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ハイブリッドセミナー向きビデオスイッチャーの選択

リアルとオンラインの融合であるハイブリッドセミナーの運営には、いくつか必要となる配信機材がある。今回は、私自身がさまざまなことからRolandのV-8HDを選択した経緯についてお話したい。

このV-8HDだが、業界(?)内でどのポジションに位置する機材なのか正直分からない。ただ、その価格設定からして一部の人に引かれることがあるが、この記事を読むことで必要最低限の機材であったことを理解してくれるとありがたい。

ビデオスイッチャーを導入することとなったきっかけ

最初のハイブリッドセミナー、つまりリアル会場の会を配信するということをしたのは第16回大分県麻酔科学アカデミーだった。

16回目の麻酔科学アカデミー備忘録

スライド2

この時はまだ、会場のスクリーンと演者をカメラで映して配信するというものだった。演者も見切れてしまうし、スライドももっと見やすくできないのかなと問題意識を持っていた。

この時期(2020年10月)より少し前の2020年9月に、九州の麻酔科医の集まりで九州麻酔超音波アカデミーの完全オンラインセミナーの運営にも少し携わっていた。といっても、ミーティングに顔出していて当日はよくわからずなんかスタッフっぽい仕事をしていた(みたい)。←今振り返ると何もしていなかった。その時のミーティングで、「ATEM Miniで」「OBS studioだと」みたいな単語が出てきたりしていたが、「何のこっちゃ」というか「ふ~ん、こだわる人は凝ったことするんだなぁ」程度にしか思っていなかった。

2020年12月の第17回大分県麻酔科学アカデミーで、はじめてキャプチャーボードを導入したハイブリッドセミナーを開催した。

ハイブリッドセミナー~第17回大分県麻酔科学アカデミー

ここでようやく、演者PCからのパワポスライドをきれいに配信できるようになった。今振り返ると、この時第2カメラのコンテンツ画面共有を使っていますね。キャプチャーボードを購入した際に、カメラの認識の問題でOBS studioを少し使う機会があった。リアルとオンラインを同時に行うハイブリッドセミナーでは、どういった映像を配信するかでセミナーの質(少なくともオンライン部分)が異なることをこのあたりから意識し始めた。

ATEM Miniの導入

ATEM Miniシリーズは、Blackmagic Design社より発売されているビデオスイッチャーである。4つのHDMI入力端子と2つの3.5mm音声入力端子付き。USB-Cケーブルで直接PCにつなげばそのままビデオ入力として認識される(キャプチャーボード不要)。さらにOBS studioまで導入して、”なんか凝った感じを漂わせる”配信ができた。

もう一つのハイブリッド~第18回大分県麻酔科学アカデミー

スライド3

(今考えると、この配信にATEM Miniは不要)

ATEM Miniの問題点

第18回は、演者がリアルとオンラインを混ぜたハイブリッドの会であり、うまくやってたつもりが結局オンライン演者の場合はHDMIケーブルを差し替えるという何ともアナログな手法での運営となった。いろいろあって、結局はこの図のような画面を配信したいということになった。

スライド4

ここでポイントとなるのは2つ。1つは、オフライン演者の場合のリアル会場でスクリーンに映す画面と配信画面が違う点。もう1つはZoom演者の場合のリアル会場での音声問題だが、これがスムーズに解決するのは少し先の話なので今回は割愛する。

この、異なる2種類の画面出力がキー。実は、ATEM MiniにはUSB-C出力とは別にHDMI出力もついている。一般的にビデオスイッチャーには、Preview outとProgram outという2種類の画面構成が可能。PinPなりテロップ合成なりをPreview画面で確認して、タイミングで切り替えて実際にProgram outで配信に乗せる。なので、例えばProgram outをただのスライド画面(上の図でいうオフライン会場)、Preview outをPinP付きのスライド画面(上の図でいうオンライン)にすれば良い。実際は、これでも可能。だがこれを実際のライブセミナーで運用するとなると様々な問題が出てきた。

