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【最新作云々69】その母娘喧嘩、宇宙を駆ける... 別の人生の可能性に未練タラタラな中年女性がマルチバースでバカをやりきって人生に喝!な映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 結論から言おう!!・・・・・・・・・・こんにちは。
 ゲーム『バイオハザード』シリーズの破壊系モニュメントでは『7』のミスターエブリウェアが一番好きな、O次郎です。

単純な可愛さでいえば『RE:2』のラクーン君でしょうが、
このロートルなデザインが古めかしい邸宅と何とも言えず合ってて。
トロコンした際のトロフィー名「もうどこにもいない」も秀逸。

 今回は最新のハリウッド映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』です。
 ついこの間の第95回アカデミー賞で11部門でノミネートされ、アジア人女性初の主演女優賞をはじめ作品賞7部門で受賞を果たした記念碑的傑作!!…ながらその中身は切れ味鋭いカンフーとマルチバースへ跳躍するための起爆剤としてのおバカ行為に塗れており、その深奥には家族愛がある、という満漢全席というよりも断然、ゲテモノ料理といったほうがしっくり来るような胃もたれのするようなキワモノ作です。

いうなれば、キセントリックな登場人物たちが"世界で一番下品な人間"の座を争う
ピンク・フラミンゴ』(1972)を存分に楽しむ、ぐらいの覚悟が必要でしょう…。(゜Д゜)

 前評判はもとより、アカデミー賞最多受賞作の伯も付いたことで既にご覧になられた方々も多いでしょうが、感想の一つとして読んでいっていただければ恐悦至極にございます。ネタバレ含みますのでその点ご注意をば。
 それでは・・・・・・・・・・ジャック・ベイカー!!

『バイオハザード7』、スニーキングミッションが苦手な自分としては
実は最序盤のダイニング周辺をウロウロするベイカーから隠れて床下に潜り込むシークエンスが
一番手こずっちゃってリトライの嵐だったのはナイショ。(゜Д゜)


Ⅰ. 作品概要

(あらすじ引用)
コインランドリーや家族の問題と、トラブルを抱えるエヴリン(演:
ミシェール・ヨー)。ある日、夫ウェイモンド(演:キー・ホイ・クァン)に乗り移った"別の宇宙の夫"から世界の命運を託されてしまう。そして彼女はマルチバースに飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、その正体は"別の宇宙の娘"(演:ステファニー・スー)だった。

 というわけでなんともなんぞソレ?な筋立てですが、中身を見てもなんともパンクでサイケなドラッギー感満載のヤバさです。
 それもむべなるかな、というか、監督のダニエル・クワンと
ダニエル・シャイナート
はミュージックビデオの監督からキャリアをスタートさせつつ、長編映画はなんと本作で僅か2本目という。まさに"新進気鋭"の言葉がピッタリのお二人。

ちなみに長編デビュー作の『スイス・アーミー・マン』(2016)も、
無人島に流れ着いて絶望する男性が様々な"機能"を見せる死体と過ごすことで息を吹き返し、
彼と一緒に脱出を試みる
、というなんとも摩訶不思議アドベンチャーなお話。
ほぼ一人芝居の主演ポール・ダノの力演も然ることながら、
死体を演じるダニエル・ラドクリフがなんとも強烈!!

 冒頭は主人公エヴリンの身の上話。
 自宅に併設のコインランドリーは決して儲かっているとはいえず、国税庁には突っつかれ、毎日の家事や遊びに来た高齢の父の世話も忙しく、年頃の娘は同性の恋人が居て自分には理解出来ない・・・・・・こんなことなら数十年前に夫と駆け落ち同然にアメリカに来るんじゃなかった。他の道を選んでいれば幸せな未来もあったはず、と未練タラタラタラタラです。

一家総出で国税庁へ出頭。
爪に火を点すような生活の中で数少ない娯楽の
カラオケセットが経費として認められず、
他にも諸々指摘されて修正申告のための徹夜コース…。
目の上のタンコブの国税庁担当者のディアドラ(演:ジェイミー・リー・カーティス)。
最初は血も涙もない典型的な役人だったうえにマルチバース世界でも散々主人公たちを
苦しめたものの、終盤にかけては意外に…

 ディアドラのお説教を受けている内に俄かに夫ウェイモンドの様子が変わり、"目覚めよ"とばかりにエヴリンに種々の指示を与えるところから一気に物語が展開。以降はノンストップでマルチバースの坩堝へと巻き込まれていきます。

