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18禁の音声作品を買った

飢え

自分が精通した正確な時期なんてのは今更覚えちゃいないが、大体10歳くらいの頃だったはずだ。今の俺が29歳だから、つまり20年近く昔ってことになる。とにかくあの頃は今とは比べ物にならないほど不便だった。

スマホどころか携帯電話すらロクに普及してなかったし、パソコンすら無い家庭の方が多かった。学校のパソコンの授業では「Yahoo!きっず」を閲覧して、ネットの掲示板なんかが話題に挙がる度に「個人情報は絶対に載せるな」と口を酸っぱくして言われた。実名と顔写真を載せるのが当たり前のFaceBookが登場してからも久しい今じゃ滑稽な話にも思えるが、当時はそれが当たり前だった。まだネットが「未知の危険なもの」だったわけだ。

とにかく、そんな時代だ。精通して自慰行為を覚えても、「おかず」の確保には四六時中苦労していた。俺は自分用の部屋を貰えるほど裕福な家庭じゃなかったから、家の中でも確実に一人になれる場所なんて風呂かトイレくらいしかない。そして、ネットが無い時代のおかずなんて紙のエロ本くらいだが、10歳そこそこの子供にとっては社会的にも金銭的にもそうそう手に入れられたものじゃない。だから仕方なく、手元の漫画やらゲームの攻略本からできるだけセクシーな女性キャラクターの絵を探したり、あるいは親がトイレに放置していった週刊誌に女性のグラビアが載っているのを祈る、それすら使い飽きたら残るは己の想像力だけが味方だった。


迷い

さて、それから時は流れて今は2021年。スマホが一台手元にあれば、1円もなくたってどこでも、エロ画像/動画なんて腐るほど手に入る時代です。まあ今は今で「差分はFantiaで!」みたいな、個人と企業の垣根が低まったことによるコンテンツ無料提供の縮小が目についていたりはしますが……とにかく、余程の選り好みをしなければ「想像力を頼りに抜く」なんてしみったれた貧乏臭い自慰行為にふける必要性はすっかり消え去ったわけです。

おかずが飽和してきた今の時代。今度は「いかに自分好みのそれを得るか?」が問題になってきます。私にとってはこれが問題で、幼少期から「女が映ってりゃ何でもいい、無いよりマシだ」くらいで生きてきた俺は、自分が何を求めているのかもよく分からずにいました。ケモノで抜いたこともあるし、ふたなりで抜いたことも、スカトロで抜いたこともある。別にそのジャンルが良いと思っていたわけじゃないんですが、それでも「無」よりはマシだったのです。

あちこちを捜した。俺はエロ漫画やエロ動画を探しているのか?それとも「自分」を探しているのか?そんなポエムを読み始めるくらい探しました。


目覚め

自分にとって一つの革命となったのがエロMMDです。確か最初に触れたのは初音ミクが「Lamb」という曲に合わせて全裸で踊る動画で、そこからジワジワと似たような動画を探し始めたんですが、そんな中でひときわ強く私の心を掴んだのが、結月ゆかりが「リバーシブル・キャンペーン」という曲に合わせて踊り、徐々に脱衣していくものでした。

(これは全年齢?版。某所に18禁版があり、そっちは最終的に全部脱ぐ)

いわゆる「裸踊り系」の動画は当時から無数に存在しましたが、この動画はその中でも一層強く輝いていました。モデル・曲・背景のチョイスによる雰囲気作りの良さもさることながら、カメラワークが巧みで単純に一本のダンス動画として完成されている。そして曲が盛り上がりを増すごとに増える肌色。最後のサビに入る頃にはいやが上にも盛り上がり、胸の興奮も股間の興奮も最高潮です。

ここで少し解説すると、一言にエロMMDと言ってもそのパターンは多数あります。あくまでMMDのエンジン上で動かしているだけでダンスとは無関係な「ただの3Dエロ動画」も多数あるし、下半身は常に男の上でピストン運動を繰り返しつつ上半身だけ普通に踊る「セックスダンス」なんてのもそれなりの数が存在します。

