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シナリオ「Innocent World」

レトロフューチャーが大好き!
原理が謎の機械!サイボーグ!わけわからん組織!
こんばんは!逢魔時レイです。
今回の台本も大筋は高校生の時に作ったものですが、こちらは大人になってから一度声劇用にリメイクしており、アプリ等で掲載していたものを引っ張ってきました。
内容はかなり洋画風!一度は言ってみたいワードてんこ盛りです。
コメディ要素が一切なく重苦しい話ですが、楽しんでいただけると幸いです。
所要時間は30分~40分ほど。

もし台本やセリフを使用した動画をYouTubeやTwitterにアップする際はお声がけいただけると助かります🙇‍♀️
スペースや配信等では特に許可なく使用していただいて大丈夫です👌

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【世界設定・あらすじ】

2018年に第三次世界大戦が勃発したもしもの世界。
2030年、人々は過ちを反省し、全世界で平和条約が結ばれ、二度と戦争が起きることのない世界へ変わることを宣言した。
そして時は流れ、21世紀末。
科学・医療技術の発展により人類の寿命は100歳を越え、半永久的な若さを手に入れることになる。

近代化された都市で人々は平穏に暮らしていたのだが、突如として現れた「エンリル」と呼ばれる組織によって世界中で多くの人間が殺戮されていった。
「エンリル」のボス「F」の目的、それは悪しきものの排除。
自らを「神と共に歩んだ正しい者たち」とし、その他の邪魔な人間を全て消し去る「大洪水」を起こすことだった。

この謎の組織によってもたらされた「大洪水」
それは、人を死に至らしめるウイルスである。
大洪水ウイルスに侵された者は肺に水が溜まり、例え砂漠のような場所にいても溺死してしまう。

政府はこのウイルスに対する抗体を作るべく、
本土から離れた孤島に、有能な研究員たちを集めた緊急対策本部「アーク」を立ち上げた。
主人公ディックはこの「アーク」に所属する若き研究員である。
彼は大洪水ウイルスによって唯一の妹アイリスを亡くしていた。
研究チームの仲間、サラ、ノア、フランと共に研究室に籠る毎日。
そんな中、彼に政府から通信が入る。
――同じことの繰り返し、前に進まない日々。

政府からの連絡は彼を激昂させるには充分だった。
周りの仲間たちになだめられるが、彼は一人になるため外に出て行ってしまう。
ディックを気にかけていたノアは彼の後を追いかけ、そこで妹が亡くなった話を聴くことになる。

このノアという男は「エンリル」のスパイである。
……だが、ディックやほかの研究員との関わりの中で自分の存在を疑問に思い始めていた。
自分のやろうとしていることは本当に正しいのか、“生まれたばかり”である彼にはわからない。
彼を生み出したこと、これが「エンリル」のボス「F」の最大の功績であり、最大の過ちだった……
ノアの選択で、物語は大きく動いていくことになる――

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【主な登場人物】

画像1

・ディック
物語の主人公。
「アーク」の研究員。元軍人で体格はいいほう。
唯一の妹をウイルスで殺され、「エンリル」をかなり憎んでいる。
正義感が強いが、騙されやすい一面も。
護身のため銃は常に持ち歩いている。

画像2

・サラ
イケてる女性研究員。
才色兼備でディックと良い仲だが、何か裏がある様子。
それ以外は気も利く秘書気質な女性である。
ノアのことはあまりよく思っていない。

画像3

・フラン
研究員の中で最年長だが、一番若く見える。
物腰が柔らかく、ムードメーカー的存在。
若さで突っ走りがちなディックをよくなだめている。
昔からずっと変わらない見た目をしているため、彼の年齢を知る人物はいない。

画像4

・ノア
見た目は男性のようでもあり女性のようでもある。
「エンリル」のスパイ。
だが、自分が正しいことをしているのかがわからず葛藤している。
実は人間ではなくて…?

