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【最新作云々65】"あなたはわたしの蜘蛛の巣にとらわれた毒虫…のこるは…"  持ち前の濃密なエロス&バイオレンスを封印した鬼才が究極の"寸止め"に挑んだ女の情念映画『別れる決心』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 "キレてな~い!!"のカミソリのCMの元ネタが長州力さんだとつい先日に知人に聞いてビックリとともにホンマかよ…とも思っちゃう、O次郎です。

※90年代は定番中の定番といっても過言ではないくらいよく観るCMシリーズでしたが、観なくなったのはいつぐらいからだったか…。
 今やカミソリのCMといえば肌のツルンとした美男子さんばかりのイメージですが、外タレさん起用してる懐かしさからしてやっぱ90年代いっぱいぐらいまでだったのかな?(´・ω・`)

 今回は最新の韓国映画『別れる決心』です。
 『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』や近年では『お嬢さん』といった強烈でフェティッシュな作品を多く生み出している鬼才パク=チャヌク監督の最新作。
 渦中のファム=ファタールに、第二次大戦中の特務機関員と女工作員との道ならぬ愛を描いた大ヒット作『ラスト、コーション』で大胆な濡れ場を演じた中国女優のタン・ウェイさん、対する職務に忠実なエリート刑事に、個人的には若き日の佐野史郎さんに見えて仕方が無いパク・ヘイルさんを配したサスペンススリラー。
 監督が偏執的なまでのエロスを追求してきたうえ、主演女優もその媚態で世界に名を轟かせただけに目くるめく官能的な画が支配する曼荼羅が展開されるかと思いきや、二人の交わされる視線や重なる手といったいわば"寸止め"の徹底によって直接的なそれの何倍もの淫靡さを漂わせており、出会うべくして出会ってしまった男女の、決して結ばれ得ないがゆえに紡がれる異形の愛の形を描くスリラーでありながら、一方で疑惑の連続死の真相を追うサスペンスとしても観客を惹き付けます。
 これまでのチャヌク監督作品のドギツさで肝を潰していた方々も参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。ラストまでネタバレしておりますので悪しからず。
 それでは・・・・・・・・・"メタルK"!!

ジャンプの異端児巻来功士先生の怪作にして快作。
続編は同人誌のみの展開だそうで残念無念。
アニメーション向きの作品だったので時代的にOVAになってもおかしくなかったと思うのだが。
おそらく海外でもウケる作風かと思うし、今から外国資本ででも映像化すれば嬉しいんだけど。
(´・ω・`)



Ⅰ. 作品概要と狂おしき愛の日々

※Wikiのページが存在しないため、公式サイトをご参照ください。

(あらすじ引用)
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレは捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった・・・・・・。

 というわけで古い映画がお好きな方は同じことを感じたかもしれませんが、プロットからして邦画の『妻は告白する』(1961)に近いところが多く、女の情念の暴走ぶりやその悲劇的な結末も含めてその現代的アップデート版、という印象を自分としては受けました。

こちらは、傲慢な夫とその仕事の取引先の誠実で若い男性と一緒に行った登山で
夫のザイルを切って死に追いやった女性の物語。
彼女がザイルを切ったのはやむを得ない措置だったのかそれとも故意か、
その真意を巡る傑作ミステリー。

 しかしながら一方で過去作でのPsychedelic Violence Crime Of Visual Shockもとい過剰なまでのセクシャル&バイオレンスから解き放たれたチャヌク監督の演出は、虚々実々入り乱れる幻想的な場面(その場にいない筈の人物が突如として画に入り込む、等)と意図的に統一された色彩感覚で彩られており、強烈な美意識が貫かれているのが非常に特徴的です。

取調室では不自然に置かれている姿見の鏡に映り込む二人を
捉えたカットがなんとも観ている側の不安感を煽ったり、
全編を通して青系統の衣装の多いヒロインのソレに対して、
主人公の刑事ヘジュンのそれは赤系統であったりあるいは
妻と過ごす一時で毒々しい真っ赤なザクロを剥いていたり…。

