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最古の素材で前衛を

国際芸術祭あいち2022の開催にともない、県内では関連する展覧会いくつか行われている。愛知県陶磁美術館も、芸術祭の会場にこそならなかったが、連携企画事業として大変ユニークな展示をしている。それが「ホモ・ファーベルの断片 ―人とものづくりの未来―」だ。

8月の終わりがけに開催された「ナイトミュージアム」に参加した際、この企画展のチケットをお土産としてもらっていたので、ラッキー!とばかりに出かけた。「工芸品」のイメージが強い陶芸の分野で、どこまで尖った作品が並ぶのだろうと期待しつつ。

ちなみに「ホモ・ファーベル」とは工作人という意味で、フランスの哲学者ベルクソンが人間の定義として提唱した。人の知性の本質は創造性にあるという。「ホモ・ファーベルの断片」。展覧会のタイトルとしては少々頑張り過ぎな気がしなくもないが、格好よさはある。

さて本館に入り、いざ鑑賞しようと案内を見ると、いきなり「えぇ…」と思う事態に遭遇した。というのも、この展覧会は三章立てなのだが、第Ⅰ章が南館から始まるというではないか。南館は本館から広い広い芝生広場を歩いて横切り5分くらいかかる。なにしろ山の中の美術館なので敷地は無駄にひろ……いや、贅沢に使える。講堂を備えた3階建ての本館の他に南館、西館、(今は使われていない)茶室、陶芸館、古い窯跡を保存した古窯館など、いくつもの施設が点在しているのだ。

空模様が怪しかったので、まずは本館1階の第Ⅱ章 「 ars (アルス) ―技法/技術―」から見ることに。ここは技術メインのコーナーで、茶器や花器など生活で使う陶磁器が紹介されており、どれもこれも恐ろしいほど洗練された見事な品ばかり。いきなり鳥肌ものだった。次に現れたのが陶磁器の限界を試すような先端技術をもって作られた作品の数々。これらを前衛的といわずして何と言えばよいのだろう。鳥肌どころか心拍数が上がった。

清水潤《萬古黒線刻文鉢》
小形こず恵《染付組鉢「朝顔」》
長江重和 《交差する形》(手前3作)
山浦陽介《白尖》

続いて息を整えたのち、吹き抜けになっている地階の展示室へ。そこでは第Ⅲ章 「場 ―記憶/原風景―」が展開されており、現代美術を担う作家たちの作品が並んでいた。地元にゆかりのある作家が多く、見覚えのあるお名前もちらほらと。このコーナーは工芸品ではなく完全にアートへ振り切った陶芸作品が並ぶ。

松藤孝一《ポーランドの空の向こうのあなたへ》
中田ナオト《ワレワレハ》
戸田守宣《TOOL BOX RED 0710》

現代アート風味を十分に楽しんで、いよいよ南館へ。……の前に、本館の庭部分にも作品が展示されており、奇妙な形に見えるそれらを鑑賞しつつの移動となった。

桑田卓郎《untitled》

第Ⅰ章 「創造の源泉 ―素材―」が展示されている南館は、この企画展の玄関といえる場所であり、テーマ解説や挨拶文がドーンと掲示されていた。やはりここから入るべきだったと軽く後悔したが、実際に展示されている作品のインパクトを思うと最後でよかったかもしれない。このコーナーにあるのは「陶芸とは何か」を根本から問うようなパワフルな作品ばかりだったのだ。あえて陶製の動物の中身(空洞)を見せる、粘土とガラス素材(珪砂)を合体させて作品を作る、専用の窯ではなく野焼きで作品を作る、きれいに整えられた陶器の表面ではなく、ざらざらした土の感触を前面に出した作品……。

土で何かを作る時、生活の必要を満たしたり、美しく精巧なものを生み出すという目的以外に、ただ何かこれまで見たこともないようなものを作り出したいという欲求を生み出し、それさも満たしてしまうということに新鮮な驚きを感じたのだった。この世界に最も古くからある素材、土と火から生まれる焼き物は、実に懐が深い。

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