は危険な活動の時間だなと思ったら夜中フェイズに移行します。こちらの方が危険が多いです。この夜中というのも概念的な言葉で、文字通りに夜の出来事というわけではないです。日中フェイズには皆さんはかなり自由にやりたいことができるのに対し、夜中フェイズはKPが危機的な状況を次々と突きつけます。
Dr.ハルトムート:今は日中フェイズなんですね。そうだな、練習的に情報収集のアクションをしてみたいな。周囲には野次馬も多いと思うんですが。「誰か何か見ていないか」と聞きたいです。
KP:そうですね、ではまず、「シーンを彩る」を行ないましょう。これは、各プレイヤーがこの場所にあるものを言っていくというルールです。このゲームでは、ときどきこれを行なうことで場面の雰囲気を作ってゆきます。ここは三階建てで乞食と売春婦だらけ、という建物です。しかしこれは当初は慈善事業によって作られた建物で、荒廃していますがちょっと金のかかった建築でした。各プレイヤーは何か一つそれらしい特徴を挙げて下さい。
Dr.ハルトムート:ふむむ。
 
 というわけで上げられたシーンの特徴が以下です。
・洗濯女が使っていたミシンは不似合いに高級だった。しかしそれをもはやかっぱらおうとしている者がいる。
・窓が広く、部屋はアトリエっぽい雰囲気
・調度品も立派なのだが今では見る影もない
 
KP:はい。ではこのような雰囲気の中です。ちなみにスコットランドヤードの刑事は大家から事情を聞いています。野次馬は、そうだな、夜の仕事の人は寝ているし、刑事に話を聞かれたりしたくない人が多い地域なので、そんなにいないかな。
Dr.ハルトムート:それなら、事情聴取を立ち聞きするということで情報収集の判定をしたいですが。
KP:2D6に理知の能力値を足してロールしてみましょう。
Dr.ハルトムート:(ころころ)5。これは失敗したやつだ。えっと、「過去の仮面」っていうルールがありましたよね。
KP:はい。過去について語ることで、ロール結果を一段階改善できます。語るのは今じゃなくてもいいですが、セッション中のどこかで語らねばなりません。
Dr.ハルトムート:それをやります。すると……?
KP:では手掛かりを得ます。どれがいいかな……。そうですね、立ち聞きよりも、彼女の死体ですね。死体の静脈が黒ずんでいて、毒物が使われたことがわかります。通常の毒ではないですね。
Dr.ハルトムート:ではそれを見て、「ただの殺しではないな。館の仕事か」と呟いて、ハーグレイヴ館に戻っていって皆に知らせる、かな。
KP:いいですね。では館で、他の人も説明を受けました。
サイモン卿:「下層階級の者たちが、顔無しサリーの仕業だと騒いでいる事件か」
Dr.ハルトムート:「あんなものは迷信だよ」と返しておきます。
サイモン卿:「迷信も馬鹿にならんよ。密林の原住民の言葉が真実だったことは何度もあった」
ハンク:「人がおっ死んでるのは本当なんだろ?」
KP:すでに三人死んでます。
Dr.ハルトムート:「この犯人は教養のあるやつだ。顔の剥がし方など実に手際がよかった」
サイモン卿:「人間だというわけか」
ハンク:「怪物が毒を使うのは変だしな。でもまあ死体の顔を剥ぐようじゃ、心の方はもう怪物だろうさ」
Dr.ハルトムート:声に出さずに(ときどきやってる)と思います(笑)。
KP:アルフレッドさんは会話に参加せずに控えてますか?
アルフレッド:旦那の紅茶にジンを入れています。
サイモン卿:「ありがとう」(笑)
アルフレッド:「お代わりでございます」
サイモン卿:「頭がどんどん冴えてくるよ。この事件の犯人はインド人かもしれないな」
アルフレッド:「毒を使う奴らとは何年か前にやり合いましたね」
サイモン卿:「ネパールの奥地だったか、あのときは大変だったな……」
 
(※:二人ともアドリブで適当言っています)
 
KP:さて、今は日中フェイズで、各プレイヤーはやりたいことを好きにロールプレイしてもいいし、証拠集めをしてもいいです。
Dr.ハルトムート:証拠というのは何個くらい集めればいいんでしょうか? 具体的な数は秘密だとしても、目安が欲しいというか。
KP:この事件なら、一番シンプルな解決法なら最低4つ、凝った解決法をするなら最低8つ、くらいですね。
Dr.ハルトムート:ありがとうございます。
KP:いま言った数字よりも多く集めると、判定が有利になっていきます。ただしこのゲームは皆さんが証拠から真相を語らねばならないので、証拠が増え過ぎると推理に盛り込むのが一苦労です。
サイモン卿:そうか、自分たちで考えるんだった。現状の証拠はまだ毒だけか。
Dr.ハルトムート:推理小説っぽく考えるなら、三人の被害者はつながりが有るのか無関係なのか、とか調べるといいかも。
ハンク:それをやろうかな。「被害者に繋がりがあるのか気になるな。俺がちょいと調べてこようか。サーみたいに上流階級には入れねえけど、下町には詳しいからね」と言って、ヨレヨレの帽子とダスターコートで出かけていきます。
KP:どこに行きますか?
ハンク:ハンクは東欧系で、そこからアメリカ移民になったんですよ。なので下町でも東欧系の奴らがたむろしている酒場に行って、えっと、エドワードとドリーとクララか、三人の被害者について知ってる者を探します。
KP:道にゴミが散らばったままで、清掃する者などいないような区画で、行きつけの酒場が何件かあります。
ハンク:ポケットに手を突っ込んで肩をすぼめて、「ケイトだったらいるだろう」と呟いて、昼から開いてる店で顔見知りの酒場女のところに行きましょう。
KP:では……、髪がぼさぼさで口紅を塗り過ぎ、みたいなケイトさんが「あら旦那、いらっしゃい」と。ちなみにハンクさんはハーグレイヴ館にいることもあって、この辺の住人よりは金回りがいいので、受けが良さそうです。
ハンク:「やあケイト、座ってくれよ」
KP:「今夜は私があなたの港なの?」
ハンク:シガリロを出して勧めながら「今日はそっちじゃない方なんだ」
KP:そうするとケイトもちょっと目が覚めた感じになります。このケイトは、ハンクさんの館の仕事をある程度知っているんでしょうか?
ハンク:ケイトは、ハンクがクズみたいに酔っ払って激しく求めてしまったことがある女で、なんとなく相性が良くてずるずる続いてるんです。館の仕事についてはっきり話したことはないんだけど、なんとなく察しています。
KP:じゃあ、もらったシガリロに火をつけて「何のネタが欲しいんだい?」と、小狡い目になって聞いてきますよ。
ハンク:メモってきた紙を見ながら、三人の被害者、エドワード・クライブ、ドリー・メリーウェザー、クララ・ヤーボローについて何か知らないか聞くわけですが……。
KP:では情報入手の判定ですね。風采で判定かな。
ハンク:アイテムの酒瓶で有利にします。ケイトに注いでやる。貴腐ワインです。
KP:「アンタの持ってくる酒はここのクソ酒よりずっといいね」
ハンク:有利なので、D6を三個振って、大きいもの二個の出目にさらに風采の1を足す……(ころころ)。6です。
KP:とても低いですね(笑)
ハンク:これは駄目だ。過去を話して成功段階を上げるやつをやります。「裕福な子供時代のフラッシュバックを語る」か。じゃあちょっとフラッシュバックを起こしますね。ハンクの一家はポーランドの亡命貴族でした。ハンク・ナバロはスペイン系の名前で、これは偽名です。子供の頃の食卓で、豪華な食事が並んでいる。大人の誰かがハンクの本名を呼ぶんですけど、それはぼやけていて聞き取れません。「ワインをお飲み」と勧められて、「これすごく美味しいね!」と。
KP:子供に酒を(笑)。
ハンク:トーケイワインです。
Dr.ハルトムート:甘い、いいやつだ。
ハンク:めっちゃ高いやつです。
KP:それには及ばないとしても、ケイトに勧めたのもなかなかいい酒だったということで。判定が成功になって、彼女が話します。えーと、これかな。ケイトさんは、事件の夜の話というのを聞き込んでいました。一人目のエドワードが殺された夜、ホワイトチャペルの裏路地にて、「認めなかったものたちに報復を」とわめきちらす人影があったそうです。あまりにも常軌を逸していたので、誰も関わりになりたくなくてそれきりなのですが、後からあれが犯人じゃないかという噂になりました。
ハンク:ふうん……? エドワードというのは、上流階級の人間か、下町の住人か、どちらなんでしょう?
KP:どちらに決めてもらってもいいですよ。
Dr.ハルトムート:なるほど。このゲームでは真相をプレイヤーが考えるので、今の時点から考え始めねばならないのか。新しいな(笑)。
サイモン卿:そうか~~~、むむ。
 
KP:はい。そういう感じでハンクさんが手掛かりを一つ得ました。次は、そうですね。主従の二人は一緒に動きますか別行動ですか?
アルフレッド:基本は旦那についていくかなあ。
サイモン卿:そんな感じで。
KP:どこを調べます?
サイモン卿:王立探検家クラブの会合に出ますよ。
KP:おおー。
 
(※:王立探検家クラブは探検家のキャラクターの特殊アビリティです。有力な貴族の集いに出て、人脈で色んなことができます。判定はなく自動で情報が入りますが、使用回数が限られています)
 
KP:ではまず、会合の建物なんかを描写してほしいところですが。
サイモン卿:探検家のクラブなので……、大英博物館の一角にVIPルームがありまして、そこに定期的に集っています。上等なワインと料理が供されて、みんなでくつろいで話をするような場所です。
KP:貴族たちがいろんな噂話に花を咲かせていると。ちょっと下世話な話もしたり。あるいは海外の今の政情に関して論じたり。
サイモン卿:そうそう。その中で、ふと思いついたように今回のホワイトチャペルの怪事件について話題にしてみます。「そういえば、こんな話があったな、アルフレッド」、とアルフレッドに話しかける感じで。
アルフレッド:「そうでございますね。ぼっちゃま。たまたま耳にした話では、死体の顔は皮を剥がれているとか。貧民どもが行なう暴虐は計り知れませんな」
サイモン卿:クラブのメンバーにウード卿という超自然現象に詳しい人がいます。ルールには、不安を抱かせるほどに青白く、夜のように黒い瞳、脚を引きずって歩く、と描写されています。その彼に、「どう思うかねウード卿。これは何かのオカルトにかぶれた者の仕業か、あるいは本当に超自然の力が働いていたりするだろうかね。スコットランドヤードの方では単なる頭のおかしい殺人者の仕業だと見ているらしいが、どうも彼らは頭が固すぎて、私は気に入らないんだよ」
KP:ではウード卿は少し考えて、「いくつか思い当たる節がなきにしもあらずです。そもそも綺麗に顔を剥がすなどということは誰にでもできるものではない。貧民が犯人だと考えるのは無理があるでしょうな。犯人は少なくとも医者か、あるいはそういった呪いや魔術に通じている者かもしれません」
サイモン卿:「なるほど、医師か魔術師。あるいは、その両方という可能性も……?」
KP:「あり得る話ですな」ということで、このアクションは二つの手掛かりが得られるんですが、まず一つ目。そういうものに対して少し心当たりが、という話になって、ウード卿は、金色のエンボス加工のカードを出して見せてくれます。これは貴族の間に密かに出まわっており、それを持つ者は新しい芸術と医療の展示会へ密かに招待されるという話があるそうです。
アルフレッド:なるほどね。秘密のクラブの頭のおかしい金持ちが、貧民を相手に人体実験を、みたいなことがありそう。
Dr.ハルトムート:この私を差し置いてって言いたいが、その場にいない。
KP:「私は興味がなくてね。差し上げますよ」
サイモン卿:「これは興味深いです。なるほど、やはりあなたにお尋ねしてよかった」
KP:そしてさらにウード卿は、これと関係があるかもしれないもう一つの噂も教えてくれます。
サイモン卿:なんだなんだ。
KP:上流階級の間で、不老の泉というものの存在が囁かれています。年齢に比べて外見が若すぎる人々がいて、不老の泉を見つけたんじゃないか、などと言われている。しかしウード卿は「それを聞いていると、不老の泉みたいな神秘的な話ではなく、もっと具体的な何かをやってるんじゃないかと感じるんだよ。推測に過ぎないがね」と付け加えます。
サイモン卿:「いやいや、実になんというか、身の毛のよだつ話ですな」くらいに返しておいて、ジンを飲んだりしていましょう。
KP:他の貴族たちが、「しかしいかなる影も、このクラブまで入り込むことは決してないさ、乾杯」、「乾杯」などと言って明るく笑ったりします。
サイモン卿:いやー、退廃貴族って感じですね。その一員ですが。
KP:というわけでサイモン卿は手掛かりを得ましたが。アルフレッドさんの方も何かしますか?
アルフレッド:キャラに合ったロールプレイをすると経験点になるルールありましたね。
KP:はい。夜明けの時点で、条件に当てはまるロールプレイをしたかチェックして、当てはまれば経験点が入ります。
アルフレッド:「雇い主を怒らせた人物に、些細な仕返しをした?」にあたる行動が何かできるかな。
KP:そうですね、この場で酔っぱらって礼を失した行動をとってしまうというメンバーはいるかもしれません。
アルフレッド:では、でっぷりと太った中年のおばさんが「まあオカルトですって。そんなものを信じる人がいてはこのサロンの格が下がりますわ」とか言い出します。
KP:じゃあその隣の人が、「大体サイモン卿もサイモン卿ですよ。長らく探検家として身を立て、その名声を上げてきたにもかかわらず、オカルト話を真に受けるなんて。まあ、引退されたっていうのも納得ですわね」
アルフレッド:「それにあのブードゥー教とやらのお話。何の証拠もないデタラメ話ばっかりだわ。どこから仕入れてきたのかしら」
KP:「きっと阿片窟よ。お似合いだわ」
サイモン卿:めちゃめちゃ言われている(笑)。
アルフレッド:という感じのモブの男爵夫人が出てくるので、そうだな、お飲み物のおかわりでございますって言って、違法なまでにアルコール度高くしたジンがスキットルに入ってるんで、無理やり飲ませてぶっ倒れさせよう。
ハンク:すげえ。
KP:じゃあ、それをできるかどうか、やっぱ泰然でロールしていただきましょうか。日中行動としましょう。まずは、しくじった時に、どういうことが起こるのを懸念するかを言って下さい。
 
