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【名作迷作ザックザク⑩】血と汗と恥辱に満ちた強盗たちの逃避行はさらなる悪魔に飲み込まれて・・・ ほぼ車中のみのシチュエーションスリラー『ラビッド・ドッグス(1974)』(ユーロクライム映画ばなし、その2)

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( っ・∀・)≡⊃
 いまさら過ぎるほどにいまさらながら『セーラー服を脱がさないで』の歌詞の全容を知り、インパクト第一・文学性度外視の即物的な言葉選びと、それを年端も無い少女に歌わせる秋元先生の狂気にアッと驚く為五郎……もといO次郎です。

この時期に一貫してそういう歌詞性だったわけでもなく、『セーラー服~』発売と同年放送の
『蒼き流星SPTレイズナー』の主題歌「メロスのように -LONELY WAY-」の歌詞は十分文学的。
・・・”ニャンニャン”やないで、ホンマに。(  ゚ω゚)⊃

 先日、ユーロクライム映画(70年代イタリア犯罪アクション映画の俗称)の個人的おススメ5選について記事を書きましたが、またぞろ追加で観た1本がこれまた強烈でしたので、今回はそれ一本でじっくりつらつら語ってみようと思います。
 名作という話は耳にしていたのですが、日本ではDVD化はおろかそもそもソフト化さえされておらずの状況でヤキモキしていたのですが、なんとU-NEXTで配信ラインナップにいつの間にやら追加されておりましたのでようやっと観られた次第です。
 あしたのジョー2』のような爽やかな清涼感よりも、『あしたのジョー』のごとき汚らわしい老廃物感を映画に求める方々、それもハッピーエンドよりもついつい胸クソエンドを期待してしまう方々、読んでいって頂ければ之幸いでございます。ネタバレを多分に含みますのでご了承のほど。
 それでは・・・・・・・・・ニャンッ・ニャンッ・ニャ~ンニャンニャン二ャン!!⊂(・ω・*)∩



Ⅰ. 『ラビッド・ドッグス(1974)』とは?

※英語版しかページが無いため、翻訳等でご参照ください。

 ホラー映画の大家マリオ=バーヴァ監督による、イタリア製シチュエーションクライムスリラー映画です。 ※マリオ=バーヴァ監督についても別の記事でちょろっと書いておりますのでよろしければそちらもどうぞ。
 アクション映画ではありますが、ドンパチは冒頭とクライマックスの数分間に集約されており、それ以外は車中での強盗殺人犯たちとその人質たちとの心理戦がメインとなっている異色の構成です。したがって物語のほとんどが車中の狭い空間に終始しており、脚本に手を加えれば舞台劇にも仕上げられそうな密室劇となっております。
 そしてイタリア映画の特徴とも言える冷徹なリアリズムは本作にも通底しており、犯人たちの下卑た哄笑に汚い髭面のアップ、汗と涙に塗れた人質たちの恐怖の相貌、露悪的で尊厳を無視した拷問にも近い犯人たちの人質への仕打ち….。その仕上げに"悪が悪を喰らう"、というアンチハッピーエンドどころかアンチピカレスクロマンとも呼ぶべき胸が悪くなる結末は尾を引き、良かれ悪しかれ強烈に脳裏に刻み込まれるのは間違いない怪作に仕上がっています。



Ⅱ. 登場人物とその受難

史上最大の作戦(1962)』にノンクレジットのチョイ役で出られているようです。
他に日本公開作で出演されている作品はほぼ無し。
なかなかにダンディーなんだがなぁ。

 まずは強盗団のリーダーでコードネーム”博士”を演じるモーリス=ポリです。大会社の給料日に現金輸送車を襲撃しましたが、その逃走過程のアクシデントで仲間一人が射殺され、別の仲間が人質の女性一人を誤殺してしまいますが、警察の非情警備が敷かれる中で即座に逃走車を乗り捨てて別の車をジャックしつつ人質を”補充”するなど、犯人一味の中で一番年長なこともあって頭が切れます。
 がしかし、残る仲間の二人が血気盛んで短絡的な若者なので制御しきれておらず、人質には努めて紳士的ながら仲間二人に激高することもしばしば。特に人質の運転手から若手二人の制御が出来ていないことを暗に揶揄されるくだりはリアルな憐れさです。
 その一方で人質の女性をレイプしようとする一人を道中のトンネルの騒音に紛れて射殺するなど、犯人の内の若者二人が衝動的に暴力をエスカレートさせていくのに対し、年嵩の彼は計算高くドライな方向に暴力性を加速させていくのがコントラストになっています。車中の病気の子どもの容態を終始心配する運転手の男性に対し、「俺たちの安全が優先だ。お前の事情は二の次だ。」と諭すように凄む様は他の二人とは異質な不快感を醸します。

コードネームの"32"は"サイズ"のことだそうです…。
演じるルイージ=モンテフィリオは脚本家でもあるそうで、カルト的な人気のある
幻想的なスプラッター映画『アクエリアス(1987)』を手掛けられたそう。