また、普通にダンスをしている動画でもカメラワークに関しては投稿者によって差異、と言うか当たり外れが多々あります。ひたすらローアングルで尻や股間ばかり映していたり、完全な固定カメラだったりするパターンも個人的にはあまり好きではないのですが、それ以上に目立つのが「単純に稚拙」なものです。無料でコンテンツを消費している側の分際で稚拙だの何だのと評価するのもおこがましいとは思いますが、「もうちょっと何とかならんのか」と思うことは頻繁にあります。

具体的に言うと、全体的にカメラが引きすぎでキャラクターの顔もよく見えなかったり、逆に近すぎて振り付けが全然分からなかったり。オシャレさを出そうとしているのか、やたらとカメラがズームイン/アウトしたり回り込んだりする動きが多用されていて目がチカチカするパターンも多い。いくつも動画を探していると、徐々に有名な曲や振り付けは暗記してくるので、「ここは腕の動きを見せる場面だろ!腰にズームしてる場合か!!」みたいな憤りを感じることも増えてきます。

こうなってくると、いよいよもって何のためにエロMMDを見ているのか自分でも分からなくなってきます。それでも体がエロMMDを求めている。気付いた頃には、「曲が自分の好みであるか?」「振り付けが良くて、カメラワークがそれを活かしているか?」と、いよいよもってエロと全く関係ない部分で動画を選び始めるようになっていました。

私は何をやっているんだ?

我ながらバカげていると思う。それでも、曲に乗れなきゃ抜けない。ダンスとしてカッコよくなきゃ抜けない。そんな自分が作られてゆく。そんな中で出会ったのが、これです。


邂逅

ここで先に自分語りをしておきますが、私は18禁系の音声作品というものに全く興味がありませんでした。大雑把に言うと理由は2つです。

第一に、音声が聴きたいにしてもエロアニメとかCV付きのエロゲーとか、絵と音声がセットのものが多々あるのに、わざわざ音声しかないモノを選ぶ意味を感じないためです。

第二に、音声作品と言うと耳かきとか耳舐めとかのシチュエーションが多いのですが、私はこの手の内容に興味が無いのです。と言うか「女性に耳かきをされる」というシチュエーションは昔から男の憧れみたいに語られがちですが、本当に良さが分からないんですよ。ちょっと女の手が滑ったら耳にザクッと棒が刺さるんだぞ。恐怖しか感じねえよ。

まあ、そんなわけで音声作品には全く触れずにいたわけですが、この「フリースタイル・ヒプノシス」には目を引かれました。販売ページの「言葉のリズムと脳の興奮には実は深い関係がある!」を始めとした、嘘か本当か分からないが何だか強気な売り文句と、絶賛だらけのレビュー。(まあ18禁作品のレビューなんてパッケージ詐欺でもない限りほとんど低評価なんて付かないんですが)

何より「音楽×エロ」というコンセプトは音声作品の強みを最大限に活かした案だと思います。エロゲーじゃ代替できないし、アニメでもまあ、誰も作ろうとしないでしょう。流行ったジャンルの上っ面だけ真似て金を稼ぐことしか考えていないサークルも目立つ中、こんな「誰も考えないし、もし思い付いても誰も作らないだろう」な作品を実際に制作する行動力がまず素晴らしいですね。

しかしまあ、こんなもん音楽と性的興奮が結び付いた俺みたいなアホしか買わねえだろと思ったんですが、DLsiteのランキング上位に入るほど売れてるのが一番の衝撃です。購入者のうち面白半分が何人で、「ガチ」が何人かは分かりませんが、それでも世界は広いようです。


で、結局こいつはどうなのか?