・F
「エンリル」のボス。
公に姿を現したことがなく、誰もその顔を知らない。

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【ナレーション】

第三次世界大戦後の21世紀末。
科学・医療技術の発展により人類の寿命は100歳を越え、半永久的な若さを手に入れた。
幸福に暮らす人々……
だが、その幸福は突如として葬り去られた。

「エンリル」という謎の組織によってもたらされた「大洪水」
それは、人を死に至らしめるウイルスでの大量殺戮だった。
大洪水ウイルスに侵された者は肺に水が溜まり、
例え砂漠のような場所にいても溺死してしまう。

政府は本土から離れた孤島に緊急対策本部「アーク」を立ち上げ、
大洪水ウイルスの研究を命じたのだった……

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(シーン:研究室)
(政府からの通信を受けているディック。かなり荒れている様子。)

ディック「ああっ、くそ、まただ……!」
フラン「ディック、そう熱くならないで。」
ディック「わかってるさフラン。
     だけど、参るよ本当に……
     政府も一体何をしてるんだか。
     あいつらに手も足も出ないなんて……」
サラ「ええ……でもディック、仕方ないわ。
   皆助かりたい気持ちでいっぱいなのよ……」
ノア「悔しいけれど、この現状は真実だよ。
   今私達にすべきことはやっぱり……」
フラン「ノア、皆わかってるさ。
    一刻も早く“大洪水”の抗体を、だろ?」
ノア「さぁディック、ちょっとは休憩しろ。
   ああ…サラ、コーヒーを持ってきてくれないかな。」
サラ「ええ、いいわよ!皆少し休憩しましょう。
   気が張っちゃって、疲れちゃうわ。」
フラン「賛成だ。
    一杯のコーヒーはインスピレーションを与える
    と大昔の音楽家も言っていたようだしね。」
ディック「……角砂糖は2個でお願いするよ。」
サラ「オーケー。」

(砂糖を入れるSE)

ディック「……ちょっと外の空気を吸ってくる。」
サラ「一人で大丈夫なの?」
ディック「大丈夫さ、これでも丈夫に出来てるからな……」

(ドアのSE)

ノア「……やっぱり私も外へ行ってくるよ。
   なんだか心配だ。」
サラ「あら、ノアまでどうしたのよ。
   コーヒー冷めちゃうわよ?」
ノア「…熱いのは苦手なんだ。
   大丈夫、すぐに戻ってくるから。」

(ドアのSE)

サラ「………」
フラン「どうしたの、サラ?」
サラ「え?やだ、どうもしてないわよ。」
フラン「妬いてるのかと思ったんだけど。」
サラ「…私が?ふふ、まさか。」
フラン「あ、そういえば君にメッセージが来ていたよ。
    1時間ほど前なんだけど……」
サラ「メッセージ…
   わかった、あとで見てみるわ。
   ありがとう、フラン。」
フラン「フフ、どういたしまして。」

(シーン:屋上)
(海に沈む夕焼けを眺めるディック)

ディック「……アイリス。」
ノア「…ディック?」
ディック「っ!?なんだ、ノアか……」
ノア「あっ、すまない。
   ……邪魔だったかな。」
ディック「いや、ちょっと考え事をしてただけで…
     あー、うん、ボーっとしてたんだ。」
ノア「……抗体のことか?」
ディック「……いいや、違うよ。」
ノア「……?」
ディック「妹がさ…死んだんだ……」
ノア「……!!」
ディック「結構年の離れた妹だったんだ。
     名前はアイリス。
     …俺らは孤児だった。
     子供のころは生きていくのに必死だったよ。
     軍に入り、俺は国のためじゃなく妹のために戦っていた。
     それで、やっと手に入れた平和だったんだ……」
ノア「…ああ…その……
   なんて言ったらいいか…ディック……」
ディック「大丈夫だ、気は遣わないでくれ。
     さっき君が言ったようにどうしようもない真実だからさ。
     でも、俺は悔しくて仕方がない……
     このままあいつらに世界が支配されていくのを見るなんて、
     いっそのこと死んじまいたいさ!
     妹を一人で逝かせてしまったのに…俺は………!!」
ノア「ディック!まだ生きている人間は大勢いるんだ。
   その人達のためにも……」
ディック「ああ…そうだな、ノア。
     ………ノア…ノアか。
     君の名前で思い出したよ、ノアの箱舟の話を。
     昔々の神話さ。
     悪しきものを淘汰するため地上を大洪水が襲うんだ。
     やつらは神にでもなったつもりか?
     ハッ…馬鹿げてるな。
     とんだ異常者の集まりだ。」
ノア「………エンリルは人類を淘汰して、
   それで……何をしようとしているんだろうな。」
ディック「…異常者の考え方なんて、わかるもんか。
     大洪水は、二回も起こってはいけなかったんだ……」