(※:これはこのゲームに特徴的な行為判定です。プレイヤーは、失敗したらどうなるか、を自分で前もって宣言して、それから判定します。)
 
アルフレッド:しくじったら、飲む前に匂いで何これってわかってしまうんじゃないかな。
KP:では振ってみてください。
アルフレッド:泰然が1なので2D6を足して……8でした。
KP:8はですね。やり遂げることができるがそれによって困難が発生する。やらないことにしてもよい。ですね。では……この男爵婦人の夫である男爵が近くにいます。もしも奥さんを酔い潰すなら、この男爵が貴方がたのことを放っておかないかもしれません。それでも実行しますか。
アルフレッド:やります。
KP:わかりました。では彼女はぶっ倒れました。横にいた男爵はですね。お前何をしたか見ていたぞという顔になります。で、サイモン卿に、あなたの従者は少々やりすぎではないですかな、と険悪な感じで言ってきます。手袋を外しかけている。サイモン卿はどうします?
サイモン卿:まあそうだな。落ち着き払った態度でね、まあまあ、この者にはきつく言い聞かせておきます、ここはそういった場ではございますまいって言って、他のメンバーを見渡します。
KP:理路整然と説くわけですね。
サイモン卿:おいおい君一人で興奮してるのかい落ち付きたまえよ、的な感じで。
KP:ではその説得も日中行動としましょう。しくじった時にどういうことが起こるのが一番怖いですかね。
サイモン卿:それはですね。周囲が、いやいや今のは君が悪いよ、という空気になって、頭を冷やしたまえ、と追い出されてしまうことかな。
KP:わかりました。じゃあ泰然で日中行動で振ってみてください。
アルフレッド:頑張って下さいよ。
サイモン卿:(ころころ)失敗。ということは……?
KP:そうですね。……では、どちらもやめてくれたまえよ、と言われて、両者とも追い出されてしまいますね。
アルフレッド:仮面使っては?
サイモン卿:成功段階を上げられるのか。では過去の話を語ります。
KP:はい。探検家のキャラは、自分の過去ではなく、ある日イギリスの探検隊がやってきた、どこかの村の少年について語ります。
サイモン卿:では、このボーイと呼ばれる少年は、グァテマラの村にいたんですけど文明国に憧れていましてですね。そこにやってきたサイモン卿の探検隊に、私も入れてくださいと言ってきたんです。サイモン卿はその少年に心意気を感じて仲良くしていたんですが、村人が暗い目をしていたのがなんとなく気になりました。あのときの出会いさえなければ、などということを考えながら、サイモン卿はまたジンをぐびりとやるわけです。
KP:では、二人とも追い出される未来が一瞬見えた気がしましたけども、そうはならず、周りの人たちが、まあその通りですなと言い出します。男爵も落ち着かれるがいい、先ほどの夫人の物言いは、あまりにもあまりというもの、あなた方こそがまさしく、このクラブにはふさわしくないと言い出して、男爵を退室させてしまいます。
Dr.ハルトムート:恐ろしいなイギリスのクラブ。
アルフレッド:「坊ちゃまに恥をかかせるわけにはいきませんからな」
 
KP:さて、一周してハルトムート先生。調査としてどこに行かれますか?
Dr.ハルトムート:そうですね。スコットランドヤードかな。死体が回収されてると思うんで、検死解剖します。血液を採集して、毒の分析とかしたいですけれども。
KP:いいですね。それはできます。情報入手というわけで、解剖なら、泰然か理知の有利な方で判定をどうぞ。
Dr.ハルトムート:では有利な方で泰然で振るとして、診療カバンにチェックを入れて有利にします。で、この毒の分析とかをしてみます。(ころころ)8に2を足して10。
KP:それは問題なく手掛かりが見つかる成功ですね。あるいは、この成功度をもう一段階上げますと、通常の手掛かりプラス黒幕の手掛かりが見つかります。
Dr.ハルトムート:それはいいニュースだ。では、過去の仮面をもう一つ投入して成功段階上げます。でもさっきの分の過去話もまだやってませんが。
KP:過去の話は、セッションの終わりまでにやるということでOKです。で、手掛かりなんですけど、毒の分析もできましたが、それとは別に、彼女は指がすべて切り取られていることをあなたは発見します。犯人は、なぜかわからないが、洗濯女の指を切り取っていった。
Dr.ハルトムート:ふうん? ちょっとミステリー寄りなんですけど、指がないのに気付いて、おそらく、彼女は犯人を引っ掻いたのだ、そして、爪の間に犯人を示す何かが入ったのだ、という推理をしてみましょう。
KP:それを知られないように、指を切り取っていったと。ならば犯人は普通に医学知識、その他の法学法、医学的な知識は結構あるような人物であるかもしれないですね。
Dr.ハルトムート:そういう風に推理を進めています。
KP:付け加えると、断面でわかりますけど、彼女の指を切り取ったのは、おそらく鋭利な外科用のメスだと思われます。そしてもう一つ、黒幕の手がかりが出ます。解剖していた時にですね。彼女がおそらく死の直前に飲み込んだものが胃の中から発見されます。真っ暗な胃の中にですね、小さな青い宝石が入っていました。
Dr.ハルトムート:なんだそれは。
KP:これが黒幕の手がかりということになります。
Dr.ハルトムート:ふうむ? この宝石をどうしよう。持って帰っていいのかな。警察の証拠品ではあるんだけど、警察に渡しても仕方ない感が強い。
KP:もちろんどちらでもいいですが。持って帰ってもばれないと言ってもいいでしょう。
Dr.ハルトムート:そっか、じゃあ「うむ」って言って、紙に包んで、カバンにしまい込んで持って帰ります。あ、そうだ。ここで過去の話を一つ喋っておきましょう。失った大切な人の名前を語らなければならないので、死体の様子を思い出しながら、「毒が使われたか。あの体ではヘラルドの役には立たないな」と呟きます。
KP:なるほど。
Dr.ハルトムート:それが僕の大切な人物の名前です。ヘラルド。
 
■□■第一の夕暮れフェイズ
 
KP:では、そんなことがありまして。皆さんが色々と証拠などを揃えて帰ってきたところで、夕暮れフェイスに突入します。さて、夕暮れフェイズになると、大変な目に合う人が一人いますね。ハンクさんが、泰然か霊感で判定を行なって、失敗するとなんかえらいことになります。
ハンク:野生の胎動のルールですね。どっちの能力値もないから単に振る(ころころ)失敗なんですが。
KP:過去の仮面を使って成功度を上げることもできますが。
ハンク:成功度を上げてもいいんだけど……。上げない場合は、キャラが引退して怪物化するか、自分の呪いについて他の狩人の誰かに語り、その夜の間自制を保つための協力を頼むかなんですよ。すると二人が夜の間行動できなくなるんですが、初プレイだし、そういうこともあってもいいような気もする。
Dr.ハルトムート:あ、呪いの相談を受けるロールプレイはちょっとやってみたいんですよ。
ハンク:じゃあやってみるか。まあ、先生に明かすんだろうな。では、呪いが発症する前に、手に入れた情報はみんなに伝えたことにしておきます。ケイトのいる店から帰ってきて、被害者のエドワードが殺されていたときに叫び声が聞こえたと。もしかしたらエドワードは、何かを認めなかったので、復讐として殺された。あるいは事件の裏には何らかの教団があって、そこから離反したとか。その後の被害者の女たちと連続殺人のようになっているが、こいつが死んだ理由は別かもしれない。
KP:はい。それはみんなに伝わったでいいでしょう。
ハンク:で、他の人も情報を伝えて、みんなでどうしようって話をしてるんですけど、その最中に、「ああ、やっぱり駄目だ」って呟いて急に部屋を出ます。自室に戻ろうとするんですが、くらくらとよろめいて、壁に左肩をつけて寄りかかってしまいます。
Dr.ハルトムート:じゃあ、医者として心配して後を追って、それを見ました。「大丈夫かね?」って言ってみますが。
ハンク:それが聞こえて、ぼんやりした眼で先生を見るんですけど、身体が震えています。「こうならないように飲んできたんだけどな」
KP:ということは、肉体にも何か変化が生じてますか。
ハンク:そうですね。話す間にも、先生の見てる前で目の端が釣り上がって、顎がみちみちと音を立てながら前に迫り出してきます。
Dr.ハルトムート:なるほど。では、「いかん、発作が起きかけている」って言ってから、「スティッキー!」って叫びます。すると天井の通風孔から、立ち絵イラストのやつがにょきにょきってこう降りてくるんですね。

KP:あまりにもやばい。
Dr.ハルトムート:部屋に運ぶぞって言って、スティッキーがこうハンクさんを掴み上げて部屋に運んでいきます。
KP:ちなみにこれ、犬を改造した何かなんですか。
Dr.ハルトムート:犬って言ってるだけの、生み出された何かです。まだ人間までは全然作れないんだけども、これぐらいなら作れるという。
KP:なるほど。ではハンクさんはこの何かに掴み上げられて、部屋に運ばれていきます。部屋の中ではまた一暴れすると思われますが、その描写は夜中フェイズにやりましょう。
Dr.ハルトムート:では運んでいきました。

KP:さて、ここでまた「シーンを彩る」をやります。これによって、皆さんのハーグレイヴ館がどのような場所であるかが定まっていきます。そうですね。ではさっき、皆さんは集合して夕食を摂りながら情報交換していました。そのメニューは何だったでしょうというのを、各自一品ずつあげて下さい。どんなものを食べてるんでしょうか。
ハンク:タラロールがあったと思うな。タラを開いて、グルっと巻いてロール上にしたような料理。
Dr.ハルトムート:じゃあ、えっと、僕はこう。シャーロックホームズが好きなんで、鵞鳥が出ていたことに。
サイモン卿:そうすると、スパイシーというか、きつい感じのワインですかね。
アルフレッド:うーん、なんかべちゃべちゃっとしたマッシュポテトの山。
Dr.ハルトムート:あるあるあるある(笑)。この、シーンを彩るのルール面白いですね。雰囲気出ますね。
KP:これを何度かやることで、皆さんが館でどう暮しているのか、普段のイメージができ上がってくるわけです。
 
KP:あと夕暮れフェイズにやることは夜中フェイズの行動宣言です。今回は行動できるのが二人だけなので、サイモン卿とアルフレッドさん、今晩の行動を宣言して下さい。それによってキーパーが夜のシーンを組み立てます。
サイモン卿:今晩ね、やはりここはホワイトチャペルに出かけますよ。ランタン持って。アルフレッド連れて。
アルフレッド:で、坊ちゃんが襲われるといいな。私、ぼっちゃんを直接守るアクションだと判定に有利が来るんですよ。
サイモン卿:海外で探検してた時に使ってたピストルとカットラスを持って嬉しそうに出かけます。
Dr.ハルトムート:嬉しそうに(笑)。
サイモン卿:いやあ、やはり現場を見ないとね。と言いながらいそいそと。
 