さて、このフリースタイル・ヒプノシスですが、私がこの記事を書いている時点でシリーズ化して3作出ている、と言うか3作目が出たからまとめて感想を書く気になったと言う方が正しいんですが……つまり、3作全部買ったよ

その上で結論から言うと、「悪いものではない」……くらいです。

少なくとも、一発ネタ的に作られたいい加減なものではありません。とは言えやはり人を選ぶ内容だとは思うし、万人に勧められるかと言うと首を縦には振れません。あとはシチュエーションの好みとかの問題もあるし……まあ、とにかくそれをこれから書いてゆきましょう。


先述の一作目。シチュエーションとしては「エロい女の子が家にやってきて、勢いでそのままヤッちゃった」くらいのシンプルなもので、まあ取っつきやすい内容です。ストリート系っぽいファッションのキャラクターデザインも分かりやすく妥当な感じ。冒頭いきなりノック音でリズムを刻み出してラップを始めるのはおバカながらも作品の方向性を端的に伝える中々秀逸な構成だと思います。

で、まあラップと言ってもそんなに本格的なものではなくて("本格的なラップ"なんてほとんど知らねーけど)、単純なドラム音とかのリズムに乗せてラップっぽい感じで喋り、そのまま濡れ場に入っていくストレートな内容。

後の二作を聴いた上で改めて一作目に目を向けると、本作の内容はかなり「普通のオナサポ音声作品」寄りです。"実用性"の面では一番高く、普通の人(?)が面白半分で手を出しても一番ハズレにくいでしょう。パッと見のインパクトの割には良くも悪くも手堅い構成です。

ストーリー性やキャラクターの掘り下げ的な内容はかなり薄めですが、そもそもの内容が「余計なことは考えずに気持ちよくなればいい」な内容だし、なまじ余計な要素が少ない分誰でも「エロ×ラップ」の世界観を簡単に味わえます。

シリーズ化したゲーム作品の1作目に対し「若干荒削りさはあるがシリーズの根幹は完成されている」みたいな評価をよく見ますが、ちょうど本作もそんな感じですね。


「なんかラップやってそうな感じの女の子」だった前作から打って変わって、「真面目そうな委員長の裏の人格」と、キャラクター設定に若干のひねりが加わった二作目。と言ってもベタと言うか王道と言うか、イメージしやすいキャラクター像なので分かりやすさは損なわれていません。

個人的に本作の第1トラックは舞台/キャラクター描写、音楽としての完成度、そしてエロさを総合的に見てシリーズ3作品の全トラックの中でも頭一つ抜けて高い内容だと思います。音楽としても物語としても緩急の付け方が絶妙で、地味な会話シーンから始まりながらも、しびれを切らし本性を見せる少女、そして始まるラップから濡れ場までの移行は単純に面白く、自然な流れで世界観やヒロインの紹介を行っており、それでいて実用性も十分。

一方で物語性が強まったことによる弊害……は言いすぎかもしれませんが、例えば本作の第3トラックは大雑把に言うと「ピロートークからの二回戦」で、ムーディーな雰囲気はよく出ている一方、「エロいか?」という部分では若干疑問符が付く内容だったりします。まあ、この辺は個人の好みの問題もあるだろうし、甘くゆったりした雰囲気の方がイケる人もいるのかなとは思いますが、ラップと聞いてイメージしやすいリズミカルで軽快な雰囲気とは大きくかけ離れており、今まで以上に人を選ぶ内容になった感があります。

ところで前作に引き続き、本作でも最後に「耳かき」を扱ったボーナストラックが含まれていますが、本作の方は直前までのムーディーな雰囲気を全力でぶち壊すようなはっちゃけた雰囲気になっていて笑いを誘います。耳かき音声としての質は正直良く分かりませんが(先述の通り私はこのジャンルに全然興味がない)作品のアクセントとしては中々良い味が出ていて面白い内容です。

総括すると物語や音楽性など、作品としての総合的な質は前作より大幅にパワーアップしていますが、純粋に抜き目的だけで考えるなら前作の方に若干軍配が上がるかな?くらいの感想です。


さて、そんなわけで先日発売されたばかりの三作目ですが、個人的には実用性・物語性のどちらで見ても過去作に劣るという感想です。では音楽的にはと言うと、2作目と比較しても更に手が込んでいるのは感じるのですが、それが作品として有効に働いているかと言うとコメントに困るところ。