(ふらふらと立ち去る)

ノア「ディック…!!
   っくそ…、私は何をしているんだ………」

(シーン:通信をしているサラ)

F「……以上だ。
  私は2日後に潜水艇でそちらへ向かう。」
サラ「承知致しました、F様。」
F「…ノアの様子はどうだ?」
サラ「……早めに処分した方がよいのではないですか?
   徐々に反抗的意識が芽生えておりますわ。」
F「フフフ、そうか。
  随分と“人間”らしくなったものだな。」
サラ「F様!……このままだと危険です!
   もしアレが任務を……」
F「問題ない。
  ノアは神に選ばれたのだから。」
サラ「………ッ」
F「……不服か?」
サラ「…いいえ!F様のお言葉は、絶対ですわ。
   ですが…!なぜF様があのような失敗作を野放しにしておくのか
   私にはわからないのです。」
F「失敗作、か……
  ハハハ、お前も直にわかる時が来るだろう。
  それまでは、お前のやるべきことをやってもらう。
  いいな?」
サラ「…承知致しました。」

(通信終了)

サラ「…………そうね、サラ。
   遊び終わった玩具は、ちゃんと箱にしまわないといけないものね。
   …………でも…出来損ないの役に立たないガラクタなんて、
   壊して捨てちゃえばいいのよ。」

(シーン:研究室前)
(人々が行き交い少々騒がしい)

ノア「…あっ、フラン!
   ディックを見ていないか?」
フラン「いや?見てないな。
    ……どうかしたのか?」
ノア「……いや、知らないならいいんだ、引き止めてすまない。」
フラン「ああ…まぁ、見つけたら言っておくよ。」
ノア「あっ、待って!」
フラン「ん……?」
ノア「なぁ、フラン。
   君は研究員の中で一番年上だから、
   きっと世界の色んなものを見てきたんだろう?
   教えてくれないか。
   私は、狭い世界しか知らないから……
   正しいことが何なのか、段々わからなくなってくるんだ。」
フラン「う~ん…中々難しい質問だなぁ……
    ………僕はね、正しいことも悪いことも
    きっと人間には決められないことなんだと思ってるよ。」
ノア「どうして……?」
フラン「国同士の戦争だって、どちらも自分の正義を信じて戦ってる。」
ノア「……………」
フラン「君も知っているだろう?
    第三次世界大戦では多くの犠牲を生んだ。
    犠牲が生まれて初めて、人は自分の犯した過ちに気づくんだ。」
ノア「その犠牲は……必要だったんだろうか……?」
フラン「正義を押し付ける戦いだ。
    国はやむを得ないと思っていたんじゃないかな。」
ノア「……そう、だな。」
フラン「………なーんて、」
ノア「え?」
フラン「善悪が存在しないなんて、それは感情がなかったらの話さ!
    今はどうかな?多くの人間がエンリルを恨んでいる。
    つまり、多くの人間がエンリルを悪だと感じているってことさ。
    驚いたかい?
    善悪は多数決で決められるんだ!」
ノア「フラン……どうして君は、そう割り切ることができるんだ?」
フラン「ん~……僕が機械だからかな。」
ノア「なんだって…!?」
フラン「機械って言うと語弊があるかもしれないけど……
    体のほとんどが機械なのは確かだよ。
    …サイボーグってやつさ。」
ノア「知らなかった……!
   そう…だったのか……」
フラン「…当時は極秘の技術だったんだ。
    僕は昔、一回死んでるんだ。
    それが機械の体で甦った。
    ……すごいだろ?ホラ、手を握るとわかる。
    人間の体温より、機械は冷たいから…」

(ノアの手を握ろうとするが
 触れられるのを焦って振り払うノア)

ノア「っ!あ、ちょっと、私も外で冷えてしまったから……」
フラン「そう?じゃあ中で待ってて、何か温かいものでも探してくるよ。」
ノア「ああ…すまない……」

(フラン、立ち去ろうとする)

フラン「そうだ、ノア。」
ノア「うん?」
フラン「……大雨の後の虹って、きっととっても綺麗だよね。」
ノア「………?」
フラン「……フフ、何でもないよ。」

(立ち去るフラン。
ノアは不思議に思いながらも研究室に戻るとサラがやってくる。)

