[VHS発掘①]“老いた大道芸人が子どもを買う?!” でも中身は王道のヒューマンドラマ映画『變臉(へんめん) この櫂(かい)に手をそえて』
“結論から言おう・・・・・・こんにちは!!” O次郎です。
今回は、VHSでだけ観られる傑作映画の発掘企画「VHSだけ見つめてる」の第一弾、『變臉(へんめん) この櫂(かい)に手をそえて』をご紹介しましょう。
シネコンの大作映画もいいけどミニシアター系作品にどうにも惹かれる人、一風変わった珍しい映画を知りたい人、どうぞよしなに。文末に視聴方法も書いてますので、自分で観たいネタバレいや~んな方はそちらのリンクへどうぞ。キャストや演技についても触れてるので、俳優目当ての人も見てってちょ。
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Ⅰ. どんな作品?
Ⅱ. キャストいろいろ
Ⅲ. 見どころ七色
Ⅳ. 総括すると?
Ⅴ. 視聴方法
Ⅰ. どんな作品?
まずは作品の概要について。1996年製作の中国映画で、正式タイトルは「變臉(へんめん)」です。邦題には「この櫂(かい)に手をそえて」というサブタイトルが付けられてます。櫂とは舟を漕ぐオールを指し、主人公が船上生活の流浪人であるために付けられたようです。
・・・ともあれ、日本では1997年5月の公開、アメリカでも1999年4月に公開されていて、英題は「The King of Masks」となっています。「仮面王」か、ふ~む。
以下はあらすじのリンクです。結構マイナーな作品ですが、きちんとウィキペディアのページが有って感心感心。
血の繋がらない親子が一度は離れ離れになりながらも、娘の必死の行動で再会を果たし、絆を新たにした二人がともに生きていく、というハートフルで分かりやすいストーリーに加え、メインキャストの力演も手伝って傑作といってよい作品に仕上がっています。
また、主人公が壮年期を過ぎた放浪の大道芸人、ということもあってどことなく『男はつらいよ』シリーズのような人情味も感じられ、邦画の人情噺とのニュアンスの違いを感じ取るのも楽しいかもしれません。
ただ、作品設定当時の時代でも違法で重罪とされていた人身売買、それも幼児売買がストーリーの中軸に絡んでいて、男尊女卑の風潮も極めて濃厚で、どうやらそうした倫理的な問題が公開当時のVHS化止まり・未DVD化の主たる原因とされているようです。
余談ながら、作中に登場するエキゾチックな変面のデザインの数々を見ていてなんとなくの既視感。何かと思ったら十年ほど前にプレステでプレイしていた『バイオハザード6』でした。普段ゲームやらない方にはなんともかんともな話で恐縮です・・・。
Ⅱ. キャストいろいろ主演
– 朱旭(チュウ・シュイ)
本作品の設定時代と同じ1930年代の生まれの俳優さんで、中国を代表する名優であり、人間国宝にまで認定されたそうです。ゴイスー!!