■□■第一の夜間フェイズ
 
KP:では夜間フェイズです。ここで、このゲーム独自の特徴的なルール、「舞台袖」(仮訳)が発生します。これは、PCたちのストーリーとは無関係なシーンを演出することで雰囲気を生み出すというルールです。今回はルールブックから、聖トマス病院の夜勤というものを使います。
KP:聖トマス病院は最新の医療水準を満たすために建設されたロンドンで一番新しい病院です。しかし夜には最小限に絞られた医療従事者のみが奮闘して、病人や怪我人、闇から忍び寄る暴力の犠牲者を救おうとしているのです。順番にいくかな。ではハンクさん。
ハンク:はい。
KP:「貧しい女性が出産しようとしている。難産で、医者が手術の用意をし、用務員が彼女を押さえている。生まれてくる子供は、二度と産みの母に会えないだろう。それはなぜか」という質問に答えて下さい。
ハンク:えっとこれは、事件に絡めて語るんですか?
KP:これは絡めずに語って下さい。あくまで、ビクトリア朝ロンドンの一般の人々の情景を描くだけです。
ハンク:絡めないのか。じゃあ……。彼女はおそらく下層階級の人なんですね。髪の毛も売ってしまっている。この最新の病院には似つかわしくないんだけど、近くで倒れて運び込まれたのかな。
KP:はいはい。
ハンク:入れたのは運がよかったのですが、日々の労働環境の悪さによって身体が蝕まれていて。この出産には耐えられないことが、その落ち窪んだ頬なんかを見てもわかる。用務員もすでにそれを察している、という感じで。
KP:ありがとうございます。で、これに対して「夜の共鳴」というルールがあります。いまハンクさんに描写してもらった光景を何か反映するような描写を、自分たちのシーンに加える。そうすると経験値が入ります。貧乏な女からホワイトチャペルの貧民外につなげるとか、苦しむ女から、他の苦しむ誰かにつなげるとかですね。あるいはまた、シーンから、次の舞台袖につなげるということもできます。そうやって雰囲気を盛り上げるというルールです。
Dr.ハルトムート:映画の中で、カットアップでシーンを作るみたいなイメージかな。
KP:そんな感じです。それでこう、夜のロンドンの暗い雰囲気を醸し出していきます。というわけで、シーンいきましょうか。まずはサイモン卿とアルフレッドのお二人。
二人:はい。
KP:お二人は夜のホワイトチャペルを歩いています。周りでは娼婦が客引きをしていたり、物乞いが足元にすがりついてきたりというところなんですが、薄暗い路地を、後ろから何者かがつけてくる。そういう気配を感じます。どうしますか?
サイモン卿:私は上級貴族ではあるんですが探検家の頃にカリブやらで色々経験を積んでまして。で、娼婦に声をかけてからかうような素振りをしつつ、後ろの様子を窺います。
KP:後ろの様子を窺う、ですね。では判定ですが、その行動に失敗して起きてほしくないことが起きるとしたら、それはなんですか?
サイモン卿:そうですね、そっと後ろを振り向くつもりが、その瞬間ナイフかピストルを突きつけられてしまう、という感じでしょうか。
KP:はい。ではですね、これは夜中の判定なので、キーパーがそれよりもなお悪い状況を提出します。なのでこの場合、そうですね、突きつけられるどころか、そのまま腹にナイフを刺されてしまうでしょう。
サイモン卿:冗談じゃないな。
KP:というわけで泰然で判定です。
サイモン卿:(ころころ)11。とてもいい。
KP:素晴らしい。では、意図したことをやり遂げ、その結果どうなったかも自分で述べることができます。
サイモン卿:では……。男が殺意を持って忍び寄って来たんですが、ナイフを突き出す手をぱっと掴んで、逆にこちらがピストルを突きつけます。
KP:ではピストルを突きつけるとですね、その相手はまだ十二、三才の少年です。浮浪児なのかと思われますが、着ている服がなかなか洒落た高級品です。
アルフレッド:では説教しようかな。「愚か者。この方をご存じないのか。ロード・サイモン・パーシーであられるぞ」
KP:「知ってらあ。だから殺してやろうとしたんだよ」
アルフレッド:「だが失敗した。お前のような下賎な者が思い上がったことを企んでも、結果は無様なものさ。そんな考えは捨てることだな」
KP:「うるせえ! さあ殺すなら殺しやがれ。貴族様ってのは無力なガキを銃で撃つようなお人なんだろうよ」と開き直ります。しかしアルフレッドさんは、こいつはこう言いながら時間を稼いでいる、仲間が他にもいそうだ、と感づきます。どうしますか?
アルフレッド:おっと。そうだな、サイモン卿を守るアクションだと有利がつくから、サイモン卿に素早く警告を発する、としようかな。
KP:はい。では同じく、それに失敗した場合、何が一番怖いですか?
アルフレッド:警告が手遅れで包囲されてしまうのが怖いな。
KP:では、失敗すると、包囲された上に取り押さえたこの少年も逃げられてしまう、としましょう。泰然で判定をどうぞ。
アルフレッド:泰然は持ってないけど主人を守る判定なので有利……(ころころ)成功。
KP:お見事。では、警告を発することにノーリスクで成功です。
アルフレッド:「坊ちゃん。風下からドブのような臭いが漂ってきます。こいつは時間を稼いで、我々を罠にはめるつもりですぞ」
サイモン卿:「そうか」と言って、この少年を思い切り蹴り飛ばしてですね。銃を抜いて迫る敵と逆の方向へ走り出します。
 
KP:では一旦シーンを切り替えましょう。二人が闇の中へと駆け出す一方、ハーグレイヴ館では長い夜が更けてゆきます。お二人はどうしていますか。治療をするのかな。
Dr.ハルトムート:呪いのことを聞かないとな。ではですね、ハンクさんがベッドに寝かされて、うんうん唸っているんですが、それに向かって、「ハンク君! 意識はあるか! この病気は何なのだ!?」
ハンク:こちらは上下の顎が突き出して、ほとんど犬のような面相になっています。ものすごい力で暴れるんですけど、スティッキー君に押さえられているので、なんとかベッドから飛び出さずに済んでいます。話すんですけど、口が変形しているので、発音がおかしい。「先生、これは病気なんかじゃないんだ。あのゴールドラッシュでさ、俺らは一家で一山当てようとしたんだけど、案内に選んだやつが大ハズレでね」と言って、遠い目をします。しかしその目も、目尻が裂けてゆきます。
Dr.ハルトムート:おおう。
ハンク:「そいつはカリフォルニアまでのルートを案内してくれるって話だった。親父たちがそいつを雇って、若造の俺もついていった。そしたらそいつは、冬の山を越えるって言うんだ。それは無理だと聞いてたんだが、道を知ってるからってんでさ。それを信じたのが大間違いよ。雪の中で迷っちまって、恐ろしく寒くて、そしてお定まりの餓えだよ」
Dr.ハルトムート:沈痛な顔で聞いています。
ハンク:「今朝も言ったろ、人の顔をしてても、人じゃねえ奴ってのがいるんだ。あれは俺なんだよ。食うものが無くなったときにさ、人は何を食うと思う? 俺はさ、食われそうになったんだ。俺は祈った。誰でもいいから助けてくれって祈ったんだ。そうしたら、遠吠えが聞こえてさ。この病気、これは病気じゃない。祝福なんだよ……」ということを呻きながら話します。
Dr.ハルトムート:それを聞くと、小さく首を振ってですね、「呪いなどあるものか。未知の奇病だ」と呟きます。で、それから、「しかし伝承には例が無くはない。ハンク君、私の考えでは、水銀と銀の混合物を君に注射すればこの症状を一時的に抑えられる」
KP:やばい(笑)。
Dr.ハルトムート:「どんな副作用が出るか、保証はできない。君の合意が必要だ。注射してもいいか?」
KP:この先生クレージーすぎる。
ハンク:「この祝福は俺にはきつすぎるんでね。なんとかなる方法があるんだったら、頼むよ先生」
Dr.ハルトムート:「よし、待ってろ」って言ってですね、ここは自分のホームだから、色々と薬瓶が並んでいるので、水銀と銀を調合しながらぶつぶつ呟きます。「こういった症例では伝承も馬鹿にできない。それを考慮するに、おろしたニンニクと粉砕した魚の頭、そしてヒキガエルの油を加えておこう」
KP:死ぬわって感じですけど(笑)。

Dr.ハルトムート:そして、こう目を光らせて振り返って。「私もこれを人に注射するのは初めてだ。実に興味深い。今宵医学は新たな扉を開くのだ! スティッキー、強く抑えろ」って言ってね、頚動脈にブスーって。
KP:マジかよ。
アルフレッド:アニメのすごくいいカットになりそう。画面には建物の外観が映って、叫び声が上がって、以下次回、みたいな。
KP:ではここでシーンを一旦切りましょう。
 
KP:次の舞台袖をサイモン卿にお願いしようかな。今回の質問は、「緊急治療室の待合室で、病棟看護婦が病人と負傷者のトリアージを行っています。彼女が目にするのはどんな人でしょう? その人物は生き延びますか? それとも命を落としますか?」というものです。
サイモン卿:ええっと? そうだなあ、そこには病人が何人かと、あとナイフで刺されて内臓がはみ出しているような負傷者が呻いています。そいつは、助けてくれ、頼む、とか叫んでるんですが、看護婦はそれを尻目に、顔にできものができたという子供を看ています。重傷の男はそれを罵るんですが、その声はリアルタイムで弱まっていきます。で、医師がそちらを見て、あいつはいいのかい? と看護婦に聞くんですが、看護婦は疲れ切った顔で、あれはもう助かりませんよ、どのみち死んだ方がいいような男です、と返します。で、子供の治療を終えて、もう大丈夫だよと言う。子供は付き添ってきた母親の方を見るんですが、母親もまた疲れ切って眠っている。そんな光景です。
Dr.ハルトムート:病院繋がりで夜の共鳴かな?
KP:そうですね、並ぶ医療器具、男のうめき声、なんかがハルトムート先生とハンクさんのシーンとつながる、という感じでしょう。
 
KP:そして再びホワイトチャペル。先程お二人は逃げ出したわけですが、どのような場所に逃げ込みますか。
アルフレッド:ホワイトチャペルで身を隠せるような場所か。遺体安置所とかどうかな。
KP:いいですね。では、路地に入り込んで、足を踏み入れたのは遺体安置所でした。終夜灯が付いていて、薬品の臭いがする、表の路地よりむしろ清潔感のある場所です。外からはさっきの子供の、探せ! 殺せ! という声が聞こえてきます。
サイモン卿:息をひそめて、相手が遠ざかるのを待つ感じで。
KP:ではですね。安置所には死体が幾つかはあるとして、それ以外にも誰かいますか?
サイモン卿:死体を洗ったりする役目の女性がいるかな。
KP:ではその人は、いきなり侵入者が入ってきたのでとてもびっくりしています。いまにも叫び出しそうです。
サイモン卿:声には出さずに、手のジェスチャーで、なんでもないんだ、落ちついて、という身振りを。
KP:では相手はとりあえず叫びません。「厄介ごとはゴメンだよ」と言ってきます。
サイモン卿:小声で「我々はしばらくここにいるだけだ。今夜は物騒な奴らがうろついてる。家に帰ったほうがいいぞ」
KP:そうだなあ、彼女もホワイトチャペルの住人なんですよね。アルフレッドさんから見て、彼女は誠実そうに見えますか、それともあなた方を売るような人種に見えますか?
アルフレッド:売ると思うなー。
サイモン卿:売るよねえ。
KP:では彼女は、帰ったほうがいいぞと言われてそれに従うように出ていくんですが、その前の一瞬、外にいる連中にあなた方を売ろうという卑しい目付きをしたのに気がつきます。
サイモン卿:ううむ、ピストルの持ち手でがつんとやって気絶させよう。
KP:それは判定ですね。夜中行動。まずは例によって、失敗するとどうなりますか?
サイモン卿:ガシャンと大きい音がして、外の連中に見つかるかな。
KP:いいですね。しかし夜中行動では、キーパーはそれより悪いことを提示しないといけないので……、失敗すると外の連中に見つかり、しかも打ち所が悪くて彼女を殴り殺してしまいます。活力で判定を。
サイモン卿:ううん、嫌な予感がする。殺しそう。
KP:「引き下がる」という選択肢もあります。リスクの方が大きいと感じたときに、その行動をやらずにおく。
サイモン卿:ここは殴らずにおきましょう。
KP:では彼女が出ていって、しばらくすると「こっちだ!」という声がして、外の連中がなだれ込んできます。アルフレッドさんどうしますか。
アルフレッド:では、ここは今は死体安置所ですが、元は寺院だった建物だと気がつきます。で、「この構造ならもしかすると」とか言って、隠し通路を見つけたりしたい。
KP:それは何で判定かなあ。霊感かなあ。霊感でどうぞ。
アルフレッド:(ころころ)よし成功。
KP:おめでとうございます。では、奴らがなだれ込んでくるんですが、あなた方はその隠し通路に飛び込んで外へと逃れ、夜の闇に紛れてゆきます……。
 
KP:館では狼男の治療はどうなっているでしょう。軽くでいいので。
Dr.ハルトムート:いやー注射をした僕としてもドキドキですよ、どうなるんだ。一応、狼男の症状には銀が効くのではないかという医学的判断があります。医学的とは。
KP:むしろ水銀が大丈夫かな(笑)。
ハンク:銀が利いたのか、それともヒキガエルの油とかが効いたのかわかりませんが、発作は収まってゆきます。だんだん暴れなくなって、上下の顎が縮み、毛深さが薄くなってゆきます。
Dr.ハルトムート:おお効いた。その変化を見守りながら、せっせとノートを取りましょう。
KP:すごい、治療に成功している。今日はそろそろいい時間なので、この辺りで以下次回としようかなと思うんですが、過去を語るノルマがある人は、できれば語ってみて下さい。
Dr.ハルトムート:実は一個残ってるんですよ。えっと、「失った人物に対して、初めて愛を感じた時のフラッシュバックを語る」か。そうだな……、こう、だんだん症状が落ち着いてきたハンクさんと、なんとなく雑談気味に語り合ったりしています。まあ、ハンクさんはまだ息がゼーゼーしていて、こっちが主に喋る感じで。「……こうして夜に看病してると、医学生時代を思い出すよ。ヘラルドという友人がいてね。彼は、本当に天才だった」みたいなことを語ります。
KP:大事な人の名前でしたね。才能を愛した感じでしょうか。
Dr.ハルトムート:そうですね。ハルトムートの声色には、崇拝のようなものが混じっています。
KP:ありがとうございます。というわけで、ルール上はまだ「舞台袖」が残ってるんですけど、プレイ時間の関係でそれはよしとします。ホワイトチャペルでは二人が襲われて命からがら逃げ出した。ハーグレイヴ館では、狼男の治療がひとまず小康状態となりました。この夜は無事に乗り切ることができた。しかし、謎が謎を呼ぶホワイトチャペルの脅威はまだ去ってはいない。以下次回!
 