サラ「随分、人のことに熱心ね?」
ノア「…っ!
   フン、何か用か…?」
サラ「ええ、あなたに伝えることがあってね。
   ……F様が2日後に合流するわ。」
ノア「……本当に、計画を実行するのか。」
サラ「…あなた最近変わったわね。
   見ていて心配なのよ。
   ちゃんと任務を遂行できるのかしら?」
ノア「…………」
サラ「あら、どうして黙ってるの?
   まさか情でも湧いたっていうの?」
ノア「……違う…いや…わからない。
   私のやろうとしていることが…
   本当に正しいのかが、わからない……」
サラ「今更何を言うつもり?
   全てはエンリルのため。
   F様の導きのもとに……
   F様のお言葉は全て正しいに決まってるじゃない。
   F様は神となり、無垢なる世界を創世なさるのよ。
   穢れない、美しい世界!
   イノセントワールドのために、邪魔な人間は処分しなくちゃね。
   世の中は欲にまみれた汚れた人間ばかり……
   このままだと人間はいずれ同じ過ちを繰り返す。
   その前に、選ばれた人間、
   “エンリル(わたしたち)”が全てに制裁を加えるのよ……」
ノア「……研究員達の話を聴いていた。
   同じ人間でも、皆考え方が違うんだ。
   何の罪もない人の命を無理矢理奪うことが、
   エンリルの幸福に繋がるとは思えない……!」
サラ「んふふ、あはははは!
   人間でもないあなたがいつの間にそんな口を利くようになったの?」
ノア「うるさい……」
サラ「あら、そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない。
   気に障ったかしら?バイオロイドNo.0
   F様によって生み出されたあなたが、F様に反抗するのは許されないわ。」
ノア「でも、私は……!!」
サラ「答えなさい!!」
ノア「…………
   全てはエンリルのため。
   F様の導きのもとに……
   私はノア。
   エンリルの箱舟に選ばれたもの……」
サラ「フフ、それでいいのよ。
   あなたは最後の大洪水の大事な部品ですもの。
   それに、抗体の場所はF様とあなたしか知らないのよ。」
ノア「……わかっている。」
サラ「それじゃあ2日後、計画通りにお願いね。」
ノア「2日後…だな……」

(シーン:翌日の研究室)
(1人で机に向かうディック)

ディック「あれ以来、政府からは音沙汰無しか……」

(苛立ちで机を強く叩きつける)

ディック「くそっ…!!何のために、ここまでしてきたんだ…っ
     抗体なんて出来やしない……
     ウイルス自体がまるで水みたいに消えちまうんだ!!
     これ以上どうしろっていうんだ……」
サラ「ディック…?」
ディック「サラ……
     はは、すまないな…情けないところを見せて。」
サラ「いいのよ、ディック。
   妹さんのこともあるし、きっと辛いと思うわ……」
ディック「…サラ、君は凄いよ。
     こんな状況で、君も辛いはずなのに…俺だけこんな……」
サラ「大丈夫、皆同じよ……
   でも希望を捨てちゃだめ。
   諦めなければ、きっと世界を救えるわ。」
ディック「……ありがとう、愛してる。」
サラ「私もよ、愛してるわ……」

(リップ音)
(演技を始めるサラ)

サラ「……ディック、ごめんなさい。
   こんな時に…凄く言い辛いんだけど……」
ディック「……?」
サラ「悲しいことの上にさらに悲しいことを重ねるようで、
   言いたくなかったの……
   けれど…言わなきゃきっと皆殺されてしまうわ!」
ディック「サラ、落ち着いて。
     ……何か…あったのか?」
サラ「これを…聞いてほしいの………」

(小さな機械を取り出すサラ)
(録音した音声が流れる)