①画面構成の確認ができない

無印ATEM Miniにはマルチビュー確認画面がついていない。マルチビューとは、例えば4つのHDMIそれぞれに入力されている映像や、Preview/Program outでの画面を確認できる画面のこと。実際のセミナーでは、途中でカメラの電源が切れてたりPCやケーブルの不具合?で映像が来てなかったりといったことが頻繁に発生し、これをきちんと監視しておく必要がある。ATEM Mini Pro以降のモデルになると、マルチビューモニター用の出力端子が付いてくるので、サブモニターにそれをつなげばいいのだが、この時持っていた無印ATEM Miniにはその機能がなく、マルチビューのためだけにATEM Mini Pro(67,980円~)やサブモニター(ピンキリ)が必要であった。

②機能最大活用のためにはATEM software controlが必須

ATEMは、使い込むと実に多くのことができる。映像の切り替え、PinP、DSK、オーディオミキサーなど使い込めば使い込むほど味が出る。しかもそのノウハウは多くの先駆者がYouTubeに動画を上げてくれている。自分が愛用したのはこちらのシリーズ。

この、ATEM software controlは、商品購入者であれば無料でダウンロードできるのだが、PC ソフトウェアである。つまり、パソコンが別途必要。

ハイブリッドセミナーでは、オンライン演者の場合はZoomの画面をプロジェクターに映す必要がある。Macでは複数のデスクトップ環境を設定することができる(マジで神!)が、常時モニタリングには適していない。別にPCを1台用意すればいいだけの話だが、できるだけコンパクトな出張可能なハイブリッドシステムを目指す自分としてはPC追加はできるだけ避けたかった。というか、2ヶ月に1回とは言えPC2台ワンオペでセミナー開催なんてやりたくなかった。

ATEM Mini奮闘記①Mac OS Sidecarの活用

とは言え、すぐにATEMから乗り換えたわけではなく、それなりに奮闘しました。

その1つが、Mac OSのSidecarの機能を用いたもの。「Sidecar」はMac OS Big sur以降に実装された機能で、iPadをMacの拡張デスクトップもしくはミラーリングで使うという機能。ここで、拡張ディスプレイにATEM software controlの画面を出しておけば、1台のPCでワンオペできる。と考えた。

ところがこれがうまくいかず。Sidecarのデスクトップ拡張してたら、HDMIでZoomの画面をスクリーンに映せないことが判明した。これは事前リハ(しかもかなり早めの段階でのリハ)で判明した。いつもは直前期にしかリハーサルをしないのだが、今回はたまたま早めにリハをしたおかげで発覚。マジで事故るところだった。

ATEM Mini奮闘記②Stream Deck

お世話になってる人も多いと思う、Elgato社の製品。アプリごとに、ミュートや画面切り替え、最大化などのアクションをキーに割り当てることができ、これを瞬時に呼び出すことができる。通称”左手デバイス”と呼ばれるもの。ZoomやOBS studio、 Power Pointなどの様々なアプリに対応している。ATEMに関しては、公式ではないがCompanionというアプリをインストールすることで、ATEM Miniの操作も可能になる。

Stream Deckがつかえるのであれば、様々な画面構成をあらかじめ記憶させておくマクロ機能をボタンの数だけ設定できる。これで問題解決と思いきや、このCompanionの仕様がネックだった。

Stream DeckでCompanionを使うためには、Stream Deck本体とPCはUSBではなくイーサーネットで接続されている必要があった。ATEM Miniに割り当てられているIPアドレスをCompanion側で読み込んで接続される。つまり、Stream Deck-PCの接続用にネットワークを使ってしまうので、そのPCで配信ができなくなる。実際、ATEMのIPをPCネットワークの中に振ったりといろいろしてみたのだが結局うまくいかなかった。自宅のネットワークでうまくいかなかったのに、実際のセミナーでは会場備え付けの回線を使うのでセキュリティの関係でうまくいかないことも起こり得た。実際、iPadやiPhoneにWebカメラとして使うようにできるEpoc camは会場ネットワーク上では接続できないことが過去にあった。配信用に別途PCを用意する必要がある。結局増えるんかい・・・