■□■一日目感想戦
 
(※:一日目の経験値の処理とかしたんですが省略)
 
KP:なんかすごい勢いで、手がかり集まってますね。
プレイヤー:ルールに情報入手というのがあって、プレイヤーがそれをやりますって言って、成功すれば手に入るんですよね。プレイヤーはもちろんそれをどんどんやるから、どんどん集まる……?
KP:今回初プレイで、事件を追ってるから、というのはありますね。もっと状況が複雑になると、手掛かりを探す以外にもやることが色々出てきそう。
プレイヤー:設定を活かすアクションをすると経験値が溜まるのとかですね。
KP:あと、今日のセッションで夜中までやったわけですけど、次の日中には新たな脅威が登場して、そうするとそちらの手掛かりも探さねばなりません。
プレイヤー:その新たな脅威は、顔無しサリーとも絡んでるんですか?
KP:絡んではいない、別の事件です。複数の事件を抱え込んでしまいます。
プレイヤー:んん? それって例えば名探偵コナンの一つの回で、殺人があってコナン君が捜査してて、ところがその途中で別の殺人があって、それは一つ目とは無関係な別の殺人で、コナン君はそれも並行して捜査していく、みたいなお話になりますよね。それは何か変な、ような?
KP:あ、一応、事件には黒幕がおり、各事件は別の出来事なんですが、黒幕は同一です。
プレイヤー:ということは、このゲームのセッションは、名探偵コナンの一話ではなく、全話なんじゃないかな。それぞれの殺人を追ううちに、黒ずくめの組織がだんだん浮かび上がってくるみたいな。
プレイヤー:あーなるほど。
KP:今回は単発のセッションでやってますけど、これはほぼキャンペーンで遊ぶこと前提にルールが作ってあるゲームですね……。
 
■□■二日目、セッション後半。
 
(※:さて、セッション二日目なんですけど、この日、アルフレッドさんのプレイヤーさんがすごい残業になってしまいまして。もちろん日を改めてもよかったんですけど、その時点で予定が上手く合わなかったのと、まあ実験的なお試しプレイだしということで、やっちゃうか、となりました。なのでアルフレッドさんは便利なNPCとなってしまいました。)
 
(※:夜明けフェイズとして経験点の処理などがあったのですが省略。)
 
KP:はい。ということでプレイヤー三人でやっていきます。まず最初になんですけど、前回の夜のフェイズの最後に黒幕が登場するシーンがあるはずで、それをやらなかったので今からやります。これは皆さんは登場しない、観客に向けて語られるようなシーンです。
KP:その場所はかなり豪勢な邸宅の一室です。おそらく書斎でしょう。そこに初老の女性が座っています。非常に物静かで、髪型も服装もとてもお金がかかっている。ヴィクトリア女王にお会いしたことがある人なら、女王とどこか雰囲気が似ている印象を受けるかもしれません
KP:彼女は、書斎の壁に掛けられたロンドンの地図を見ています。数ヶ所にピンが刺さっており、その一つは皆さんのいるハーグレイヴ館、また一つは事件が起きているホワイトチャペルに刺されています。
サイモン卿:うん、うん。
KP:彼女の首元のチョーカーにはサファイヤが飾られており、キャンドルに照らされて、青い輝きを放っています。
Dr.ハルトムート:前回、犠牲者の胃から青い宝石が出たんだよな。
KP:同じ輝きだと言ってもいいでしょう。と言っても、それはプレイヤーが知るだけでキャラクターは知りません。
Dr.ハルトムート:今のが、黒幕の顔見せですか?
KP:そうです。本当は夜中フェイズのラストにやるんですけど。黒幕の手掛かりを得るたびにちょっとずつ色々わかります。と言ってもこれもキャンペーン向きですね。今回は雰囲気だけと思っておいて下さい。
 
■□■第二の日中
 
KP:さて、新しく日中フェイズが始まります。そして新たな脅威が舞い込んできます。これは前回もちょっと話したように、顔無しサリーの事件とは別件です。今回の我々のセッションでは、顔無しサリーの事件を解決すれば、この新しい事件は捜査途中でもよいとしてしまいましょう。彼らの冒険は続く、という感じですね。
KP:事件名は「ショーディッチの拳闘士」です。その朝、ある若者がハーグレイヴ館を訪れます。その顔は打ち身だらけです。彼はブラム・フラーという名で、労働者階級に人気の賭けボクシングクラブの選手だと名乗ります。
KP:彼が気にしているのは、最近台頭している新人選手です。ショーディッチの拳闘士と呼ばれるこの男は異様に強く、数週間前に登場してから一度も負けたことがないばかりか、そのパンチは骨を砕くほどで、二日前にも対戦相手を殴り殺してしまったといいます。そしてブラムは、なんとかこの男をクラブから追い出してくれないかと頼みます。
KP:皆さんは最初、ハーグレイヴ館はそんな仕事を請け負うような場所ではないのだと言って彼を追い返そうとしました。しかしそこでブラムが慌てて何かを言いだします。そこで、活力が一番高い人、ハンクさんですね。
ハンク:おっと、はい。
KP:そこでブラムが言ったことは、このショーディッチの拳闘士はただ強いのではなく、超自然的な力を持っているのではないかと考えさせるものでした。さて、彼はなんと言ったのでしょう。
ハンク:プレイヤーがそれを決めるわけなんですね。そうだな、その男は不死身じゃないかと言われてて、ものすごい回復力がある、というのはどうでしょう。まぶたを切ったりして流血して、近代のボクシングならドクターストップだけど、この時代の地下ボクシングだからそのまま戦う。すると、戦いながらも切り傷が塞がっていった。あいつの顔は次のラウンドには全く無傷だったんだよ、という。
KP:はい。ではブラムは言います。「俺は昨日あいつと当たったんだ、確かに目の上を裂いてやって血が出たのに、それが目の前で塞がりやがるんだ。正直ブルっちまって、ギブアップしたんだけど、ブーイングされるし、クラブにも顔が出しにくくて」
ハンク:「あんた、それで命拾いしたんだよ」
KP:で、この賭けボクシングは違法なんで頻繁に会場を変えるんですが、ブラムは次の開催場所を教えてくれます。ホワイトチャペルの教会の建設現場で、真夜中に行なわれるそうです。というわけで、昼間のフェイズに入ります。皆さんは前回の顔無しサリーの事件を追ってもいいですし、このショーディッチの拳闘士の事件を追ってもいいです。
サイモン卿:拳闘士も実際に見に行くのがいいかな。
ハンク:「モグリの地下試合じゃあ、死者が出ることもあるだろうけど、パンチ一発で骨まで砕けるってのはシャレにならないね」
Dr.ハルトムート:そういう話をしていると、アルフレッドさんが、これが解決される前にそいつに賭けたら儲かりそうだな、とか考えるわけですよ。
ハンク:ギャンブル癖が(笑)。レート低そうだけどねえ。
Dr.ハルトムート:僕は、「その回復力は興味深い。組織標本が欲しいな」と言い出します。で、やっぱりハンクさんだろうな。「ハンク君、選手として出場して、そいつの組織を持ち帰れないかな。皮膚をちょっと削ってきてくれればいいんだが」
サイモン卿:なるほど。
ハンク:「地下とはいえ、プロの拳闘士がボコボコにされて死んでるんだ。俺ごときじゃ勝てる気はしねえが、先生には恩があるからね。それくらいならできそうだぜ」
Dr.ハルトムート:「昨夜の様子を見る限りじゃあ、君も随分とやりそうだよ」
ハンク:「あいにく、あれはままならなくってね」
サイモン卿:「やるなら、命に関る前にギブアップしたまえよ」
ハンク:「ええ。死ぬ気はないんで」

サイモン卿:そういえば、夜に襲われて逃げ出したんだけど、この屋敷の場所を知られて襲われたりはしないかな。
Dr.ハルトムート:それは多分知られてるんですよ。我々が知らないだけで。
サイモン卿:そうか。ピン止められてたね(笑)。
KP:あれは黒幕の描写なんで、黒幕の手先までが館を知っているとは限らないと言っておきましょう。さて、皆さんどんな感じに行動しますか?
Dr.ハルトムート:自分はサリーの事件を引き続き追う感じでしょうか。
ハンク:じゃあ俺が地下ボクシングに探りをいれてきましょう。
サイモン卿:私もサリーの事件の方が重要かなあという気持ちです。メンバーが年を取らないという噂の、金色のカードで招待される秘密クラブというのを追ってみたい。社交界の誰かに、私も興味があるんですよ、と言ってみるのがいいかな。
KP:じゃあ、まずそこからやっていきましょうか。パーティーとかに顔を出して聞いて回るわけですか?
サイモン卿:それよりも、探検家クラブのスチュアート・トレブリング=ウェルズ卿の力を借ります。この人はパーティ大好きで、頼めばハーグレイヴ館で金に糸目をつけないパーティを開く能力があります。
Dr.ハルトムート:おおー。
サイモン卿:で、前にクラブの噂を教えてくれたウード卿なんかも呼んで、この前の話だが、などと雑談したりします。
KP:では、大々的で、ちょっと退廃した雰囲気のあるパーティが開かれるんですが、その客として、特徴的な人物が一人やってきます。マーガレット・ティースデール夫人という女性貴族で、年齢は六十を越えているんですけど、外見は二十代と言っても通ります。その異様な若さは社交界でも大きな噂の種になっていまして、もしかして若さの泉を見つけたのでは、などと言われている張本人です。サイモン卿に頼まれてパーティーを開いたウェルズ卿が、手を回して彼女が来るよう仕向けてくれました。
サイモン卿:おお、では、ティースデール夫人の周囲に一番多く人が集まって、パーティーの主役という雰囲気ですね。
KP:なお、このパーティーはハーグレイヴ館で開かれているという設定なので、他の人も望めば参加できますよ。
Dr.ハルトムート:いてもいいんだ。
ハンク:ハンクは社会身分的に、そういうパーティには出ないかなあ。
Dr.ハルトムート:自分は出ましょう。あまり社交はしなくて、部屋の隅っこで煙草なんか吸ってるんですけど、夫人の異様な若さにへえっと思って、そうですね、指の辺りとかじろじろ見ましょう。何かわかりませんか。
KP:そうやってちゃんと見るなら、判定ですね。パーティーは時間的には夜にやってるかと思いますが、判定の種別としては日中行動でいいでしょう。では、失敗したらどうなることを懸念しますか?
Dr.ハルトムート:そうか懸念か。ううむ、遠くから指を見るだけなのに、失敗するとなぜか危険が伴っている(笑)。
KP:それでドラマが展開するゲームです。例えば指を見るのが無作法に当たるとかでもいいですし……。
Dr.ハルトムート:なるほど。では失敗するとですね、そうやって見ることで、どこかにいる黒幕に、こいつら疑っているな、ということが逆にバレてしまう、というのはどうでしょう。
KP:いいと思います。では理知で振ってみて下さい。
Dr.ハルトムート:1しかないけど……(ころころ)お、成功しました。まあ習慣的に、人の身体のパーツをじろじろ見る傾向があるんですけど、職業的に注意深く観察したということで。
KP:では、何がわかったかもドクターが自由に決めてよいです。
Dr.ハルトムート:お、ではですね。このドクターは死んだ洗濯女の身体のこともよく知ってたんですけど、この夫人の指が、どう見ても洗濯女の指なんですよ。
KP:やばい(笑)。
Dr.ハルトムート:で、「む、あの骨格は……」と独り言を呟くんですけど、この貴族だらけのパーティでそれを公然と指摘はしないだけの常識がなんとこの人にもあったらしく、胸のうちに秘めておくだけで特に動きません。
サイモン卿:さてこちらは、この前手に入れたエンボス加工の金色のカードを、さり気なく見せびらかしたりしています。
KP:おお、そうすると、ティースデール夫人がそれを見て、話しかけてきます。美しいんですが、その肌は蝋のようで、あまり表情を動かしません。「あら、あなたも招待されたのですね」
サイモン卿:「そうなんですよ。ただ、招待を受けたものかは正直迷っておりまして、お知恵をお貸し願えませんか?」
KP:そう聞くんですね。そうすると、えっと、このサイモン卿は年齢おいくつくらいのイメージですか?
サイモン卿:うーんと……、若いつもりで、でも本当に若い頃は探検をしていたわけだから……、四十前後でしょうか。
KP:それくらいですね。では夫人は、「もしかして、お体やお顔に、気に入らない所がおありかしら?」といいつつ、やや誘うように貴方の身体に触れてきます。
サイモン卿:そう来るんだ。では、「そうですなあ、やはり、段々と自信のないところも出てきますな」とほのめかしてみましょう。
KP:彼女の誘うような素振りにはどのように応じますか? 好意的に受け止めるか、そうでもないか。
サイモン卿:こちらも仲良くなりたいなあという雰囲気を出しましょうか。
KP:ではそれを日中行動で判定しましょうか。風采または泰然ですね。
サイモン卿:風采で口説くタイプではないので、泰然にしましょう。失敗すると、臆面もなく口説く色事師みたいな悪評が社交界に流れます。
KP:ひたすら貴族の腐敗を感じるゲームだ(笑)。判定どうぞ。
サイモン卿:(ころころ)2D6が11に能力値を足して13です。
KP:それはすごい。意図したことをやり遂げる上に、キーパーが追加の恩恵を与えることになります。はい、彼女は非常にあなたを気に入ったようですね。まあ実年齢を考えると相手が二十くらいも上で、外見だけ見るとむしろあなたの方が二十くらい上、という病んだ組み合わせですが。そして彼女は、あなたが身体にコンプレックスがあるような話をしたことで、「私たちとても似てるようですね。次の集まりにご招待したいわ」と言って集会の日時と場所を教えてくれます。
サイモン卿:心の中では、よーしかかった、と思いつつ、「願ってもない。ありがとうございます」と言っておきましょう。大丈夫かな。やばいところに踏み込んだかも。
ハンク:かなり切り込みましたね。
KP:では、何も知らないパーティ好きのウェルズ卿が、君もなかなかうまくやってるじゃないか、というニヤニヤ顔で肩を叩いてきたりして、パーティーのシーンはこの辺りまで、と。
 