 お次は犯人の中の若者二人の片割れ、コードネーム"32"を演じるルイージ=モンテフィリオです。犯人の三人の中で最も粗暴且つ好色で、嗜虐的な快感に身を委ねる彼の口元のアップの多用が絶妙に観客に不快感を催させます
 上述の通り、人質の女性マリアに辛抱堪らず車中レイプを働こうとしたことで最終的に”博士”の怒りを買い、彼に射殺されてしまうのですが、その前に逃げようとした人質の女性を追い詰めるシークエンスが凄まじいのです。
 死の恐怖と好色な彼への不快感に耐え切れず、「用を足したい」と停車させた車から逃げ出そうとした彼女に対し、相棒と二人で捕まえた挙句、その罰として彼らの目の前で立ったまま用を足せ、と命令する様は、ギリギリ直接的描写を避けている分、後の『ソドムの市(1975)』よりも却ってより恥辱的でアンモラルの極みを端的に表現しています。

”博士”に首元を撃たれた”32”は実は瀕死で生きており、必死で彼を励ます”ナイフ”。
この後、彼が始末したヒッチハイカーの女性を捨てた後に"32"を介錯しますが、
同性愛的なニュアンスも感じさせる演出となっています。

 その彼の相方であるコードネーム"ナイフ"を演じるアルド=カポニ。顔のビジュアルが"32"にソックリなので服装で見分けるしかなし。
 その名の通りナイフ使いですが、度胸が有るとは言い難く、冒頭の逃走劇の中で人質の女性の内の一人を誤って殺してしまったのは彼です。車中でもシートを切りつけたりして人質二人を脅し、チンピラぶりを示しています。
 彼が”活躍”を見せるのは後半、ガソリンスタンドに寄った際です。押しの強いヒッチハイカーの女性が車に乗り込んできてしまい、一方的に喋り捲る彼女が"32"が瀕死であることに気付いてしまった結果、即座に決断して彼女の喉元にナイフを突き立てます…

この後、耳元に彼女の首を引き寄せてナイフで一突き…。
彼女の厚化粧とマシンガントークも有効に不快感を演出していました。

 そのやかましさと厚かましさからして、『俺たちに明日はない(1967)』のエステル=パーソンズのようにただただ喚くだけながらあざとく犯罪の分け前を要求する役どころかと思いきや、あっさりと物語から退場させられるあたり、ハリウッド映画とは違う犯罪のリアル思考とでも言いましょうか。
 
 ここまでで逃走車の中には人質の男女二人に犯人側の男二人、ここから呆気無くもドス黒い結末に向かうワケです。

余談ながら、本作のように犯罪者同士がコードネームで
呼び合う演出は作品にピッタリ合致すればカッコいい。
『レザボア・ドッグス』然り『ザ・ワイルドビート』然り。



Ⅲ. 犬たちの結末

死刑台のメロディ(1971)』の主演が有名。
吉瀬美智子さん・阿部寛さんの邦画版のリメイク元のヤツ。

 さらなる犠牲を出しつつも遂に隠れ家に到着した犯人一味ですが、

〇人質の一人で運転手を務めていたリカルド(演:リカルド=クッチョーラ)が子どもをくるんでいる毛布に忍ばせていた拳銃で意表をついて"ナイフ"を射殺。"博士"にも銃弾を浴びせる。

〇瀕死の"ナイフ"が逃げようとするマリアをマシンガンで射殺。

〇瀕死の"博士"にリカルドがとどめの一発。

 かくして唯一生き残ったリカルドと赤ん坊ですが、なんと犯人一味の用意していた車だけでなく、彼らが強奪した金の入ったバッグも持ってその場を去ります。
 近場の電話ボックスに寄ったリカルドがどこかに電話を掛け、相手の女性と会話。リカルドが実は赤ん坊の誘拐犯であり、その母親に身代金要求の電話を掛けたことを示唆したところで物語は終わりを迎えてしまいます。
 実はこの母親は物語中盤にも少しだけ登場しており、リカルドと彼女が夫婦だと観客にミスリードしておいてからのこの結末が最高にクールな演出です。
 後味は最悪ですが、ミスリードの旨さとそこからのどんでん返しの鮮やかさはミステリーの舞台劇のようです。・・・後味は最悪ですが。

要求された身代金の法外さと我が子の安否を憂いて涙する母親の姿で終幕。
このままエンドテロップが流れるんだから容赦無さすぎ・・・。


Ⅳ. おわりに

 というわけで、今回はユーロクライムの逸品『ラビッド・ドッグス(1974)』について語ってみました。
 これまで自分が観たユーロクライム映画は警察の敗北や腐敗、辛勝を冷徹に描く作品ばかりでしたが、本作での警察は完全に部外者であり、汚猥を撒き散らす悪魔たちの犯罪を聖者の顔をした悪魔の犯罪が上塗りする、という展開が非常にユニークでした。

「それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ…」

 ユーロクライムジャンルに限らず、またユニークな展開や結末の作品を観たら記事にてご紹介させていただきます。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。




2015年に『レイジング・ドッグス』として仏加合作作品としてリメイクもされているようです。
そちらはあまり評価は芳しくないようですが・・・。(・∀・)


 


 








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