穴#1

猫には、穴がある。
口や、耳、鼻、肛門ではない。
猫の横腹には、ぽっかりと500円玉程の空洞があるのだ。

猫を飼っている者には常識なのかもしれないが、何分ひと月前に野良猫を捕獲したばかりで、一昨日初めて猫を風呂に入れ、身体を洗ってやっている時に気がついたのだ。

それ以前と言えば野良猫に餌をやったり、友達の家を尋ねた際に、こちらを不審がっている様を見るくらいしか猫との接点が無かったので、恥ずかしながら今の今まで知らなかった。

私は猫の穴を知ってから、その穴のことばかり考えて、夜半床に着いた後に、延々とその事ばかり考えてしまう。
そんなに気になるのなら、穴を覗いてみれば良いでは無いかと思うかもしれないが、それは簡単な事では無いのだ。

まずうちの猫は、私に全く慣れておらず、近づく度に耳を伏せ、犬歯を顕にして威嚇をする。
第二に、恐ろしいのだ。
前足のつけ根、肩の後ろあたりに空いた穴を見つけた際は、驚き、指を入れてみたが、畢竟何も無いのだ。
洞穴のように、辺があるわけでなし、本来あるべき肉や骨も無し。入れた指をくの字に曲げて、引いてみると、皮膚の内側に猫の毛を感じるのみで、あとは何も感じない。と言うよりは、無限にも思える広がりすら感じるのだ。

なぜ水が流れ込まないのかと、不思議に思いつつも指を引っこ抜き、何か考えてはならないような気がして、全ての思考を隅に追いやって、洗体を続けた。

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