入門1.命題
まずは、『命題』というものについて話しておかなくてはならない。
命題について辞書をひくと「判断を言語的に表現したもの。論理学では真偽を問い得る有意味な文」とある。これはその通りなのだが、実は本質を捉えればもっと一般的に、次のように表現することができる。すなわち、『真理値』というものを対応付けられる、それと別のものたち一般である。
真理値というのは、真や偽だけではなく、やろうと思えば無数にも設定できるのだが、取り急ぎここでは「『真実である』か『虚偽である』という“意味”として命題に付与されるもの」くらいの認識を持っていただければ十分である。
たとえば、「昨日自分は仕事に行った」という命題に対して、真という真理値を対応させたときは「昨日自分は仕事に行った」という事は真実である、と解釈しよう。はじめて学ぶときは、このような認識が最適であろう。
よって、「犬は動物である」であったりとか、「テレビは動物である」というのはいずれも“真理値”を対応付けられるものである。
しかし、常識的に考えると「この雨は止むだろうか?」であったりとか「はやく走れ」などの疑問文や命令文は命題にならない。もちろん、これらをたんなる命題記号として捉えて真理値を対応させることは出来るが、そのときは疑問文や命令文としての意味を失ってしまう。
だから、やはり、命題として成るのは、なんらかの判断を表現するような文だとしよう。
そして、本書では、命題を作るための構文的な規則(命題の形成規則)として、次の5つを定める。
0. P は命題である。
1. P が命題であるとき、 ¬P は命題である。
2. P と Q が命題であるとき、 P∧Q は命題である。
3. P と Q が命題であるとき、 P∨Q は命題である。
4. P と Q が命題であるとき、 P→Q は命題である。
ただし、たとえば P∧Q という命題と、R→S という命題とが規則3によって新たに作られる場合は、 P∧Q∨R→S とは書かない。理由は既にわかる人もいるかもしれないが、このようなときは、 (P∧Q)∨(R→S) と書く。そして、こうして出来た命題も、また規則1などにかけられたとすれば、 ¬(P∧Q)∨(R→S) ではなく、¬((P∧Q)∨(R→S))と書かれる。一般に、命題として成立した式は () で閉じて書く。ただし、例外的にその一番外側は省略する。
ちなみに、このような定義の仕方は、再帰的定義(Recursive Definition)と呼ばれる。また、帰納的定義とも呼ばれる。
また、¬,∧,∨,→などの記号は、論理結合子と呼ばれるものであり、本書でのちに詳述する。