ノア「全てはエンリルのため。
   F様の導きのもとに……」
ディック「この声は、ノア……?」
サラ「私見てしまったのよ、ノアがエンリルのボスと通信しているところを!」
ディック「……そんな、馬鹿な。
     何かの間違いだろう…?」
サラ「私も信じられなかったのよ!
   でも、会話が聞こえて……急いで録音しなきゃと思って…!」
ノア「私はノア。
   エンリルの箱舟に選ばれたもの……」
ディック「嘘だ…そんな……」
サラ「ディック…本当に信じられないわ……
   でも、知ってしまった以上、ノアを野放しにすることは出来ない…!
   ノアは…私達を殺そうとしているかもしれないのよ!」
ディック「頭がおかしくなりそうだ…ノアは……仲間だと……」
サラ「ああ…ディック……
   明日には本土へ戻る連絡船が来る……
   そこでならノアにも逃げ場はないはずよ…!」
ディック「……少し、ノアと話をしてみるよ。」
サラ「気を付けて、ディック……」

(サラを抱きしめるディック)

サラN「用済みのガラクタは綺麗に壊してあげる。
   あなたに一番合った…素敵な方法でね……」

(シーン:船の甲板)
(ディックとの会話を思い出しているノア)

ノア「昔々の神話…か……
   やはり、大洪水は二回も起きてはいけない。
   私が…私が止めなければ……」

(木箱にぶつかるSE)

ノア「……!ディック…?
   急にどうしたんだ?」
ディック「…フッ、心配する振りか?」
ノア「……ディック?」
ディック「お前はそうやって友を装いながら、
     陰で俺のことを笑っていたのか?」
ノア「おい、本当にどうし…」
ディック「(被せて)もう何を言っても無駄だ。
     エンリルのスパイめ……!」
ノア「な……!?」
ディック「はは、おかしいか?
     罪も無い人の命を奪うのはさぞかし楽しかっただろうなぁ……」
ノア「ディック!違う!」
ディック「違うだと!?
     …お前は俺たちを騙していた。
     何が違う?もう誰も…殺されてたまるものか……」

(銃口をノアに向ける)

ノア「ディック……!!
   お願いだ…聞いてくれ…!」
ディック「偽りの友の情けだ、お前は俺が殺してやる……!」
ノア「……ディック、頼む。
   私が憎いならそれでいいんだ!
   ただ……最後の頼みを、聞いてほしい。」
ディック「命乞いか……?
     はっ、見苦しいな……」
ノア「私のうなじに、抗体の情報チップが埋め込まれている。
   これを解析すれば、ウイルスを死滅させることができる。」
ディック「……何?」
ノア「…抗体の名は“箱舟”
   お願いだ……これで、大洪水を終わらせてくれ!」
ディック「……そんなの誰が信じるんだ!?」
ノア「……ここだ。ここを狙って撃て。」

(背を向けるノア)
(うなじが見えやすいように髪を上げる)

ディック「…………」
ノア「ここを撃てば、情報チップが出てくるだろう。
   頼む、君が世界を救うんだ……!」
ディック「……本気、なのか。」
ノア「……ああ。
   友情が偽りでも構わない。
   私に人間らしさを教えてくれたのは
   紛れもなく君だった。
   本当に…ありが…ッ!!」

(銃声)
(肺を撃ち抜かれるノア)

ディック「……!?」
ノア「…ガ……ハッ…!!」
ディック「……サラ……なぜ……」
サラ「ディック、騙されちゃだめよ。
   そいつはスパイ。
   言葉巧みにあなたを惑わす気でいるのよ?」
ノア「……ッ!!(声が出ない)」
サラ「……ノア、残念だわ。
   私、あなたを信用してたのに。
   でも、抗体の場所も分かったし、もう用済みよね。」
ディック「サラ!どういうことだ……!?」

(銃口をディックへ向ける)

ディック「……サラ…何を…っ!」
サラ「(髪を解きながら)…もう、研究員の振りをするのも疲れちゃった!
    他の乗組員もすべて殺し、この船に時限爆弾もセットしたわ。
    ディック……あなたはもっと利用できると思ってたのに、残念だわ。
    ノアも馬鹿ね、F様を裏切るなんて。
    せめて最後は友の手で美しく息の根を止めてやろうと思ったのに……」
ディック「嘘だ…そんな…君が……」

(サラ、ナイフを使いノアのうなじからチップを抉り出す)

サラ「抗体、あんたの中にあったのね。
   いくら探しても見つからないはずだわ。」
ノア「……、う…ッ」
サラ「肺を撃ったのよ、どう?苦しいでしょう?
   …でもあんたはそれくらいじゃ死なないのね。
   血液すら流れない、流石はバイオロイドといったところかしら。
   あんたが嫌いよ、ノア。
   私の方が…私の方が…F様の忠実なしもべなのに…ッ!」