KP:さて、パーティにはハルトムート先生もちょっと出たので、次はハンクさんのシーンにしましょう。ではハンクさんは、この地下ボクシングクラブに、どのようにアプローチをかけていきますか?
ハンク:そうだなあ、先生が言ってた、試合に出てそいつの皮膚を引っ掻いて、とかをやろうと思うんだけど、そもそも、そのクラブの胴元かなんかに会って、出場できるように繋ぎをつけないとな。
KP:それはこの話を持ってきた依頼人でもあるブラム君が手伝ってくれます。非合法のクラブなので、事務所みたいなものはないんですけど、あんたが出られるよう話をつけておくよ、と。
ハンク:なるほど。「世話をかけるが、お願いするぜ」
KP:「こっちとしても、これ以上誰かがぶち殺される前に、あいつをなんとかしてえからね。ここだけの話、裏道であいつを襲って、片付けちまおうって考えてる奴らもいるくらいだ」
ハンク:なるほどねえ……。それは多分、酷いことになる方向性だよな……。「それは最後の手段にしときな。引き受けた以上は、まっとうに追い出せるように頑張ってみるからさ」ということで、紹介してもらって試合に出る方向で。
KP:了解です。では日が落ちて、建設現場です。ハンクさんは案内されて作りかけのアーチをくぐり、やがて教会になる建物に入ります。建物の外はシーンとして、煉瓦がまとめて積んであったりしますが、中に入ると男たちが沢山いて熱気がムンムンしています。リングの代わりに人垣が輪になって、その中央で拳闘が行なわれ、外野はしきりに声援を飛ばします。
ハンク:地下クラブとは言ったがなかなか盛大だな。
KP:男たちは建設業界の者などが多く、そもそも昼間はこの教会を作ってる者たちが会場として選んだりしてるようですね。ということで、ここで「シーンを彩る」を行ないましょう。「即席のリングで、二人の闘士が騒々しい群衆の声援を受けながら、殴り合い血を流す。この光景のどこに美を見いだす?」という質問に、各プレイヤーひとつずつ答えてもらって、ここがどんな場所かを決めていきます。誰でも思いついた人から。
Dr.ハルトムート:えっとでは、この後にはハンクさんも試合に出ることになってるので、即席のポスターが貼ってあるんですけど、ハンクさんの告知のところに「地獄のヤンキー、ザ・ビースト!」って書いてあるという。
KP:いいですね。ただ、今日の相手は標的ではないとしましょう。新顔なので、まずは強いところを見せて、そうしたら次には組んでもらえるということです。ブラム君は「これで勝ってくれなきゃ話にならねえぜ?」と、やや心配そうです。
ハンク:うんうんって言いながらポスターを見て、興行時代を思い出したりしてね。「まあいつも通りやるだけさ」
サイモン卿:この光景の美しいところ……。教会ですよね。では、聖母マリアの像がすでに設置されてて、殴り合う男たちを見下ろしています。彼女は何を思うのか。
ハンク:ではこちらは、ステンドグラスもまだ幾つかが完成しているだけなんですけど、拳闘士たちが戦うその上の窓では、神話の時代の英雄たちが闘っていて、そのステンドグラスから月光が差し込んでいます。
KP:美しい。さて、試合前に何かしますか。特になければどんどん試合が進んでいってハンクさんの試合になります。
ハンク:前もってする事もないかな。試合に出ましょう。
KP:では、解説兼アナウンスみたいなガタイのいい男が、「さあお次は、アメリカからやってきた狂暴な獣、ザ・ビーストのデビュー戦だぜぇ!」と叫びます。ちなみにどういう姿でリングに上がりますか?
ハンク:いつも黒いダスターコートに身を包んでいるんですけど、さすがに試合だから、リングに上がれば上半身裸になります。ザ・ビーストの名に恥じず、恐ろしく毛深いので観客からどよめきが上がります。ちょっと昨日の影響が残ってるんで。
KP:アナウンサーは相手の紹介もします。まだ二十歳にもなっていない青年で、先日デビューしたばかりで今日が二戦目だそうです。筋肉は十分以上についていて、肩には碇の入れ墨があります。ただし、肉体には恵まれていても、ちょっと不安そうです。まだ場馴れしていない感じがありますね。
ハンク:うんうん。
KP:アナウンサーが、「さあこの勝負に勝てなければ、ザ・ビーストは残念ながらアメリカにお帰りだぁ!」とか言って、観客にわあっと受けたりしています。さて、普通に闘いますか? それとも何か仕込んだりします?
ハンク:相手が不死身くんでないなら、まあまっとうに闘いますよ。
KP:では、昼の行動で活力で判定ですが、しくじったときにはどういうことを心配しますか?
ハンク:はい、ハンクはですね。負ける可能性はまずないんですよ。ただむしろやりすぎる可能性がある。
Dr.ハルトムート:おお上手い。
KP:いいですね。
ハンク:まあ殺しまではしないんですが、滅多打ちにしてしまう可能性がある。先生に打ってもらった薬が効き続けてくれるように祈ってます。
KP:あの薬ヤバいですよ(笑)。水銀と銀でしょ?
ハンク:なんだかんだで効いてくれたんで、あれはハンクにとっては福音なんですよ。
KP:マジで。
ハンク:判定なんですが、宿所のアイテムの、アメリカ時代のポスターを使います。あれを、ザ・ビーストのポスターの横に貼っておいてもらって、試合前にそれを見ながら、「これはただのショーだ。それさえ忘れなければ大丈夫だ」と自分に言い聞かせます。さて(ころころ)いい感じで成功です。
KP:では、好きなように叩きのめすことができますので、どうなるか描写して下さい。
ハンク:では、若者くんが頑張って殴りかかってくるのを、こっちはほとんどノーガードで、身体を左右に揺らすような奇妙な動きでかわします。そしてときどき刺すように弱点ばかり鋭く打ちます。鳩尾を打って、左のテンプルを打って、相手がそちらをかばおうとすると顎をゆらす。
KP:相手は足元がふらつきますね。
ハンク:で、最後には挑発するように顔を前に突き出して、相手が大振りでそれを狙うところを、素早く左右から顎を殴ってノックアウトします。
KP:会場を大いに盛り上げて、美しくフィニッシュを決めると。では若造くんは伸びてしまいました。アナウンサーが、「勝負あり! 勝負ありだ! このクラブに新しいヒーローが誕生したぜ!」
ハンク:じゃあちょっと低く身構えて、獣っぽくガオーっと唸ってやりましょう。
KP:大喝采であなたは退場します。そしてアナウンサーが「さあ、ビーストの試合が終わったからには、我々は彼を呼ばねばならない!」と言って、正体不明の無敗の男がついに会場に姿を現わします。ヘラクレスのごとき偉丈夫。その身長は七フィート近いです……。というところで、場面を切り替えましょうか。
 
KP:というところで、次はドクターのシーンです。どうしますか?
Dr.ハルトムート:では、検死解剖のときに血液のサンプルを取ったんですけど、それを分析していまして、それから館を出ます。で、ロンドンの町の、医薬品を商っている店が多い区画に向かいます。
KP:いいですね。
Dr.ハルトムート:しかしまともな店ではなく、薄暗い裏路地にある怪しげな店に入っていく。すると北欧系の店主がいます。それにメモを見せて、「その組み合わせで買った客がいるだろう。その情報を知りたい」と。
KP:では情報入手ですね。判定してもらいますが、技能は霊感です。
Dr.ハルトムート:霊感なのか。ただの薬じゃないんだな。
KP:オカルト寄りの薬なので。
Dr.ハルトムート:霊感はないのだ……(ころころ)惜しく失敗。これも過去の仮面で成功段階を上げます。
KP:では成功になりますが、「失った人物と過ごした最も幸せだった日々のフラッシュバック」をあとで語って下さい。さて、情報を得られるわけですが……これかな。その薬を買っていった人物ですが、背の低い、おそらくは誰かの使用人であろうという女性だそうです。ただ、顔も隠していたので、女性かどうかも確かなことはわからないと。
Dr.ハルトムート:そいつはよく来るのか、と聞いてみましょう。
KP:たまに、だそうです。「何かやらかしたのかい?」と店の主人が聞いてきますが。
Dr.ハルトムート:「この組み合わせで見当はつくだろう。使ったんだよ」
KP:相手はちょっと警戒して、「あんた警察の人かい?」
Dr.ハルトムート:えっと……、いや、事実そうなんだった(笑)。「スコットランドヤードで検死医をしている」
KP:では溜め息をついて、「わかった。何でも協力するから言ってくれ」と。
Dr.ハルトムート:ありがたいけど、でもどうしよう。ヤードに連絡したら、下っ端の警官をこの店に張り込ませて、そいつが来たら追わせる、とかできるかな。
KP:できるけれども、そこから警察が犯人に辿り着いてしまうと、事件の解決があなた方の手から離れてしまいますが。
Dr.ハルトムート:ううん? 館としては、事件が解決するならば、それが自分たちの手によらなくてもいい気もする。でも、オカルト的な真相があって、警察がそれを扱えずに大失敗、とかありえるかな。
KP:あるかもしれない、ないかもしれない、でしょう。
Dr.ハルトムート:やめた方がよさそう。ではうーん、ハーグレイヴ館の適当な使用人を見張りに置いておく、とかはできます?
KP:そこまで便利にNPCが生える館ではないです。ただ実は、今回アルフレッドさんという人が(笑)。
Dr.ハルトムート:いたー!(笑)
サイモン卿:「アルフレッド、頼むよ」
Dr.ハルトムート:では薬屋の店主に、私の連れのこれこれこういう者がこの店を見張るが、君は気付かないふりをしておいてくれたまえ、と。
KP:「わかりましたが、トラブルになっても、私はその人を助けたりしませんよ?」
Dr.ハルトムート:「それで大丈夫だ。自分の身は守れる奴だ」と言って、館に帰ってアルフレッドさんを送り出します。
 
KP:さてでは、サイモン卿が招かれたパーティですが。まず、一人で行きますか? アルフレッドさんはいま用事ができてしまいましたが。
サイモン卿:おっとそうか。一人か。
Dr.ハルトムート:三人で行っても楽しそうですけどね。でも招待制の秘密クラブに、呼ばれてない人が行くのってどうなんだろう。
KP:貴族だから、連れがいてもおかしくないとは言えます。まあ本当に駄目なら、入口で断られるでしょう。
サイモン卿:じゃあ連れていきましょうか。
KP:そうなると……。じゃあすいません、それより先に、さっきのハンクさんのシーンを終わらせるとします。
サイモン卿:どうぞー。
 