ベルトやショルダーポーチを駆使して他の宇宙からの追手を叩き伏せるウェイモンド。
演じるキー・ホイさんが長年アクション指導されていた経験がそのまま活かせたのが
運命的ですが、瞬時に他次元のウェイモンドに代わる演技もまた見事…。

 そしてそのマルチバースに跳躍するための鍵として"突拍子もないバカなこと"をやることになるのですが、跳躍の度に此方も敵サイドも行うことになるので双方ともおバカ合戦。

ある宇宙では人は指がソーセージになっていて、
その指で愛の交歓を行い・・・
またある宇宙ではカンフーを習っているものの
指を集中的に鍛えてて指パッチンがめちゃんこ強い、とか。

 他の宇宙からの侵略者に対抗するため、エヴリンも他の可能性の宇宙のエヴリンの体得しているカンフーをインストールして何度も甦る敵ザコ集団やディアドラと死闘を繰り広げますが、還暦過ぎてキレッキレのアクションを披露するミシェルさんの雄姿にただただ圧倒されます。

体術を情報として体内に"インストール"する様は
マトリックスっぽさを感じたりも・・・

 繰り返される双方のおバカな大暴れですが、これは常識で塗り潰された中年が童心に帰るための儀式でもあるのではないでしょうか。
 特にマルチバース展開に入る突端、国税庁オフィス内で一向に追い縋るディアドラにエヴリンがパンチ一発お見舞いするくだりなど、普段から自分を悩ませている上司や目上の相手を殴りたくてしょうがないのにそれを常識で無理やり押さえつけている中年の悲哀の裏返しそのものです。
 娘のジョイにも常々「太り過ぎよ!」と注意していますが、思春期の女の子が一番言われたくない類の言葉であり、まさに自分の思い通りにならない娘を押さえつけようとするいらちな母親。
 
 ではそうまでして童心に帰る必要性とは何かというと、それはやはり仲違いしている娘の気持ちに寄り添うことである筈であり、その目的がオーバーラップしてマルチバースの戦いでのラスボスが娘の形をしたジョブ・トゥパキとなっているのも頷けるというもの。

母の青春期の表象と思しき偉人たちの様々な衣装を身にまとって
エヴリンの前に立ちはだかるジョブ・トゥパキこと娘のジョイ。
根っこのところでは彼女との和解を企図しているからか、
彼女に直接手を下すことは無し。

 さらに娘のことを真に受け容れるためには、彼女が生まれる以外のエヴリンの別の人生の可能性に見切りをつける儀式も必要なのか、エヴリン自身がこれまでの人生で何百回何千回と夢想したであろう、大女優やスター歌手という華やかな人生もマルチバースの本流の中で疑似体験していきます。

華やかな舞台の中で美しく着飾る・・・も、
その中で出会う人々の中で忘れ難いのはやはり
現宇宙の伴侶である夫のウェイモンド。

 善人だがうだつの上がらない夫に辟易していた筈が、別の可能性として在り得た無数の人生の中で、逆説的に彼への愛を確かなものと認識していきます。

 様々な宇宙の中を潜り抜けた一家は再び元のコインランドリーへと戻ってきますが、当初はそれぞれが自分の意を捲し立てるばかりの一方通行の関係だったものが、ぎこちなくも確かに互いの方向に向き合います。

おそらくはそれ以降もあくせくとした平穏とはほど遠い、
忙しない日々が続くのでしょうが、この一家なら難無く乗り越えられるでしょう。
なんせ、あらゆる可能性を垣間見てぶつかり合ったうえで、
やはりこの人生でよかったと解り合えたのですから。


Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は今回は最新のハリウッド映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』について語りました。
 きちんとしたプロの映画評論家の論評を聞いたうえでないととても内容を咀嚼できない快作にして怪作ですが、とにもかくにもまずは予備知識を入れずにこの訳の分からなさを二時間半堪能するのが筋なのでは、とも思います。
 ともあれ、造り手側の多様性はもとより、こんだけのカオスな作品が盛大に評価されて保守的な映画賞に風穴を開けた、ということだけでも手放しで喜ぶべきことではないかと思います。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。




そういやこっちもエヴリンだったか。
めちゃくちゃ大捜索したうえにクライマックスでスタート地点の
邸宅に戻ってくる時点でなんともジーンと来たし、
主人公が一般人ということで、ラスボス仕留める武器がロケランじゃなく
ハンドガンという説得力も良かった。
ただ、"主人公が民間人"という設定がキャラクター性とパワーバランスのキモだっただけに、
『8』の主人公もイーサンだったのは個人的にはちょっと…。(´・ω・`)

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