本作より以前の80年代末にはハリウッド映画版の後にTVドラマ版の『ラストエンペラー』が中国国内で放映され、そこでは老年期の愛新覚羅溥儀を演じられていますが、日本ではなんといっても、『白い巨塔』や『華麗なる一族』等の大ヒット作で知られる山崎豊子さんの原作をNHKがTVドラマ化した『大地の子』への出演が印象深いのではないでしょうか。
幼少期に中国残留孤児となった少年が差別や文化大革命、果ては妹との再会と死別、という悲運に晒されながらも逞しく成長し、生きていく姿を描いた重厚なドラマで、かくいう私は当時小学校高学年でしたが、たまたま本放送第一回目を家族みんなで観て釘付けとなり、以降最終回まで毎週母と楽しみに観ていました。本放送途中から既に大変な反響が有ったようで、リピート放送が何回も何回も流れていたのを懐かしく思い出します。
まだ当時は劇団キャラメルボックスの一員だった上川隆也さんの出世作としても知られる本作ですが、朱旭さんはその主演の上川隆也さんの中国側の親、即ち中国で残留孤児となった主人公を引き取って実の息子として育てた父親の役でした。朱旭さん演じる父親は周囲の老若男女に慕われる人格者の教師で、血の繋がらない主人公に大学教育まで受けさせ、後に仲代達也さん演じる実の父親が現れた際には実の親子二人での旅行を勧め、主人公が日本に帰ることを容認しているかのような愛情に溢れた人物となっていました。
彼のそうした確かな演技が有ったからこそ、主人公が自らの意思で「私は、この大地の子です。」と実の父に宣言するラストシーン(船旅でお互いに背を向けながら語り合うカットが印象的だったんです)は多くの人の胸を打ったのだと思います。
彼の近況については残念ながら、2018年に米寿で他界されたようです。謹んで朱旭さんのご冥福をお祈りいたします。
周任瑩(チョウ・レンイン)
調べてみましたが、中国国外向けに輸出された作品の中で出演されたのは本作のみのようです。1986年生まれということで、本作撮影時は10歳ごろということですね。なんとなんと、私と同年代でした…。作中、女の子であることが分かって追い出されそうになり、追いすがる姿はなんとも健気で胸が痛みました。近々とみられる画像もヒットしまして、たいそう美人になられてますね。
余談ながら、中華系の女の子の子役を見ると、どうしても『霊験導師(キョンシー)』のテンテンを思い出してしまうのは世代でしょうね…。
その他、京劇俳優役の趙志剛(チャオ・チーカン)さんもその美男子ぶりで作品に花を添えていましたが、それにも増して私がどうにも気になって気になって仕方が無かったのがその付き人役の男優さん。エラの張った頬と優し気な目元がどうにもこうにも佐々木蔵之介さんに見えてしまい、作中で映り込む度にアッ!と思ったのですが、残念ながらエンドロールのキャスト表では見当たらずじまいでした…。
Ⅲ. 見どころ七色
前述のように、本作は親子の絆を描いたヒューマンドラマなのですが、その絆が深まっていく様子が抑え気味の演出の中で却って際立ってます。・炊事洗濯雑務に加えて大道芸の助手も必死に務めるクウワーの甲斐甲斐しさについつい笑みがこぼれるワン。・・・歯が一本抜けてるのが作中ずっと気になりましたが、年齢や身分からすればそういうものか。
・友人のリャンさんの京劇を観劇に行った際に、よく見えるように自然とクウワーを抱き上げてあげるワン。
・失火で家である船を燃やしてしまったショックで出て行ってしまったクウワー。以前に撮った写真を呆気無く破り捨てたワンだったが、男の子を連れてきたのがクウワーだったと分かると彼女の身を案じて叫ぶ。
・自分が男の子を連れてきたことが原因で無実の罪で捕まってしまったワンの助命嘆願のため、軍の高官のパーティーで屋根から身を投げようとするクウワー(先ほどの京劇のシーンが伏線になっているのも見事)。
“物事の成就のために己の身を捧げる”という道理は日本昔話でも有りそうないかにもな価値観ですが、伝統芸能でもそのストーリー展開が登場するということは、それだけ世界共通の感動パターンなのかもしれませんね。
ちなみにわたくし、中国が舞台ということもあって、子どもの頃に夢中で読んだ『うしおととら』を思い出しましたよ。藤田和日郎先生、今でも少年誌でバトル漫画連載されてるってのがなんというかもう、ルネッサンス情熱ですよね。
Ⅳ. 総括すると?
というわけで、人身売買や男尊女卑という現代ではタブーとされている設定がてんこ盛り状態ながらも、“親子の絆”というド直球なテーマでラストの大団円まで貫く『變臉(へんめん) この櫂(かい)に手をそえて』をご紹介しましたが、如何だったでしょうか?