KP:では地下闘技場。ついにリングに上がった不死身の男ですが、試合というよりも、相手をぐしゃりぐしゃりと潰していくような闘いぶりです。最初は盛り上がっていた会場も、冷え切ったようになってしまいます。この日の相手は死にまではしませんでしたが血まみれで気絶。勝った男は轟然と去ってゆき、依頼人のブラムくんも、回りの男たちも、それを冷たい目で見送ります。さて、今夜の試合は終了になるんですが、ハンクさんはザ・ビーストとして人気を取ったので、上機嫌で近くのパブに誘ってくれる男たちがいます。奢るぜ、と言ってますが。
ハンク:ありがたく奢られよう。話も聞けそう。
Dr.ハルトムート:あんたに賭けたぜ、一儲けさせてもらった、とか言われるんだな。
KP:そうそう。あんたのテクニックただもんじゃねえな、とか、解説系のモブみたいな人が言ったりします。
ハンク:「あれくらいは余裕さ。ただ、あのデカい野郎はちょっと手強そうだな」と言いつつ、何か聞けないかな。
KP:情報収集なら、そうですね、カッコよく人気を博したんで、風采で振ってみて下さい。
ハンク:(ころころ)おお6ゾロ。
KP:手掛かりが見つかり、さらに黒幕の手掛かりも見つかる、ですね。黒幕はまた夜の終わりに出ます。さてどうしようかな、この相手の何が聞きたいですか?
ハンク:強いのは見てわかったんだけど……、むしろ普通に、名前とか住所とか。
KP:はい。まあ地下クラブなんで、出場者の身元を調べたりもしないんですけど、噂ではイーストロンドンの貧民街の一つ、ショーディッチに住んでいるそうです。名前はジャックだそうなんですが、リアブだって聞いたぜ、とか、コバックじゃねえのか、とか曖昧です。
ハンク:なるほどねえ。
KP:で、手掛かりなんですが。そうだな、男たちの雑談で、あんなくらいに強くなりてえよな、と誰かが言って、やっぱりあの薬がいいんじゃねえか、と誰かが返します。どうやら彼らは、「ローガン博士のエリクサー」という飲み薬の話をしているようです。
ハンク:エリクサー。
KP:チラシを持ってるぜっていう男がいて、くしゃっとした紙をポケットから出します。薬瓶の絵があって、インポテンツを直し、男らしさを増し、筋力を強めることを請け合う、ローガン博士の植物性エリクサー、と書かれています。
Dr.ハルトムート:なるほど。
KP:すごく筋肉つくらしいぜ、とか、俺も探して飲んでみようかな、とか、あいつもこれ飲んでんじゃねえか、とかワイワイする男たち。
ハンク:そういうのを聞きながら、こいつは先生にいい土産話ができたな、と思ってます。
Dr.ハルトムート:ありがたいー。それを聞いたら、「興味深いな」と言いますよ。
ハンク:「毒だとか、薬だとか、そんな話ばっかりだねえ」
KP:確かに、この二つの事件が繋がっていても不思議ではなさそう。
ハンク:変なクスリをばら撒くのが黒幕の目的で。
KP:それはありかもしれませんね。
 
KP:というわけで、ハンクさんはそういう情報を仕入れて帰りました。そして数日後、秘密クラブの開催日に、三人で出かけるわけです。
サイモン卿:はいはい。
KP:パーティー会場なんですが、ロンドンの繁華街の一角が指定されていて、皆さんは街角で馬車を降ります。迎えの人たちがいるんですけど、この目隠しをどうぞ、と言ってきます。
サイモン卿:おや、これでも貴族なんで、そんなものなくても、信用してくれてよいのだが、と言ってみましょう。
KP:相手は腰は低いんですが、これは非常に重要な秘密となっておりますのでどうかご理解下さい、という感じでにこやかに迫ります。
サイモン卿:じゃあまあしょうがない。
Dr.ハルトムート:「秘密めかしたものだな」と言いながら目隠しされましょう。ああ、そうだ。ここに来るまでの馬車の中で、「あの女の指、殺された洗濯女の指だった」と、それだけ伝えておきました。
 
KP:目隠しされた皆さんは手を引かれて案内され、ときどき方角がわからなくなるようにクルクルと回らされます。十数分ほど歩くとどこかの屋敷に入ることになります、香水とかお香のような甘やかな香りがただよっていて、そこで目隠しが取られます。天井が高い大きな部屋でパーティーが開かれていますね。おそらくは貴族階級と思われる人たちがパーティーを楽しんでいます。皆さんにもカクテルなどが手渡されます。
KP:部屋の片隅ではミュージシャンが音楽を奏でているんですが、見ると彼らは全員が顔に包帯を捲いており、しかも白い包帯に血が滲んでいます。
KP:他に室内を見回して特徴的なのは、美しい服に身を包んだマネキンがあちらこちらに配置されていることです。そして、最初に気付くのはやはりドクターでしょう。どうやらそれらのマネキンの中には、サリーの犠牲者を摸した姿に装われているものがあるようです。なぜなら、そのうちの一つが死んだ洗濯女にそっくりだからです。
 
サイモン卿:いや、勘弁してくれって感じだな。
Dr.ハルトムート:険しい眼でそのマネキンを見ながら、小声で他の二人に伝えます。「あのマネキン、あの顔の皮膚、本物だ」
サイモン卿:帰りたい。帰りたさしかない。
ハンク:もしかして敵の本拠地に乗り込んでしまったのかな。
KP:ではここで、「シーンを彩る」です。「このパーティーで見たり体験することは、表層は美しいけれども、すべてが外面的な装いに過ぎない。それは例えば何?」という質問に答えて下さい。
Dr.ハルトムート:なるほど、じゃあ、もちろんここにはお酒だけじゃなくって立食パーティーみたいな食べ物も並んでいます。で、ここにいる人はみな若くて美しいし、食べ者も見た目は普通なんですけど、手に取って食べるとどれもすごく柔らかくて、老人食なんですよ。
KP:いいですね。では、サイモン卿を招待したティースデール夫人が向こうからやってくるんですけど、彼女が取って食べているのも、やはり老人食なのでしょう。夫人は、サイモン卿を見ると嬉しそうにして、ようこそいらっしゃいましたと言いますよ。
サイモン卿:どうもお招きに預かり、と貴族らしく返してから、連れもおりますがよろしかったですか、と聞いておきましょう。
KP:夫人は、もちろんですわ、と言ってから、あなたを連れてちょっと他の人と離れます。で、連れの、特にハンクさんを見ながらですね、「なかなか美しい肉体の持ち主をお連れになりましたね。あの方の、どの部分を望まれていますの?」と。
サイモン卿:「ええっ? なんですって?」と言っちゃうよ。
KP:首を傾げて、「ご存じないのですか?」
サイモン卿:では少したじろいだ感じで、「若さの秘密とは……、つまり……」
KP:「もちろん我々の特権ですわ。価値のない者が若さと美しさだけを手にしているだなんてもったいない。美しさを本当に役立てられる者がそれを手に入れるのが当然でしょう?」
サイモン卿:それはどうなんだろうという顔で聞いてますが。
KP:彼女は微笑んで、「我々が他の国でやっていることと同じですわ。サイモン卿だって、世界各地から大英帝国のために色々なものを持ってこられたでしょ? それで名を上げられたんじゃありませんか」
サイモン卿:そう言われるとちょっと納得しちゃう。いや納得はしないんだけど、痛いところを突かれたなという感じではありますよね。ううんそうだな、「どのようにしてそんなことが可能なんです」と聞きましょう。
KP:「今日は来ておられませんけど、そういったことを引き受けていただけるお医者様がおられるんです。その方は偉大な実験を完成させて、我々に若さをもたらしてくれるのです。堂々と年を取ってゆきたいという方は自由にすればよろしいわ。我々は永遠を成し遂げようとしているのです」
サイモン卿:助けてくれドクター(笑)。
Dr.ハルトムート:呼ばれた。えっと、我々って、もうそろそろ真相をまとめて謎解きに入ってもいいくらいの段階かな?
KP:十分ありだと思います。皆さん結構証拠を集めていますし。このシーンでもう一つ何か見つけて、それで謎解きとかでも。
Dr.ハルトムート:そうなんですね。では……、そうだな。今の話はハルトムートにも聞こえていて、そこでこめかみをピクピクさせながら、「実に下らん。生きている者から生きている者への移植になど何の美がある」と。独り言なんだけど回りにも聞こえるくらいの声で。
KP:しかし彼女は、自分の指を眺めながら、完璧だわ美しいわ、と惚れ惚れしています。
サイモン卿:うわああ。
Dr.ハルトムート:その医者の話は知りたいよな……。ちょっとロールプレイするか。夫人に話しかけましょう。「私はドクター・ハルトムートという者です。もしかしたら私の名もご存じかも知れませんな。私もまた肉体の永遠を求める者の一人。ぜひその先生とお話したいが、ご紹介いただけるでしょうか。なんというお方ですか?」
KP:なるほど。しかし実は彼女も、その医者の名も居場所も知らないようなんです。いつも、仲介者が会わせてくれるんだと言われます。
Dr.ハルトムート:仲介者との会い方を聞きたいですが。
KP:それは情報入手で判定になりますね。
Dr.ハルトムート:そっか。じゃあちょっとホラー系の演出をしてもいいかな。「しかしどうやら、貴女はその医者に騙されているようですな。こんなものはまやかしですよ」と言ってですね、彼女の腕を掴み上げる。「ほら、この指も」と言いながら、ポロポロと指をつまみ取ってしまいます。
サイモン卿:うわあって顔で見てます。
KP:この人怖あ。それはオカルト系の演出なので、霊感で判定を。
Dr.ハルトムート:霊感か。霊感はないんだよなー。アイテム……小型発電機ここで使わないもんな。普通に振りましょう(ころころ)ギリギリだけど成功です。
KP:指をむしって成功(笑)。かなりPCのイカれてる具合が高いんですが。
ハンク:やっぱりこのゲームはタイトルも『ビトウィーン』だし、PCも狭間の存在なんでしょうね。
KP:えっとまず彼女は、その仲介者と言うのはダッパーボーイという十二、三の着飾った少年で、浮浪児かと思えるが元は貴族の子かもしれない。その彼が連れていってくれるのだ、といった話をしていました。このダッパーボーイが、手に入った新たな証拠です。
サイモン卿:見覚えあるなそいつ。
KP:で、そこで指を千切られてしまって、圧倒されて、「ああ、私の指が、指が。また先生につけ直して戴かないと。あの子を呼ばないと」と叫んでいます。さて、では、謎解きをやってみますか。
 
■□■謎解き
 
KP:では謎解きのやり方を解説します。プレイヤーの皆さんはこれまで入手した証拠を振り返り、自由に話し合って一つずつ説明をつけていきます。このゲームでは事件の真相をプレイヤーが決めますので、それに結び付くように説明して下さい。また、結び付かない証拠については、ではそれはなんだったのか、を説明して下さい。説明がついた証拠は最後の判定への有利な修正となり、説明がつかなかった証拠は無駄になってしまいます。
KP:真相はプレイヤーが決めるわけですが、シナリオで解決の方向性が三つ用意されています。それぞれ難易度が違い、簡単なものから、「殺人者の場所を知って踏み込む」、「殺人者が狙う次の犠牲者を予測して待ち伏せる」、「殺人者の動機を理解し、その心に平穏を与える」です。
Dr.ハルトムート:難易度が高い方がよりハッピーエンドになるわけですか?
KP:そう決まってはいないですね。犯人が邪悪な人物であれば、心に平穏を与えるよりも単に殺すべきかもしれないし、プレイヤー次第です。
Dr.ハルトムート:了解です。では証拠……。切り取られた指は、若返り手術で移植するため、黄金のカードは、秘密クラブの参加証のようなもの、でいいですよね。
ハンク:さっきのパーティー見てると、この事件では三人の被害者が出てるけど、実は知られていない被害者がもっと出てそうですよね。
サイモン卿:医者のところに案内してくれる十二、三才の少年というのは、ホワイトチャペルで夜に襲って来たやつと同じだよね。犯人の手先なんだろう。薬屋に来るというのも、女性じゃなくて声変わり前の子供で。
Dr.ハルトムート:毒薬なんですけど、これは特殊な毒で、これを使って殺すことで死体のパーツが移植可能になる、とするのがいいんじゃないかな。あと解剖してて死体から青い宝石が出たんだけど、これは……?
ハンク:それは、黒幕で描写されている貴婦人への手掛かりじゃないかと。
KP:そうですね。
Dr.ハルトムート:サリーじゃないわけか。
ハンク:後は、夜の叫び声。「認めなかった者たちに報復を」ってやつ。
Dr.ハルトムート:そうそう。それなんですけど、このハルトムートは、医学校とか医学業界の知識があると思うんで、あの学会から追放された奴、あいつならやりそうだ、とか思い当たることってできますか?
KP:いいですよ。学会から追放された医者が復讐の気持ちで行なっている反抗という感じで。さて、彼の居場所をどうやって知ります?
Dr.ハルトムート:張り込みしているアルフレッドさんが犯人を見つけるか、あるいはこの少年の後をつけるか。
ハンク:もう一つの拳闘士の事件の方で、ローガン博士っていう名前が出てるけど、そいつだっていうことにしてしまうのはありかな?
KP:ありでしょう。その学会を追放された人物こそローガン博士だったという。
ハンク:薬の方はチラシ広告があったから、そちらからも辿れる。若返る手術をしたり、肉体が強くなる薬を売ったりしている人物だというわけで。ハルトムート先生の医学校時代の知り合いがそういうことをしている。
Dr.ハルトムート:医師が、私は人体移植の技術を開発し、とか言ってたら学会から追放されて、あいつら許さん、って狂っていったという。
ハンク:人体実験やりたいです、とか言ったわけだ。
KP:これまでの流れからすると、ハルトムート先生の親友の人が生み出した、何か真の美のようなものを見ておかしくなった、みたいな人かも。
Dr.ハルトムート:なるほど! それだ。じゃあ今、まだ喋ってない過去のフラッシュバックをやります。失った者と過ごした、もっとも幸せだった日々を語る、というやつ。
 
Dr.ハルトムート:「この話をするのは初めてだが、私が医学生だった頃にヘラルドという友人がいてね。そう、ハンクくんには話したが、彼は本当に天才だった」
Dr.ハルトムート:「私と彼はその後共同研究を始めて、人間の様々な神秘を追求したよ。ヘラルドは天才的な論文をいくつも書いてね」
Dr.ハルトムート:「しかし、彼に嫉妬した男がいた。ドクター・ローガンは、自らも生物の神秘を探り、身体の部品を移植する研究をしていたんだ」
Dr.ハルトムート:「しかし、彼の研究よりもヘラルドの理論の方がはるかに優れていた。ローガンは最初のうち、何度もヘラルドに反論する論文を書いたが、いずれもミスを指摘されてね、ある日姿を消したんだよ。奴ならこれができるはずだ」
 