 こうした幻惑的な映像とコントラストの利いた画作りの中で観ている側は頭を掻き回されつつ、ストーリー的にもヒロインにしてファムファタールのソレに振り回されます。

岸壁にて滑落死した年嵩の夫の死に対し、
日常的に暴行されていた痕跡も観られる妻は安堵も見せる。
殺害の動機も十分な彼女に疑いの眼差しを向けつつも、
彼女を張り込む中でどうしようもなく惹かれていく・・・。

 入念に調べた結果、他の捜査員に目から見ても明らかなアリバイが証明されて晴れて事件は事故と判明して解決…ではなく、ひょんな偶然からヘジュンが後出し的に彼女の偽装工作を見抜いてからがさぁ大変。
 彼女を問い詰めはするも、最終的には彼女への同情から(そしておそらくは自らの保身の意図も手伝って)目を瞑り、苦々しい印象を残した事件をそして何よりもソレへのどうしようもない内心の傾倒を断ち切るように、ヘジュンは妻の暮らす海辺の地方都市へと転勤します。
 この時点ですでに彼は事件の真相に気付きながらも口を噤み、それが他ならぬ犯人への肩入れだったということで、清廉潔白で職務に忠実だった刑事としての人格は無残にも打ち砕かれます。
 まずもって職務上の不正ではありますが、それに加えて品行方正でずっと通してきたカタブツこそ一度沼に嵌るととことんまで、という不倫のテンプレートのような道程でもあり、尚且つその相手が密通行為が存在しないどころか視線を交わし言葉を重ね些かの時間を共有しただけのソレであることで、いかに彼女が稀代のファムファタールであるかも逆説的に強調されているのが巧みなところです。

雨の中の二人。
コートのあらゆるポケットになんでも仕込んでいる
ドラえもんのようなヘジュンから彼が持参したリップクリームを
取り出し、自らの唇にそっと塗るソレの姿よ…。

 そこからこの二人の愛の暗闘の第二幕が静かに始まります。
 ヘジュンの転任先で起きた中年男性の不審死事件に、彼の妻という立場でまたしてもソレが関わっており、面子を潰され内心での忘れ難い彼女への執着心も刺激された彼は彼女に詰め寄るのでした。
 最初の事件でヘジュンの未解決事件への並々ならぬ執着を知り、それがゆえに自身の元夫の疑惑死の事件を無理やりにでも落着させたことで自身への関心も断ち切ったことを悟ったソレは、さらなる疑惑の事件を巻き起こすことで再び彼を自分の虜にさせようとしたのです…。

なんたるサイコパスぶり。
"夫の葬儀に来ていた元同僚に横恋慕した妻が息子を殺害した"
という件の都市伝説をも彷彿とさせます。

 今度こそはとばかりにソレの犯行を立証しようとそれまで以上に、妻が怯えを見せるほどに事件にのめり込んでいくヘジュン。
 最終的にソレはヘジュンへ行き先の手がかりを残しつつ姿を消すのですが、ここで作中で引用された孔子の言葉が生きてきます。

 "賢い者は水を好み 慈悲深い者は山を好む"

 海岸に辿り着いたソレはスコップで砂浜の土を掘って穴を設け、その中に座り込んだ彼女を満ち潮が襲い、盛られてのようになった土と海水が土中の彼女に降り注いでいく・・・。

 急いで彼女を追うヘジュンが到着した頃には既に彼女の所在は解らず、彼女が自ら生き埋めになったと思しき痕跡など跡形も無く、海に向かってソレの名を絶叫するヘジュン。

それによってソレはヘジュンにとっての永遠の"未解決事件"に。
つまりは彼女とのかつての事件を巡るいざこざを経てもなお
刑事という身分とそれへの執着を捨てられない彼に対し、
またしても殺人事件で彼に立ちはだかり、その確定的な首謀者として
君臨しながらも自らの存在を煙に巻くことで
逆説的に彼への普遍にして限りない愛を示した
、ということでしょうか。



Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は最新の韓国映画『別れる決心』について語りました。
 おぞましいまでの愛の暴走を、全くおぞましさの無い穏やかなお布団の映像で描いた異色作にして傑作。
 観た人それぞれに解釈と印象の強弱の分かれるシーン目白押しですので、是非ご自分でもご覧になって自分なりの解釈を吟味していただければと。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。





果たして彼女は本当に死んだのか、それとも・・・。(゜Д゜)

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