このStream Deckと、そもそものATEM software controlに関しては、かなり粘りました。少し前から、自分が実現したいことはV-8HDを使えば簡単にできることは明らかであったが。ATEMが3万円台であるのに対しV-8HDは桁が違う。趣味レベルとすれば、コロナ禍で日々の出費が抑えられている中では出せない金額ではなかったがホイホイと高いものに飛びつきたくはなかった。2020年1月の段階でようやくATEM Miniを導入したのに、その翌月にはすぐ次の機材なんてことはしたくなかった。金額的にもそうだし、とりあえず数回はATEMで粘ってみて、「やっぱV-8HDいいじゃん!」ってなって6月のボーナス(?)で自分で買うか!とざっくり思っていた。この様子は、当時のブログにもつづっている。

V-8HDを導入するに至った経緯~ハイブリッドのための散財日記

V-8HD購入の決断-ガジェット購入の葛藤

当時にしても、勇気ある投資だった。だが、今でこそこの投資には十分価値があり、決断は間違っていなかったと心の底から思える。高額機材の購入といえば、何かしらの研究費や組織の経費で購入するという手もあるが、個人的感情もあり”何にも縛られたくない”ということがあった。実際今になって、これは個人の所有物で本当に良かったと心の底から思えている。ガジェット系というのは、宝くじを買っているようなものだ。ビデオキャプチャーボードにしても、PCやケーブルなどの機材との相性がある。購入自体が博打であり、冒険。それゆえに、当たった時の高揚感はほかの何にも形容しがたいものがある。しかし、何かしらの経費での購入はそうもいかない。そもそも「失敗するかもしれない」ものは買えないし、個人的には自分のものじゃないお金で失敗した時の申し訳なさがものすごく大きい。このnoteで記録を残そうと思ったきっかけにもなったが、自分は経費購入でデジタルカメラを購入したものが完全に意図した用途では使えないものだった。今でこそそれはミスだといえるのだが、当時はそんなのも分かるわけもなく、これまでにないくらい落ち込み、こういった配信系の取り組みももう止めようかと思うまで追い込まれた。「あぁ~、こうやって散っていくんだろうなぁ」というのも少しわかった気がした。

Roland V-8HD

V-8HDは、8つのHDMI入力と1つのRCA音声入力をもつビデオスイッチャー。2つのHDMI出力と、本体にマルチビューモニターを備えている。画面の構成だけであれば、ほぼハードウェア単体で完結できるし、直感的な操作系統が魅力である。ライブ配信では、予定外に「こういう画面が欲しい」とか「ここ調節したい」ということが頻繁に起こる。もちろん、スルーしてもいいのだが、より良いライブ配信にするには随時対応したい。V-8HDは、直感的に操作できるので、できるかな?→やってみる→できた!ということが非常に多い。この即時性とハードウェア完結型の操作系統はATEM Miniにはない魅力。ATEM Miniでいうマクロに該当する機能であるpreset memoryは最大24個まで設定可能。まぁ24個まで拡張すると別の操作系を犠牲にしなければならないので通常は8つのメモリーで十分。この読み込みと、設定までもがハードウェアだけで完結できる。ライブ配信中に微調整したものを即メモリーさせることも可能。

V-8HDの弱点は、音声。「ん?天下のRolandが音に弱い!?」と意外かもしれないが、これはV-8HDにしては映像と比べて音声が弱いというだけ。V-8HDの詳細なコントロールは「V-8 Remote 」というiPadアプリで行う。これもいい。PCでなくiPadでできる。このアプリ内に、イコライザーなどのオーディオミキサーがついている。ATEM Miniと比べて、V-8HDはRCA端子1つ分の音声入力しかないのだが、8つのHDMI入力それぞれに音声が付いてくる。これ、ちゃんとAFVやミュート設定しないと、すべての音がミックスされるので音トラブルのもと。音の視覚モニタリングの意味でもV-8 Remote は必須。結局は現在はオーディオミキサーを導入して、音はNotepad-8FX、映像はV-8HDとそれぞれ役割分担をしている。これも、ワンオペでセミナーを運営するうえでも大切なこと。