(サラに銃口を向けるディック)

ディック「……全部…演技だったのか。」
サラ「……銃口が震えてるわよ、ディック。
   ええ、全てF様のシナリオ通りだったのよ!
   穢れた世界を消し去り、美しい完全無垢なる世界を作るためのね。」
ディック「君は…ッ、君だけは失いたくなかったのに!!
     何故だ…どうして……ッ」
サラ「あら、ディック、泣かないで。
   悔しいなら私を撃ち殺しなさいよ。
   どうしたの?早く。」

(銃を落とすディック)

サラ「馬鹿ね……
   大丈夫、安心して。
   船が爆発で沈む前に、すぐに楽にしてあげる。
   んふふ、あなた達を処分して私がF様の箱舟となるのよ…」

(突然船が大きく揺れ体勢を崩す三人)
(やがて荒立った海面から潜水艇が姿を現す)

サラ「あれは、F様の……!?
   ああ……ついに、ついにお会いできる、F様!!」

(大きな音を立て潜水艦の重い扉が開く
 そして、潜水艇から姿を現したのはFではなくフランだった)

フラン「馬鹿は君だったね、サラ。」
サラ「……フ、ラン。
   あなたは…本部に残ってたはずじゃ……」

(潜水艇から連絡船へと渡ってくるフラン)

フラン「よっと…いやぁ、最後のご挨拶に来たんだ。
    よく頑張ってくれたね。サラ・パメラ・チェルヴィ。」
サラ「……!!
   どうしてその名を……
   あなた…あなたがまさかF様……?」

(フラン、サラの首を絞める)

サラ「……ぐぅッ」
フラン「君は本当によく頑張ってくれた。
    でも、それも今日で終わりだよ。」
サラ「……F…様…!!
   やっとお会いできたのに…ッF様……ッ」
フラン「ひどいなぁ、僕の最高傑作に穴を開けるなんて。
    ノアは失敗作なんかじゃない。紛れもなく完璧な存在さ。
    君たち人間のように脆くもなく、穢れてもいない……」
ディック「お前達…イカれてるよ……
     まるで、意味がわからない…!!
     狂ってる!!!!」
フラン「君達のような人間にはわからないさ。
    ……あれ、サラ?
    はは、もう死んじゃったかな?
    人間は脆いね…とても脆くて醜いよ……
    ……なあディック、どうかこの年寄りの昔話を聞いてやってくれないか?」
ディック「………………」
フラン「フフ、ひどい表情だね。
    僕は軽蔑されてるみたいだ。
    ……まぁいいさ、勝手に語らせてもらうよ。」

(フランが語り始める)

――――
20世紀、君達が生まれる随分前……
1人の若い青年フラン・アンチエータは、
未来ある研究員として政府に雇われていました。
政府はそのとき、最新のサイボーグ技術を極秘に開発しており、
もちろんフラン・アンチエータもその研究を行う1人でした。
――――
けれどある日、
今まで体を壊したことのなかった彼が急に体を壊して入院してしまいました。
そう、彼は病気になってしまったのです。
――――
彼の病気は20世紀の技術ではどうしようもない病気でした。
とてつもない絶望にうちひしがれていた彼に声をかけてきたのは政府でした。
――――
話の内容は、サイボーグの実験台になってほしいとのことでした。
彼は、悩みました。
機械の体を手に入れることで、
自分という人間がいなくなってしまう恐怖があったのです。
でも、未来を諦めきれなった彼は
命を繋げてくれるなら、と政府の話を許諾しました。
――――
……ですが、それは全て嘘でした。全て仕組まれていたことだったのです。
――――

(傷がふさがり、声をとりもどすノア)

ノア「……ゲホッ…!
   ぐッ…フ、ラン…!!」
フラン「…………」

――――
フラン・アンチエータは騙されてしまいました。
全ての研究は、戦争のため。
サイボーグを新たな武力として投入するためだったのです。
彼が急に病気になったのは政府の計画により、
少しずつ病原体を摂取させられていたからなのでした。
――――
彼がそれに気付くのには、もう遅すぎました。
フラン・アンチエータはこの世を去りました。
その代わり、新しいフラン・アンチエータ
……今のこの僕、Fが誕生しました。
――――

