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〈詩〉水の表面の黒々とした光沢

白やピンクの小さな花をつけた細い茎が伸びて
泥は水平方向に積み重なり
緑色の苔をまとわらせている

濁った水のぬかるみに腰はなずみ
暗い空から滲み出してくる霧の中
街灯の光が作る球体のほとりに
どくだみの花はひっそりと咲く

君の夢の中に出て来たぼくは
濁った水の中を歩いていたんだよね
生きているってどういう感じって
ぼくが君に聞いたんだって?
本当に難渋して向こう側に辿り着いたのは
君の方だったのに

こんな街中の雨水調整池の中に
ひそやかな出口と入口とが備えられていて
濡れたコンクリートの擁壁に耳をあてると
聞こえてくる男たちの遠い声
ぼくの夢を見ていた君もその中の一人だ

夢の中のぼくは疲れ果てているみたいだった
って君は言ったのだったか
もう思い出すこともできくなっている
耳を澄ませば澄ますほど
声だけを残して、意味は彼方へ遠ざかり
ぼくは会話に加われない

水の表面は黒々とした光沢で
悲しみも蔑みも何もかもが滑空して
草の葉先を震わせるばかりだから
朝が来るまでこのままじっと
待っていていいのかも知れないけれど
待っていれば朝が来るという保証もない

生きているってこういう感じなのかな
不機嫌な眼差しの鳥のように
両方の羽根を折りたたみ
くちばしをぐいと突き出し
水面をじっと見つめながら
ただひたすらに立ち尽くしている


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