中国映画というと、壮大な国土を縦横するアクションやロードムービー、歴史大作を想像しがちですが、本作は貧しい地方都市のしがない大道芸人を取り巻く物語。客観的には過酷な状況ながらひたむきに生きる姿に共感し、笑いどころも押さえながら最後まで一気に観られてしまいます。
ぶっちゃけ、地方警察の捜査があまりにも杜撰だったり、ご都合主義的な部分も無くはないですが、橋田壽賀子さん作品のような人情譚が好きな方は比べてみると面白いはずです。
ちなみに、本作の主演俳優さんの関連出演作として引用した『大地の子』ですが、日本では名作の呼び声高い一方、中国では一般に放映されていなかったようです。リアルタイムで放送されていた頃に雑誌か何かで読んだ記憶が有りますが、特に主人公が文化大革命の余波で日本人として投獄される件や、主人公と同じく中国残留孤児となった妹が引き取られた貧しい家で扱き使われた末に脊椎カリエスに罹患して亡くなった描写がよろしくない、と判断されたというような経緯だったのではないかと。
少し前に、イジメと受験戦争という現代中国の社会問題を扱った映画『少年の君』が社会批判ひいては政権批判のニュアンスが有るとして中国国内で物議を醸している、というニュースが有りましたが、映画を観る者として良いものは良いという姿勢は誇示したいです。
Ⅴ. 視聴方法
今現在、日本国内ではVHSビデオでしか観られない本作ですが、渋谷のTSUTAYAに在庫があり、首都圏の方は簡単にレンタル出来ちゃいます。以前は新宿のTSUTAYAにも1フロア丸ごとVHSのコーナーが有り、狭い通路を他のお客さんとすれ違いながら、面白そうなあるいはゲテモノそうな作品を見逃すまいと通っとりましたが、残念ながらそちらはちょうど最初の緊急事態宣言が発出される頃、2020年の春先に閉店してしまいました。その旧新宿店のVHS在庫を渋谷店に移設したようですが、明らかに総数は減ってしまったようで・・・がちょ~ん。 ともあれ、少しでも商品としての有意性を経営側に示すべく、今後もちょくちょくビデオテープを求めて渋谷までえっちらおっちらする所存でございます。
レンタル料金は一週間で1本あたり¥330(税込)なり。ビデオデッキを持っていない場合はレジでスタッフの方に頼めばビデオデッキもレンタル出来ますが、そちらは1週間で千円余り掛かるうえ、VHSデッキが結構旧式なので大きいうえになかなか重たいです(混んでる電車だとしんどいよ)。今日日、メルカリやヤフオク等のオークションサイトで2,000~3,000円程度でVHSデッキは入手できますので、個人的にはそちらをおススメいたします。
まぁ、手元にVHSデッキがあると余計に次のレアVHS作品探したくなっちゃうんだけど、それも一興かなと。
それと、当然ながら今どきのTVやモニターには3色ケーブル端子(ゲーム機でいうとゲームキューブぐらいが最後だったっけ?)なんて付いてないので、3色ケーブル⇒HDMIの変換ケーブルは買っておきましょう。レトロゲーム機プレイするときになんかも使えるぜよ!
地方在住の方は交通費とか考えると、ソフトそのものをメルカリやオークションで手に入れるほうが手っ取り早いかも。
ちなみに、監督の呉天明(ウー・ティエンミン)さんですが、この作品より前の1987年に『古井戸』という作品があって、この作品も同年に日本でも公開されています。
水日照りが続く貧しい村の若い恋人同士が主人公で、男性の方が親の意向で金持ちの未亡人と結婚させられるも恋人のことが忘れられない。その一方で隣村との井戸の権利をめぐる抗争が続き、新しい井戸をなんとしても掘りあてなければならず、落盤事故に巻き込まれてしまう。 こちらも登場人物二人の愛情と、二人を取り巻く厳しい現実との物語を上手く組み合わせたヒューマンドラマです。 本作品はDVD化されていますがそちらは廃盤でプレミア化しており、同じく渋谷TSUTAYAにVHSの在庫があるので、気になった方はぜひそちらもレンタルしてみてください。『HERO』や『グレートウォール』(マット=デイモンが主演してたやつ)の監督として有名なチャン・イーモウ監督が主演俳優として出演しているので、そこも見どころの一つです。
そんなこんなで、よろしければみなさんの知ってるカルト傑作、はたまた駄作なんだけれどもどうにも忘れられない味のあるカルト珍作を教えてください!
それでは、“結論から言おう・・・・・・さようなら!!”
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