まず第一に、個人的な好みとかを抜きにしても問題だと感じるのはベース音が強すぎること。過去作と比較しても本作は全体的にBGMのボリュームが大きく、肝心の声優の声が音楽に負けています。更に本作、全体的にエコーが強い上にステレオディレイ(左右に山彦みたいに響くやつ)が多用されていて、これ自体は幻想的あるいは蠱惑的な雰囲気を出すことに一役買っている……はずなのですが、問題はそのせいで単純に台詞が聞き取れない事態が多発すること。

一作目で音量の調整が甘いならまだ分かるんですが、三作目にして初めてこんな問題に直面したのは謎です。制作側は台詞の内容全部知ってるから気付かなかったんでしょうか?とにかく、こいつのせいで「あれ、今なんて言ったんだ?」に脳のメモリを割かれて作品に入り込みにくいんですよ。

その上で、私が過去作と比べてイマイチだと感じた点が二つあって、一つ目は台詞のラップ感が強くなりすぎなこと。

過去作だと「音楽に乗せて台詞を喋っている」感じだったので、いわゆるセックス実況的な部分はいかにもな抑揚で読み上げられていたのですが、本作はほとんどの場面で「ラップの歌詞を読む」ような調子、つまり抑揚がなくて早口でまくしたてる口調になっており、今一つエロくない割にやたらと忙しい雰囲気。楽曲としての疾走感はありますが、疾走感があるような激しいプレイをしている場面じゃなくても大体ずっと早口でベラベラ喋っているのがどうにもミスマッチに感じます。

二つ目は男性側の描写がほとんど無に等しくなったこと。

本作は「幼い頃に一緒に遊んでいた男に恋をしていたお嬢様が、大きくなってからその男と再開して体を重ねる」といった内容なのですが、ここで問題になるのが男性側の心情が全然分からないことで、「マジ?お嬢様と結婚できんの?ラッキー!」みたいな調子なのか、「いやいや子供の頃の軽口を理由に結婚はできない、自分では釣り合わない」みたいな否定的な態度なのかすら分からないんですよ。

とりあえず男性がお嬢様を忘れていたらしいことは語られるし、作品の方向性的に「否定的な態度の男を、お嬢様が誘惑して堕とす」みたいな内容なのかなと思ったのですが、どうも作中の様子からは男性側が逃げたり嫌がったりする様子もなく言われるがままに応じている様子なのが謎。

本作は全体的に展開が唐突で、例えばR-18最初のトラックでは語りの直後に突然耳舐めが入っています。過去作だと、ある程度プレイが進んだ後に「こういうのも好きでしょ?」と出てきていたのに対し、本作だと始まりが唐突な上、それに対して男性がどんな反応をしたのかも出てこなくて、ひたすらお嬢様側の一人芝居です。そのせいで作品に入り込めず、置いてけぼりにされている感が非常に強い。

販売ページの画像や説明文、それにわざわざ非18禁のトラックを作成してまでキャラクター描写を強めようとしていたりと、気合を入れて作っているのは伝わるのですが、どうにもそれが私の望まない方向に行ってしまった感じです。

言ってしまえば18禁作品なんて明確な正解が無いわけで、もしかすると別の人は「過去作より遥かに抜けた!」なんて言うかもしれませんが、どうなんでしょうね。ガチでラップやってる人に全部聴かせてどれが一番エロいか聞いてみたい気もしますが、流石にそんな機会は無いでしょう。

とにかく私の評価としては「ネタで買うか実用目的なら1、総合的なクオリティ重視なら2がオススメ」みたいな感じです。


4作目以降は……出るんでしょうか?

私は先述の通り「こんな需要あるか分からんものを作った事自体が凄い」と思っているし、音楽とエロを結びつける方針には強い可能性を感じているので、このまま勢力拡大して一大ジャンルを築いてほしいような願望はあるんですが、「3」の方向性のまま尖って行くなら多分5作目くらいで買わなくなるだろうな……みたいな思いなので複雑な心境です。

それでは私はエロMMDのカメラワークに憤慨する日々に戻ります。お疲れ様でした。

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