知財が好きという話
はじめに
この記事は、「知財系Advent Calendar2023」23日分のエントリー記事です。角渕先生、バトンありがとうございます!
企業内で、法務と知財の両輪というキャリアで長年、実務を行っています、小川です(ありがたいことに、このキャリアについては、ToreruMediaさんに記事にして頂きました。)。登録の際には、ファッションロー的なことを書きますと書いていたいのですが、以下のようなことを思い、内容を変えることにしました。
色々なところで言っているのですが、仕事として、学問として、私は、知財という分野が大好きです。せっかくの機会なので、少し掘り下げて考えてみることにしました。全くためにならないお話ですが、お付き合いいただける方は、本当にありがとうございます。
なぜ、知財(という分野)が好きなのか
学生時代から知財という分野に関わって20年近く経っているので、勉強の対象から仕事へと関わり方は変わってきていますが、大きく3点程、知財という分野が好きであることの理由があると考えています。
努力が報われやすい。
最近、何の偶然かこの話をする機会が多く、また、同じこと言っているwと思われる方もいるかもしれないですが、仕事として続けられていることの大きな理由が、努力が報われやすという点があります。
この仕事は、基本的には、1件でも多くの明細書や契約書を読み・作り(経験)、1冊でも多くの本を読み・議論した(学び)人の方が、仕事で結果が出やすいと思っています。もちろん、結果は約束されたものではないですし、そうでない例もあると思っていますが、少なくとも、この分野で、センスがある・才能がある若者が、多くのベテランを差し置いて評価されているという場面に、出会ったことがありませんし、私のような企業人においては、このような努力をしている方は、高い確率で一定の評価をされるように思います。
これは知財の仕事に限った話ではないですが(現に、「法務」の文脈でも同じことをよく言っています)、とてもフェアですし、後輩や部下が望まず、この仕事に就くことになった場合には、必ず伝えることでもあります。
社会との密接な関係
法目的にもあるように、特許を代表として、知財分野は、その生み出された「価値」の多くが社会に実装され、人々の生活を豊かにしています。自分の関わった仕事が人々の、わかりやすいところで言えば、家族や友人たちの生活を豊かにしていると考えやすいなと思っています。
どんな仕事であれ、仕事をしている以上、社会へ何らかの形で影響を与えていると思ってはいるのですが、より直接的に影響を与える「実感」を得やすいと考えています。
詭弁と言われてしまうと、アレなのですが、例えば、特許出願を例にしてみると、自社の利益確保のために行なった特許出願が、出願内容が公開されることによって社会に共有財(クレーム記載の権利範囲については一定の独占期間がありつつも)として、提供・実装されていくというプロセスが、まさにその実感を得られるものではないかなと考えています。
現職に移った際に掲げた「知財を通して、会社と社会に貢献していきたい」という思いは、今も変わっておらず、大きなモチベーションになっています。
新しいテクノロジー・ワクワクするコンテンツに触れることができる
学生時代に、知財に興味を持った人のうち、テクノロジー好き、エンタメ・コンテンツ好きで、それを守る法律があるということで、驚くと共にその魅力に引き込まれたという人は少なくないのではと思います。実際、新しいものが好きで、音楽が趣味である私は、この知財業界に入った理由は何ですか?と問われれば、真っ先に答える理由がこれです。
一方で、もし、そうなのであれば、エンジニアやクリエーターの「創り出す」側になれば良かったじゃないかという声も聞こえてきそうです。
これは、本当におっしゃる通りで、できることならば、そっち側に行きたかったと正直思わなくもありません。ちょうど社会にでる直前にこの分野に出会った私としては、その意味での自分の天井や性質はさすがに理解している年齢でしたし、その分、「創作の場面の主役になれないけど、特等席では観たい」という思いは強くあるのかもしれません。このあたりは、技術者・研究者から、弁理士になられた方も多くいるかたと思いますし、いろんな葛藤があるところではないかなと思います。
少なくとも、今でも私は、この特等席からみえる景色が大好きです。
理屈を超えて
昔話になりますが、「新しいテクノロジー・ワクワクするコンテンツに触れることができる」という一本槍で、この分野に飛び込んだ私は、企業内で活躍する知財人材を育成するという目標を掲げた(専門職大学院設立準備時期)大学院で学生時代を過ごしました。
当時、同校では、多くの企業の知財部、技術部門への見学を実施していて、今の自分のコアになる部分が形成された時期でもあります。
富士フィルム社の「写るんです」の足柄工場に見学に行く機会があり、その時に、(おそらく工場長さんだったと思うのですが)自社の技術の魅力や素晴らしさを目を輝かせて説明してくださる姿を見た時に、「ああ、自分はこの人たちのために働こう」と何か強い決意に似たようなものを感じたことを、今でも覚えています。
それは、製品そのものに限らず、その背景・製品が生まれる物語、携わる多く技術者の思い、それを実際に生産し、消費者に届けるところまでを含んだ熱い思いのようなものを感じたからだと思います。
なかなか環境や立場がそれを許さない場面も増えてきてはいるのですが、現場のための法務・知財でいたいという思いは、この時に生まれ、今でも持ち続けている思いです。
最後に
元来、人や人と関わっていくことが好きな私として、同じような「思い」を持っている方に多く出会えているということも、知財が好きな理由なのかもしれません。その意味で、知財に関わる人が好きという面もあるのかもしれません。
ありがたいことに長年、このフィールドにいるおかげで、さまざまな人と知り合うことができていますが、多くの方から、同じような「思い」を感じ、刺激を受け続けることができているのは、きっと、幸運なことなのだと思います。今後も、この幸運に感謝しながら、目の前のことに取り組んでいけたらなと思います。
甚だ散文的ですが、最近、特にこんなことを考えたので、アドベントカレンダーの機会で、言語化してみました。
実はここにいたるまで、ファッションローで書いてみたり、2023年の判例回顧を書いてみたり、いろいろぐるぐるしている間に、こんなことを書いてみる羽目になりました(笑)。
アドベントカレンダーも大詰めですね。
明日は、大作を準備中と噂の木本さんです! 楽しみです!