KP:それヘラルドさんとあなたが悪いのでは。
Dr.ハルトムート:いやいやいやいやいやいや(必死の打ち消し)。科学の世界にはよくあることなんです。
ハンク:金の才能を持つ天才に対する、銀の才能を持つ者の屈折ですね。
KP:彼は自分なりのやり方で求めるものに近づこうとして、紛い物の美を生み出し続けていると。
ハンク:不死身で闘い続ける戦士も、その歪んだ理想の一つなのかもしれないな。そんな奴がロンドンにいるわけだ。
 
KP:ところで、青い宝石ですが、これは黒幕の手掛かりであって個別の事件の手掛かりではないんですが、探検家のPCがいる場合には個別の事件の手掛かりとしても使うこともできます。探検家は黒幕の存在に気付いていて、ロンドンという巨大なチェスボードを俯瞰して眺めることができる、という感じです。使う場合は、黒幕とこの事件がどう絡むのかも説明して下さい。
サイモン卿:使っても使わなくてもいいんですか?
KP:はい。といっても、キャンペーンなら後々のために取っておいてもいいんですが、今回単発のセッションなので。
サイモン卿:では使いましょう。おそらくこの黒幕は、年を取っているが力がある貴族たちを絡め取るために、このローガン博士の不老不死の術の魅力で誘惑しているのだろう、と推測します。
KP:なるほど。しかし、犠牲者の胃袋から宝石が出てくるのはなぜでしょうか?
Dr.ハルトムート:それは挑戦なんじゃないかな。黒幕もまた、狩人たちの存在を知っていて、特に自分の存在に気付いているであろうサイモン卿を好敵手だと思っている。で、発見されるかどうかも分からない場所に宝石を残して、我がライバルであるお前ならもちろんこのサインに気付くだろうな、これに気付かぬようならお前など、と挑発している。というのはどうでしょう。
サイモン卿:いいですね。ではこちらもそれを理解して、挑戦を受けて立つ気持ちになっています。
KP:軽くまとめると今回の事件は、かつて生体移植を研究していた医学生がいたが、ハルトムート先生の友人が作り出す真の医学の美に叩きのめされて狂ってしまった。そしてこの国の貴族を操ろうとしている黒幕が彼に目をつけ、陰謀のために利用しているのだ。という感じですね。さて、解決方はどれにしてみます? ちなみに、証拠の数的には、一番難しいものまでいけそうです。もちろんダイス次第ですが。
Dr.ハルトムート:じゃあせっかくだから一番難しいやつでどうでしょう。犯人に慈悲をかけるかはその場で決めればいいとして。
KP:さて判定ですが、これに成功すると真実がいま言ったようなもので確定します。失敗すると考えた真相は実は間違っていたとして考え直しになります。ダイスは誰でもいいですが誰が振りますか?
Dr.ハルトムート:黒幕にライバル認定されているサイモン卿にお願いしたい。
サイモン卿:責任重大だなあ……(ころころ)なんとか成功。
KP:やりましたね。では夕暮れフェイズを経て、大詰めの夜間フェイズとなっていきます……。
 
■□■第二の夕暮れフェイズ
 
KP:さて夕暮れフェイズなので、ハンクさんは発作の判定を。
ハンク:来てしまった。アイテム使って有利にします。アメリカ時代に、ネイティブアメリカンの親切なシャーマンからもらった仮面。
Dr.ハルトムート:白い人、あんたは呪われておる。これを持って行きなされ。
KP:それをつけると呪いが抑制される感じでしょうか。どんな仮面なんでしょう。
ハンク:そのシャーマンは動物霊を摸した仮面を色々持っていたんですが。これは人間の仮面なんですよ。シャーマンに、お前は大自然の精霊に近すぎる、自分が人間であることを常に忘れるな、と言われて。
KP:おおー。では判定どうぞ。
ハンク:(ころころ)ちょっといい感じで成功しました。次の夜明けまで、活力を使う判定には有利がつきます。
KP:はい。さてこの夜ですが、皆さんは、「殺人者の動機を理解し、その心に平穏を与える」という解決に向かって基本進んでいきます。しかしこれは方向性程度に考えて、自由に描写してもらえればよいでしょう。夜間フェイズの行動宣言はどうしますか?
ハンク:栄養剤のチラシから、ドクター・ローガンの住所が分かった、ってことでいいですか? それなら、そこへ向かう、かな。
KP:よいでしょう。三人ともそうするということでいいですか?
サイモン卿:はい。
Dr.ハルトムート:大丈夫です。
 
■□■第二の夜間フェイズ
 
KP:では夜フェイズです。まずは、新たな舞台袖の演出があります。「グランギニョル劇場で、下層階級の子守が世話をしている上流階級の子供を殺害するという筋立ての演劇が上演される。観客にはロンドンのあらゆる社会階層の人々がいる」という設定です。
KP:そしてその一つ目の質問は、「幕が上がり、ステージを見渡すことができる。仕えている金持ちに比べて、子守がどれほど質素かが示されている。それはどんな舞台か?」です。これは「シーンを彩る」でもあるので、三人とも答えて下さい。
サイモン卿:じゃあ、まずは舞台の上手で、金持ちたちがパーティーを開いて笑い、照明も明るく当たっています。一方下手には子守の家があって、こちらは明らかに質素だし、薄暗いという。
Dr.ハルトムート:じゃあそうだな。舞台の下手の、子守の家の回りには周囲の町並みを描いた背景があるんですけど、これは明らかにホワイトチャペルを元にして描いてるな、ということがわかるという。
ハンク:で、家の中の子守は明らかに質素で量も少ない食事を終えて、とぼとぼと金持ちの家に向かいます。
KP:いいですね。観客が、いよいよ惨劇の幕が開くぞ、と悪趣味な期待に胸を高鳴らせます。そんなロンドンの夜。皆さんはドクター・ローガンの屋敷へ向かいます。
 
KP:ドクター・ローガンの自宅兼診療所のような屋敷には、例の少年、ダッパーボーイが用心棒のように住み込んでいます。彼はどうやらドクター・ローガンの信奉者で、様々なことに協力し、前回はならず者の部下を使ってホワイトチャペルに来たPC二人を襲いました。今回は、皆さんが診療所に近づいてゆくと、ガス燈の下にならず者がたむろして、屋敷を守っているようです。どうしますか?
Dr.ハルトムート:こんなのはどうかな。僕の立ち絵イラストを見ると、後ろにはスティッキーがいるんですけど、手にはまた変な形の杖を持っているんですよ。

KP:ありますね。
Dr.ハルトムート:その杖を何度か振ってから、「奴らを引きつけろ」と言ってぱっと放り出すと、この杖がちょこちょこと走り出すんですよ。
KP:なんて?
Dr.ハルトムート:あえてタカタカタカと足音を立てながら、見張りのいる辺りを走り過ぎると、なんだなんだ、って言いながらそいつらがそれを追ってしまう、という。
KP:夜中行動で。技能は……理知かなあ。
Dr.ハルトムート:まあ知恵で作りましたので。
KP:一番恐ろしいのはどういう結果が出るときですか?
Dr.ハルトムート:うーん……、全然役に立たなくて、みんな何だあれってそっちを見るんだけど、それだけで、なんの囮にもならなかった、のが悲しいかな。
KP:なるほど、ではそれよりも悪化して、失敗すると、向こうはそれがやってきた方を見てあなたたちに気付いてしまいます。判定どうぞ。
Dr.ハルトムート:理知はあるから(ころころ)おっと6ゾロ。
KP:意図したことをやり遂げて、さらに有利な出来事が起きますね。それを自由に語って下さい。
Dr.ハルトムート:ではまず、ならず者たちは狙い通りにそれを追っかけます。で、追っかけて囲むんだけど、わけのわからんものが躍りながら跳ね回ってるのを見て、怪物だあ、ってなって、怯えて逃げ散ってしまいます。
KP:いいでしょう。というわけで、囮に引き付けられただけなら後で戻ってくるところでしたが、彼らはもう戻ってきません。後のお二人はどうしますか。
ハンク:建物内に入りたいわけですが。
KP:もちろん、鍵はかかっています。
ハンク:「俺が中から開けましょう」って言います。ちなみに今の姿は黒いダスターコートに黒い帽子。そして発作を押さえるために人間の仮面を被っています。で、異常な膂力で壁をよじ登って二階の窓から入ります。
KP:活力で判定ですね。やはり不利になった場合のことを。
ハンク:失敗すると、見つかっちゃうんじゃないかと。
KP:では、見つかるだけでなく、窓には罠が仕掛けてあってそれにかかってしまうとしましょう。判定どうぞ。
ハンク:活力なので有利(ころころ)大成功です。
KP:おお、これまた、やりとげてさらに有利。ではですね、二階の室内には、例の少年、ダッパーボーイがいてナイフを研いでいました。しかし彼は背を向けていてあなたに気付かなかった、という有利があるとしましょう。
ハンク:では足を忍ばせて階下に降りて、扉を開けました。
サイモン卿:ずかずかと入ります。
Dr.ハルトムート:こちらも、杖がチョコチョコ戻ってくるんで、「よしよしケイニー、よくやった」って言って、建物内へ。ちなみに杖のケインと犬のケイナインの駄洒落でケイニーです。
ハンク:素早く二階に戻って、少年が気付く前に後ろに回り込んで、喉笛を掻き切りたいと思いますが。
KP:一応、本当に十二、三の少年ですが遠慮なく掻き切りますか。
ハンク:ここは容赦しません。蝋燭が灯ってるんで、それをふっと吹き消します。そして少年が研いでるナイフをぱっと奪ってそれで切る。
KP:ではさっきの有利の効果で、それは成功しました。血がどばっとでるんですけど、サイモン卿の目の前でその光景が展開するので、泰然で判定しましょうか。失敗すると思わず動揺してしまって、奥にいるだろう人物に気付かれます。
サイモン卿:そろそろ有利のタネがなくなってきた(ころころ)失敗。ちょっとたじろいで、近くの丸テーブルに手を置くんだけど、そこにあったワイングラスが下にガシャンと落ちます。
KP:では奥から、「ダッパーボーイ! 何をしてるんだ」という声がします。まだ侵入者がいるとまでは気付かれてないようです。
 
KP:では、三人が判定しましたので、舞台袖です。「二人の子供が子守を激しく罵倒する、第一幕を描写」です。思いつく方どなたでも。
ハンク:では、今ワイングラスが割れましたが、同じように舞台でもワイングラスが割れました。子供が子守を四つん這いにさせてお馬さんごっこをしていて、それがテーブルにぶつかったんですね。そして子供が子守をやいやいと罵って、子守が涙を拭っている。しかし一方、我々のいるこの建物では、十二、三の子供が喉を掻き切られ、生意気な口も利けずに倒れているというオーバーラップで。
KP:はい。倒れた子供は、どくどくと血を流し、気取って着ていた上等の服も台無しです。では各人の行動の二周目。ドクター・ローガンが、奥の部屋で立ち上がってこちらに来る気配です。みなさんどうしますか?
Dr.ハルトムート:まあ僕の知り合いなので僕が出るんでしょうね。えっと、解決としては、殺人者の気持ちを理解し、その心に平穏をもたらす、んですよね。
KP:そうです。何が平穏かは諸説ありますね。死も平穏かもしれない。
Dr.ハルトムート:では、さっきハンクさんが蝋燭を消したので、ドクター・ローガンが、おいどうしたんだ、明かりも点いていないじゃないか、と言います。そこで演出ぶって蝋燭にぽっと火を灯し、ハルトムートがそれに照らし出されます。「久しぶりだな。ドクター・ローガン」
KP:「お、お前……」と、ドクター・ローガンは呟きます。それから慌てたように周囲を見回すのは、ヘラルドさんの姿を探したのでしょう。もちろんいませんが。で、「私の邪魔をしに来たのか。もう遅いぞ。私は、お前たちには不可能な成果をすでに成し遂げているんだ!」と血走った眼で叫びます。
Dr.ハルトムート:うーんと、このまま僕がどんどんいい気なムーブをして、精神的にとどめを刺してもいいのかな。
サイモン卿:もうやっちゃってくれれば。横から「貴族たちは騙せても、君のかつての同窓生を騙すことはできなかったようだな」と言っておきましょう。
KP:「騙してなどいない! 私は彼女たちに永遠の若さを与えたのだ!」
Dr.ハルトムート:「君の上げた成果とはあの縫い合わせた指かね。あんなもので命を支配したつもりになるとはな」
KP:「それこそ負け犬の言うことだ。お前たちが何を成し遂げたというのだ」と言いますが、どうやら彼は、じりじりと自分の研究室に下がっていってますね。
ハンク:おっと、それは遮りますよ。
KP:それを活力で判定しましょう。失敗すると?
ハンク:研究室に飛び込まれると、何か策があると思うんですよ。あれかな、エリクサーの方。あれの強力な奴を自分で飲むとか。
KP:では、隣室に特製の戦士が眠らせてあって、それが目覚めさせられる、としましょう。判定どうぞ。
ハンク:(ころころ)いい感じに成功。常人には不可能なスピードで、すでにドクター・ローガンの後ろに立っていて、肩をがっしと掴みます。
KP:超人化してる。
ハンク:「あの夫人の指ですかい? ぽろぽろ取れちまいましたよ。あんたは何も上手くやってなんかいない」と言って、で、先生にとどめを刺してもらおう。
Dr.ハルトムート:よしよし、では、今我々のいる同じ部屋に、さっきのダッパーボーイが死んでるわけです。なのでその横に屈み込んで言います。「見せてやろう。君のしたことなど何でもない。この私だって何者でもない。ヘラルドが発見した神秘を見せてやる!」と言って、現場の医学の技能をダッパーボーイに使おうと思います。
KP:蘇生させるという?
Dr.ハルトムート:そうです。まあこの技能は治療の技能であって、死体を蘇らせる技能ではないんですけど、でも作中時間で彼が喉を掻き切られてからまだ一、二分だと思うんですよ。なので、ルール上は治療、しかし演出上は死んだ者が生き返る、みたいにできれば。
KP:なるほど、常識ではありえないような医学で、どう見ても死んだと思われる者が生き返る光景を目の前で見せてやると。怖いよー。
Dr.ハルトムート:ではこれは技能の判定……泰然か。満を持して、残してあった小形電気発生装置を使って有利にしましょう。死体の喉は裂けてるんですけど、それはべとべとしたものを塗って塞ぎます。身体のあちこちにカバンから伸ばしたコードを繋いで、有利なのでダイスが一個多い……(ころころ)よし成功!
KP:では息を吹き返します。
Dr.ハルトムート:ビビビビと電気が流れて、身体がビクンビクンと動いて、ダッパーボーイが上半身を跳ね起こします。もちろん血はだいぶ流しているので、寝ていたまえ、と言ってそれを横にさせます。そしてドクター・ローガンに「見たな。君ならわかるだろう。この意味が」
KP:がくがくがくと震えて、「そんな、そんなことが。私にはできない。私には」とか呟いてます。さて、彼に対して、サイモン卿どうします。
サイモン卿:バーンと杖を突きつけます。「君はただの人形だったのだよ。この国を脅かす者が、君の不相応な野心に目をつけたのだ」
KP:「あの青い宝石の送り主が……」
サイモン卿:「そうだ、青い宝石、あれこそが始まりなのだ。ようやくわかっただろう。君は利用されていたに過ぎない」
KP:それはかなりとどめだったようです。ドクター・ローガンはへなへなと崩れ落ちます。
 
