【最新作云々㉘】黒一色の濃淡に己のコスモを賭ける森羅万象絵画!! 水墨画を題材に主人公の人生再生を描くヒューマンドラマ映画『線は、僕を描く』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(⦿_⦿)
水墨画の経験は無いけど、習字なら"おと~む"のネタを思い出す、O次郎です。
今回は邦画の最新映画『線は、僕を描く』です。
"水墨画"という一般になかなか馴染みの薄い題材ですが、原作者の砥上裕將先生が水墨画家でもあるということで己が身を窶すフィールドを生かした小説家デビュー作とのことです。
主人公とヒロインが様々な問題にぶつかりながら切磋琢磨する姿はまさしく青春小説、という瑞々しさを感じさせますが、とみに主人公が過去の悲痛なトラウマに苛まれ、それに向き合うことでしか人間としてのみならず水墨画家としても前に進めない苦悩、命を削るようにして人生を再生させていくジレンマは他のアイドル映画・スポーツ映画には観られない"痛み"が有りました。
感想の一つとして読んでいっていただければ之幸いでございます。ちなみに原作小説・コミカライズともに未読で、本映画版のみを鑑賞しての思い徒然です。ネタバレ含みますのでご承知おき下さい。
それでは・・・・・・・・・・・・”アキラ”!!
Ⅰ. 作品概要と要所の見どころ的なものと
どうやら原作小説と比べて登場人物の出自や話運びが相当程度アレンジされているようで、特に大きいと思ったのは映画版では主人公は過去に両親のみならず妹も失っている点です。それがゆえに千瑛の水墨画と千瑛自身に亡き妹の姿を見出し、苦い記憶に苦しみながらも彼女を時に支え時に支えられながら過去を乗り越える展開が強調されています。
先輩弟子である千瑛に打ち明けるには相応の時間を要したと見える自身の辛い過去ですが、大学の友人である古前(細田佳央太さん)と川岸(河合優実さん)には既に物語開始以前に打ち明けていたようです。
霜介が彼らを信用するに到った経緯を回想する形ででも彼らの人となりが伝わるエピソードを挿入して欲しかったところですが、短尺とはいえ主人公の大学生活をまわすための記号的キャラクターに留まった感が有るのがいささか勿体無しでした。
しかし一方で、物語を霜介・千瑛・湖峰・湖山に徹底的にフォーカスしたことで俗世からの隔絶を試される水墨画への没入感はいや増したように思います。
千瑛はスランプ中で描く度に焦り、霜介は自分の線を見つけられずに苦しみますが、そこに江口洋介さん演じる湖峰がまさしく人間力とその余裕で気付きを与えてくれる存在感がなんとも頼もしいところです。
作中折に触れて"物事の本質を見る"というテーマが提示されていますが、彼が日々作る食事の産地を直接訪ねて歩いたり、食肉加工される前の動物を目に焼き付けたりするシーンはなんとも印象的でした。
また、湖山が倒れて片腕の動きが鈍くなってしまったことに対し、霜介と千瑛の反応が真反対に分かれたくだりは秀逸でした。千瑛は師であるとともに祖父でもある彼の不調に前後不覚となるばかりでしたが、霜介は親しい人間が前触れも無く自分の前から消えてしまった過去から諸行無常を痛感したがゆえに師の領域に一刻も早く一歩でも近づこうと己の立場をより明確にするのでした。それが結果的に倒れた湖山の意思に沿い、霜介の人生にも資する経験であり、最愛の人間を突然奪われた過去を持つ人間の優しさと強さではないでしょうか。
そこから二人で霜介の故郷へと深夜バスで向かい、洪水で流されてしまった今は無き我が家と家族の思い出の有り様を目に焼き付けます。
霜介にとってはトラウマに直接向かい合う行為であり涙が滂沱と流れますが、それが同時に今の自分を形作っている原風景であり、他の誰のものでもない己の"線"の根源との邂逅でもあるのでしょう。
そこを作劇場のピークとして、あとはエピローグ的に時期を経ての千瑛=
湖山賞、霜介=新人賞の受賞へと雪崩れ込んで霜介の大学での一筆で余韻を持たせつつ物語は幕を閉じます。
ビジュアル的に表現するのはなかなか難しいとはいえ、彼がより物事の本質へと向き合うようになった成長の過程ももう少し描いて欲しかったと思いますし、対する千瑛が抱えているものの重さが些か釣り合いが取れておらず、彼女の再起の描写が片手落ちに感じられてしまったのも勿体無いところだと思います。
全体として登場人物を絞ってそこからさらにフォーカスするまではよかったものの、各エピソードが厳選する止まりで濃縮まで行き届いておらず、道を究める芸術の煌めきよりも、心を抉る痛みのほうが印象として重めに残ってしまったのが玉にキズではあると思います。
ともあれ、若手とベテラン双方の実力派俳優陣の魅力は伝わりましたし、そういう意味では青春映画としてだけでなく俳優目当ての需要にもきちんと応えた旨味もきちんと味わえる作品でした。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は最新映画『線は、僕を描く』について書きました。
もう一つ付け加えるとすれば、その道の導入書としては薄いというか、水墨画の裾野を広げるにはもう少し演出と尺に力を入れても良かったかもとは思います。
そのへんの難しさを鑑みるに、ドラマを描きつつ実際に自分もやってみたいと思わせるような画造りに関しては文芸よりもスポーツのほうが向いているんだろうなという気付きはありました。
主役二人が同じ対象を描くようなライバル演出でもあればまた違ったのでしょうが、それはそれで本作の持ち味から逸れてしまうので、初期衝動としての"痛み"の物語の映像化としてはこれで刮目すべきものだったと思います。
取り止めが無くなってきたので今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
もしももしもよろしければサポートをどうぞよしなに。いただいたサポートは日々の映画感想文執筆のための鑑賞費に活用させていただきます。