ディック「……何が言いたい?
     自分は悪くないとでも言うつもりか?」
F「フラン・アンチエータは、死ぬ間際に神のお告げを聞きました。
  穢れた人間どもを粛清し、無垢なる世界を創世せよ、と。」
ディック「馬鹿げてる!!!そんなのただの妄想だ!!!
     神なんているものか……いないんだ!!」
F「ははは!神ならいるさ、ここに!
  この世界は今から粛清されイノセントワールドとして甦る!
  その地に降り立つ神は僕さ!
  そして神と共に歩む正しい者はノア、君だ。
  さぁ、傷はもう治ったはずだ。
  一緒に、最後の大洪水を見届けよう。」

(銃声)
(弾を弾くフランの体)

ディック「……ノアに触るんじゃない。
     ノアは…ノアはお前よりよっぽど“正しい者”だ。」
F「フフフ、僕を撃っても無駄だよ。
  機械仕掛けの神様だからね。」
ノア「ディック…!!」
ディック「ノア…俺は君に…酷いことを言った。
     本当にすまない……」
F「君はもっと早く処分すべきだったかな。
  お別れが寂しくなってしまうね。」
ノア「やめてくれ!
   私は…私は、イノセントワールドへ行くことは出来ない。」
F「………?
  何を言ってるんだい、ノア。」
ノア「フラン…いや、F。
   お前は一つ間違いを犯した。
   私をアークへ送り込んだこと。
   私はここで、人を学んでしまった。
   ……機械となったお前にはもう、わからないかもしれないが
   人は時に、予測不可能なことをするものなんだ。」
ディック「…………ノア?」
ノア「……ディック、これが罪滅ぼしになるとは思えないけど……」

(サラが落とした情報チップをディックへと投げる)

ノア「君が…世界を…この世界を救ってくれ。」
ディック「……ノア!お前…ッ」

(ノア、フランへと掴みかかる)

F「ッ…?!」
ノア「フラン…!お前は、ここで滅びるんだ!」
F「……ははは!ノア、君は僕の箱舟だ。
  その君がどう僕を傷つける?
  僕は不死身さ!
  脆い人間とは違う…僕は神様なんだ!」
ノア「……っ、機械仕掛けの神は…私と共に海へ沈む…っ!
   私がお前の箱舟なら、私はお前と共に破滅を望もう!」
F「何……?」
ディック「…ノア!やめろ!!」
ノア「……さよなら、ディック。」
ディック「ノアーーーッ!!!」

(フランと共に海に飛び込むノア)

F「……ッ!!」
ノア「……!!!」

(水飛沫が上がり、そのまま浮かんでこない2人)

ディック「…………ノ…ア…
     嘘だ…こんなこと……」

(爆発音の後にけたたましいサイレン音)

ディック「……嘘だあああ!!!」

(シーン:墓場)
(幼い子に話しかけるように1人で語っているディック)

ディック「…………調子はどうだアイリス?
     …お兄ちゃんは、やっと仕事が終わる目途がついたよ。
     あれは……半年ほど前の話だけど、
     まるで悪夢のような、本当の出来事だった――」

――――
アイリス、「ノアの箱舟」の伝説を覚えているかい?
昔読んだ旧約聖書に書かれていた物語だ。
神は地上の悪い人間を洪水で滅ぼそうとする。
だけど「神と共に歩んだ正しい人」だったノアには箱舟を作るように命じた。
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あの後、ノアは……二度と戻ってくることはなかった。
今度の神は、ノアを助けてはくれなかったようだ。
……いや、やはり神なんていないな。
学んだよ、全ては人間のエゴだってね。
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戦争にサイボーグが兵器同然として扱われていたのも知っていた。
どこまでが本当だったかはわからない。
F……フランのしたことはただの殺戮と変わらないし、とても許せることではない。
だけど俺は、あの時ノアと共に沈むフランの顔が、どこか安心したような表情に見えた……
きっとそれが……フラン・アンチエータという男の最後の正しい選択だったんだろう。
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ディック「もうこんな時間か…じゃあな、アイリス。
     この仕事が終わったら、また…来るから……」


(地面を踏みしめながら墓の前から去っていくディック)
(エンディング)