音は音、映像は映像

ハードウェア化できるものはハードウェア化して極力ソフトウェアの使用を避ける

この2つは、これまでの様々な失敗と検証を繰り返した結果に至った結論。ソフトウェアがつかえるのであれば、無料のOBS studioで事足りるのです。

ATEMが勝るもの

V-8HDを購入した数か月後、8入力2出力のATEM Mini Extremeが発表された。

8入力って、V-8HD意識してるなぁーとか、値段からしてATEM Extremeでいいじゃんと思う方もいるかもしれない。もし今、V-8HDとATEM Extremeを選べる段階だったとして自分がどちらを選ぶかだが、値段の差を踏まえたとしても断然V-8HDを選ぶ。

ただし、これは自分の場合。選択の前提条件としては、①ハイブリッドライブ配信セミナーの運営であること②それをメインは1人でオペレーションするということ③出張可能なコンパクトな機材システムとすることという条件付きである。

この条件を1つでも欠いたとするならば、もしかしたらATEMシリーズを選択するかもしれない。ATEM software controlでできることは非常に多い。コントロール系統だけでもLANケーブルでつないでネットワーク上で制御ができるので、複数のATEM software control使用端末で制御すれば、国際会議クラスのハイブリッドセミナーもATEMで運用可能かもしれない。でもそれは、自分のケースの場合は当てはまらない。出張ではなく、自宅スタジオでの運用だったり、そもそもライブ配信にこだわらないのであればコスパ考えてもATEMかもしれない。software搭載のオーディオミキサーに関しては、ATEMの方がより特定の周波数帯を抑える設定もできる(そうする必要があるかどうかは抜きにして)。機材さえあればビデオカメラの制御も可能なのだ(バカ高いけど汗)

それでもV-8HD

当然の反応だが、V-8HDは決して安い買い物ではない。この機能をフル活用して、失敗を繰り返しながらハイブリッドセミナーの運営を模索しているが、すべてV-8HDありきとなっている。だから、自分がやったことが一般的に誰にでもできるようになるかというとそう簡単にはいかないのも理解している。一般的には、3万円台で手に入る無印ATEM Miniですら二の足を踏むだろう。

しかし、実際はこのV-8HDで小規模ハイブリッドセミナーは数知れず、公式な中規模学会の運営を2回成功させた。業者に依頼したら、1セッション、1人の演者だけで数十万とられる。これを、自家でやるとなると、長期的にみると決して高すぎない投資だと思う。さらに、今後もこのハイブリッドセミナーのニーズはきっと続いていくだろうと思っている。コロナ禍も1年が過ぎ、そろそろオンライン疲れしている人も多い中、Zoom離れやオンライン離れをしてリアルを求める人たちの中には、たいして利用もしないままオンラインを離れた人や、「まだできることがあるのに早々に諦めている」人も多いともう。とてもこういうところには書けないが、Zoomやオンラインを活用したエンタテイメントはたくさんあります。(詳細は問い合わせください。男性推奨←内容、察してください)

「オンラインいいね!」とおもわせることができなかったとしたら、運営側にも問題があると思います。ハウリングや音声マイクに気を使わなかったり、気の利いたホスト操作が全然できていないZoomセミナーもたくさんあります。そういったことの内容に、今後「アフターコロナだからリアルに移行しよう!」という声が大きくなったとしても、「ハイブリットやってみる?」という気持ちが少しはあれば、コロナ禍でオンライン化することにより多くのチャンスが生まれ得ることを知った一定層の方たちの声を拾い上げることができたらうれしいです。

ちなみに、V-8HDの購入費ですが、完全なる手出しですがこれまでこの機材を用いたハイブリッドセミナーの運営依頼による報酬で元金はすでに回収できております。

先行投資には勇気が必要でしたが、やってよかった。

社会のこういう変革期には、何かしらの勇気ある一歩が大切ですね。

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