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廃校の体育館でSoulFlex

 SoulFlexとの再会は2022年の3月13日だった。滋賀県蒲生郡日野町鎌掛にある旧鎌掛小学校という廃校にて行われるライブに行こうということになったのだ。去年の暮れ頃にこのライブの情報が解禁され、鎌掛小学校というのはなんだろうと調べてみると、京都駅から3回ほど電車を乗り継ぎ、さらにそこからバスに乗って行かねばならない場所にあった。それはさすがに面倒が臭いので行くつもりはなかった。

 しかし、あるタイミングで、その面倒の臭さを遥かに上回るほど魅力的な事情ができ、それならばと僕は行くことに決めた。人間の腰の重さというのは、その時の気持ちや外部的なきっかけによって重くなったり軽くなったり、変幻自在なのだ。

 当日。ちょうどお昼頃に京都駅に出る。SoulFlexを聴きながらバスに乗る。そうだ、最近聞いていないけどこの曲前から好きなんだった。あの曲はやってくれるのかな。なんて考えながら会場に向かうのはきっとライブの醍醐味なのだが、何しろ僕は昨年両手両足を使っても数えられるかどうかというほどのライブを観に行ったので、その感覚が狂ってしまったのか、お昼ご飯として行く立ち飲み屋のビールのことばかりを考えていた。もちろん、耳からはSoulFlexが入ってくるが。

 いなせやという僕の行きつけ立ち飲み屋で生ビールを飲み、角ハイボールを飲み、あとレモンサワーも飲んだっけ?あとはお作りだとかだし巻き玉子、ポテサラ、エビマヨといういなせや定番メニューを食し、ウキウキな気分になって電車に乗る。

 大阪方面の電車は頻繁に乗っているので、その窓から見える景色なんて見飽きすぎて(親の顔ほどは観ていないが)、あまり面白くない。本を読んでいた方が面白いかもしれない。しかし、滋賀方面の電車に乗ることはレアなイベントなのだ。しばらくして窓の外をみると、まあ田舎だ。それにもだんだん飽きてきて、次第に本に目がゆくようになり、挙げ句の果てにはうとうと眠ってしまう。

 ICOCAの使えない近江近鉄でかわいらしい1日フリーパスを買い、5駅くらいのると駅員のいない日野駅に着き、小さなマイクロバスに乗って会場に移動する。田んぼだらけの風景の中にポツンと餃子の王将があったりしてなんだか面白い。15分ほどバスに揺られていると着いた。

 2棟の校舎と体育館があり、築年数が150年以上だという校舎はいつまで使われていたのかわからぬが、おそらく当時そのままの姿で残っている。黒板の上には「仲良くする学級」「意見がそこそこ出る学級」「まちがえてもよい学級」という張り紙があり、後ろの壁には「整理整頓」と書かれている。とても小学校的だ。使われる漢字と言葉の雰囲気から推察するに、おそらく3年生か4年生くらいだろうと思った。知らんけれど。

 もうひとつの棟の廊下で1時間半ほど待たされ、椅子が並べられた体育館に入場し、3列目中央に席をとる。そこでまた30分ほど待ち、定刻になるとパラパラとSoulFlexのメンバー…もとい、クルーが出てくる。そして演奏が始まる。

 体育館のステージに即席で作ったステージであるのに、証明がバチバチにイカしている。MCで話始めると止まらないほどの仲の良さ。それぞれの演奏技術の高さ。みんな楽しそうに演奏をしている。そして何よりも、ベースのFunky Dの笑顔が良い。ガタイが良くて強面で、同じクラスになっても近寄り難そうだけれど、ベースを演奏している時の顔はなんともかわいらしい。僕もいい音楽を聴きながら揺れて踊って、ちゃんと耳掃除をしてきてよかったと思った。

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