KP:さて、事件はほぼ解決した感じですが、舞台袖です。「我慢の限界に達した子守が、悪童たちを殺す第二幕。観客の反応はどんな感じか」という質問です。
サイモン卿:観客は目をギラつかせて、立ち上がって喝采します。
KP:殺し方はどんな感じでしょう。
サイモン卿:子供達は本かなんかを読んでいて、気付かないままのものを後ろからズバっとやります。そして子守は高らかに笑います。
KP:そして観客が喝采すると。ひどい劇だ(笑)。
Dr.ハルトムート:ではその笑い声をうけて、殺人犯に平穏をもたらす描写をしましょう。ドクター・ローガンは呆然としてたんですが、やがて、「死から……蘇らせる……? 死から………………。ははは、はははは、はははははははは」と笑い出します。
KP:恐ろしい……。でもそういう解決を達成したのでそうなりますね。
Dr.ハルトムート:それを見届けて、ダッパーボーイを抱き上げると。「行こうか、 ここで我々がすることはもうなさそうだ」と。
KP:あ、一応、奥の研究室では、移植待ちの身体のパーツとか、怪談に出てくる顔無しサリーのものだとされる木の板の仮面とか、ドクター・ローガンのエリクサーとかが見つかります。その中には、特に高濃度の、緑色がプクプク泡立っている瓶があります。拳闘士の事件の方の手掛かりですね。今回はそれはもうプレイしませんが、皆さんのさらなる捜査に役立ってゆくでしょう。
 
KP:では最後の舞台袖を。「子守が当然の報いを受けることになる、第三幕を描写する。最後のシーンは非常に血なまぐさいものになるはずだ。」です。
Dr.ハルトムート:えーでは、舞台の上で、殺人の罪で捉えられた子守は公開処刑となります。観客たちの中でも特に貴族たちが大喜びで手を叩いています。ところがその内、貴族の男女の指とか、鼻や耳とかがポロポロと取れ出して、私の指が、私の顔が、みたいな幻想的な騒動の中で画面がフェイドアウトしていきます……。
 
■□■エンディング
 
KP:はい、では皆さんにこの後どうするかとかを軽く語ってもらって、この事件も終了でしょうか。ダッパーボーイはどうするかとか、あと過去の話をまだ語っていない人は語って下さい。
ハンク:あの、サリーの木の板の仮面、もらってもいいでしょうか。
KP:あれは実はシナリオ報酬のアイテムの中にあるので、受け取れますよ。
ハンク:では、劇場で貴族たちの顔が崩れていく映像がフェイドアウトすると、木の板に目をくり抜いただけみたいな仮面を手にするハンクが映ります。で、ここで過去のフラッシュバックを起こします。
 
ハンク:青年期の頃です。ヨーロッパからアメリカに渡って、元は貴族の家柄なんで服装なんかもいいものを着ています。まだ家にいたんですが、反抗期で、親と激しく喧嘩をしたりしていました。
ハンク:親は貴族様なんで、そんなに生活力がなかったんですね。財産を食い潰していくだけで。なのでハンクは、まだなんとかできるうちに、この新しい大地で事業かなんかをやるべきだって言うんですけど、そんな下賎なことができるかって言われて。
ハンク:で、激しく言い争ったことなんかを思い出しながら、現代のハンクは手にした仮面を見ています。そして、「何かになろうとして、結局、何者にもなれない」と、表情も何もない木の板の仮面を見て呟きます。
KP:何か暗示がありますね。あなたは自分として生きるのではなく、比喩的な意味でも、何らかの仮面をかぶって生きていくのかもしれない。
ハンク:はい。今回の事件のドクター・ローガンは、何かになろうとしてなれなかった人間だったので、ハンクとしてはちょっと思うところがありましたね。
 
KP:ハルトムート先生はどうします。
Dr.ハルトムート:そうですね。この少年を、とりあえずハーグレイヴ館に連れて帰ります。蘇生させはしたものの、出血多量で圧倒的に貧血のはずなのでしばらく面倒を見ますね。そしてもし、この少年がそれを恩義に感じて、ハーグレイヴ館の小遣いとか使いっ走りとかになってくれるなら、それはそれで面白い。しかしまあ、歩けるようになった途端に姿を消して二度と戻ってこないとしても、それもよかろう、という気持ちです。
KP:なるほど。では、あなたの力によって一命を取り止めた少年は徐々に回復していきます。しかし彼がどうするかは今のところはわからないと。
 
KP:サイモン卿はどうされます?
サイモン卿:どうしようかな。貴族社会のパーティーにまた顔を出して、マーガレット・ティースデール夫人は社交界から姿を消してしまったことを知ったりします。
KP:そうですね。不老の泉の噂もいつの間にか聞かなくなります。
サイモン卿:貴族たちの話題も、流行も、すぐに移り変わっていく。誰も過ぎ去ったことを気にしてはいないのだ。
 
KP:さて、そうしてあなた方は、この夜を無事に乗り切ることができました。みなさんの冒険は続くのですが、エンディング代わりに、もう一つの黒幕の手掛かりを出して締めにしましょう。ある夜、皆さんがハーグレイヴ館で話し合っていると、チリンチリンと呼び鈴が鳴ります。
サイモン卿:えっと、アルフレッドが対応するかな。
KP:アルフレッドさんはすぐに戻って着て、「旦那様、誰もいませんでした。しかしこのカードが玄関に」と言います。彼が差し出すカードはサファイアブルーに黄色の文字が書かれており、三日後に最高級住宅地のブライスウェイトホールで開かれる会食の招待状のようです。あなたたちは、このサファイアの青色には見覚えがあるでしょう。
サイモン卿:うん、うん。
KP:どうします。
サイモン卿:行くしかないよなあ。
KP:他の方々は?
Dr.ハルトムート:我々の宿敵ですよね。全員で行くしかないのでは。
KP:ああ、いいですね。では三日後、皆さんはその屋敷に向かいました。建物の内装はやはり見覚えのある青で、布や宝石で飾りたてられています。皆さんを出迎えてくれる女主人は、テオドラ・ブライスウェイトという名で、年の頃は五、六十、当時のビクトリア女王と同年代です。その視線には非常に力強い威厳があり、魂の底まで見通すかのようです。
KP:彼女は、「ハーグレイヴ館の皆さんですね。ようこそ」とにこやかに微笑んで、屋敷の奥へと案内しようとします。ここではやはり、彼女の宿敵であるサイモン卿が自由に演出できますが、どうしますか?
サイモン卿:ではですね、こちらへ、って言って彼女は歩き出そうとするんですが、「レディ、その前に」と言って、青い宝石を突きつけます。
KP:彼女はにっこりと笑って、「あら、どこで無くしたかと思ったら」と言ってそれを受け取ります。そして、「皆さんとは、少し建設的な話がしたいと思っていたの。お食事の用意ができてます。ゆっくりとお話しましょうか」と言って、今度こそ先に立って歩き出します。皆さんはそれについて、青い布が揺れる屋敷の奥へと踏み込んでゆき、音楽が高まって、この物語はひとまずの幕を閉じます──。
 
■□■感想戦
 
プレイヤーたち:お疲れ様でしたー!
KP:試験的なプレイにお付き合いいただきありがとうございます! キャンペーン向けのゲームかと思ってましたけど、思った以上にそうですね。
プレイヤー:これ、わんこ蕎麦みたいに次々と脅威が出てくるんですよね。
KP:一応、同時には最大三件までとなってますが、そうです。で、個々の事件を解決しながら黒幕の正体が解ってゆき、またプレイヤーの過去も明らかになってゆき、というゲームです。
プレイヤー:過去を喋って失敗を成功にできるルールがあるでしょう。あれで今回、ほぼ失敗しないみたいになってるなと思ったんですよ。あれは本当はもうちょっと貴重で、出し惜しみするべきですよね。
KP:きっとそうですね。でもまあ、単発ならこんな感じで遊んでもいいんじゃないでしょうか。
プレイヤー:キャンぺーンをしていくと、ハンクさん獣人化しちゃうんですよね。
KP:ダイスが成功し続ければ大丈夫なんで運なんですけど、そうなったときのルールは用意されてますね。またキャンペーン中には黒幕がハーグレイヴ館を襲う展開のシナリオがあったりもします。
プレイヤー:黒幕も、事件の真相みたいにプレイヤーが正体を考えるんですか?
KP:黒幕だけは設定が決まってるんですよ。ルールに何種類かの黒幕が用意されてて、最終決戦のルールもあります。
 
KP:ところでKPしてて、ヴィクトリア朝ロンドンの雰囲気がうまく出せてるかなというのがちょっと気になってたんですけど、大丈夫でしたか?
プレイヤー:出てたと思いますが……。
KP:よかった。ほら、ぜんぜん馴染みのない世界観だから大丈夫かなって……。
プレイヤー:えええ? ちょっと待って。ヴィクトリア朝ロンドンって馴染みないんですか!? 僕はシャーロック・ホームズが大好きなんで、ほぼ第二の故郷くらいなんですけど。
プレイヤー:でもほら、最近はテレビでBBCのシャーロック・ホームズもやってないし。
プレイヤー:ああ~。
プレイヤー:最近はもう、ホームズといえばカンバーバッチなんですよ。
プレイヤー:現代じゃねえか(笑)。
 
■□■あとがき
 
 というわけで、The Betweenという未訳TRPGのリプレイでした。募集されてるときの概要を見て、面白そう! と思って参加したんですが、好きなやつでした。
 生命創造者というハンドアウトをもらって、ノリノリでハルトムート先生というキャラができて。かなりやりたい放題のロールプレイでした。タイトルは『Dr.ハルトムートの暴走』でもよかったな。
 過去を語るルールとか、進行中の事件とは異なる場面を描写することで雰囲気を出すルールとか、よくできてると思いました。ミステリ仕立てなのに真相はプレイヤーが考えるというのも吹っ切れてますよね。
 ちなみにハルトムートと友人のヘラルド君なんですけど、ハルトムートは非常に優秀だけれども常識の範囲内の人物であり、一方ヘラルドは純然たる天才だった、という設定です。彼はあまりに天才過ぎて自分を被検体にした人体実験をしてしまい、ハルトムートは絶対やめろ、それだけはやるなと言ったのに聞いてもらえず、そして実験は原因不明の失敗に終わりました。で、仕方ないので、ハルトムートはそのヘラルドを生き返らせようとして一生懸命研究を続けています。
 なお、館の中にハルトムートの研究室があるんですけど、そこに瓶の中の液体に浮かんだヘラルドの頭部があって。その前でハルトムートが崩折れて、「ヘラルド! 私を導いてくれ! 私にはもう無理だ!」と叫ぶシーンを考えてたんですけど、セッション中に出すタイミングがなかったのでここで供養。